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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第43話:前期試験そして夏休み

 僕の誕生日会も無事に終わり、割と平穏な日々が続いている。

 久しぶりにベルモント領の人とも会えて良かった。

 トーマスさんも来てたし。

 あと、何故かローズも。


 聞いた話だと、普通にベルモント邸の警備の仕事に就いたらしい。

 一度目は僕の護衛の募集に来て落とされていたが、その後も諦めずに3回も試験を受けに来たとか。

 でもって、スレイズベルモント家で僕の護衛として働きたいと、お父様とおじいさまに申し出ていた。


 まあ、同じベルモント家なので、異動願いといえばそれまでだけど。

 それを横で聞いていたトーマスさんが、物凄く驚いた顔をしていた。

 そして、悲しそうだった。

 ……春は、まだまだ遠いみたいだね。


 あっ、ちなみにローズはトーマスさんより強いよ?

 知ってた?

 あっ、そう。


 そのローズ。

 採用試験と称したおじいさまのお遊びに挑んで、頭から煙を出していた。

 下から切り上げて、何故か頭に攻撃される謎のあれだ。

 

 ただ、素早く反応して剣を上段に構えたのは流石だ。

 その剣ごとへし折られて、脳天にきつい一撃をお見舞いされていたが。


 自前の剣だったらしく、手入れはしっかりとしていたようだが大分無理をしていたのだろう。

 原因は金属疲労と……おじいさまだ。


 だからおじいさまも申し訳ないと思ったのか倉庫から剣を一振り持ってきて、目を覚ましたローズにそれを契約金として渡していた。

 最初は意味をはっきりと理解出来ていなかったようだが、徐々に契約金代わりという意味に思い至り両手を天に突き上げるローズ。

 元気だ。


 そして6月が始まる。

 6月は色々と忙しい。

 7月の頭から夏休みが始まって、9月末までが休みだ。

 この学校の1年は4月から6月が前期日程、7月から9月が夏休み、そして10月から12月が後期日程となり、1月から3月までが冬休み。

 3ヶ月スパンで長期休みが来る。

 理由は夏は暑くて授業にならない。

 そして冬は寒くて授業にならないかららしい。

 

 分かり易くていい。

 その夏休みを迎えるにあたって行われるのが、前期試験。

 6月の10日から4日間かけて行われる。

 試験内容は筆記試験と、実技試験の2項目。

 それぞれ2日ずつだ。


 実技の方は初日が運動能力テスト、二日目が戦闘技能指導員相手の模擬戦による戦闘能力テストだ。

 勿論、将来魔法職を目指すものは、水球を飛ばすだけの魔法が使える指輪が貸し出される。

 といっても威力は馬鹿にならない。

 木剣で子供が叩くのと、同程度の威力は出るらしい。

 媒体は本人の魔力なので、撃てる球数は人によって違う。

 

 高価な物なのに、数もそれなりに用意されているらしい。

 まあ、魔道具だしね。


「坊っちゃん、学校はどうですか?」

「マルコ様だ」

「はい……マルコ様、学校はどうですか?」


 登校中の護衛が2人に増えた。

 ローズはまだ見習いという立場なので、ファーマさんの補佐という形で研修中。

 いずれは、1人で任せて貰えるように頑張っているところ。

 

