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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第35話:ワルコ後編

「マルコ君……パドラもこう言ってる訳だし、勘違いじゃないかな?」

「チャック」


 僕とパドラのやり取りを見ていたチャックが、不安そうに問いかけてくる。

 そんなチャックに縋るような視線を送るパドラ。

 あざとい。


 そして、背後では他の子達がコソコソと話をしている。


「チャックの生真面目で責任感の強い所は美徳でもあり、欠点でもあるな」

「パドラだったら、やりかねないと思うし」

「ねー!」

「それに、いまもチャックに庇ってもらって、1人良い気持ちになってると思う」

「ねー!」

「こういうところが油断ならないのよね……男爵家でもそこまで大きくないくせに、しれっと私達のグループに付きまとってるところも含めて」

「ねー!」


 最初の子は本当に8歳児だろうか……

 貴族の子供って……

 やっぱり、ベルモントの学校にすれば良かった。

 

 そしたら今頃、野原で友達と虫でも追いかけていたんじゃないだろうか……

 大体、このサロンってなんだよ!

 なんで、子供の教育機関にこんな場所があるんだよ!


 まあ、サロンの運営費は貴族の親達の寄付金で賄われているから、学校に迷惑を掛けてないかもしれないけどさ。

 要るか?

 こんなのがあるから、身分の垣根を超えた付き合いが出来ないんだよ。


 というか、サロンに通う子供達も変な方向に擦れてる気がするし。

 これは、この学校の害悪だな。


 1つ目標が出来た。

 サロンの全生徒への、解放だ。

 一般人の子供だろうが、参加出来るようにしないと。


 むしろ貴族の子供同士で付き合うよりも、普通の身分の子でありながらこの学校に通える優秀な子供達とお知り合いになりたいし。

 何故か、避けられてるけど。

 きっと、制服のせいだと思いたい。


「マルコ君?」


 余計な事を考えてたら、チャックに心配された。

 うんうん。

 この子はこのグループのリーダーでありながら、本当に良い子だ。


「黙ってると、怖いんだけど」


 違った。

 怯えられてた。

 酷くない?


「ああ、ごめんごめん。やっぱり、サロンって碌なもんじゃないなと思ってさ」


 この発言には周囲の子達だけじゃなく、ちょっと離れたグループの子や、使用人の人達からも冷たい視線を浴びせかけられた。

 関係無いけどね。


「やっぱり、貴族科のサロンで浮いてるんだ」

「とうとう、サロンのせいにし始めた」

「まあ、ベルモントだしね」


 最後の奴! 

 いい加減、ベルモントから離れろ。

 周りも、確かにみたいに頷くな!


「そういうところだよ……せっかく市井の子供達とも交流する機会があるっていうのに、サロンなんかがあるから貴族同士の顔つなぎにやっきになって、本当に優秀な子とお近づきになる機会を逃すんだろうなってね」

「なるほど……確かに、僕も周りの友人たちに誘われるから来てはいるけど、一般の子の中にも気になる子はいるし。なかなか、サロンに顔を出していると、知り合う機会が無いのは事実だね」


 おお!

 って、チャックじゃないのかよ!

 美徳だなんだと言っていた、ちょっと子供らしくない子からの発言だった。

 チャック以外にも、まともそうな子が居てホッとする。


「チェイサーもマルコ君の言う事が分かるんだ。言われてみれば、普通科の子達ってそれなりに光るものがあるからここに通えてるんだもんね。将来、実力で国を担うようになる子達とお近づきになるのも、悪くないか」


 チャックがチェイサーの言葉に同意を示す。

 

