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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第36話:獣人

 今日はヘンリーとエマ、ソフィアと一緒に街に出ている。

 休日の土曜日であったので、昼前に集合して昼食を取ってからまた買い物。

 そして、午後にお菓子とお茶をしてから解散予定。


 これってダブルデート……なのかな?

 まあ8歳児同士じゃ、そんな感覚にはならないか。


 保護者も付いて来てるし。

 

 ジョシュアは両親と一緒に予定が入っているらしく、参加していない。

 なので護衛兼保護者は、ファーマさんとエマのところのアリーさんだ。

 アリーさんは女性らしく、元々冒険者だったらしい。


 たまたま、外でエマの乗った馬車が魔物に襲われているのを助けに入った事で知り合ったとか。

 ちなみにその魔物を倒したのはアリーさんじゃなくて、トリスタの護衛の人達があっさりと討伐したらしい。


 魔物はグレイベアが2頭。

 冒険者でいけばC級5人パーティであれば、倒せる程度の強さらしい。

 まあ個体差もあるので、討伐レベルの最低がC級5人となるらしい。

 流石にグレイベアの子熊とかなら、E級ソロでもどうにかなるらしい。


 グレイベアの叫び声が聞こえてアリーさんが駆けつけた瞬間には、馬に乗った騎士の人がランスで2頭目の頭を吹き飛ばしていたところだったらしい。

 その騎士の人に、アリーさんは一目ぼれ。

 どうにかして、トリスタ家に仕えたいと必死で売り込んだらしい。


 そこは女の子のエマ。

 アリーさんの表情や、視線の先を見てすぐに「ははー」と得心がいったらしい。

 彼女を全力で支援するために彼女のお付きの護衛として、件の騎士に訓練と教育を全て任せたらしい。


 ……が、そこは騎士らしい騎士と言う事で、公私の混同はなく進展は見られず。

 その後もあれこれと画策はしているらしいけど、部下以上になるのは難しいらしくあの手この手で篭絡をしているところらしい。


 うん……

 ぶっちゃけ、面白いおもちゃが手に入ったとしか思ってないよね?

 まあ不純な動機とはいえ、こんな明確な動機があれば裏切りやスパイの可能性は殆ど無いだろうし。

 ある意味、安全な護衛だね。


 主は公私混同しまくっているから、個人的にはアリーとはかなり仲が良いらしい。


 年齢は21歳とまだ若いのに、貴族勤めになったということで周りの冒険者達からは結構な僻みと激励を受けながら送り出されたらしい。


 鉄の軽装だが、動きを見るとトーマスさん程度には出来るかな?

 たぶん、うちの()に剣を当てるのは無理だろうけど。


 お相手の騎士さんはメイルさんという、年齢は38歳。

 割と年が離れているが、確かにそれだけ離れていればメイルさんからすれば妹や娘みたいな感覚だろう。

 恋人への昇格は、難しいと思う。


「ファーマさんは、スレイズ様の剣を受けられているのですか?」

「ええ、うちの者たちは、基本的にスレイズ様の本気の剣を1撃防ぐことが、見習いからの卒業試験になりますから」


 後ろで2人が会話をしているが、その内容にエマが溜息を吐く。


「本当にベルモントは……護衛対象の本気の一撃を防ぐのが護衛の条件って、おかしいでしょ?」


 エマが僕に耳打ちしてくるが、いやいやおじいさまより強い人を警備に集めるなんて無理だから。

 1人だけでも、どれだけお金を積まないといけないんだ。


「ベルモントに仕えて4年になりますが、いまだにスレイズ様の攻撃を防ぐことは出来ません。2発くらいまでなら耐えられるようになったのですが、スレイズ様の連撃は数が増えるごとに早くなりますので」

「うわあ……ちなみにその一撃ってどのくらい早いの?」

「そうですね……」


 そう言ってファーマさんが、アリーさんのおでこに指を突き立てる。


「えっ?」

 

 触れられて初めて気付いたアリーさんが、おでこをさするのを見てニコリと微笑むファーマさん。


「この倍くらいです」

「……」


 あっ、アリーさんが絶句した。

 まあ、確かにあの程度の速度に反応出来なければ、おじいさまがいつ攻撃したかも分からないうちに、地面に倒れることになるだろうね。


「ちょっと、ファーマさん。女性に失礼だよ」

「ははっ、すいません。どうも口で説明出来るような速度では無かったので」

「い……いえ」


 顔を青くしたアリーさんが、苦笑いをしている。

 ファーマさん異国の出身だしな。

 女性に対する扱いも、国によって違うのかもしれない。

 

 ちょっと浅黒いオリエンタルな雰囲気のファーマさんは、基本的には見た目も内面もとっても優しいんだけどね。

 だから、そんなに怯えなくても良いんだよ。


「ちなみにですが……最近ではマルコ様は5分くらい、スレイズ様と打ち合っておられます。時折反撃もされてますので、流石はスレイズ様のお孫様と家人一同感心しております」