 早く1人前になってもらいたい。

 そしたら、自由に行動出来る時間が増えるのに。


「うーん、普通かな? 友達もそれなりに増えたし」

「そうですか、それは良かったです! この間の誕生日会は凄い人達ばっかりでしたね! 王子様まで来られるなんて」

「殿下」

「……殿下まで来られるなんて」


 ちょっとした言葉遣いを注意されるローズ。

 まあ、しょうがないよね。

 田舎出身の女の子だし。


「ははは、良いよローズはそのままで」

「マルコ様! 恥を掻くのは貴方ですよ?」

「恥を掻く事を恐れて詰まらない会話をするよりも、楽しくお喋りして時に恥を掻いて笑う方が楽しくない?」

「はあ……まあ、私しか居ない時は良いですが、くれぐれもエリザベート様の前では気を付けるように」

「エリザベート様?」

「おばあさま、エリーゼおばあさまの名前ね」

「自分の仕える主の奥方様の名前くらい、知っておけよ……」


 流石にファーマさんも心底呆れた様子だった。


「いや、エリーゼ様だとばかり」

「まあ、長いから愛称で呼ばれることを本人も望んでいるけど、他国の人も参加するような公式な場では間違ってもエリーゼ様なんて言うなよ?」

「……はい」

「安心しろ、そんな場にお前が呼ばれることはまずないから」

「はいっ!」


 いや、そこ喜ばなくても。

 そうこうしているうちに、学校に着いた。


「では、また後程お迎えにあがります」

「うん、2人ともありがとう」

「お勉強、頑張ってくださいね!」

「任せてよ」


 教室に入ると、いつもよりは幾分か静かだ。

 生徒の多くが、始業前から教科書を読んだりノートを纏めたりしている。

 主に、入試で50位以下になった生徒たちだが。


「でさ、取りあえずお父様に王子も来ることを伝えたら、顔を青くしちゃってさ……」

「うちの親なら、おおはしゃぎするところだけどね」

「ふーん、あっ! マルコおはよう!」

「おはよう、皆」

「おはようございます、マルコ君」

「おはよう」

「おはよう、マルコ」


 まあ僕の机の周りの子達は、あまり関係ないみたいだけど。

 何やら話に花を咲かせていた。

 そして珍しく、エマとソフィアが先に登校していた。


「なんの話?」

「ん? 今度の夏休みにラーハット領に行く話」


 僕の問いかけに、机に腰かけていたエマが応える。

 貴族のとか以前に、女の子が机に腰かけるってどうなんだ?

 ソフィアが注意しないところを見ると、言っても無駄なんだろうけど。


「ああ、結局皆行くんだ」

「うん、ヘンリーに頼み込まれてさ」


 ジョシュアが笑いながら答えてくる。


「流石に、ベントレーと殿下の2人を僕1人で相手出来ないし」

「私達もご一緒して良かったんですか?」

「勿論だよ! 人は多いに越したことはないし」


 はは、どうせソフィアはついでだろう?

 本当は、エマが目的の癖に。

 そう思いながら、机に鞄を置くと中身を引き出しの中にしまう。


「というか、皆試験の準備しなくても良いの?」

「どうせ、授業で習ったことしか出ないんだから問題無いわよ」

 

 即答で返って来たエマの言葉に、周囲の机にしがみ付いている子達から歯ぎしりが聞こえた。

 まあ、エマはかなり頭良いからね。

 ソフィアとヘンリーは言わずもがなだし。

 ジョシュアも2列目の末席とはいえ、全体で見たらかなり優秀だ。


「そんな事より、マルコも勿論来てくれるよね?」

「えっ? ああ、うん」

「やっぱり? でさ、ラーハットに行く途中にベルモントの領地通るから、マルコの家も寄ってみたいんだけど?」

「……なんで?」


 僕の返事に対して、エマからそんな言葉が飛び出してくる。

 いや、別に来るのはやぶさかではないけれど。


「駄目ですか?」

 

 何故かソフィアも、何かを訴えるような視線を投げかけてくる。

 うん……


「テトラに会いたいの?」

「うん」


 そうだよね。

 別に僕の家に来たいんじゃなくて、テトラの居る僕の家に来たいだけだよね?

 分かってるね、この子達。

 僕の弟は、本当に天使のように可愛いからね。

 そうなっちゃうのも、無理はない。

 

 だから、返事は……


「勿論! テトラといっぱい遊んでくれるかな?」

「良いのですか?」

「やったー!」

「僕も良いだろ?」

「勿論だよ、ジョシュア!」

「じゃあ、僕も皆がベルモント領に着く日に迎えに行って合流しても良い?」


 お前はテトラじゃなくて、エマだろう。

 だから、答えは……


「いやそれは手間だし、往復は流石に大変だからしっかりと家で療養して万全を期した方が良いんじゃない? 途中で熱とか出されても気を使うしさ」

「えぇ……僕、そんなに身体弱く無いよ? それに男の子が多い方が良いんじゃない? 君にとっても」


 なに?


