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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第30話:やっかみ

 野営の授業を受けるようになってから、良く話すようになった女の子。

 クルリが最近、元気が無い。


 元々そこまで明るい感じでは無かったが、それでも徐々に打ち解けていった感じはあった。

 それが途中から段々とまた声が小さく、表情も暗くなってきた。

 話しかけても、困ったように笑うだけだ。


「最近、クルリの様子がおかしくない?」

「そうですね……私達と一緒の班ということで、総合上級科の貴族の生徒たちに大分嫌がらせをされているとか」

「知ってたの?」


 授業が終わったあと、教室でディーンに話してみたら事情を知っていた。

 隣の席に座って、足を組んでこっちを見つめてくる色男。

 ちなみにヘンリーはエマにほいほい着いて行って、サロンに向かった。

 男の友情とは、なんなのか。

 まあ、別にヘンリー達に聞かせるつもりは無かったけど。


 意外なのは、エマが割と簡単に引き下がった事くらいかな?

 何やら意味深な笑みを浮かべてはいたが。

 ソフィアの耳元で何かつぶやいて、顔を真っ赤にした彼女に叩かれていた。

 なんだったのだろう?

 まあ、いいや。

 今は、目の前の男だ。

 この子、既に事情を知ってた。


「そういう、マルコも知っていたみたいですね」

「まあ……ね」


 そういう僕も、蜂と蟻が調べて知っていたけど。

 割と陰湿みたいで廊下ですれ違う時に悪口を言われたり、物を隠されたりしているらしい。

 他にも制服を汚されたり、酷いものになると水を掛けられたこともあったとか。


 相談してくれたら、なんとかするのに。

 本人が相談してくれないことには、なんともしがたい。

 よっぽどなら、強制的に介入するけど。

 

 報告に来た蟻が、「主の大事な友人にあんなことするなんて! 私が指の1本でも噛み切りましょうか?」と言って来たが、丁重にお断りした。

 その次に報告に来た蜂が、「マスターの友人に対する無礼! 子供とはいえ許しがたい事です! 命令さえ頂ければ背中を刺して1ヶ月くらい仰向けに寝れなくしましょう」と言っていた。

 思わず、溜息が出た。

 配下の虫達が物騒で怖い。


 取りあえず、ディーンに対処方を相談しないと。

 前髪を指で摘んで、興味無さそうにしてるけど彼。

 友達が苛められているのに。


「それで、どうするの?」

「どうするとは?」


 僕の質問に対して、キョトンとした表情を浮かべるディーン。

 マジか……

 どうもしないつもりだったのだろうか?

 でもこのままだと、授業がやり辛いんだけど?


 暗いクルリと一緒に居ると、こっちまで気分が落ちてくるし。


「いや、友達が困ってるんだよ? 助けないの?」

「はっ? 誰が友達ですって?」


 僕の言葉に、心底不思議そうな感じで聞き返してくる。

 いや、この会話の流れからしたらクルリ以外いないでしょ?


「クルリですか? 彼女は平民ですよ? それも開拓民という比較的貧しい部類の」

「ディーン?」

「そんな子と私がお友達ですか? たかが授業で同じ班になっただけなのに?」


 こいつ!

 なんて奴だ!

 出会った当初は良い奴だと思っていたのに。

 とんだ選民思考の持ち主だった。

 授業中も楽しそうにクルリを弄っていた癖に。

 

 あっさりとクルリを見捨てやがった。

 ガッカリもしたが、それ以上に怒りも沸いてきた。


「ディーン! お前!」

「ふふふ……でも、まあマルコのお友達なら友達の友達ですね? じゃあ、友達になるかもしれませんね」

「はっ?」

「人の為に怒れるところも、貴方の良い所ですね……さてと、私も実はたまたま同じ授業で班が同じだっただけの仲とはいえ、知人が虐げられてるのは面白く無かったんですよ」


 そう言って悪戯っぽく笑うディーンを見て、溜息を吐く。

 どうやら、僕の怒った顔を見たかったのだろう。

 というか、最近ディーンに揶揄われてばかりのような気がする。

 ただこんな時に悪ふざけとは、本当に腹立たしい。


「痛い!」

「ふんっ! クルリの方がもっと辛い思いしてるんだ。そのくらいで喚かなくてもいいじゃん」

「えっ? 私が殴られる理由になってないですし……一応、侯爵家の子供なのですが?」

「ふーん……で?」

「はあ……確かに、悪ふざけが過ぎましたね、すいません。正直言うと、最近かなりイラついていたので。丁度その原因の話題を振って来た貴方で、少し気を晴らそうと思っただけですよ」

「その引き合いにクルリを出すのは、最低だと思うんだけど?」


 だからって、クルリをネタにして良い訳がない。

 現に被害者はクルリだけで、ディーンは勝手に怒ってるだけだしね。

 あれっ?

 それを言ったら僕もか。


 まあ、ディーンを殴れて少しスッキリしたけど。


「さて、それでは口さがない連中を黙らせに行きますか?」

「どの口がそれを言う! まあ、良いけどさ……僕らが彼女を庇ったら、余計に火に油を注ぐ感じじゃない?」


 ディーンは正攻法で、総合上級科に殴り込みに行く気らしい。

 いやいや意外と真っすぐで良いけど、上手くやらないと余計にクルリが酷い目に合うと思うんだけど?


