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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第51話:冒険者ギルドと帰って来た貴族の坊っちゃん

 扉を開くとカランカランという子気味良いベルの音が鳴る。

 小さな来客に、室内の武装したガラの悪い連中が視線を向ける。


 昔から変わらない雰囲気に、少し安心する。

 マルコがファーマとローズを連れて中に入って行くと、すぐに大柄な男が道を塞ぐ。

 髭面のおっさんで、右のこめかみから唇の横まで伸びた傷跡が強面のおっさんをさらに怖く演出する。

 そこそこの素材と思われる特殊な皮鎧と、肉厚の斧を持った戦士。

 少し老けたか?


 上から見下ろすように威圧する男に対して、ファーマがマルコの前に出ようとしたがすぐにマルコが右手を広げて、それを制する。


「はんっ、立派な保護者付きでガキがなんのようだ? ここにゃミルクは置いてねーぞ」

「じゃあ、そこの受付で依頼出したら買って来てくれる?」

「ははっ、いっちょ前に言うようになったな」


 そう言ってマルコの頭をクシャクシャと力強く撫でる男。


「久しぶり、キアリー先生」

「ふふ、先生か……そう呼ばれるのは久しぶりだな」


 何かと冒険者ギルドで、マルコを気に掛けてくれたB級冒険者だ。

 口調と顔つきはあれだが、割と面倒見が良く外見のハードルさえ乗り越えられればとても好意的な男だ。


「良く帰って来たな坊っちゃん!」

「お帰りなさいマルコ様!」

「おうっ! 領主の坊主! 元気だったか?」


 このギルドでマルコが一番懐いていたキアリーに他の冒険者達は、最初の挨拶を譲ったのだろう。

 両手を広げてキアリーが歓迎を表すと、周囲の冒険者達が駆け寄ってくる。


「マルコ? 誰だ?」

「馬鹿かお前! 最初に受付で聞いただろう? このギルドの上得意様で領主様の息子だよ」

「ああ……」


 どうやら新参の冒険者も増えたらしく、マルコの事を話でしか聞いた事のない連中もいるらしい。 

 が、ギルドの教育が行き届いているのか名前を聞いて、興味深そうにマルコを眺めている。


「お帰りなさいませ、マルコ様」

「ははは、なかなか様になってるじゃん」

 

 そこにジャッカスも近づいて来る。

 彼の後ろには3人の子供達といってもいいような年齢の冒険者が、遠慮がちに着いて来ているが。


「ただいま、ジャッカス先生」

「ええ、御無沙汰しております」


 一応、このギルド内ではジャッカスは表向きではマルコの剣の先生ということになっている。

 が、そんな事を信じているのは他から来た新参者かルーキーズだけだ。


 古参の冒険者達は、ジャッカスがマルコの命令で冒険者をやらされているベルモントの人間だと思われている。

 特訓の甲斐あって、ジャッカスもそれなりに教養のある人間に見えなくはない。


 顔は怖いが。


 それでもマルコの言いつけを守って、身綺麗にしているのでB級冒険者という事も相まって地味に女性のファンが居たりもする。


「なるほど、マルコ様はここでも愛されているようだな」

「ええ、特に上位の冒険者は皆、マルコ様に何かしらの武を教えている先生だから」

「ほう……」


 ファーマがマルコを取り囲む冒険者達を、値踏みするように見ていく。

 何人かは目を反らしたが、それでも数人涼やかにその視線を受け流す者もいる。


「そこそこ強者が混ざっているようだ」

「当たり前でしょ! 毎日、魔物相手に命を懸けて斬った張ったの世界を生き抜いているんだから」

「是非、私もご指導願いたいものだ」

「ただ腕試ししたいだけですよね? 迷惑ですから、やめてください」


 どうやら、ファーマから見ても強いと思わせる連中が居るらしい。

 

