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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
70/304

第55話:ゴブリンの王対蟲の王後編

「うへぇ……」


 カブトの背に跨ったマルコが、そんな声を漏らす。

 眼下にはゴブリンの大群が、ゆっくりとは言えない速度で行軍している。


 先行するのは、フォレストウルフに跨ったゴブリンウォーリア50匹。

 その後ろを地竜に跨ったゴブリンナイトが追いかけている。

 そのゴブリンナイトの中心に、一際大きな地竜の個体が見える。

 その背には、全身を漆黒の甲冑で身を包んだ、大柄な人の姿が。


 頭まですっぽりと覆う兜を身に着けているため、タブレットから見るとパッと見ゴブリンとは分からない。

 その周りを、同じく地竜に跨ったローブ姿のゴブリン達が。

 彼等もフードで顔を隠しているから、ここからでは人と大差ないように見える。


 里までの距離は大よそ7km。

 目標の迎撃地点にまで到達した。


「行くよ! おいで蜂さん達」


 そう言って、マルコが右手の掌を下に向けると凄い勢いで蜂達が召喚される。

 途中まで自由落下に身を任せた彼等は、地面から2m地点で羽ばたいてゴブリンの群れに向かって行く。


「グア?」

「ギャア!」

「ギャアギャア!」


 先陣を切るのは夏休み前の改良で40cm程までに体長を増やした殺戮蜂(スローターホーネット)50匹。

 強靭な顎と太い針が、ただでさえスズメバチである彼等の姿をより凶悪に演出する。

 先頭は一際大きな蜂、クイーンである断罪の(エクセキューター)女王蜂(・クイーン)


 彼女はすれ違い様に、ゴブリンウォーリア相手にスキル【死刑宣告(デス・センテンス)】を放っている。

 脳と心臓以外の全身を蝕む神経毒で、一瞬で身体の自由を奪い徐々に心臓の動きを止めていく。

 そして、心臓が止まる直前に数秒全身を耐え難い苦痛が襲い、それから数秒間の快楽と共に絶命に至らしめるというなんとも(むご)いスキルだ。


 まるで、死の瞬間に自身の人生を振り返らせて、後悔と救済を与えるような効果だが。

 残念ながら、彼等は種の本能に従っただけで、人や他の動物を襲う事が罪となったら人間全員が対象者になってしまう。


 まあ、彼女曰く死ぬまで時間があるため、高位の解毒薬やキュアポイズン等のスキルで対応可能との事だが。


 このスキルのえぐいところは、解毒される瞬間に全身に激痛を訴える信号を神経に送り込むところだ。

 ただじゃ済ませないという思いが、ヒシヒシと伝わってくる。

 なんだって彼女はこんな凶悪なスキルを、身に着けたのだろう?

 

 取りあえず自慢気にそんなことを語る彼女には、あまり使わないで欲しいことだけは伝えておいた。


 その後ろを兵隊蜂達が追従し、次々と針を打ち出している。

 スキル【飛翔針(ニードルショット)】。

 うん……40cmクラスの蜂の持つ針って、語るまでもなく危険な代物ってのは分かって貰えると思う。

 毒を含まなくても、刺さりどころによっては命を奪うくらいの。

 とはいえ、針が大きいということは相手も防ぎやす……おい、いまあいつの針盾と鎧を貫通したぞ?

 


 ただでさえでかい彼等の中でも、一際目立った大きさの3体。

 色も他が黄色と黒の危険を訴える配色をしているなか、彼等だけは黄金色に輝いている。

 近 衛(ロイヤル・)殺戮蜂スローターホーネット

 体長は50cmくらいだが、手が太く力強い顎を持っている。

 

「あー……」


 マルコが思わず声を失っている。

 勿論、管理者の空間の俺もだ。


 こいつら……やばい強い。


「ウォォォォォォォォッオッオッ!」


 一瞬で混乱に陥った群れだったが、中心から聞こえた雄叫びにその場に居た全員が一瞬体を竦めると、次第に落ち着きを取り戻し、手に持った武器で蜂達の対処を行う。

 的がデカいから、ゴブリンウォーリア達もまだ対応が見易いように見える。

 そして、中央から真っ赤な輝きが見えたかと思うと、いくつかの火球が放たれる。

 その火球は目標なんてあったもんじゃなく、ウォーリアや蜂達に襲い掛かる。


「グルル!」

「グオオオ!」


 流れ弾に当たったウォーリア達が、不満を訴えているがそれもキングの一声で静まる。

 落ち着きを取り戻した彼等は、奇襲に対応すべく数匹で身を固めて盾を重ねて蜂の針を凌ぎつつ、剣で追い払おうとやっきになっている。


「グオッ!」


 敵の間を縫うように飛び、キングの元まで一直線に辿り着いたクイーンがキングに向かって針を突き立てるが、その両脇に控える2匹のゴブリンナイトの持った剣で押し返される。