「大体さー君もクルリと敵対するんじゃなくて、仲良くなればディーンとの顔繋ぎもしてもらえたかもしれないのに」

「なんで、一般人にそんな事を頼まないといけないのよ!」

「パドラ?」


 ディーンの名前を出した瞬間に、パドラが感情的になる。

 そしてチャックが、パドラに疑惑の視線を向ける。


「君の家、結構危ないって知ってる?」

「なんの事?」

「ここ数年続いた干ばつのせいで、税収が殆ど上がって無いというか下がってるよね?」

「知らないわよ! うちは、とっても裕福な生活を送らせてもらっているし、経済力だってそれなり以上にあるはずよ!」


 知らないってのは、幸せな事というか罪な事というか。


「それは……君のお父様のクロウニ様が一生懸命、君に苦労を見せないように頑張ってるからね」

「そんな、根も葉もないことを」

「最後にベニス家主催のパーティが行われたのって、いつだっけ?」

「えっ?」


 そこまで言われて、ハッとした表情を浮かべるパドラ。


「他の貴族のパーティには顔を出してるみたいだけどね……」

「そ……それは。お父様は忙しいから、準備が出来ないのよ」

「そんなの家人に頼めば良いじゃん」

「五月蠅いわね! 大体欲しい服や宝石だって頼めば買ってもらえるし、毎日美味しい料理も食べさせてもらってるわ! それに小遣いで不自由したことだって無いんだから!」

「そうだね……でも、君のお父様自身が贅沢をしているのを見たことは?」

「……」


 一生懸命考えているようだが、思い当たる節が無いらしい。

 そりゃそうだろう。

 自分の服よりも娘の服。

 自分の物よりも、娘の物って頑張ってたみたいだからね。

 その結果これとは……報われないよね。


「やっぱり、ベニス家が困窮してるのって本当だったのね」

「確かに、パドラはたくさん衣装も小遣いも持ってるけど、着ているものってあんまりパッとしないというか」


 いい加減、後ろの子供達も面倒くさくなってきた。

 まあ、彼等に関しては親に言付けよう。

 あまり外に知られたくない情報を手土産にして。


「あー、君たちもあまり調子に乗らない事だね。ベルモントはともかく、僕自身もそこまで優しい方じゃないからさ……」

「何を偉そうに」

「たかが、同じ子爵家の子供じゃないか」

「調子に乗ってるのはどっちよ!」


 僕の言葉に、周囲の子達が噛み付いてくるが爽やかな笑みで受け流す。


「「「ひっ!」」」

 

 流石に泣くよ?

 ちょっと、帰ったら鏡で自分の笑顔を確認する必要が……


「2~3日後にも、同じような姿勢で居られたらいいね」

「「「……」」」


 いや、まだ何もしてないんだけど?

 笑顔を向けただけで、青い顔で俯かれると本当に凹むから。

 あれっ?

 一番ダメージ受けてるの僕じゃね?


 少し気になる……

 この国にもガラスはあるけど、そこまで透明度が高い訳じゃないからあんまり映らないんだよね。

 鏡もここには無いし。

 

 あっ、良い物があるじゃん!

 銀で出来たコップが目に入ったので、パドラ達に笑いかけるふりをしてそこに映った自分を見てみる。


 やっぱりお前らか!

 僕が笑うと、一瞬背後に牙を開いた土蜘蛛が見えた。

 たぶん、ラダマンティスも出て来たこともあったはずだ。

 かなり弱めに威圧のスキルを放っているのも分かったし。

 弱すぎて、はっきりと意識しないと気付かないレベル。

 

 確かに使いどころとしては間違って無いかもしれないけど。


 いくらなんでも、黙ってやるのは酷い。

 僕の天使のスマイルを疑ってしまったじゃないか!

 気付かないうちに、捕食者の微笑みになっていたらしい。


 けど、怯えられた理由が納得できたので、気にしない。


「というかさ……パドラも、皆も勘違いしてるけどさ」

「何を勘違いしてるっていうの?」

「クルリってさ、開拓民のリーダーの娘なんだよね」

「それが? ただの貧乏人でしょ?」

「その開拓民に、開墾の指示出したのってさ……シビリア王国なんだよね」

「だから? 何が言いたいの?」


 ここまで言っても分からないのか。

 本当に馬鹿なのだろうか?

 いや、想像力が貧困なんだろうね。


「つまりさ……彼女を含めこの開拓団って、陛下の所有物に当たるんだよね?」

「ただの貧乏人でしょ? それに何かあったからって、問題無いでしょ。代わりの人を補充すれば良いだけじゃない」

「そうだね……開墾作業で何かあったのなら、国がその家族に補助を出しつつも代わりの人員を手配するだろうね」

「所詮は替えが効く、自分の土地も持たない貧乏人だし。なにを当たり前のことを言ってるの」


 化けの皮が剥がれてるよ?

 チャックとチェイサーがちょっと、引いてるし。

 本人は気付いてないみたいだけど。


「いやいや、いくらその程度の価値しかないとしてもさ……自分の所有物が、たかだか子爵や男爵のしかも子供に害されたとなったら、陛下としても面白くないよね?」

「はあっ?」

「だからさ……君がやってる事ってさ、陛下の持ってる手袋をトイレに放り投げて、水を掛ける程度には無礼な事なんだよねー? しかも、この学園に入れるくらい優秀ともなれば、少しは思い入れのある手袋かもね」

「なんで手袋?」

「陛下の手足となって、新たな土地を切り開いている人達だからね」


 そこまで言って、ようやく周囲の子達が静かになる。


「いやあ、きっと優秀な陛下のことだから、自分の直轄の領民の中からこの学園に入った優秀な子くらいはチェックしてると思うよ? 将来王城務めになるかもしれないわけだしさ……」

「えっ?」

「面白くないよね? 自分の子供ともいえるような領民が、たかだか男爵家の子供に苛められるとかさ……しかも、殿下が同学年って知ってるよね? ってことは彼等は自分の子供と同い年だ……うーん、心優しい陛下のことだから、苛めた子供に罪は問わないだろうね」

「そ……そうですわ! 陛下なら子供のしたことと笑って許してくれますわ」

「あれっ? まるで、自分がやったみたいな感じになってるけど、大丈夫?」

「わ……私は、ペ……ペニーを心配しただけですから」


 滅茶苦茶焦ってるけど、大丈夫かな?