「今日は依頼か? 訓練か?」

「ちょっと汗を流しに来たんだ」

「そうか……じゃあ、一通り先生方と手合わせするってことで良いかな?」

「ハハハ、皆を相手にしてたら身体が持たないよ」

 

 どうやら、マルコに武術を教えていた冒険者達は、今日という日を待ち構えていたらしい。

 数人の冒険者が輪の中に入って来て、マルコを取り囲む。


「エンラちゃん、地下訓練所借りるね」

「はいっ! くれぐれも怪我だけはさせないでくださいね」

「うわっ、エンラさんめっちゃ綺麗になってる」

「そうだろう? きっと、あれは恋してるからだぜ」


 マルコがエンラの方を見て、そんな事を漏らせばキアリーがそっと耳打ちをする。

 ジャッカスを指さしながら。


「うへー、あんなおっさんが良いの?」

「いぶし銀ってやつだな」

「いや、そこまでおっさんでも無いと思うけど」


 それから皆を伴って、地下の訓練場へと向かう。


「マルコ様って、ただの子供に見えるんですけど強いんですか?」

「ええ、強いですよ……末恐ろしいくらいに。ジャックとヤン2人掛かりでも、土をつける事は出来ないくらいにね」

「うわっ、うっそだ」

「ちょっと! ジャッカス様の言葉を疑うの?」

「ははは、にわかには信じられないでしょうね。ほらケイト、私達も下に降りますよ」

「行っても良いんですか?」

「勿論ですとも」


 どうやら、ジャッカスに着き従っているように一緒にいるのは、同じ冒険者パーティらしい。

 この街に置いていた蜂が色々と教えてくれた。

 雷竜の使徒ってパーティ名が初々しくて、可愛らしい。

 きっと、歳を経てランクが上がれば、赤面して身悶えそうだが。


 ジャッカスに命を救って貰ってから、何かと付いて回って色々と指導を受けているらしい。

 人に教えられるほどに成長したのか。

 余程頑張ったんだろうな……


 100秒以内に周囲を飛ぶ蜂10匹のうちどれでも良いから1匹に一発当てないと、全部に刺される訓練とか。


 隙あらば1mmずつ靴を噛み千切っていって、靴の爪先が無くなったら最後には指に噛み付く蟻から10分間逃げる訓練とか。


 縛られた状態でラダマンティスの鎌を、寸止めで30秒に100発くらう訓練とか。


 他にも色々とやったが、その成果が出てるようで嬉しい。

 俺の言う事ならと、笑顔で疑うことなくその訓練をこなしていたのは、流石に引いたけど。


「さてと、まずは俺からですね」


 そう言ってマルコの前に立つのは短槍を使うB級冒険者のレジット。

 手に持つのは1m30cm程の木の棍だ。


「お手柔らかにお願いします」

「はい、まずは日頃の訓練の成果を見せて貰いましょうか」

「分かりました」


 いきなり組手から入るらしい。

 棍を自然体で構えるレジットに、マルコが中々間合いを詰められずにいる。

 マルコの手に握られているのは1m程の槍だ。

 

 取りあえず様子見に突きを放つが、その穂先をレジットが円を描くように振るった棍で絡み落とされると、そのまま手首を返して柄の部分を使ってマルコの側頭部を打ち据えてくる。

 マルコが身を屈めて、どうにかそれを躱すが爪先を足で押さえられ、喉元に棍先を突きつけられる。


「うわあ、やっぱり速いし上手い」

「まあ、これだけを鍛えてきましたからね」


 レジットが足を離して、距離を取って仕切り直してくれる。


「やっぱり、剣を使って良いですか?」

「どうぞ」


 マルコは使い慣れない槍をやめて、剣で訓練に挑むようだ。

 とはいえ、剣と槍。

 間合いの長さの分、槍の方が有利だと思うが。


「ほうっ!」


 やはり先手を取ったのはマルコ。

 突きを仕掛けたところを棍の穂先で絡み取られそうになると、すぐに剣を引き戻して棍を打ち上げる。

 そのまま横一閃に、先ほどのお返しとばかりにレジットの顔を切り払うが、一瞬ですぐ目の前まで間合いを詰められ、左手の掌底で剣を持った手を打ち払われる。

 