 カチカチと顎を鳴らして威嚇するが、さらに4匹のゴブリンナイトが地竜の背を跳んで移動し、王の前に立つと諦めたようにクイーンが上空高くに舞い上がる。


 期せずしてゴブリンの王と、蜂の女王という一大決戦になったが、いまのところ軍配はキングの方に上がったようだ。


 苛立たし気な彼女は八つ当たりとばかりに、ゴブリンメイジを1匹手土産にマルコの元に戻ってくる。

 急降下してその喉を噛み切り、そのまま足で掴んで戻って来た。

 

 空中に運ばれたゴブリンメイジは、喉から空気を漏らしつつも必死で生きようともがいている。

 次の瞬間にゴキリという音がしたかと思うと、不自然に首を曲げたローブ姿の小鬼の姿が。

 流石のマルコも目の前で、こんな酷い私刑を見せられるとドン引きだ。


「取れたて新鮮ホヤホヤですわ」

「う……うん、有難う」


 少しでも鮮度の良い死体を提供したかったのか、はたまた目の前で武功を上げる事で褒めて貰いたかったのか。

 どっちにしろ、彼女はどこか歪んでいる気がする。


 見るに堪えなかったのか、素早く左手でゴブリンメイジの死体を吸収するマルコ。

 俺の目の前に現れる、舌を長くダランと出して目を見開いた状態のゴブリンメイジの死体。

 

「うげええ」

「ふあああ」

「よしっ、お前ら部屋に戻ってろ」


 マコとクコが気持ち悪そうにしつつも、興味があるのか顔を覆った指の隙間から死体をチラチラと見ている。

 これは、彼等の精神衛生上よろしくない。

 勿論俺にとっても。

 グロ画像を見せられた気分だ。


 即座に蟻達に運ばせる。

 なるべく、死体は綺麗にしてくれと頼んで。

 蟻達が舌を口に押し込んで、瞼を閉じさせて運んでいく。

 流石にあんな苦悶の表情の死体とか、平将門も真っ青な恨みが込められてそうだ。


『キングと対峙するには、ナイトが邪魔だな』

「うん、ちょっとあれは面倒かな?」


 急な襲撃に対して、キングの周りのナイト達が警戒を露わにしている。

 そしてクイーンがマルコの元に戻ったことで、キングが上空を見上げてマルコを発見する。

 

「あらあら、申し訳ありませんわ! 主様、わたくしのせいで見つかってしまったご様子ですわよ」


 全く慌てた様子も、申し訳なさも微塵も感じない。

 絶対わざとだ。

 キングの注目を集めるために、わざわざ急降下してメイジを一匹掻っ攫って来たに違いない。


「ふふん我が主である至高の恩方を小鬼の大将如きが見るなら、地面に這いつくばって空の星を眺めるがごときこの絵が最も適してますわね」

 

 そう言って、満足そうに頷くクイーン。

 なるほど……なるほどね。

 地面から空を見上げて、マルコを睨み付けるキング。

 上空からキングを見下す形になっているマルコ。

 

 彼女にとって、この絵こそが2人の力関係を示すのに丁度良い演出だと思ったようだ。

 意外とセンスがあって、思わず感心してしまう。


「ただ、あの目つきは気に入りませんわ。お山の大将風情が身の程を知りなさい」


 マルコを睨むキングに対して、苛立たし気に吐き捨てると【女王の冷笑(クイーンデリジョン)】を放っている。

 一瞬キングがたじろぐが、即座に【王の威厳(キングイグニティ)】で対抗してくる。

 傍から見たら、視線が空中でぶつかってバチバチいってるような印象だな。


 事実スキル同士がぶつかった瞬間に、紫電が走ったような錯覚を覚えたし。


「ひっ!」


 ただ、その威圧を目の前でぶつけられたマルコが小さく悲鳴をあげる。

 それは、2人のバチバチのガンつけ合戦に怯えたからか、王の威厳に当てられたかは分からないが。


「うわっ!」

「主様!」


 そして一瞬の隙を突いて、キングが横のナイトから槍を奪ってマルコに向かって投げてくる。

 なんて膂力してんだ。

 一切速度を落とすことなく、轟音を鳴り響かせながら飛んできたそれは……マルコにぶつかる瞬間に黄金の波紋に捉えらえれて砕け散る。


 カブトの【王の盾(ロイヤルガード)】が発動したらしい。


「ありがとう」

「いえ、遊び過ぎだ! 蜂の女王」

「ごめんあそばせ」


 重低音を響かせながらカブトがクイーンを注意するが、彼女は鈴の鳴るような美しい声色でつんと横を向いて謝っていた。

 全然謝る気ないだろ!


