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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第49話:お母様はやっぱりお母様

「来るまでは待ち遠しくて一日千秋の思いであったが、来てから去る時までは一瞬だな」

「あなたったら……まあ、私も2日しかというのは少し寂しく感じますわね」


 マーキュリー家の前でエドガーおじいさま達がお見送りをしてくれる。

 おじいさまも、おばあさまも本当に寂しそうだ。


「今度は僕が遊びに行ってもいい?」

「勿論だよ!」

 

 タクトがモジモジしながらも、ベルモントに遊び来たいといってくれたので笑顔で応える。

 後ろの家人の人達も、将来の領主様の可愛らしい姿にほっこりと穏やかな視線を送っている。

 彼がこの家の人達に愛されていることが、しっかりと伝わってくる。


「お父様も、お母様もお元気で」

「マリアは、もう少し落ち着いたかと思ったのですけどね」

「まあ、変わらないというのも良いものじゃないか」


 お母様がおじいさまとおばあさまに、挨拶している。


「私も当然着いて行くからね!」


 アンジェの場合は、こちらが断ってもきっと来るだろう。


「うん、待ってるよ」

「宜しい!」


 僕の返事に対して、人指し指をビシッと突きだして頷いている。

 そして、伯母様に頭を軽く叩かれる。


「人を指ささない!」

「お母様、痛いです」

「うそおっしゃい! マルコも、久しぶりの実家をしっかり満喫できると良いわね」

「はいっ、ケリー伯母様!」

「マルコが良い子に育っているようで、僕も安心だよ。将来はタクトと2人でマーキュリーとベルモントを盛り立ててくれそうで本当に良かった」

「有難うございます、ジャクソン伯父様」


 伯父様も、少し名残惜しそうに嬉しい事を言ってくれる。

 タクトとはとても仲が良いので、是非安心してもらいたい。


「おじいさまも、おばあさまも僕達が立派な領主になれるように、いつまでも健康に気を付けてご指導してくださいね」

「うんうん、マルコが大人になるまで頑張らないとな」

「おやおや、ある程度ジャクソンが領主として相応しくなったら引退して、ベルモントにも遊びに行きましょうよ」

「そうですよ。お父様がいつまでも現役だと、私が領主になるよりも先にタクトが領主になっちゃいますよ」

「ハッハッハ、そうだな! 老後はお前と2人であちこち旅行するのも悪くないな」


 そう言って豪快に笑うエドガーおじいさま。

 そして、呆れた様子のメリッサおばあさまと、伯父様。


「そうだマルコや、この剣をお前にやろう」


 そう言って、おじいさまが一振りの剣をくれる。

 ショートソードと呼ぶにはちょっと長く、ロングソードにしては少し短い。


「お主にとっては今は長く両手で扱うようなものかもしれぬが、大人になった時には片手でも振るえるようになるだろう」

「ありがとう!」


 流石におじいさまの前で剣を鞘から抜くような事はしないが、ずっしりとした重みを感じる。

 片手で振るえなくもなさそうだけど、身体強化は必須かな。

 こんど、本格的にカブトに習おう。


「我が家に先祖代々伝わる名剣の1つだ。大事に使うのだぞ」

「えっ?」

「ふふ、マルコを揶揄わないでください。これは、あの人が街の鍛冶師の方に、わざわざ貴方に合わせて打ってもらったものだから、気にせず使ってちょうだい。あなたの為の剣ですから」


 どうやら、おじいさまに揶揄われたらしい。

 舌をだして片目を閉じる、ちょっと茶目っ気のある姿に思わず苦笑い。

 でも、このサプライズは本当に嬉しい。


「有難う、おじいさま! おばあさま!」

「うむ、ベルモントに相応しい立派な剣士になるのを信じておるぞ」


 そう言って手を差し出してきたので、その手をしっかりと握る。

 まだまだ僕にとっては、力強く頼もしい手だ。

 いずれは、僕もそうなりたいと思えるほどに。


 スレイズおじいさまの手?

 あんな物騒な手には憧れないかな?