 バランスを崩して、前のめりになったマルコの背をすれちがいざまに手で軽く押して距離を取らせると、後頭部に棍をコツンと当てる。


「うわあ、ちょっと本気出す」

「最初から、出さないとここが戦場なら死にますよ?」

「すいません」


 熱くなったのか、強化を使って挑むつもりなのだろう。

 まあ、本気じゃ無かったという言い訳を、叱られているけど。


「ふふ、流石ですね」

「うわっ、もう無理」


 その後、怒涛の連撃を放つが全て防がれてしまい、体力の限界を迎えたマルコが訓練場に横になる。


「一本取らせないだけでも、かなりの成長が伺えます。おじいさまに?」

「うん、毎朝手合わせして貰ってる」

「そうですか」


 マルコの返答に、レジットが満足そうに頷くとその場を次の先生に譲る。

 次は弓術の先生の、C級冒険者のユミルだ。

 といっても、これは実戦形式ではなく的当だけど。


「なるほど……弓の訓練はサボってたと」

「すいません……」


 結果はボロボロだった。

 的に当たったのは10本中6本。

 真ん中を捉えたのは1本だけだった。


 ローズ以外で剣を教えてくれたクード先生には、学校でやった足を止めて誘う作戦を取っていたが。


「足が止まってるぞ」


 案の定を足を狙って来たので、スッと躱して金的を狙い……

 足に剣を振ったふりをして、途中で止めたクードの剣の柄で膝を叩き落とされ、そのまま縦に胸を打ち据えられていた。


「全く……小狡い事を考える暇があったら、少しでも剣の重さを上げる訓練をしろ! 毎回、打つ度に足を止めてたら誘ってるのがバレバレだ!」


 学校みたいに上手くいかなかったか。


 最後にキアリーとの手合わせだったが……


「ほらほら、いつまでそうしているつもりだ?」

「ひいい!」


 訓練用の木の斧で、猛連打をくらい防ぐだけで精一杯の様子。

 もう少し善戦するかと思ったが、やはり9歳の子供が歴戦の戦士に勝とうなど夢物語だったか。

 虫のスキル込みで、俺が戦ったらもう少しいいとこまでいけそうだけど。


 カブトの身体強化を使えば、肉体性能的にはイーブンに持っていけるだろうし。

 技術の差は、スキルで埋めれば1対1ならどうにか10回やれば9回は勝てそうだ。

 流石に、必ず勝てるとは言わない。


「あれ、本当に9歳ですか?」

「うちのギルドの稼ぎ頭相手に、よくもまあ連戦で持ちこたえられるものですね」

「化物だ」


 それでも、見てる人にはマルコが9歳児としては規格外だということは伝わったらしい。

 マルコを知っているみんなは、満足そうに頷いているし。


 新参者や、ルーキーは戦々恐々とした思いだろうけど。

 表情に出てる。


「ほらっ、ミルクだ」

「うわっ、本当に買ってきてくれたんだ」


 ちょっと前に姿を消したキアリーが木のカップに入ったミルクをマルコに差し出す。

 

「でも、今は水が良いかな?」

「運動したあとだし、ミルク飲んだら身体が強くなるぞ」

「そうなの?」


 身体が強くなると言われて、素直に飲むマルコに少しほっこり。

 水でも大差ないと思うが、まあ牛乳飲んで是非すくすくと育って欲しい。


 明日は一日、ダウンしてそうだな。

 ハベレストの森は明後日にするか。

 牛乳を飲んで口ひげを生やしたマルコは、その後冒険者達に連れられて食事に行っていた。


 ファーマが剣の先生だったクードや、一方的にマルコを圧倒したキアリーに興味深々。

 これ、たぶん休日に冒険者ギルドに殴り込みに行きそうだ。


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