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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第45話:マーキュリーの町

「それじゃあ、楽しんでくるのだぞ!」

「道中気を付けてね」

「「「行ってらっしゃいませ」」」


 おじいさま、おばあさま、そしてスレイズベルモント家の皆に見送られて屋敷を出発する。

 領地と違って、見送りはそれだけ。

 別に街の人達が見送ってくれることもなく、馬車は淡々と王都の外壁へと向かう。


 途中、下層に入ってしばらく進んだところでチラリとトト達が住んでいた廃屋を見たが、まだ取り壊されていなかった。

 まあ、いずれ壊されるだろうけど。


「どうしたの、マルコ?」

「いえ、なんでもありません」


 外を眺めていた僕に、お母さまが話しかけてくる。

 

「はい! あそこに友達が住んでいたんです!」とは答えられない。

 適当に返事を返すと、お母様がキョトンと首を傾げる。

 もう30も半ばに差し掛かったのに、もう少し落ち着いてもらっても良いと思うけど。


「廃屋ね……住人の方はどこに行ったのかしら? 建物って壊すのにもお金が掛かるから」

「そうですね、でも趣があって僕は良いと思いますよ」

「まあ、マルコってば芸術的な感性も持っているのね! 素敵」


 流石なんでも肯定してくれるお母様……

 いや、一部お母様が僕を甘やかしたいのを断るのだけは、否定されるけど。


 どこが芸術的な感性に繋がったのだろう。

 でも、変な子ねと言われなかっただけマシだと思おう。


「問題ありません、それではお気をつけてお帰りなさいませ。 マルコ様も、戻って来られるのをお待ちしております」


 外壁の門を守る衛兵さんに、丁寧に挨拶を受けて見送られる。

 馬車の窓から顔を出したら、まだこちらを見送っていたので手を振る。

 笑顔で振り返してくれた。


 馬車が門をくぐると同時に、少し離れた位置に蜂達の群れが見えた。

 過保護なのは、お母様だけでは無かった。


 馬車の窓枠には、今日も蝶がとまっている。

 まあ、綺麗な文様を浮かべた羽を見るのは心が癒されるし、別に良いんだけどね。


 彼等のお陰で、盗賊にも魔物にも襲われずに快調に旅は進む。


「坊っちゃんは、学校ではどのようなことをお勉強されてるのですか?」


 御者席に座るトーマスが、話しかけてくる。

 完全にトーマスも、僕の担当になったようだ。


 ファーマさんの目つきが少し鋭くなるが、トーマスの主はお父様だから流石にファーマさんから注意するわけにはいかないらしい。

 代わりに……


「トーマスさん? マルコ様でしょ?」

「えっ? ああ、はい」


 ローズが馬を寄せてトーマスに指摘する。

 御者席にはトーマスさんだけ、車内は僕とお母様2人っきりだ。


 ファーマさんと、ローズ、それからベルモントからは来た他の3人はそれぞれ馬に乗って並走している。

 まあ、歩かせているといった感じだけど。


「うーんと、算数と国語がメインかな? あとは魔法の基本理念とか概念とか? 他には一般知識や領地運営、それと歴史と近代史とか」

「うへー……聞いただけで頭が痛くなりそうです」

「ははは、でもちゃんとしっかり聞けば、面白い内容ばかりだし。あと、選択科目では野営術を習ってる」

「坊……マルコ様がですか? 必要無いでしょ」

「将来、冒険者とかもやってみようかなって「駄目ですよ」


 お母様に即答で否定された。


「大丈夫ですよ。父上の許可は取ってありますから」

「まあ! 全くあの人ったら! マルコは卒業したら、すぐにベルモントに帰ってあの人のサポートをしてもらおうと思っていたのに」


 それは、手元に置いておきたいだけだよね?

 僕としては、自由に世界を見て回りたいし……あっちの僕も、まだ見ぬ様々な生物への期待に胸を膨らませているし。

 といっても、お父様の許可さえ取っていれば、大きな障害は


「戻ったら、マイケルと話し合う必要がありそうね」

「……」


 あったりした。

 頑張れお父様!