 名残惜しいけどマーキュリーの皆に別れを告げて、街を後にする。

 出口のところで、今日も元気なヨグソさんが笑顔で手続きをしてくれる。


「あっという間でしたが、マーキュリーの街は楽しめましたか?」

「うん! おじいさま達が街を案内してくれて、もっとこの街が好きになりました」

「それは、よござりました。手続きはこれで終了です。また、いつでも来てくださいね」

「はい! 有難うございます」

「次ぎ来るときも、ここに居るのかしら」

「当然ですよ」

「じゃあ、身体にだけは気を付けてね」

「はいっ! お嬢様もご自愛ください」


 若干失礼じゃないかなと思うようなことをお母さまが言っていたが、ヨグソさんは気にした様子もなく笑顔で見送ってくれた。


――――――

「今日はここで、一泊します」

「えっ? まだマーキュリーの街を出て4時間くらいしか経ってないよ?」


 しばらくトコトコと馬車に運ばれて、気持ちよく転寝(うたたね)をしていたらいきなり起こされる。

 目の前には、少し大きな村が。

 実際にはそれなりの規模に見えるが、ちょっと街と呼ぶには心許ない。


「そんな予定あったっけ?」

「いえ、マリア様がどうしてもマルコ様を連れて来たいというので、寄らせてもらいました」


 トーマスさんに声を掛けると、ベルモントからお母様に付いて来ている護衛の1人が代わりに答えてくれる。

 村に入ると、中心部から山に向かってところどころ湯気が上がっているのが見て分かる。

 どうやら、温泉宿場町のようだ。


 いや、温泉宿場町に寄ることは当初の予定には組み込まれていたが、ここは自分が予定していた場所と違う。

 本来は、もっとベルモントに近づいたところにある宿場町に寄るつもりだったのだけど。


「ここのお湯は、お肌にとおっても良いのですよ? 私にも、そして卵のようにスベスベのマルコの肌がいつまでもそうであるように、是非入らねばと思って」

「ええ、ここはなんて村なの?」

「フィンガーインの村です」


 お母様の言葉を聞いた僕は、ローズに言って地図を見せてもらう。

 えっと、王都がここで、マーキュリーの街がここだからここの周辺にある村はと……

 ここって……


「フィンガーイン……ここって、微妙にマーキュリーの街と同じくらいベルモントから遠いですよね?」


 僕がジトっとした視線を送ると、お母さまがスススと視線を逸らす。

 まさかベルモントに近づいてもいないとは思ってなかったため、思わずため息が漏れる。


「テトラに早く会いたくないの?」

「はうっ……」


 僕の指摘に、お母様が胸を押さえて苦しそうに呻き声をあげる。

 そしてガックリと項垂れた……がすぐに再起動して、僕に抱き着いてくる。


「テトラはマイケルがしっかりと見てます。早く会いたいとは思いますが、マルコとはずっと離れていたので、母は少しでも2人きりで過ごしたいのです!」

「やっぱり……」


 どうやら、僕と親子水入らずの時を過ごしたいがためにわざわざ遠回りしたらしい。

 来てしまったものは仕方ない、今日はここを目一杯楽しもう。


 村の中に目をやると中央を川がはしっていて、その両側に綺麗に一列に建物が並んでいる。

 両側が山に囲まれていて、どうやらこの村は山間にあるらしい。

 初夏ということもあり、森の木々は青々と茂っていてとても景観が良い。


 入り口から向かって左側の通りに入る。

 道の両脇には、多くの民宿が立ち並んでいて有名な温泉街という事が伺いしれる。

 道は石畳になっていて、少し古くさく綺麗に掃除された建物が並ぶ姿はノスタルジックな印象を受ける。

 まあ、ノスタルジーに浸るほど生きても居ないけど、少しだけ前世の記憶を刺激される思いだ。


「ここですよ」


 道幅は馬車が通れるほどの幅があり、目的の宿の前まで進んでいくとトーマスさんが馬車を止めて、踏み台を用意してくれる。


「有難う」

「着いたわね」


 宿の壁に貼られた少し赤茶けた板の色が年季を感じさせ、このお店が老舗だということを教えてくれる。

 それでも綺麗に洗濯されているだろう暖簾に、店の前にはあまり落ち葉や砂が落ちていないことから、それだけで質の高いサービスが期待できそう。


「一泊したいのですが」

「おや、マリア様かい? これはこれは遠い所をわざわざ」


 どうやらお母様は、何回か来た事があるらしい。

 入り口に居た柔らかい笑みを浮かべたお婆さんが、少し驚いたあと笑顔で出迎えてくれる。


「今日は息子と2人きりなの、従者は全員で6人なのですが大丈夫?」

「ええ、マリア様とそちらのお坊ちゃまは、いつものお部屋で宜しいですか?」

「空いてるの? やった」

「フフフ……マリア様は、いつまでも変わりませんね」


 小さな声でガッツポーズをするお母様に、おばあさんが目を細めて笑みを浮かべる。

 本当に来てもらえて嬉しそうで、歓迎されているのがこっちも嬉しい。

 そうだね。

 折角来たんだし、やはりここは目いっぱい満喫しないと。


 階段を上がって2階に進むと、廊下の突き当りの部屋に案内される。

 中は木の板張りの床に獣の皮で作った敷物が敷いてあるだけの簡素な部屋だった。

 中央には机と椅子があり、壁側にベッドが2つ並べて置いてある。

 窓側には縁側があり、そこにもテーブルセットがある。

 そこから外側が望めて、木戸を開け放つと川のせせらぎが聞こえてくる。

 