「アシュリーが聞いたら……」

「分かったよ」


 小声でそんな事を言ってくるヘンリー。

 ときおり、この優しくも気弱な友達は僕にだけ裏の一面を見せてくる。

 そう言えば、アシュリーの事も話してたんだった。

 若気の至りという程の年齢でもないけど、何回かアシュリーの事自慢した記憶もあるし。


――――――


 筆記の方は、かなり上出来だったと思う。

 ベルモントの威光が想像よりも上だったこともあり、向こうの僕も今回はそんなに目立つなとも言ってこなかったし。

 無駄に目立つなとは言われたけど。

 間違っても1位だけは目指すなとも……


 本気でやっても1位が取れるとは思って無いけどね。

 嘘です……

 本当はディーンを打ち負かしてやりたいと、思ったりしたけど。

  

 でも問題を見る限り首列の子達は満点取りそうな問題だったし、エマも満点を取るだろうから取りあえず全部答えておいた。


 実技の方は、ほどほどに。

 こう言っては失礼だけどそれしか取柄の無さそうなクリスの必死な姿を見ると、あっさりとその上を行くのはなんとなく申し訳の無い気がしたし。


 でもね……


「さてと……じゃあどこからでもどうぞ?」

「なんで、そんなに本気なんですか?」


 先ほどまでは自然体で生徒達を捌いていた、指導員の1人のエド先生が構えている。

 いや、構えとか取って無かったよね?


 そして、周囲に人だかりも。

 30代前半の戦闘指導員主任のエド先生。

 どこぞの実戦剣術道場の師範代の資格を持っているとか。


 冒険者でいけばB級からA級クラスの実力の持ち主だ。

 褐色の肌に、短く切りそろえられた髪。

 濃い顔のいかついけどカッコイイ、いかにもな先生だ。

 女子からも割と人気がある。


 その先生が、嬉しそうな表情でこちらを見ている。


「ベルモントの力を見せて貰おうか」


 これは手を抜いているのがばれたら、手痛い一撃を貰いそうだ。

 そう思ったので、少しだけ気合を入れる。

 こんな事なら、筆記で手を抜くべきだったかな?

 いや、いざとなったらチャド学園長にお願いして、成績を少し下方修正してもらうとか……

 無理か……

 ギャラリーが多すぎる。


 諦めよう。

 もうどうあっても目立つしかない状況だし。


 覚悟を決める。

 あっちの僕からも仕方ないなといった雰囲気が伝わってくるし。

 と思いたい。


「行きます」

「おっ!」


 ただし、おじいさまやお父様との訓練と違って身体強化も、強化も無し。

 純粋に9歳児の力で挑む。


「くっ、中々にこれは」


 素早い連撃で、エド先生の手を止めることに集中する。

 相手の防御に乱れが出来たら、取りあえず軽くどこかに一撃。


「流石に早い……けど、足元がってえ?」

「あっ……」


 攻撃の瞬間に足を止めるという動作を数回繰り返したら、普通に足を狙って来たので攻撃を避けつつエド先生の股間に蹴りを放った。

 

「うっ」

「うそ……でしょ?」


 股間を押さえて蹲る先生。

 まさか、こんな見え見えの誘いに手を出して来た上に、最も守るべき急所の守りが甘いとか。

 小柄で非力な人が体格に勝る相手を倒そうと思ったら、力が無くても致命打になりうる場所を狙うのは当たり前だし。

 そこの防御の警戒をおろそかにするとか、嘗めすぎ。

 戦場だったら、真っ先に死ぬタイプだ。


「ベ……ベルモントは、体術も使うのか?」


 ピョンピョン跳ねながら、恨めしそうにこちらを見てくるエド先生。


「いえ……地元の冒険者に習いました」

「そ……そうか……油断した」


 いや、実戦を想定しての模擬戦で油断しちゃ駄目でしょ?

