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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第41話:普通の1日

「そろそろ、速度をあげてもよいころかのう」

「えっ? まだ速くなるの?」

 

 おじいさまの剣速がさらに速くなる。


「流石に力加減が難しいからのう、当たらないでおくれよ」

「ええ……」


 そんな危険な事はやめてもらいたい。

 蜂による行動予測も、こちらが反応出来なければ意味が無い。

 いや、まだ辛うじて反応出来る。

 

 出来るだけ。

 速度が上がったことで、重さも増している。

 一撃で腕が痺れるくらいに。


 カラン……


 2発目で剣が手から落ちる。


「あっ」

「えっ?」


 バカン!


 ……

 ここは?


 気が付いたら、何故かソファに寝かされていた。

 何があったんだっけ?


 記憶が無い。

 最後に見たのは、迫りくる木の板……頭が痛い。


「おや、気が付きましたね」


 ふと横に目を向けると、おばあさまが心配そうにこちらを見ていた。


「何が?」

「ふふ……安心していいよ。あの人には、しっかりと言い聞かせておいたから」


 おばあさまの後ろには、床におじいさまが寝かされていた。

 おでこから煙を出しながら。


「あの、マルコ様の怪我はもう大丈夫そうなので、そろそろスレイズ様を……」

「ああ、放っておきな。あと1時間もすれば起きるだろうから、自分で頼んできたら治しておやり」


 治療魔法が使えるメイドが心配そうに声を掛けてきたが、おばあさまは笑顔でそれを押しとどめる。

 笑っているはずなのに、室温が3度くらい下がった気がした。


「ほらっ、ご飯を食べたら学校ですよ」

「えっ、あ、うん。あのおじいさまは?」

「疲れて寝てるだけだから起きたら食べるでしょう。先にいただきましょう」

「……はい」


 有無を言わさぬ雰囲気だった。


――――――

「ファーマさんは、なんでうちに?」

「もともと傭兵としてこの地に来たのですが、予定していた雇い主が急に病死しましてね……恥ずかしい話ここに来るまでに路銀も大分使ってしまったのと、この地の産まれじゃないので仕事もありませんでしたので冒険者登録をしようとしたところ、スレイズ様に見つかって」

「見つかって?」


 見つけられてとか、目に付いてとかじゃないのか?

 その時点で、すでに少しファーマさんに申し訳ない気持ちになる。


「曲刀使いが珍しかったのか、剣や出自についてあれこれ聞かれてるうちに館に招かれて、手合わせしてもらい……この状態です」

「手合わせから後が大分省略されたね。まあ、想像が付かなくもないけどさ」


 おじいさまのお眼鏡に適ったのだろう。

 それが幸か不幸は別として。


「今ではとても感謝しております。部族内でも最強で、外の世界に飛び出したものの、強者と出会う事が少なくて天狗になってたところもありましたし」

「そうなの? てか、ファーマさんってやっぱり強かったんだ」

「ええ、強いと言って良いのですかね……館では下から数えた方が早いですし」

「ああ、警備の人の中では?」

「……いえ、全ての家人の中でです」


 はっ?

 全てってことは、メイドさんや執事、庭師とか料理人も居るんだけど?

 それら全部を含めて下から数えた方が早いの?