 そうこうしてるうちに、ウォーリアだけでは手に負えなくなったのか、ナイト達が蜂の対応に当たり始める。

 ゴブリンメイジも蜂に向かって次々と魔法を放っているが、蜂達は馬鹿にするように上空に逃げると数匹が急降下してゴブリンメイジの群れに突っ込む。


 良い感じに軍がばらけていってるが、それでもキングの周りには6匹のゴブリンナイト。

 あれをどうにかしないと、一騎打ちには持って行けそうにない。


「行きます。舌をかまないように」

「えっ?」


 痺れを切らしたカブトが、マルコの確認も取らずに猛スピードでそこに突っ込む。


「グアッ!」


 予想を超えた速度だったのか、キングが慌てて地竜を後ろに下げる指示を出す。

 キングが下がったことでナイトとの間に隙間が出来る。

 そこにカブトが降り立つと、フワリと速度を落とし頭を下げてマルコをキングの前に下ろす。


「これがキング……」

「グルルル」


 キングと直接対峙したマルコが、少し緊張した面持ちで腰に下げた祖父エドガーに貰った剣を抜き放つ。


 カブトの方は、地竜を角で引っ掛けてナイトの方に向かって投げ飛ばしていたが。

 地竜が地面から引っぺがされたことで、キングがその背から飛び降りる。


「ギャアアア!」 

「グアアア!」

「グウウ!」


 可哀想に2匹のナイトが巨大な地竜の下敷きになり、その地竜自体も目を回して気絶している。

 残る4匹のナイトが手に持った剣をカブトに振るうが、スキルを使うまでも無くその甲殻に角に阻まれて弾かれる。

 

「グウウ」

「えっと、うわっ!」


 キングが牽制気味に唸ると、次の瞬間地面が爆ぜる。

 鎧の下には、どれほど強靭な筋肉の鎧を纏っているのだろうか。

 そんな印象を受けるほどの加速力を見せた、キングの突進がマルコを襲う。


 マルコも咄嗟に剣を構えてその突進を防ぐが、余程の衝撃だったのか背後にいたカブトのところまで弾き飛ばされる

 どうにか体勢を立て直したマルコが、そのあまりの衝撃に意識を取り戻すように頭を振っている。


「これ、かなりヤバいよね?」

『あれ? 30分でどうにかするんじゃなかったのか?』

「むう、出来るし」


 まだ始まったばかりというのに、弱音を吐いているマルコに発破をかける。

 嫌そうな表情を浮かべると、剣を握り直して再度覚悟を決めたようだ。


「カブト」

「はっ」


 カブトが【筋力強化(マッスルブースト)】を発動させる。

 マルコの身体に力が漲ってくるのが分かる。


「グウウウ」

「まずはお返し」


 マルコを睨み付けているキングに向かって、【火球(ファイアーショット)】を放つと即座に距離を詰めて袈裟斬りを放つが、火球もろともその鎧に弾かれる。


「かったーい!」


 剣を持った手が痺れるほどの、固さだったらしい。

 

「グアッ!」


 体勢を崩したマルコに向かってキングの剣が横薙ぎに払われるが、それをしゃがんで躱すと今度はマルコが足を払おうと水面蹴りを繰り出す。


「いってー」

「フンッ」


 ただでさえ強靭な足腰をしているうえに、硬い甲冑を蹴ればそうなるだろうに。

 ビクともしない足に、本気で蹴りを入れた事でマルコが顔を歪めて距離を取っている。

 だが、その隙を見逃すような魔物なら脅威度B+なんかにはなりえない。

 

 それ以上の速度で突っ込んできて、マルコの頭目がけて剣を振るう。

 

「やばっ!」


 剣を上段に構えて防ぐが、無理な体勢だったため踏ん張りがきかず後ろに弾き飛ばされる。

 またも、カブトの背中にぶつかるマルコ。

 そこに追撃を放つキングだったが、その剣は黄金に輝く波紋に弾かれる。


「大丈夫ですか?」

「うん」


 後ろを振り返ると足でナイトを踏み付けて、マルコを心配そうに見つめるカブトが。

 彼等の乗っていた地竜はどてっぱらに大穴を開けて絶命していることから、これがカブトの新しいスキル【王の槍(ロイヤル・ランス)】の威力なのだろう。

 進化前の【鉄の槍(アイアン・ランス)】は硬い鱗に阻まれていたが、大幅にパワーアップされている様子。

 他のナイト達も、地面に横になって息も絶え絶えの状態だ。


「グアアアアアア!」


 その様子を見たキングが、一際大きな咆哮をあげる。

 兜から覗く目は、赤く血走っており怒りがヒシヒシと伝わってくる。

 肌をジリジリと刺激するように、そんな威圧すら感じさせる。


「主様!」

「えっ?」


 そこにクイーンが突っ込んでくる。


「背後の巣から、ゴブリンの群れが」


 どうやら、仲間を呼んだらしい。

 無駄にゲームのモンスターみたいなことをするな。

 とはいえ、3kmは離れているからすぐには辿りつかないだろうが。


「手伝いましょうか?」


 カブトが心配そうにマルコに声を掛けるが、マルコは首を横に振る。


「あっちの僕が、馬鹿にするから良い」

 