 いや、もうほぼ自白してるよね?

 チャックも、何やってんのお前みたいな視線になってるし。


「でも、その子を育てた親にとばっちりが行っちゃうかも? 子供のしでかしたことの責任は、親が取るべきだと思うんだ……」

「そ……そんな!」

「ディーンも割と気に入ってる感じだったしさ……殿下の耳に入ったら、陛下と違って直接的に当事者のところに来るかもね? だって……殿下も子供だから、子供同士じゃん?」

「ひっ!」


 ようやく、自分が何をしたかに思い至ったパドラがガタガタと震える。

 と同時に、集団以外の他の子の中にも何人か青い顔をしている子達が見えた。

 どうやら、パドラ以外にもクルリや他の一般生徒にちょっかいを出してた子が居たらしい。


「バレなければ良かったんだけどねー……僕、知っちゃったし」

「……」

「あとさ……たかが子爵の子供って言ってるけど、確かにそうなんだ。僕はただの子爵の子だよ?」

 

 ついでに、周囲にも視線を向ける。

 

「でもさ……僕の祖父が何故騎士侯になったか知らないわけじゃないよね?」


 一斉に顔を背ける他の子達。


「シーラント平原の決死の救出で誰を救い出したか、知ってるかな?」


 助け出したのは先代国王が可愛がっていた従弟、エインズワース公爵。

 300人の大隊を率いておきながら、その倍近い敵兵に囲まれたエインズワース。

 それを救った部隊は80人程度しか居ない一個中隊。

 

 それを率いていたというか、ほぼ1人で救出を行ったのがおじいさまだ。

 演劇にもなっているので、多くの国民が知っている。


「それとさ……おじいさまが誰に剣を教えているかも……ね? 知らない?」


 知って居るよね?

 現国王陛下と、王子殿下の剣の師匠だってことくらい。

 というか現役の騎士団長や、宰相にまで教えてるんだ。

 知らないはずがない。

 

 というのに、よくもまああれだけの事が言えたもんだ。

 まあ、他の貴族の評判が良く分かる。

 あまり知らない人からしたら、ポッと出のたまたま手柄を上げた子爵程度にしか思っていないんだろう。


 でも、剣を交えてみたら分かる。

 あれは……鬼だから。

 絶対に敵に回しっちゃ駄目な人だから。


 そもそもその交友関係からして、表だって敵対しちゃ駄目だって分かるよね?

 彼等の親もたぶん家で仲の良い友人との会話で、ちょっとおじいさまに僻みを言う事もあったのだろう。

 でも子供達は分からないからさ……

 親が馬鹿にするベルモントの孫なら大した事無いって勘違いしちゃったんだよね?


 でも……国王陛下の剣の師匠の家族を馬鹿にしちゃ、不味くない?

 仮に騎士侯じゃなくても。


「あの……」

「いやあ、君たちへの罰はもう決まってるから、謝らなくても良いよ……安心して? 僕個人の話で済ませるからさ。家の権威を持ち出したりなんてしないよ? そもそもたかが子爵家にそんな権威無いしさ」

「ひっ!」


 笑えよ!

 折角、渾身の自虐ネタをぶち込んだのに。


「まあ、次に陛下の大事な所有物であるクルリに何かする奴が出たら、僕が全力で叩き潰すから……陛下に忠誠を尽くす家臣としてさ? あっ、でも今度はディーンにも相談するかもね?」

「「「「「……」」」」」


 何故か、サロン中が静まり返ってしまった。

 そんなつもりじゃなかったのに。

 

 チャックはようやく全てが理解出来たのか、パドラを睨んでいるし。

 もう、知-らないっと。


 そうそう、僕を馬鹿にした他の貴族の家には、彼等が僕を馬鹿にしたことを手紙にして送っておいた。

 子供がこんな事を言うなんて、家で貴方達が我が家をどう言っているか良く分かりました。

 ベルモントを敵に回したいのですか? と一筆したためた。

 ついでに不正やら、ちょっとおかしなことをしている家にはその内容を追記して。


 次の日にいきなりその子達に呼び出しをくらって、泣きながら全力で謝られた。

 どうやら、僕に許してもらえるまで家に帰ってくるなと言われたらしい。

 許して貰えなければ縁を切るとも。


「僕は少しも気にしていないからさ……でも対価が無いと、心配だよね? そうだ! 普通科にクルリって子が居るからさ……彼女に害を成そうとする輩が現れたら全力で守ってあげてね? そしたら許してあげる」


 僕の言葉に、彼等は困惑の表情で仲間内を見回す。

 

「彼女に何かあったら、次は本気で潰すから……万が一、貴族科から彼女にちょっかい出すのが居たら、僕に教えてね。流石に彼等の相手は無理だろうし……任せて大丈夫?」


 笑顔でお願いすると、全力で頷いてくれた。

 うんうん、優しい子達で良かった。


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