 反対側の街並みも見えるが、こうやって少し高い所から見ると本当に綺麗に区画分けされていて、村の作り自体が1つの景色のように思える。


「笹茶ですが、お坊ちゃまの口に合いますかね?」

「私が大好きなんだから、息子も大丈夫よ」


 一度部屋から離れたお婆さんが、お盆に木の湯飲みを2つ乗せて部屋に入って来る。

 ファーマさんとトーマスさんは、すぐ隣の部屋に。

 ローズは1人で向かいの部屋に居るようだ。


 他の2人は、この部屋のはす向かいの部屋に泊まるらしい。


「これこれ、笹茶ってここ以外で飲んだこと無いのよね」

「ふふふ、こんな場所だと普通の茶葉というのは中々、常備しておけないもので、この辺りで取れるもので代用してますから」

「ふう、ふう……あつっ!」


 少し冷ましてから、口に運ぶ。

 それでもちょっと熱かった。


「あっ、美味しい」


 ほんのりと甘く、あっさりとして飲みやすい。


「砂糖とか?」

「いえ、純粋に笹の葉だけで作っております」


 笹の葉って甘いんだ。

 知らなかった。

 でも、ちょっと優しい味で、確かにいくらでも飲めそうな気がしてくる。


「母も、このお茶が好きですよ。マルコの口にあったみたいで、良かったわ」

「はい、大変美味しいです」

「あらあら、マルコ様っておっしゃるのね。喜んでもらえて、おばあも嬉しいですよ」


 おばあさんが、嬉しそうに微笑んでいるのを見ていると何故か落ち着く。


「あっ、すいません自己紹介が遅れて。マイケル・フォン・ベルモントの息子で、マルコと言います。母が何度かお世話になったみたいで、今日はよろしくお願いします」

「おやまあ! このようなばばあに勿体ないお言葉。本当に立派な御子息様ですね」

「フフフ、私の自慢の坊やなのよ」

「お母様……」


 おばあさんが驚いた様子で褒めてくれたのを聞いて、お母様が僕を抱き寄せて自慢げにおばあさんに笑いかける。

 少し恥ずかしい。


 それからお母様に連れられて、宿を出て少し離れたところにある共同浴場へ。

 といっても、貴族がお忍びでくることもあるため、貸し切り風呂もいくつかあるらしく、そのうちの1つを借りる。

 

「恥ずかしいんだけど……」


 脱衣所の中でこちらに背を向けているとはいえ、ローズが居るのはちょっと落ち着かない。

 彼女は装備自体は軽装だが、しっかりと帯剣して入り口の前に椅子を置いて見張りをしてくれている。

 

「もう、自分で脱げないなら母が脱がせて「いや、大丈夫です」


 少しモジモジしていたら、お母さまが無理矢理チュニックを上に引っ張りだしたので、慌てて裾を押さえて断る。


「というか、共同浴場の方でも僕は良かったんですけど? あっちならファーマさんもトーマスさんも居るから安全だし」

「もう、たまには母と一緒に入るのです!」


 すでに服を脱いでスタンバイしているお母様の方を向いて、訴えるような視線を送ったけど力強くそんな事を言われ、油断した隙に一気にチュニックを引っ張りあげられた。


 ちなみに入り口の外には少し離れたところに、ベルモントの護衛が3人見張りで立っている。

 入り口は木戸だから外の様子も見れないし、外から中も見れないから問題無いような、安全面としては不安なような。

  

 流石にズボンは死守した。

 自分でズボンを脱ぐと腰に手拭を巻いて、お母様に手を引かれて湯船に向かう。

 