 変な意地を張ってしまったようだ。

 まだまだ傷一つ負って無い訳だし、ここで諦めるようなら少しマルコに厳しくしないといけない。


 周囲はすでに静かになっている。

 蜂達も、あらかたゴブリンの群れを制圧したようだ。


「くそっ!」

「フンッ」


 マルコとキングの激戦は続く。

 技術的にはマルコの方が上だし、魔法も使える分手数も多い。


 がそれを補って余りあるほど、ポテンシャルの差が大きい。

 ウェイトが違いすぎるため、マルコが弾き飛ばされる事が多々見られる。

 事実、体重の乗って無い攻撃など防ぐまでもないと、防御すらせずに反撃を仕掛けてくる。

 そして、マルコの剣は鎧に弾かれる。


 体力においては、人より優れたゴブリンだ。

 知力は言うまでも無く筋力でも鍛えた人間に劣るが、その体力だけは侮れないものがある。

 それが、キングともなれば尚更。


 全く精度を欠くことなく攻撃を繰り出すキングに対して、徐々に疲労が見えて来たマルコにミスが目立つ。

 防ぐところ、避けるところ見誤り、軽くない傷を負ったりする。

 蝶達がすぐに治療を施しているが斬られるたびに感じる痛みが、無意識にマルコに距離を詰める事を躊躇させ始める。


 逆にマルコの攻撃が通じない事を理解したキングの表情には、余裕すら感じられる。

 そして、あの鎧が厄介過ぎる。

 固さもだが魔法に対するレジストも兼ね備えているらしく、マルコが【電撃(ライトニング)】を放ってみたりもしたがそれすら大したダメージになっていないようだ。


 周りの虫達も心配そうに、1人と1匹の戦いを見つめている。

 これが9歳児の身体でなければ、マルコでもキングに対抗出来ることは分かった。

 いくら筋力強化を施そうが、ベースがしっかり出来上がってなければ効果も知れている。

 それに、徐々にマルコの骨や筋が悲鳴を上げ始めている。


「うわっ! ぐっ……うぅ……」

 

 キングが軽く振るった剣ですら注意力が散漫になったマルコの判断力では脅威に見えたらしく、両手で剣を上段に構えて腹を蹴り飛ばされる。


「うげっ……」


 地面に胃液のようなものを吐き出すと、マルコが慌てて立ち上がりキングから距離を取る。

 普通なら追撃が来るような状況だが、当のキングはマルコを蹴り飛ばした場所で悠然と佇んでいた。

 

 そして、その背後に見える砂煙。

 時間を掛けすぎたらしい。

 新たな増援。

 それも巣のゴブリン全て。


 通常のゴブリン400匹に、上位ゴブリンが300匹近い。

 メスも子供も混じっているが、王のプライドを傷つけ過ぎたらしい。

 全勢力を持ってマルコ達を押しつぶそうとしているのが分かる。

 

 キングが嬉しそうに笑みを浮かべて、マルコを睨み付ける。


「ひっ」


 ここに来て初めて怯えの色をその目に浮かべたマルコに対して、キングの口の端がさらにイヤらしくニイッと持ち上がる。

 すでに先頭のゴブリンが視界に捉えられている。

 圧倒的な物量の波に、マルコが後ずさり手を翳して他の虫を呼ぼうとし……


「グアアアア!」


 放たれる【王の威厳(キングイグニティ)】。

 右手を広げたまま、マルコの身体が硬直する。


「ガアアアア!」


 遊びは終わりだとばかりに放たれるキングの剣。

 眼を閉じる事もできずに、その剣の行く末を見つめるマルコ。

 完全に思考が停止しているのか、転移でここに戻ってくることすら忘れている様子に溜息を吐く。

 いや、スキルの威圧にやられるってのはこういう事かもしれないな。


「ここまでか……でも、マルコにしては良く頑張った方かな?」

 

 一瞬でマルコと入れ替わり、配下の虫達ごと身体を管理者の空間に転移させる。


「グアアア?」


 突如目の前の集団が消えたことで、キングが困惑の表情を浮かべているのがタブレットから見てとれる。

 

「ここは?」

「大丈夫か?」


 目の前でキョトンとしてるマルコに声を掛ける。

 精神体となった今の状態なら、疲労や痛みは取り払われていると思うが。


「助かったの?」

「ああ」

「助けられたの?」

「頑張ったな……」


 徐々に状況を理解したのだろう。

 頭を撫でる俺に対して、顔を伏せて無言になる。

 地面に水滴のようなものが落ちる。


「うう……」

「泣いているのか?」

「うるさい!」


 どうやら余程悔しかったらしい。

 30分で倒すと意気揚々と乗り込んでいったが、結局30分以上掛かった上に敗北。

 技術では負けていないことは、本人も分かっているはずだ。

 だが、身体面で致命的な差があった。


「大きくなったら、きっと倒せるさ」

「うう……うわーん」

 