「ふふふ、その火を完全に消してしまえば油を注いでも燃え上がる事はないでしょ?」

「何をする気なの? ちょっと、怖いんだけど」

「あなたの、おじいさまほどでは無いですよ」


 段々とディーンの相手をするのが疲れて来た。

 

「冗談ですよ! しっかりと準備をしてからにしましょう」

「その準備ってのも、なんか不穏なんだけど」

「誰の身内に手を出したか、徹底的に分からせてあげましょう。首謀者はもう、分かってますし」

「凄いね! っていうか、滅茶苦茶調べてんじゃん!」


 すでに、色々と動いていた。

 さっきの会話の流れはなんだったのかというくらいに。


 少しだけディーンが分かって来た気がする。

 こいつ、軽薄なんだ。


 よくよく考えたら、殿下やクリスにも平気で辛辣な言葉を投げかけているし。

 その発言が、人をどんな気持ちにさせるかをよく考えていな……いや、一周回って分かってて言ってる気がしなくもない。


 逆に相手の反応を楽しんでいるような。

 楽しい事を優先するタイプだな。


 最初は純粋にクルリを心配していたのだろうが、今はそのクルリに手を出した連中にどんなお仕置きをするか考えるのが楽しみになっているように見える。


 クルリを助けるという目的が、クルリに手を出した連中を苛めてやろうに変わっている気がする。

 基本良い奴なんだろうけどね。


「いやあ正直に言うと照れちゃうので、つい照れ隠しで。ほらっ、私って良い人ですし」

「自分で言ったら、全部台無しだよ!」


 こういうところだ!

 きっと、僕の考えを読み取っての発言なのだろうけど。

 そういうことを口にするせいで、信用が全くおけない。

 

 取りあえず明後日は学校が休みなので、明日にでも……という訳にはいかず、週を開けてから対応することになった。

 

「こっちも色々と用意をしますので、マルコも考えておいてくださいね? どうやって追い込むかを……勿論、マルコも相手が誰かは分かってるんですよね?」

「ああ、まあね。女の子相手だから、お手柔らかにね」

「甘いですね! 女の子だからですよ! 男の子より、よっぽど面倒ですからね?」


 はい……分かりました。

 

 次の日は普通に授業を受けて終わった。

 ディーンが時々、黒い笑みを浮かべてノートに何かを書き込んでいたのが気になる。

 オセロ村産のノート……

 この開発の苦労を思い出すと、長くなるので今度ゆっくり振り返ろう。


――――――

「よく来たな」

「出迎えの挨拶がよく来たなって、なんか悪役っぽいよ?」

「そうか? 普通だろう? まあ、入ってくれたまえ」

 

 そして、次の日は休みだったので友達の家に来ている。

 ベントレーだ。


 彼の家に来た目的は2つ。


「それで……例の空間にはすぐに行けるのか?」

「うん、別にそんなに大した事じゃ無いし」

「いや……転移に、異空間って魔法に携わるものが聞いたら、大騒ぎするレベルだと思うが」


 彼は親元から離れているので、彼の家で何をしても特に問題にはならないだろうこと。

 そして、僕も祖父母には今日はベントレーの家に泊まるという事は言ってある。 

 すなわち、一日自由に行動が出来るのだ。


 彼の家を拠点にして、明日は一日森で訓練と素材集めだ。

 今夜は、彼と一緒に管理者の空間で特訓をする予定だ。

 

 これは彼が望んだことで、僕に剣を習いたいらしい。

 それと、土蜘蛛にも会いたいらしい。

 意外と背中のフサフサした毛が気に入ったみたいだ。


 夜は早めに布団に入る。

 少し仮眠を取ってから、深夜家人たちが寝静まったあとに管理者の空間で特訓をすることにした。


 布団に入ってから4時間くらいして、もう1人の僕が起こしてくれる。

 家からダニを連れて来ていたので、僕もベントレーもグッスリ眠れた。

 4時間だけど、2人ともかなり元気だ、

 ベントレーがやる気に満ち溢れている。


「さて……じゃあ、まずは素振りからかな?」

「素振り? それは毎朝やってるが……もっと、実践的な訓練は駄目か?」

「基本だからね……それに実戦的な素振りからだよ?」


 そう言って蜂を3匹程呼ぶ。


「彼等は君の3M以内を飛び回るから、この木剣で叩く事が出来れば素振りは終了だよ」

「えっ? いや、この子達ってマルコが飼ってるんじゃないの? 木剣で叩いたりしたら、死ぬぞ?」

「大丈夫! 本気で体の軸を捉えない限りダメージはまず入らないし、仮に軸に本気で叩き込んでも、木剣が折れるだけだから」

「えっ?」


 僕の説明に、蜂達が真ん中の手を腰に当てて胸をのけぞらせてホバリングする。

 まるで、威張ってるみたいだ。

 まあ、君達の努力の結果じゃ無くて、僕の合成の力のお陰という事を忘れていないかな?


 なになに?

 ああ、僕が彼等を強化したことを誇ってたのか……

 私達のマスターは至高です?

 やめてよ!

 照れるじゃん。


 蜂とそんなやり取りをしてニヤニヤと笑みを浮かべていたら、ベントレーに心配された。

 一応、配下の虫達とは喋れることを説明して、納得してもらえたから良かったけど。


「これ……絶対当たらないよね?」


 素早く飛び舞わる蜂に、ベントレーは結局かすらせることすら出来なかった。

 ああ、ちょっと相手が悪かったかな?

 素振りを切り上げて、次の訓練に行こうと思ったけどすでに地べたにへたりこんでいる。

 

「取りあえず、当てられるまで頑張る」


 意外と根性ある。

 しばらく休憩して、また蜂に向かって行くベントレーを少し見直した。


「無理だーーーー」

 

 3回繰り返したら、心が折れてたけど。

 頑張れ。


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