 まあ、大人が9歳の子を相手にするんだから、どこか心に緩みが出るのはわかるけどさ。

 いくらなんでも、これは酷い。


「うわぁ……」

「あれは、酷い」

「痛そう……」

「見てるだけで、ヒュッってなるわ」


 周囲の子達からもそんな感想が漏れている。

 うん、僕のせいじゃないよ?

 油断した先生が悪いんだからね?


 結局前期試験の結果は6位だった。

 エマが5位。

 ディーンの1位とヘンリーの2位は変わらず。

 ソフィアは4位に順位を落としていた。

 ここまで試験以外ではあまり目立って無かったヘミング伯爵家の5男の、フィフスが3位に順位を上げていた。

 地味な子ながら、割とコツコツ頑張っていたらしい。

 エマが5位になって首列入りしてしまった事で、ヘンリーが少し凹んでいた。

 今までは振り返ればエマが居たけど、結構席が離れちゃったからね。


 というか筆記で満点が取れて無かった。

 引っ掛け問題に、見事に引っ掛かるという情けない失点。

 ソフィアとエマも同じ問題に引っ掛かったらしく、ちょっとその話題で盛り上がったりした。

 

 ヘンリーがちょっと寂しそうだった。

 

 でも、もっと最悪なのは僕の方なんだけどね。

 隣が……


「ふう、皆頑張ったんだな」

「セリシオが頑張らなさすぎだよ! というか、王子が7位ってどうなの?」


 まさかのセリシオ。

 てか、普通こういうのって王子って常に1位という堂々たる成績で、周りから流石殿下とかってチヤホヤされるもんじゃないの?

 「当然だ」とか言っちゃったりして、成績なんて気にしてませんよ的な。


 流石に2列目は無いよ。

 成績をもっと気にしなよ。

 

 ディーンも、冷ややかな視線を送ってるよ?

 あっ、でもちょっと楽しそうにも見えるかも。


 クリス?

 うんかなり体力面で頑張ったお陰か、順位を3つ伸ばして11位……

 最悪だよ。

 背中から突き刺すような視線を感じる。


「クリスも、宜しくね」

「ああ、これからは後ろで殿下に無礼が無いか見張らせてもらおう」

「うわぁ……」


 でも、側仕えが3列目ってのはもう少し気にした方が良いよ。

 ちなみに総合順位は、1位から4位までは貴族科が独占していた。

 他の学科を入れた場合、エマが6位、僕が9位だった……


 うん、自惚れてた。

 これ、本気出しても1位取れるか不安だし。


 というか、ディーンってどうなってるんだろ?

 体力試験とかも、割と優秀だったのが分かった。


 そういえば、ディーンの父親のエクトさんっておじいさまに師事してたんだっけ。

 ああ……じゃあ、身体も鍛えられてそうだ。


 教室の最後列の2番目までの子達は、やりきった表情を浮かべている。

 残りの2人の表情は……悲壮なものだった。

 どうやら、今回も50位以内に入れなかったらしい。


「夏休み……部屋で軟禁確定」

「俺も……」


 二人の間からはそんなやり取りが聞こえてきたが、聞こえなかったフリをする。

 教室内の生徒全員が。


 ご愁傷様。


 そして、来週から夏休み!

 取りあえず、実家に帰ったらあのデカい地竜を狩ったハベレストの森に行ってみようかな。

 冒険者ギルドにも顔出さないと!


 お土産もいっぱい買って帰ろう!

 アシュリーにも、王都で人気のある雑貨屋の小物でも買ってあげようかな?


 で、それ持ってアシュリーに謝りに行こう……

 結局手紙は、書けなかった。

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