 とうとう声をあげて泣き始めた。

 そんなマルコの様子に、土蜘蛛やトトが慌てたようにその場をウロウロとして、マルコに話しかけようか迷っている。

 

「まあまだまだ経験も少ないし、それでも9歳児の中ならたぶん世界一強いと思うぞ?」


 頭を撫でてやると、その手を振り払われる。

 まあ、今は何を言っても無駄か。

 1人で、その悔しさを乗り越えて貰わないとな。


「さてと……このままじゃ、本当に里が滅んじまうな」

「……うん」

「どうする」

「マサキ……お願い」


 こんな状態でもしっかりと状況を判断して俺を頼ってくれることに、マルコが素直に育っていることだけは感謝する。


「行くか……」

「はっ」


 蝶達に痛めた筋や骨を治してもらい、再度転移でキングの前に立つ。

 なるほど大したプレッシャーだ。


「グアッ?」


 突如目の前に現れた俺に、キングが目を見開く。

 どうやら援軍も到着したようだが、状況が把握できずに足を止めていたらしい。


「グフッ」


 獲物が帰って来た事に、キングが喜色の声をあげる。

 ようやく、マルコを殺せると思ったのだろう。


「来いよ、小鬼が」

「グアアアアアアアアアッ!」


 挑発するように、手を招くとキングが【王の威厳(キングイグニティ)】を放つ。

 それに対して、こちらも【威圧(ハイプレッシャー)】で対抗。

 ラダマンティスと土蜘蛛2匹分のスキルで。


「グウッ」


 思わず後ずさったのはキングの方だった。

 ニヤリと笑って見せると、キングが苛立たし気に唸る。


「来いお前ら……」


 右手を下に翳すと、先ほど回収した殺戮蜂(スローターホーネット)を放つ。

 目標は背後の集団。

 

 次に召喚したのは、小型の喰らい尽くす蟻(ハンガーアント)の群れ。

 食欲旺盛って訳では無いが、奴らはなんでも喰らう究極の雑食だ。

 この群れに襲われたら、骨すらも残らないだろう。


 そして掌からヌメリとした野太い図体を現しながら地面に潜り込むのは、体長2m程の地に潜む者(ハイドワーム)数匹。

 地面を猛スピードで移動し、強靭な顎で獲物を喰らう。

 その顎の中心にはびっしりと牙を生やした円形の口があり、それが土だろうと岩だろうとかみ砕き、飲み込む。


 通常の蜂も、当然召喚してある。


 キングを無視するように蜂達と蟻達が、背後の集団に突っ込んでいくの見える。

 時間を置かずに、耳を塞ぎたくなるようなゴブリン達の悲鳴が響き渡る。


 どうしても巨大な殺戮蜂(スローターホーネット)に注意を向けさせられ、それに対応していると小さな蜂や蟻が隙を見て攻撃を仕掛ける。

 むしろ、警戒されていない彼等はやりたい放題に、噛み付いたり刺したり。

 楽しそうだけど……

  

 さらにわざわざ大きな羽音を立てて上空から襲い来る巨大な蜂にゴブリン達が視線を送れば、たちどころに地面に潜んだ蚯蚓に喰らい付かれ土の中に引きずり込まれる。


 ゴブリンキングの背後は、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

 しかも被害を受けているのが、小さな小鬼ともなるとますますそれっぽい。


「グオオオオオオ!」

「囀るなよ」


 背後から聞こえてくる同胞の悲鳴に、キングが怒りの咆哮をあげる。

 が、目の前の俺という存在から目を離せないためか、焦れているのがヒシヒシと伝わってくる。

 すぐに片を付けて、仲間の元に向かいたいんだろうことは見て取れる。


「ガアッ!」

「なるほど、これは力強い」


 キングの攻撃を、剣で受けてみたが簡単に吹き飛ばされる。 

 といっても、そのつもりだったので特に体勢を崩す事も無く地面に着地する。


「グアッ?」

「ほらっ」


 地面に着く前に、風の塊をキングの顔面にぶつける。

 風魔法だが、攻撃性を持たせずに単純に空気の塊をぶつけただけだ。

 それでも目を塞ぐには、十分効果がある。


 一瞬で距離を詰めると左手で剣を振るう。

 すぐに視界を取り戻したキングが、反射的に剣を防ごうと手を出すが、剣を消して、代わりに管理者の空間から手頃な岩を右手でキングの頭上に落としてやる。


「グオッ!」


 かなりの衝撃があったのだろう、首が真横に傾いたかと思うとそのままヨロヨロと後ずさる。

 それから頭を押さえて振っている。


「隙だらけだな」

「グウッ!」

「つー、硬い鎧だよ!」


 カブトの【王の槍(ロイヤル・ランス)】を放ってみたが、鎧に突き刺さることなく遥か後方に吹き飛ばしただけだった。

 地竜の鱗より、よっぽどいいもん使っているらしい。

 是非とも欲しい。


「ガッ、ガガガ」

 