「良い匂い」

「うん、気持ちよさそう」


 湯船は石で囲まれていて、広さは大人が5人くらいなら余裕をもって入れそうな作りになっている。

 湯船の周りには笹が植えられていて、その笹の間から半分に割った竹が湯船に向かって伸びている。

 そこを通って温泉が運ばれているらしく、竹の優しい香りが漂っている。


「先に言っておきますが、身体は自分で洗えますから」

「もうっ! なんで先に言っちゃうのよ!」


 そそくさと浴室の隅に設けられた身体を洗うスペースに向かうと、人一人が入れそうな樽に張られたお湯を桶で掬って身体に掛けて、ゴシゴシと手拭で洗う。

 この樽には違う竹が伸びていて、ここにも常に新しいお湯が流れているようだ。


「じゃあ、これは知らないでしょう?」


 お母様が近付いて来て、樽の上部にある栓を捻る。

 栓がある場所からは太い竹が一本継ぎ足してあり、その先に小さな穴がいくつか空いていてまるでシャワーのようにお湯が飛び出してくる。


「これで、いちいちお湯を掬わなくてもいいでしょ?」

「凄い! お母様、どうして知ってたの?」

「私のおじいさまが教えてくださったのよ」

「お母様のおじいさま?」

「マルコが生まれる前に亡くなってしまったけど、私が小さい頃はよくこっそりと連れて来てくれたんですよ」

「そうなんだ」


 どうやら、お母さまの思い出の場所らしい。

 そんなところに連れて来てもらえたのは、ちょっと嬉しい。


「ほらっ……」


 それから暫くお互い自分の身体を洗っていたら、お母様が急に手拭を渡してくる。

 僕に持ってろって事かな?

 と思ったら、こっちに背中を向けて座る。


「背中……手が届かないから」

「はっ? ……はあ」

 

 こっちが洗わせないと強く意思表示したら、背中を洗ってくれと言い出した。 

 子供に甘えないでよと思いつつ、久しぶりのお母様との時間はやっぱり嬉しい。

 

「うん、今日だけだからね! あと皆には内緒だよ」

「うふふ、マルコは本当に恥ずかしがり屋さんね」


 あっ、これ絶対お父様や、テトラ、ヒューイさんやマリーに自慢する奴だ。

 まあ、口止めしなくても絶対に自慢するだろうから、もう諦めよう。

 それよりも、こんなに僕との旅を楽しみにしてもらえたんだから、今日は精一杯孝行することにしよう。


 っていっても甘えるだけで良いってのは簡単だけどね。

 恥かしいけど。


 宿の料理は、山で取れたものばかりだった。

 調味料を含めて。

 それでも、十分に美味しい。


「この魚、美味しいね?」

「このお肉も美味しいわよ」


 ヤマメに似た魚の塩焼きを、串に刺さったままかじりつく。

 ナイフとフォークもあるけど、野菜も串に刺して焼いてあったりと色々と食べやすく工夫してある。

 パンの中にクルミが入っていて、これも本当に美味しい。


「いっぱい食べるのよ。はいっ、あーん」

 