「……あの速度で5分も? うちのお嬢と同じ歳だよね……ベルモントに護衛って要るのかな?」

「ああ、今日はヘンリー様とソフィア様の護衛ですね。一応マルコ様の護衛ですが、最近はマルコ様にもめ事が起きないように事前に対応するように動いてます。マルコ様のお相手をされる方の事を考えると……なので、特に気を張ってます」

「いや、僕を全力で守ろうよ!」


 なに、僕を守る体で相手を守ってますみたいな言い方してるのさ。

 アリーさんも、エマもドン引きだよ。

 ソフィアとヘンリーがキラキラと憧れるような視線を送ってくれてるのだけが、救いだ。


「やっぱり、ベルモントって化け物ね」

「ちょっ、エマ酷い!」


 そんな風に和気藹々と呼べるか分からない雰囲気で、昼食の予約をしたレストランに行く。

 エマ一押しの春風亭。

 最近流行の東方の料理を作っているお店だ。


 中で鍋を振るっているのが、思いっきり西洋人風の男性だったのでちょっと違和感を感じたけど。


 オーガニックやら、エスニックやらといった感じの料理だろうか。

 見た目を裏切らない味に、満足。

 どこか懐かしい味付けは色々と思う処もあったけど、純粋に嬉しかった。


 ちなみに総合普通科に通う子の家らしい。

 今度学校であったら、お礼を言おう。

 美味しい料理を食べさせてもらったって。


 こういうところから、優秀な人材との顔つなぎは始まるのだ。


「急に声を掛けるのはやめてあげてね?」

「なんでだよ!」


 エマに失礼な事を言われたが、料理が美味しかったのでまあいいや。


 それから露店街に買い物に出かける。

 王国の下層の一角に大きな広場があり、そこにテントがたくさん張られている。

 どうも、バザーのような感じらしい。


 1週間から1ヶ月迄で場所を借りられるらしく、行商の方とかもここで割と荷物を捌く事が多いとか。

 また一部、当日スペースというものもあり、ここはちょっと割高だけど1日単位で借りられるらしい。


「おっ、お坊ちゃん可愛い子連れてますね。どうですか? プレゼントにあっしの作った銀細工でも」

「まあ、あまり見たことの無いデザインですね」

「うん、可愛い」

「西の方の砂漠の部族が、作ってるんですよ。結構、珍しい品なんで、じっくり見てってください」


 さっとくソフィアとアリーさんが食いついていた。

 エマはちょっと首を傾げている。

 あまり興味無いのかな?


 というかさ、アリーさん……

 あんた護衛でしょ?


 ソフィアとも仲が良いのか、一緒になってこれじゃない、あれが良いとお気に入りのものを探している。

 ちなみに言っておくと、実家の経済力は女性陣の方が上だから。

 だから、おじさん……彼女たちを出汁にして、僕たち相手に商売しないように。

 そう思っていたら、ヘンリーがエマの方をチラチラと見ている。


 うん……それは無謀だと思うぞ。

 流石に、興味の無い物を貰っても喜ばないんじゃないかな?



「その、エマは見なくて良いの?」

「ああ、私は普段そういうの身に付けないから……それに、パーティに付けていくにはちょっと貧相だし」

「そっか……」

「そうか……」


 ヘンリーだけじゃなくて、おじさんまで凹んでる。

 っていうか声デカいから。


「私は不思議な魅力を感じます」

「私もですよ、お嬢! これはちょっとエキゾチックな魅力がありますね」

「何それ?」


 エキゾチックの意味が分からないのか、エマが首を傾げている。


「いや、まあこういうのって形に意味があるんだよ。魔除けとか、紹運とかって意味が込められているから、アクセサリーとお守りの両方の効果が期待出来るんだよ? ね、おじさん?」

「えっ? あっ、いや確かにそう言った意味があるのはあるけど」


 なんで折角助け船を出したのに、歯切れが悪いんだよ。


「じゃあ、これにはどんな意味が込められてるの」

「えっと、なんだったっけな? き……金運とか?」

「胡散臭い」


 なんで売ってる本人が知らないのさ。

 これじゃ、まるで僕が知ったかぶりをして、おじさんが一生懸命合わせてくれてるみたいじゃないか。

 おじさんに恨みがましい視線を向けると、パッと顔を背けられた。


「ふふ、これは西のアーガン砂漠の手前のオアシスに住む部族、メ族のものですね。この模様は火の神を象ってまして、破邪の効果があるとされてますよ」

「そうそう、そうだった! そうだった! 良く知ってるね兄さん」

「ええ、私も西から来たので」


 思わぬ方向から助け船が出された。

 というか助け船を出した側だったのに。

 なんか、僕が助けられたみたいに。

 あれか?

 二次災害か?