 突然の衝撃に、一瞬キングが周囲を見渡していたが、俺しか居ないことを確認すると怒りに任せて突っ込んでくる。


「足元注意な」

「グアッ」


 キングが力強く踏みしめた土を、魔法で陥没させるとバランスを崩したキングが前のめりになる。

 が、咄嗟に左足を出して踏ん張ろうとして、


「そこもな」


 さらに深く掘られた穴に、左足を突っ込んで盛大にこける。

 倒れ込んだ顔面目掛けて【石の地槍(スタラグマイト)】を放つ。

 地面からニョキニョキと伸びた石筍に顔面を強かに強打したため、キングがそのままもんどり打って倒れ、穴にはまったままの左足を盛大に捻っていた。


「ギイッ!」

「やっぱり、魔物でも普通の生物と基本的な身体の作りは一緒か。そんだけ力が強くて重けりゃ、いくら頑丈でも自分の力で捻挫くらいするか」


 悲鳴をあげるキングに対して、次は何をしてやろうかと考える。

 魔法が使えるようになって色々と考えた、相手がこうきたらこう、ああきたらああというイメトレの成果が盛大に発揮されていて楽しくなってくる。


 マルコと違って実戦で魔法を使う機会が無かったため、今日という日を心から待ち望んでいた。

 やっぱり、魔法ってテンションあがるわ。


「グ……グググ」


 涙目で唸り声をあげるキングに対して、次の悪戯を思いつく。

 おっと、表情に愉悦が現れていたのか、キングが凄く嫌そうな顔で足を引きずって後ずさる。

 その前に、これも使えそうだな。


「前を見ながら、後ろに下がったら危ないぞ」

「フギャッ!」


 丁度キングの踵の部分に、再度小さめの石筍を作り出すと躓いて、後ろに倒れ込んで尻もちをついた。

 かなり混乱しているな。

 まさかゴブリンキングが、ただの石に躓くなんて。

 しかも、情けない悲鳴まであげて。 


 うん……楽しい。


「少し頭を冷やしたらどうだ?」

「グウ……」


 顔面に【水球(ウォーターショット)】を放つ。

 避けられなかったのか、これなら大丈夫と思ったのか分からないが見事に直撃する。


「ガボボボボボ」

「うわあ……威厳とか全く無くなってきたな」


 別にぶつけるために放った訳じゃない。

 顔面に固定して、溺れさせるためだ。

 とはいえ、キングが溺死というのも情けない……

 意味も無いのに必死に水球に手を突っ込んで、水をどけようとするキングが憐れで滑稽に見えてくる。

 

 かといってむずむずと沸き上がって来る、悪戯心を抑えきることは出来ない。

 【電撃(ライトニング)】をその水球に向けて放つ。


「アババババババ!」

「うわあ、めっちゃ痙攣してるし」


 流石に兜の中にまで浸水した水を通した電撃は応えたらしい。

 ジタバタと手足を動かして、暴れ回っている。

 この圧倒的アドバンテージにちょっと中二心を刺激される。

 どうせ、前世の知り合いに見られるわけでもないし。

 特に必要の無い演出だが、恰好を付けて指を鳴らすと水球が弾け飛び、キングがその場に倒れ込む。


 そして、周囲から聞こえてくるカチカチという音。

 見渡せばすでに仕事が無くなったのか、一部の蜂や蟻達が周りで観戦していた。

 顎の音が拍手のように聞こえなくもないが、誰も見ていないと思っていたためカッコつけた自分が急に恥ずかしくなってくる。


 左足を捻挫し、鼻っ柱を強打したことで鼻血を垂らし、さらに言えば恐らく兜の中の数少ない髪の毛はチリヂリのアフロになっているだろうキングが、四つん這いになって俺から逃げようとする。

 ただ、一発でも貰えば逆転されてしまうくらいに肉体の性能が違う為、不用意に近づいたり……するけど。

 不用意には近付かない。

 しっかりと、用意して。


 鎧の隙間目がけて、土蜘蛛の眷族の持つ【麻痺神経毒(パラライズ)】を打って体の自由を奪う。


 そしてピクピクと痙攣するキングの背中を踏み付けて、頭を掴む。


「いいもん身に着けてるな? その兜の下はどうなってるんだ?」


 こちらを振り返る事も出来ずに、地べたに這いつくばるキングの兜を剥ぎ取るとべりッという音が聞こえる。

 そして見える、頭皮が剥がされた頭頂部。

 うわっ、グロい!