 お母様がフォークに刺した鹿肉を差し出してきたので、パクリと頂く。


「ふふ、お肉柔らかくて美味しいです」


 取れたてなのか、下拵えに工夫がしてあるのか、癖も臭みもなく美味しい。

 申し訳程度に振りかけられた岩塩と、山椒のような実がピリッと肉の甘味を引き立てていて思わず頷く。


 銀杏の焼いたのも美味しいけど、去年取れたのを乾燥させて保管してたのか少しパサパサしてた。


「フフフ……今日は、マルコがいっぱい甘えてくれて、母は幸せです」

「うん、僕もお父様や、お母様に会えないのはちょっと寂しかったし」


 わざわざ2つあるベッドのうちの1つに、2人で一緒に寝る。

 初夏だけど、山間に位置しているからか川側からは涼しい風が入って来る。

 木戸の半分だけを開けて、虫よけの魔石をセットして川のせせらぎを子守歌代わりに。

 といっても虫よけの魔石は形だけで、相変わらず過保護な虫達が一切の害虫を寄せ付けないけど。


 そして、まだちょっと冷たい風も、母の柔らかな胸に抱かれるとほどよく感じる。


――――――

「マリア様!」

「おいっ、お前ら急げ!」


 それから2日掛けてベルモントの街に戻ると、入り口の衛兵さんが慌てた様子で一緒に居た仲間を街に向かわせる。

 外壁の上の遠見から、馬車が見えると同時に連絡がいっていたらしく、すでに数人の衛兵さんが町中を走り回っているとか。

 何かあったのかと、不安になる。


「何かあったのかしら?」

「昨日着かれると聞いてましたので、マイケル様が大層心配しております」

「あらあ……そういえば、フィンガーインの宿に寄るって言って無かったわ」

「お母様……」


 どうやら、完全にただの寄り道だったらしい。

 そりゃお父様も、衛兵さん達も心配になる。


「心配掛けたわね」

「すいません」

「いえ、お2人が無事なら何も問題ありませんから」

「お帰りなさいませ、マリア様、マルコ様」


 お母様は特に気にした様子も無い。

 僕の方が気にしてしまう。

 取りあえず、衛兵さんに謝って街の中に入る。


 通りを進むと、パラパラと人が出迎えてくれる。

 他にも続々と通りに人が集まってきているのが分かる。


「はあはあ、マルコ様お帰りなさい!」

「お帰りなさいマルコ様!」

「はあはあ……お坊ちゃまお帰りなさいませ」

「うん、ただいま」


 みんな帰って来た僕を出迎えるのに、走って集まってきたようだ。

 そんな、無理しなくて良いのに。

 息も絶え絶えの様子で、声を掛けてくる人も居る。

 中にはおたまを持った人や、服がちゃんと着られてない人も。

 落ち着いて?

 別にお出迎えが無くても気にしないから。


 さらにしばらく進むと、道の両脇の建物を繋いだ横断幕が。


『おかえりなさいませ! マルコ様!』


 と書かれている。

 それを見てようやく帰って来たと、本当に嬉しくなってくる。

 かなり恥ずかしいけど、自分の街だと思うと受け入れられる。


 馬車の中から一生懸命幼馴染の姿を探すが、どうやら出てきていないらしい。

 というかお見送りの時よりも、かなり人が少ないから居たら確実に分かると思うのに。


 代わりに冒険者ギルドの前では、先生方やジャッカスが精一杯の笑顔で手を振ってくれている。

 何故かジャッカスの後ろに、子供が3人引っ付いているけど。

 子供っていっても14~5歳くらい。

 僕よりは大分年上だ。


 そして、ベルモントの館に着く。


「マリア! 何かあったのか?」

「ごめんなさい貴方、途中で良い温泉宿場町によってきたの」

「そ……そうか……」


 お母様の言葉に、ホッとした様子のお父様。


「ただいま戻りました、父上」

「うむ、よくぞ戻った息子よ!」

「おにいさまー!」

「おにいさま? テトラ言葉が上手になったな!」

「うん! ぼくもべんきょうはじめたの! おにいたまもおしえてくれまつか?」

「ふふ、もう少しかかりそうだけど、テトラはゆっくりで良いんだよ」


 第一声は気合が入っていたからなのか、ペラペラと話し始めるとすぐに舌っ足らずになる。

 そこが可愛いから、もう少しこのままで居て欲しい。


「テトラ、良い子してた?」

「はい、おかあさま!」


 すぐにテトラとの再会の時間は、お母様に取られてしまったけど。

 

「まあ、お兄ちゃんに似て、テトラもとってもいい子ね」

「くすぐったいです、おかあたま」


 テトラを抱きしめて、まだまだプックラとしたほっぺに凄い早さで頬ずりするお母様。

 やめたげて。

 テトラの可愛いほっぺが焦げちゃうから。


 そして、そのお母様を怒れる数少ない女性の姿がぬっと現れる。

 お母様はまだ気づいていない。


「マリア様? 遅くなるなら先触れを出してください! 昨日は街の者達は昼から仕事を休んでマルコ様のお出迎えの準備をされていたというのに!」

「キャッ! あっ、マリー! ごめんなさい」


 突然背後から声を掛けられたお母様が、一瞬跳ね上がると後ろを確認する。

 そして、怒っているマリーに対してやばっと小さく呟いていた。


 それからお母様は暫くマリーに怒られていた。

 どうやら、昨日到着予定の行程だったらしく、街の皆は昨日僕を出迎える準備をしてくれていたらしい。

 それは、慌てる。

 が、お母さまは道中の事を聞かれて、温泉宿に寄って遅くなったという会話の下りの途中からニヤニヤとし始める。


「何をニヤニヤしていらっしゃるのですか?」

「うふふ……でも、その代わりマルコと親子水入らずの時間が過ごせたの! 聞いてくれる?」

「はあ……」


 僕と2人きりを満喫して元気100%の今のお母様に、マリーも言うだけ無駄かと流石に呆れてしまった。

 でも、ようやく帰って来られて、ほっと一安心。

 3ヶ月、しっかりと休みを満喫しよう。

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