「まだ、入って日も浅いですし」

「そういう問題?」


 あまり家の人から不満を買わないようにしとこう。

 家では、良い子にしないと……

 うっかりメイドの人に叩かれただけで怪我をしかねない。


「庭師のゲンドウさんは、剪定鋏でなんでも斬ると言いますし……料理人のベラートさんの包丁に斬れないものはないとか」

「それは植物と、食材の話だよね?」

「ふふ……着きましたよ」


 ファーマさんとの話が変な方向に盛り上がってきたと思ったら、学校に着いたらしい。

 一度こっそりと、家の人達の能力を図っておいた方が良い気がする。

 まともじゃない事は分かった。

 ベルモントが……

 まともじゃないと思われる理由の片鱗も垣間見た。


――――――

「おはよう!」

「おはようマルコ!」

「おはようマルコ」


 教室に入ると、すでに来ている生徒がチラホラ。

 ヘンリーとジョシュアは既に登校して、楽し気に……いや、ジョシュアが笑ってはいるがどこか疲れを感じさせる。


「おはようヘンリー、ジョシュア! ジョシュア、なんか疲れてる?」

「ははは、分かる? いやあ、週末は家族で過ごしたんだけどさ……」

「あんまり楽しく無かった?」

「ああ、お父様は僕の学校生活より、殿下やマルコの事が気になるらしいよ」


 なるほど……

 ドルア伯爵は相変わらずの様子。

 どうして、子供はこんなにまともに育ったのやら。 

 いや、あまり親が興味を持たずに放置した結果かも?


 殿下と僕と同い年という事で、そういった方面での話はいっぱい言い含められただろうけど。

 

「そっか……僕なんて、どこにでもいる普通の子なんだけどね」

「マルコが普通だと、世界の普通の基準がおかしくなりそうだね」

「酷い!」

「はは、だから次の週末は、一緒にどこかに出かけようかって話してたとこ」

「ああ、なるほど」

「土曜日は、皆楽しんだみたいで、羨ましいよ……ほんと」


 そう言ってため息を吐くジョシュアに、親が野心家だと子供も大変だと同情しつつ鞄からお菓子を取り出して渡す。


「えっ?」

「いや、ヘンリー達と行ったお菓子屋で、買っておいたんだ。今回、ジョシュアが来られなかったから、せめてお菓子だけでもと思って」

「良いの?」

「勿論」


 この世界に包装紙というものは存在しないので、木の箱に入れられたクッキーだ。


「箱も綺麗だね」

「ほんと、お菓子の値段なんだか箱の値段なんだかって感じ。箱は要らないから、中身を倍にしてくれって言いかけたよ」

「ははは、でも有難う。嬉しいよ」

「いつの間に買ってたの?」


 ヘンリーはエマばっかり、目で追いかけてたからね。

 まったく。


「おはよう! あっ、それって」

「おはようございます」

「おはようエマ、ソフィア」

「おはよう」

「おはよう」


 そこにエマとソフィアが入って来る。

 そして、僕がジョシュアに渡した箱に目が釘付けだ。

 確かにこれは目立つな。

 今度領地に帰ったら、こういった食べ物を入れる箱や籠、包み紙の開発に手を出してもいいかも。


「うん、こないだ参加出来なかったからマルコがお土産にって」

「なんだ、ジョシュアにだったのか。良かったねソフィア」

「なんで、私に……でも、てっきり女性の方にあげるのかと」

「はは、僕にはそんな相手い……あっ」

「居るのですか?」


 最近私生活が楽しすぎて、アシュリーの事が抜け落ちていた。

 手紙……流石に書かないと。

 そうだ、お菓子も一緒に贈ろう。


「いや、領地に居た仲の良かった幼馴染に、手紙書くって言ってまだ書いて無かった」

「幼馴染……ですか」

「許嫁じゃないみたいよ?」

「なんで、そこで許嫁が出てくるの?」


 ちょいちょいエマとソフィアの会話が理解出来ない。

 訳はない。

 これはあれか?


 もしかしてソフィアが僕に気があって、それをエマに相談している……とかって事は無いか。

 別に照れて顔が赤くなったりとかもしてないし。


 いや、あまり自惚れるもんじゃない

 これで違ったら恥ずかしいし。

 