 火傷を負った頭皮が、兜に張り付いていた。

 流石にこれは無理とばかりに、傍に居た蝶に治療させる。

 兜の中に張り付いた頭皮は慌てた様子のハンガーアント達が、俺の身体をよじ登って兜の中に潜り込み血の一滴も残さずに証拠隠滅。


 俺の身体を無断で登るというのは無礼な行為だったと、蟻達は後になって気付いたようだが、手には何もないというか汚れまで綺麗に落とされた兜。

 そう、いまここで何も起きていない。

 俺が兜を剥ぎ取ると、綺麗にすっぽりと兜が取れたんだ。

 しかも、なんと新品同様の一品。


 お前達は俺の身体を登ってもいなければ、兜に触れてもいない。


 俺の心の声に、承知してますとばかりに顔を背けて見なかったフリをしてくれる蟻達。

 うん、このトラウマになりそうな1ページは記憶からも記録からも抹消された。


 とはいえ自分で使う気にもなれないから、これはセリシオに献上……は、流石に不味いか。

 しょうがない、クリスにでも……いや、バレた時が怖いな。

 ディーンなら喜んで受け取ってくれそうだが、自分では使わないだろう。


 うん、曰くを話してベントレーにあげても喜びそうだけど、経緯は内緒にしてマハトールにあげよう。


『しっかり見てたのですが……』

「ああ? 何も無かっただろうが? 剥いでみたけど、最初から使用品とは思えないほど綺麗な兜だったよな?」

『ヒッ! ……ハイ……ソウデスネ。トテモステキナ逸品ダナー。マハトール嬉シイ』

 

 タブレットで映しているだろう方向に笑顔を向けたら、そんな返事が返って来た。

 なんか幼児退行したような話し方になってるけど、大丈夫かあいつ?


 さてと王様の御尊顔を拝見っと。


「フギャッ!」

「お前、ムカつくな」


 思わず身体強化を込めた拳で、本気でぶん殴ってしまった。

 こっちの拳が壊れる程に。

 すぐに蝶に治療してもらったから、なんとも無いけど。


 このゴブリン。

 割と髪の毛がフサフサ。

 で、顔の作りは人間離れしているけど、妙にカッコいい。

 

 ゴブリンは、大体が角の生えた人と猿の中間みたいな顔付きだが。

 若干猿よりか。


 だが、こいつは違った。


 まず目元が非常に整っている。

 少し鋭さもあり、それでいて少し大きな目に見合った瞳。

 さらに大きくせり出した眉の部分が非常に濃い彫りを演出していて、なおかつ自然と目元に吸い寄せられるように視線が行く。

 

 斜め後方から見たことで、流し目のような表情になっていてセクシーだったりもした。

 そのうえ怯えがあるのか諦めなのか、少し憂いを帯びた表情。

 諦めの色が多いからゆえか、若干その顔つきは涼やかにすら見える。


 ムカつく。


 どこかで見た事ある……

 ああ、あれか……

 名古屋の某動物園で話題になったあれだ。


 本気でムカついたので、そのまま顔面を地面に叩きつける。


「フギッ」


 くそっ、なんか負けた気がする。

 

 しかし顔を見たのは失敗だった……

 色々な意味で。


 ボコボコにしたのに若干の敗北感を味わった事もそうだが、思ったよりも理性的な顔をしていたため殺すのが忍びない。

 散々ゴリ……間違えたゴブリン達を殺しておいて、何をと言われそうだが。


 いっそのこと、あの集落に今回の襲撃の首謀者として放り込むか?

 おそらく殺されるだろうが。

 いや、それは結局自分がやりたくない汚れ仕事を、他人に任せただけだ。


 じゃあ国に……誰が?

 マルコか?


 駄目だ、厄介事の匂いしかしない。


「無駄にイケメン面しやがって!」


 思わず地面に突っ伏したままのキングの後頭部を(はた)く。

 かといって、管理者の空間に連れて行って傍におくのもストレスだ。

 この顔を見てるだけでイラつく。


 醜い嫉妬心ということは分かっている。

 このまま無かった事にして、殺してしまおうか。

 キングの顔を引き上げる。

 

 おいっ!

 そんな目で見んな!