 巻き込まれて恥かいただけじゃん。


 僕の言う事が合ってたのに、なんか微妙な気分だ。


「へえ、ファーマさんって西から来たんだ。確かに、珍しい肌の色をしてるもんね」

「ええ、西の砂漠にはたくさんの部族が居ますが、メ族は砂漠の門番と呼ばれていて砂漠と平原の境に近い場所に住んでるので、割と有名なんです。その銀細工も、人気の観光資源の1つだったりするんですよね」

「ふーん、じゃあこれは?」

「これは、天星を象ってます。まあ、天で最も光り輝く星という事で、持ち主の才能を開花させてくれると信じられてますね。あとは、位置が変わらない事から不動の星とも呼ばれ、そのお守りを握る事で不屈の精神を借りられるとも」

「まあ、じゃあ恋愛に効きそうなものとかないの?」

「それでしたら……」


 そう言って僕の護衛そっちのけで、エマに銀細工の説明を始めるファーマさん。

 さらに、そのファーマさんとエマに対して耳をダンボのように大きくして話を聞いているアリーとヘンリー。

 うんうん、君たちに必要なものかもしれないけどさ。

 取りあえずアリーさんは、もう少し周りに気を配ろうか?


 じゃないと……


 ドンッ!

 

「わっ」


 1人の少女がアリーさんにぶつかってそのまま走り去っていってしまった。

 うん、居るんだね……テンプレお約束なスリを働く、いかにも裏路地のスラムに住んでる孤児っぽい子。

 すっぽりと覆うタイプのローブに身を包み、フラフラとこちらに近づいてきたかと思うと、一気に速度を上げてアリーさんの腰の巾着を狙って体当たりをしてきた。

 アリーさんもマントで隠してあったのに、よく気付いたなと感心した。

 そして、そのまま走り去っていったけど。


「さ……財布!」

「えっ? スリ? 私のお小遣い!」


 って、エマのお小遣いを預かっていたのかよ。

 自分の腰をさすって、巾着が無くなっていることに気付いたアリーさんが、顔を真っ青にしていた。


「財布なら、ここだよ?」


 子供が左手でアリーさんのマントを捲って、右手に持ったナイフで巾着の紐を切って落としていた。

 その財布を、彼が左手でキャッチするよりも先に、僕が取ったんだけどね。


「またあのガキか……」


 目の前で、おじさんが溜息を吐く。

 どうやら、常習犯のようだ。


「有難うございます!」

「気をつけてね」

「本当にね!」


 アリーさんの大きな声にかき消されてしまったが。

 取り敢えず、アリーさんに気を抜き過ぎだと注意すると、エマもジトっとした目をアリーさんに向けている。


「それよりあの子は?」

「ああ、スラムを塒にしている孤児の1人さ。まあ、親に捨てられたか、親が死んだのかは知らないが不憫ではあるな……」


 やりきれないような表情を浮かべるおじさん。


「一応俺らも仕事の手伝いをさせたりしてるんだけど、奴らはちょっと訳アリで手伝いにも雇えないんだよ」

「訳あり?」

「ああ、尻尾付きだからさ」

「獣人なの?」

「そっ! だから人前に出るような仕事は手伝わせられないし、荷運びとかならやらせられるけど10にも満たない子供が持てるものなんて限られてるからね……人の孤児とも対立しているみたいだし」


 なるほど……

 獣人に対する差別というのは、ここにはあるらしい。


「獣人……可愛いんだけどなー。なかなか、頭の古い連中からはね」

「あっ! おじさんもそう思う? 僕、会ったことないから、一度見てみたいと思ってたんだ」

「マルコ……」

「マルコは尻尾が好きなの?」

「いや、そういう訳じゃないけど……でも、ヘンリーに犬の耳とか生えてたら可愛いと思わない? ソフィアには兎かな?」

「失礼です! ……でも、犬耳のヘンリーさんですか」

「それ、友達じゃない人に言っちゃ駄目だよ?」


 ソフィアに怒鳴られてしまった。

 かなり失礼な事だったらしい。

 でも、犬耳のヘンリーを想像したのか、ちょっと頬が緩んでいる。


「兎の耳と尻尾があるソフィア……駄目だ、私なら一晩中抱きしめられる」

「ちょっ! エマ!」

「エマは……鰐とか?」

「耳無いし! というか、どういう意味よ!」


 エマには本気で怒鳴られた。


「白鳥?」

「それも耳無いし!」

「いやエマが翼があったら、天使みたいだなって……」

「なるほどね……だったら、虎の爪が欲しいわ! マルコを引っ搔けるように!」


 いや、引っ搔くだけなら猫の方じゃないかな?

 というか、ヘンリーがかなり頑張ったのになるほどねの一言で片づけられて、可哀想なんだけど。


 取り敢えずさっきの子には、蜂を付けてるから今度会いにいってみよう。

 獣人か……楽しみが増えた。



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