第6話:訓練はマルコに任せてひきこもる
「おお、なかなかこれは……」
マルコが回収した素材を見て、思わずニヤニヤしてしまう。
今居るのは管理者の空間。
あっちの世界はすでに夜。
それに合わせて管理者の空間も、日が落ちて神殿の周りは真っ暗だ。
空には星が瞬いている。
これもポイントで貰った。
背景というか、漠然と空という商品名だった。
今までは昼間は真っ白、夜は真黒だった空がこれを貰った事で、太陽と雲、それから月と星が見られるようになった。
これだけの事だけど、ポイントは4000ポイントと少し高め。
でも、気分が全然違う。
空って大事だよね?
開放感が大きく上がって、この空間がようやくまともな世界に見えてきた。
今まで手に入る素材の都合で滞っていた配下の虫たちの改造だが、意外なところで解決策が見つかった。
マルコの戦闘力や経済力では、高い魔物の素材や鉱物、植物などは手に入れる事ができなかった。
そして、レベル17で買える素材も大した事が無いといった現状。
だが、この間マルコを狙った連中に対して、蜂が割とあっさりと攻撃を加えた事で少し思うところがあったのだ。
もしかして……こいつら強くね?
とふと思ったのだ。
で実験がてら、カブトとラダマンティス、鉄を操るけど土蜘蛛と名付けた蜘蛛を近場の森に向かわせてみた。
結論……メイン武装が鉄の規格外のサイズの昆虫は強い。
普通に森でホーンラビットや、フォレストウルフ、ゴブリンを狩っていた。
そして同行させた蜂の群れが、その素材を持ち帰ってくる。
解体したのは大型の鉄の鎌を持つラダマンティスだ。
割とシャレにならない切れ味を持った鎌なのだが……なんとこの鎌は変化する。
切れ味を優先した剣のような鎌と、ダメージを与える事に特化したギザギザの刃のついた鎌。
この2種類だけだが、戦闘になるとかなり効果を発揮した。
そうして集めた素材を、虫たちに食わせてさらに戦力を強化することに成功。
大量にあったホーンラビットの角を一部の虫たちに食わせた。
カブトはもともと生えていた角が、さらに太く長く伸びた。
うん、カッコイイ。
他の虫たちは特に大きな恩恵は得られなかったようで残念。
やはり相性があるようだ。
とはいえ、ほぼほぼ全ての虫たちの顎が硬くなっているところを見ると、一応は効果があったようで一安心。
以降、いずれ来る独り立ちの時にギルドに売れるように、保管している。
魔物としては強い方ではないが割と敏捷が高く逃げ足も速い。
そして何よりも臆病であるため、そこまで市場にあふれているわけでもないので意外と値段は付く。
次にフォレストウルフの牙だが、これは百足と蜂、蟻に効果があった。
ホーンラビットの時よりもはるかに頑丈で、凶悪な顎へと変化していた。
どのくらいかというと、細い木なら簡単に噛み切れるくらいには強化されている。
そして蜂と蟻は群れで手に入った。
おそらくこの蟻の集団に襲われたら、骨も残らないだろう。
でも、ちゃんと素材になりそうなものは残してくれる。
うちの子たちは優秀なのだ。
ゴブリンからは、拾ったであろう武器や防具が回収できた。
とはいえ、値打物は無い。
純粋に鉄や銅といった鉱物としての合成素材としてしか、いまのところ役に立っていない。
スライムは蛞蝓に食わせておいた。
結果は……蛞蝓がスライムになっただけだった。
弱点が塩のスライム。
うん、特に生産性の無い実験結果だった。
ちなみに鉄を食わせた蛞蝓は、ぬめりが消えてガッチガチの蛞蝓に変わっただけだ。
ただでさえ遅い歩みが、さらに遅くなった。
まさか合成した結果が、防御が爆上げでそれ以外が壊滅的に劣化するとは。
何か使い道が無いか、現在模索中だ。
拾い物で言えば……
「チュチュッ」
今俺の肩に留まっている元は雀っぽかった鳥だろう。
現在の姿は、翼を広げた全長が1mを超えそうな大きな鳥だ。
元々雛だったのを、カブトが捕まえてきた。
鳥の雛を6本の足でガッチリと掴んで飛んでくる大きなカブトムシ。
窓から外を眺めていたマルコが思わずビクッとなってた。
結構シュールな絵だったと思う。
その雛は日中は外で自由に、夜は管理者の空間に呼び戻すようにしていた。
何故かって?
管理者の空間に居たら成長しないからね。
ずっと雛のままだったら、何の役にも立たない。
気付いたのは、雛を拾ってから2ヶ月くらい経ってからの事だったが。
成長した姿は20cmくらいの、見るからに雀だった。
一応ストックしてた鉄を食わせたら、嘴と爪が鉄になってた。
で、拾った猛禽類っぽい羽を食わせたら、翼が大きく進化した。
ずんぐりむっくりとした雀の身体に、猛禽類の力強い翼。
なんてアンバランス。
ちなみに名前はチュン太郎。
特に深い意味はない。
雀だったからチュン太郎にしただけだ。
こんな変化をするとは思わなかった。
知ってたら、もう少しカッコいい名前にしたのに。
そこがちょっと可愛かったりする。
フォレストウルフの爪も与えてあるから、足は割と凶悪だったりもする。
愛らしい顔と、丸々とした身体……からは、想像もつかない速さで空を飛ぶ。
そして、普通に烏を追いかけまわしたり。
虫達より飛行速度も、飛行距離も大きく上回っているので意外と周辺探索に使える。
そんな事を繰り返しているうちに、管理者のレベルも20に上がった。
解放された素材の中に、魔石なるものがあった。
割とお高い。
1000ポイントで、魔石小が貰える。
でも、横に【無】って書いてあるのが凄く気になる。
もしかしたら、属性のついた魔石があるのかもしれない。
無属性の魔石……なんの役に立つのだろうか?
一応興味があったので、一つ貰ってカブトに食わせてみた。
結果としては、魔力が身に付いたくらいだろうか。
でも、使える魔法が無いので無意味だった。
今度属性付きのものがあったら、もう一度試してみよう。
改造だけじゃなく、虫たちとも交流を図っている。
といっても、会話ができるわけじゃないけど。
蜂や蝶たちは蜜を集めてきてくれたり。
結構美味しかったりする。
一応作った花畑に横になって、楽しそうな虫たちを眺めて過ごすのも嫌いではない。
殺風景だった管理者の空間も、のんびりスローライフを送るには良い環境になってきた。
カブトやラダマンティスたちは、目の前で力比べを見せてくれる。
なかなか力強い戦いで、見ていても楽しい。
でもうっかりどっちかを応援したりしようものなら、もう片方が思いっきり拗ねる。
それはもう分かり易いくらいに。
フラフラと飛んでいって木のうろに籠ってしまうカブト。
ヨタヨタと歩き去って、木に八つ当たりするように鎌をぶつけるラダマンティス。
虫達も個性があって、可愛いもんだ。
おっと、思い出に浸っていたら夜が明けたらしい。
外が明るくなってきた。
そろそろ、マルコも起きる時間かな?
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