「!!!!!」


 思わず両目に指を突っ込んだら、悲鳴にならない声をあげていた。


 いかん……動きがコミカルに見えて来て、段々と殺しづらくなっていく。

 いや、そもそもまだ人的被害は出てない訳だからこいつらの行為は未遂だな。

 1人怪我人が出たらしいけど、まあ軽症だったらしいし。


 だが、このまま放っておけば必ず人に害をもたらす。

 そうだ、無人島に島送りにしよう。

 他のゴブリン達……ああ、子ゴブリンや雌ゴブリンは助けたのね。


 見れば、かなり怯えた表情のゴブリン達に囲まれていた。

 こいつらを一緒に送り込んだら、結局その島がこいつのハーレムになるわけか……


 もう考えるのも面倒くさいし、それでもいいか。


「抵抗したらこいつらを1人ずつ殺す。抵抗しなければ、全員助けてやる」


 子ゴブリンや、雌ゴブリンを指さしてそう言うとキングが神妙に頷く。

 そして、そのまま全員で管理者の空間に転移。

 神殿には収まりきらないため、広場に転移だ。


 一応、配下として連れて来た。

 目の前で理不尽な精神支配を受けていることなど露知らず、キングが涙を流している。

 そして他のゴブリン達が両膝を付いて、手を組んで拝むような視線を向けてくる。

 一部のゴブリン達が頬を染めているが、異種間結婚にしてもお前らは無いから諦めろ。


 そのままキングの傷を治して地図を使って、この時代の人間ならまず辿り着けないような孤島に送り込む。


「いいか、人間が迷い込んだら保護するんだぞ? それからむやみに子作りするなよ? 増えすぎたらこんな小さな島、すぐに食糧が無くなるからな?」

「ウグウグ」


 イケメンゴリ……イケメンゴブリンが、涙を流して俺の手を両手で包み込んで感謝を伝えてくる。

 

「いつかお前らの力が必要になったら迎えに来るからな? 精々力を蓄えておけよ?」

「ガアッ!」


 力強く左胸を右手で叩いて、固い決意と忠誠を示してくれる。

 一瞬ドラミングでもするのかと思った。


 この無条件で信頼と尊敬を向けてくる眼差しに対して、一生迎えにくるつもりが無い事を若干後ろめたく思いつつ置き去りにして、森に戻る。

 そして置いてきた虫達を回収する。


「蟲の王よ!」


 そして、背後から声を掛けられる。

 慌てて振り返ると、少し離れたところに地竜に襲われていた兄ちゃんが何やらキラキラした目でこっちを見ていた。

 その背後にズラリと並ぶ、屈強な戦士達。

 

 時間を掛けすぎたし、騒ぎ過ぎたらし。

 里から7kmも離れていたため、安心していたがあれだけ火の魔法やらなんやらを空にぶっ放していたら見つかるわな。

 

 まあ、放っていたのはゴブリンメイジどもだが。


 代表として話しかけてきたであろう、筋骨隆々のイケメン兄ちゃんがゆっくりと近づいて来る。

 今日はイケメン祭りか?

 残念ながら俺は男に興味はない。

 正直、こんなストレスのたまるイベントなんていらん。

 


「ああ……もう大丈夫だから、安心していいよ! じゃっ「お待ちください」


 ええ……

 無視して、管理者の空間に逃げようとしたが、それを察した兄ちゃんが一足飛びで突っ込んできて足にしがみつかれた。


「是非、里でお礼を……」

「いや、いらないから。じゃ「そういう訳にはいきません! 二度も里の窮地を救っていただいて、このまま返すなんて」

「明日早いし……」

「では、日を改めて」

「本当に気にしないで」

「お願いします……このまま里の救世主にお礼もしなければ、これまでこの里を守って来た先祖の方々にも顔向けできません」


 これは……回避不可能系のイベントか?

 いや、無視しても良いだろう。


「もし来ていただけなければ、森中をくまなく探してでもお礼の品を届けにあがります」

「お願いします」


 イケメンが増えた。

 顔がそっくり。

 君もあのとき、居たね。

 これ以上、イケメンマジいらない。

 てか、すげー迷惑。

 押しつけがましいにも、程がある。


 ストレスがどんどん溜まっていく。


「森の奥だろうとなんだろうと、我らの使命はこの感謝を貴方様に伝えるためだと考えております」

「うわぁ……」

「貴方程の方に満足いただける品は用意できないかもしれませんが、それでも感謝の、里全体の感謝の心を伝えたいのです」

「里の人達は知ってるの?」

「今日の事は知りませんが、以前地竜を退けていただいたことは伝わっております」

「じゃあ、今日の手柄は君たちがもら「そんな、恥知らずな事!」


 感謝されてるのに、怒られたし。


「分かった……近いうちに行きます」

「いつですか?」

「えっ?」

「それはいつですか?」


 おいっ、近い近いって!

 

「1週間以内?」

「絶対ですね? 一週間以内に起こし頂けなければ、我ら一同「分かった! 分かったから!」


 これが、所謂強制イベントってやつか……

 げんなりしつつ管理者の空間に戻ると、不貞腐れたマルコとキラキラした目でこっちを見るトト達、そして虫達。

 感情の籠って無い笑みを浮かべたマハトールがいた。


 まあ、マルコはすぐに機嫌を直して、あれこれと聞いてきたが。

 おもに、先の戦いの反省点と、スキルの使い方だ。

 悔しいけど憧れたらしいし俺が出来たんだから、自分もそこに到達できると信じているからだろう。


 事実、俺とマルコの差はスキルの使い方と、戦いの組み立て方がメインだ。

 ただ、人外との訓練の時間が圧倒的に違うけど。


 こっちは半分プータローみたいなもんだから、時間はいっぱいあるし。

 まあ、仕事の緩いフルタイムの職場住み込み勤務とも取れるが。

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