 しかもソフィアにしてもアシュリーにしてもまだ8歳。

 色恋には早すぎる。

 こちらの勘違い以前に、あちらの勘違いもありえるからね。


「「「「おはようございます!」」」」

「おはよう」


 全員がガタッと席を立って挨拶する。

 その相手は、この国の王子殿下であるセリシオだ。

 横にはクリスと、ディーンが付いている。

 今日もディーンは捕まったらしい。


 ていうかいつもより早い。


「マルコ! 今日はいつもより早く迎えにいったのに、また置いていったな」

「おはよう、だから来るなら事前に人を寄越しなよ」

「ぬう……驚かせてやろうと思ったのに」

「もう、例えどんなに早朝に来ても驚かないよ……とうとう来たかとしか思わないし」

「マルコ! 殿下に失礼「クリス、五月蠅いぞ」

「はいっ……」


 クリスが僕のぞんざいな態度に怒っているが、セリシオに黙らされる。

 取り敢えずセリシオにそこまで、気を遣う必要が無い事だけは分かってたし。

 純粋に対等に付き合える友達を欲しているっぽいし。

 でも、かといって先陣切ってその立場になるのは……

 他の貴族からどう思われるか、心配だったし。


 ただ、思ったよりベルモントという家名の力がデカかった。

 ベルモントと揉め事を起こしたくないのか、貴族の子達は僕と揉めると家で物凄く怒られることがこの間分かったし。


「へえ、そのクッキーマルコから?」

「うん、こないだ買い物に出かける約束してたけど、僕だけ家の都合で行けなかったから」

「ふうん……」

「はは、ディーンにも買ってあるから」


 そう言って、ディーンにも同じ箱を渡す。


「あんた……同郷の幼馴染への手紙は忘れるのに、変な所にマメよね?」

「あはは」


 エマに突っ込まれたが、しょうがない。

 毎日バタバタしてたし。


「俺のは?」

「えっ?」

「俺の……」


 ディーンに手渡した箱を見て、セリシオがこちらを何か期待した目でじっと見つめてくる。


「いや、どうせ街のお菓子屋で買ったクッキーなんて、食べないでしょ?」

「食べる。食べるぞ! 普通に食う」

「そうなんだ」

「そうなんだじゃなくて、俺のは無いのか?」

「なんで?」


 空気が固まるのが分かる。

 いや、流石にそれは失礼過ぎるだろうと周りの空気が言っている。


「くっ、ディーン、ズルいぞ! 俺に寄越せ」

「やですよ」


 ディーンから木箱を取ろうとして、あっさりと躱されている。

 

「では、私が「いや、クリスは手を出すな。お前、本気だろ?」

「えっ?」

「たかがクッキーで、貴族の子を害したとか王族の恥でしかないだろう」

「はいっ……」


 ああ、なんだかんだでクリスが一番可哀想かな。

 今度、クリスにも手土産を買っておこう。


 決してこいつなら、殿下に強請られたらすぐに渡すだろうとか。

 こいつに良い顔しつつ、殿下の不満を少し和らげようとかって思ってない。

 ましてや付き人2人に手土産を渡して、セリシオが悔しがるのを楽しむためではない。


「おは……よう……ございます」

「え? 殿下? 早くね」


 そしていつもの時間に入って来た子達が、すでにセリシオが登校していることに焦っている。

 そうなんだよ。

 気まぐれで早く来ちゃ駄目なんだよ。


「おはよう。あっ、おはようございます殿下。今日は早いんですね」

「おはようベントレー」

「おはよう」


 一皮むけたベントレーは流石に平常心だった。

 うん……

 もうこいつはこれで良いや。

 ちょっと変な風になっちゃったけど、今じゃ仲直りして友達だしね。


「そうだ、ヘンリーちょっと良いか?」

「なに?」

「いや、お前の領地に魚を食べに行くという話なんだけど、具体的に詰めたいと思ってさ……他にも誰か誘うのか?」

「えっ? なんか随分と乗り気だね。うーん、マルコも来て貰っても良いかな?」

「なになに、ラーハット領に行く話? 私も行きたい」

「エマ……」

「ソフィアも行きたくない?」

「ジョシュアは?」

「まあ、マルコが行くなら、うちの父も許可してくれるだろうね」


 ベントレーが自然に話の輪に入って来る。

 そして、少し輪から押し出されるセリシオ。


「……俺も行くぞ」

「「「「はっ?」」」」

「ラーハット領……俺も行く!」

「「「「えっ?」」」」

「殿下?」

「黙れディーン。俺も行く!」

「……」


 突然、年相応に我儘になった殿下にほっこりしたのは僕だけだろう。

 他の皆は唖然としてた。

 そして、ヘンリーは顔を青くしていた。


 なんかヘンリーばっかり貧乏くじ引いてる気がする。

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