――――――

「これはこれは、お嬢様! ご無沙汰しております」

「まだ居たの? もういい歳なのに」

「ハハハ……中々、あとを引き継いでくれる人が居ないもので」


 マーキュリー領にある、マーキュリーの街に着くと門兵の人とお母様が楽しそうにそんなやり取りをしている。


「そろそろ、そんな立ちっぱなしの仕事じゃ無くて、座って出来る仕事をさせて貰った方が良いんじゃない?」

「まだまだ、元気なうちはここで色々な人を見ているのが楽しいですよ」


 門兵の人は、日に焼けた肌とかなり良いガタイをしているが、その髪の毛は白髪交じりで歳が結構いってるんだろうなと思う。


「今年でいくつだっけ?」

「55になりますよ」

「いつまで働くつもり?」

「ここを任せられそうな人が、入隊したらですかね?」

「私が生まれる前から、ここに居るわよね?」


 二十歳で配属されてから、35年間ずっとマーキュリーの街の入り口を守って来た人らしい。

 何度か転属の打診があったらしいけど、門番は同じ人の方が来る人も出る人も安心するということで、彼が強引に居残ったらしい。

 人の顔を覚えるのが得意らしく、この仕事が天職だと言っていた。

 人相書きも大体覚えているらしく、犯罪者の侵入を未然に防いだことも多々あるらしい。


「もしやめることになったら、手紙くらい寄越すのよ? 会いにくるから」

「ははは、勿体ないですよ。その気持ちだけで十分です! まあ、手紙は是非送らせてもらいます。それでは、お帰りなさいお嬢様、そしてようこそマルコ様! ベルモントの皆様!」


 そう言って綺麗な敬礼をする門兵さん。

 ビシッと背筋が伸びていて、見た目よりも若く見える。


「ただいま、ヨグソ。息子がいる間、街で事件が起こらないようにしっかりと見張っていてくださいね」

「お任せください!」

「宜しくお願いします」

「はい、マルコ様も楽しんでください!」


 正直、ヨグソさんがずっと門番やってるのってそれ以外が出来ないからかなと思ったけど、どうやら本当にこの仕事が好きなようだ。

 勿論、他にも門兵は居るけど、終業後も割とここに居座っているらしい。

 ちなみに孫も居るらしく、日が落ちる前にお孫さんが迎えに来て一緒に手を繋いで帰るとか。


 それからエドガーおじいさまの館に向かう間も、色々な人から声を掛けられた。

 

「あら、おじょうさまじゃない?」

「いま、お帰りに?」

「はい、ただいま戻りました」

「あら、そちらのお坊ちゃんはマルコ様? 大きくなられて」

「可愛さに磨きが掛かってますね」

「そうでしょう? 我が子ながら末恐ろしいですわ」

「分かりますよ。うちの子なんかよりよっぽど可愛らしい。うちのは悪さばっかりして、今日も朝から友達と遊び歩いて、昼も帰ってこないんですよ」

「えっと、ガイナ君だったっけ? マルコと同い年よね?」

「同い年とか恥ずかしくて、マルコ様はこんなに落ち着いてらっしゃるのに」


 終始こんな感じで話しかけられるので、なかなか馬車が進まない。

 お母様は案外、家に居ない子だったのかもしれない。

 顔見知りが多すぎる。


 進まない馬車に少しイライラしたけど、せっかく慕ってもらってるのだから精一杯の余所行きの笑顔で挨拶する。


「祖父がお世話になってます。マーキュリーの家が安泰なのも、皆様のお陰ですね。とても良い顔をしてらっしゃいますので、この街が好きなのが伝わって来て嬉しいです」

「あらやだ、マルコ様って本当に素敵な子ね。私達はみんなここに生まれて良かったと思ってますよ」

「私も、嫁いでくるときは心配でしたが、いざ住んでみると本当に住みよくて」

「それにしても、立派な挨拶をなされるのね! 流石はエドガー様のお孫さまですね」


 おやっ?


「おじいさまに似て、本当に利発そうでベルモントの皆様もさぞや鼻が高いでしょう」


 挨拶に対する反応が、王都のそれと全然違う。


「そこは私に似てと言って貰いたいわ」

「いえ、お嬢様はどちらかというと、腕白でいつも家の方々が探して歩いてらっしゃったじゃないですか」

「まあ、街の外に出る事が無いだけ、まだ良かったですけど」

「あら、息子の前で恥ずかしいお話をしないでちょうだい」

「申し訳ありません……でも、その表情懐かしいですわ」

「いつも、家の人に連れて帰られる時は拗ねてそんな顔をされてましたわね」

「もうっ!」


 お母様も人気者みたいで、僕も嬉しい。


「「「お帰りなさいませ、マリア様! マルコ様!」」」 

「良く来たな、疲れただろう? お風呂の準備が出来ているから、今日はわしと入るか?」

「いらっしゃい、マルコが好きな料理も用意させてますからね」


 エドガーおじいさまの家に着くと、家人の人達が皆揃って出迎えてくれる。

 エドガーおじいさまはお風呂のお誘いをしてくれ、メリッサおばあさまが笑顔で出迎えてくれた。

 心から歓迎されているようで、本当に嬉しい。


「あら、マルコは私と一緒に入るのよね?」

「いえ、今日は折角お誘い頂いたので、おじいさまと入りたいかなと」

「ええ……」


 お母様が当然のように僕と入ると言い出して抱き着こうとしてきたので、スッと身を躱す。

 ショックを受けたような表情をしているが、別にベルモント領でもとっくの昔にお父様と一緒か1人で入ってるし。

 もう数年は一緒に入った事ないよね?

 この年になってまで、お母様と一緒にお風呂に入ってるとかって思われるのは流石に恥ずかしい。


「マルコ、大きくなったな!」

「見違えましたね。王都の学園に通ってらっしゃるんですって?」


 それから、ジャクソン伯父様と、ケリー伯母様もお出迎えしてくれている。

 伯父様の影に隠れこちらに手を振る従兄のタクト。

 相変わらず、シャイなようだ。


 ジャクソン伯父様はお母さまの兄にあたる人で、マーキュリー家の次期当主だ。


「伯父上、伯母上、御無沙汰しております」

「相変わらず、堂々としていて立派だな」

「流石はベルモントの子ね」


 貴族の礼を持って挨拶をすると、2人が目を細めて表情をやわらげて褒めてくれる。

 2人とも似たもの夫婦というか、ちょっとおっとりしたところがあってその雰囲気だけで落ち着かせてくれる。

 タクトがピョンと伯父様の背後から飛び出して、笑顔で出迎えてくれる。

 彼は僕の2個上だから、11歳になるはずだけどどこかまだ子供っぽい。

 というか子供だから、しょうがないか。

 ちょっと、周りの同級生たちが大人っぽいから、ついつい年相応という言葉を忘れがちになる。

 

「マルコ……久しぶり」

「タクトも久しぶり。学校はどう? 楽しい?」

「うん、友達というか……家来はいっぱいいる。けど、友達がなかなか出来ない」

「そっか僕は友達は多いけど、家来は……いないかな」

「なに、今の間は? 家来居るの?」

「うん、同級生には居ないよ」

「同級生には?」

「あはは……」


 同級生には居ないけど、大人を何人か家来にしてたわ。

 王都で悪い事をしてた人達を、あっちの僕がまとめて家来にしちゃったからね。

 あとは、ジョシュアのところのマーカスと、ルーカス。

 それにベルモントにはジャッカスが居るし。


 ちなみに、トトたちはバイトをしてるだけで僕の友達だから、家来じゃない。


 タクトはその性格から、絶対に王都の学校には行かないとダダを捏ねてマーキュリーの学校に通っている。

 エドガーおじいさまはタクトも僕も溺愛してくれているから、そこまで無理強いはしなかったみたいだし。


「タクトや、マルコも疲れているだろうからそう言った話はお風呂の後にしないか」

「タクトも一緒に入るだろう? まずは、そこで少し学校の話を聞かせて貰うか」

「はうっ! お父様、おじいさま」


 伯父様が僕との距離感を思い出して饒舌になったタクトに注意すれば、すぐにエドガーおじいさまが助け舟を出す。

 

 少し離れたところでは、お母様がメリッサおばあさまと伯母様と何やら話をしている。

 盛り上がっているところを見ると、少し不安になる。


 ちなみにタクトには姉が居るのだが、彼女の姿が見えない。


「あの、アンジェお姉さまは?」

「アンジェね……今日はマリアとマルコが来ると伝えていたのに」


 どこか疲れた様子で、呟く伯父様。

 居るのは居るらしい。


「まったく……何故か俺でもケリーでも無く、マリアに似たんだよな」

「そう言うなジャクソン、あれだけマリアとマイケル君に懐いていたんだ。マリアに似るのは仕方ないだろう」


 どういう事だろう?


「まだ、マルコが生まれる前は、マリアとマイケル君が来ると2人がめいっぱいアンジェと遊んでくれていたからね。歳は離れているけど、叔父や叔母というよりも知り合いのお兄さんやお姉さんに似た憧れを抱いてみたいだね」

「変なところまで、マリアに似なくても良かったのにのう」

「そこは……母上の血でしょう。マリアもアンジェも、良く母上そっくりと言われてましたし」


 伯父さんが、メリッサおばあさまを見ながら諦めたような表情でつぶやく。


「ケリーに似てくれると思ったのだが、母上の血は教育よりも強いみたいだ」

「あいつ自身強いからな! ハッハッハ!」

「聞こえてますよ!」

「ハハ……」


 どうやら、マーキュリー家も女性の方が強いらしい。

 嫌だなー……

 将来、僕も女性に苦労しそうな予感がしてきた。


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