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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第28話:選択科目

 入学して1ヶ月が過ぎた。

 これまで座学メインだったが、ようやく実技の授業が入って来る。


 体育や戦闘技能などの授業の他、希望選択で乗馬や。マーチング、音楽にサバイバルや農業などなど様々なジャンルの授業が選べる。


 それらの授業は学年ごとに、同じコマに入っていて他クラスとの合同授業となる。

 とはいえ乗馬やマーチングなどを選ぶのは貴族が多く、野営や農業などは農家出身者が多いのである意味では学年内の身分別の親交の場となっている。


 中には空気を読まずに、全然畑違いの授業を取るものも居るが。

 自由だからね。


 ということで、僕は野営の授業を選んだ。

 

 まず貴族が選ぶことないだろうと思ったのが1つ。

 あとは、一応冒険者もやってみたいのでそのためだ。


 このことはヘンリー達にも内緒にしていたので、きっと他に誰も居ないだろうと思っていた。

 思っていたのに……

 授業の行われる運動場奥の森にはすでに集まっている生徒達が、誰かを中心に少し距離を取って輪になっていた。

 

 その中心に居る目立つ子は、こっちを見ると嬉しそうに手を振って来る。

 ディーンだ。


「やあ、奇遇ですね。マルコもこの授業ですか?」

「そうだよ……」


 にこやかに、こちらに手を振っている。

 思わずちょっと、戸惑ってしまった。


「なんで居るの?」

「それは、お互い様……じゃないですか? まあ、私は魔法畑なので騎士団みたいに隊列を組んで行動すること無いですし、乗馬も当然出来ますから」

「じゃあ農業とか、美術や音楽もあったよ?」

「一応、調理の授業と悩んだのですがね……」

 

 そっちに行けば良かったのに、とは言えなかった。

 他のメンバー達が遠巻きに見ているのが分かる。


 調理の授業か……そっちのが、似合いそうな気がしないでも無いけど。


「ほらっ、森とかで殿下と一緒にはぐれた時に、こういった事が出来る人間が居た方が良いですよね?」

「えっ?」

「まあ、まずないでしょうけど……万が一の時のためですよ」


 そうか、セリシオと森でなんかあったら、まずクリスは役に立たないだろうし。

 殿下に調理や火起こしをさせるわけにも、いかないと。


 なるほど。

 やっぱり、ディーンはしっかりしているね。


「ただ、制服が目立ってしまって……誰も話しかけてくれませんし、かといって貴族科の生徒がここに来るとは思わなかったから助かったよ。キミは違うみたいですけどね」


 そう言ってクックとイヤらしい笑みを浮かべる。

 はあ……残念。

 

 まあ、良いか。

 友達が居れば、また違った楽しみもあるだろうしね。


「はい、授業を始めるぞ!」


 そう言って手を叩いて近付いてきたのは、中年の髭面の男性教諭だ。

 少しダボ付いたパンツと、ポケットのたくさんついたベージュのベスト。

 帽子までかぶって、いかにもな教師だ。


「今年は、貴族科から2人も参加者が居るからな! 張り切っちゃうぞ」


 僕とディーンをチラッと見た後で、元気いっぱいに腕を回している。


「わしが野営担当のゲイズだ! お前らにはこれから、森で遭難しても一生暮らしていけるだけの知識を教えてやるからな! 楽しみにしてろよ!」

「「「「ハイッ!」」」」


 先生のハツラツさに引っ張られて、生徒たちも元気いっぱいの返事で返す。

 嬉しそうに頷くゲイズ先生。


 なんとなく、ワクワクしてくる。

 といっても、実際に森に籠るわけではなくロープの結び方や、薪の組み方から、火の起こし方。

 他にも、簡易の雨を凌げる場所の確保の仕方や、川の探し方。

 さらには食べられる野草や、鳥や小動物の取り方から捌きかたまで学べる。

 天候の読み方、方角の確認方法などなど……

 本当に森に放り込まれても、生きていけるように知識を得る事が出来るのだ。


 素晴らしい!

 

「えっと全員で18人か……3人一組に分かれてもらおうか。」


 ゲイズ先生に言われて、班作りを行う。


 チラッ。

 バッ!


 全力で皆から目をそらされる。

 やっぱりな。

 でも、そんなに嫌がることないよね?

 ちょっと、傷付いちゃったんだけど。


「貴族科どころか、貴族様は居ないからな? 普通に商家の子や地方の優秀な子達の集まりだからな! この機会に仲良くなっといた方が良いんじゃないのか?」


 そんな僕の様子を知ってか知らずか、ゲイズ先生が余計な後押しをしてくれる。

 いや、それ以上に不興を買うのが怖いんじゃないかな?


 そして、ポンと肩に置かれる手。


「諦めましょう」


 そんなディーンの言葉に、ガックリと肩を落とす。


「取りあえず私達が別々に組むと可哀想なグループが二組になってしまうので、一緒に組みましょうか」

「それって、物凄く可哀想な子が1人出来るってことだよ?」

「おや、自覚はあったのですね?」


 まあ、逆の立場ならね。

 普通の総合上級とかの貴族ならともかく、一般の生徒からは貴族科というのはアンタッチャブルな存在だ。


 上手く取り入る事が出来れば、その後はかなり楽だが。

 ただ、気に入られたと思っていても、たった1回の失態で一気に学校に居られなくなるほど追い込まれることもある。

 

 触らぬ神に祟りなしというやつだ。


「待ってれば、運命の人が現れますよ」

「いや、それって生贄って言うんだよ? 知ってた?」


 それからしばらくし様子を眺める。

 すぐに僕たちの運命の人は見つかった。


 小柄な女の子があたふたとしている。

 すでに数組は友達同士で固まっていて、他の人に声を掛けようとしつつためらっている。

 その間も、どんどん組みが出来上がっている。


「ふふ、おいでおいで」


 ディーンが邪悪な笑みを浮かべているが、本当にこの子大丈夫かな?

 いや、本当は良い奴なんだとは思うんだけど。


「うう……誰か……」


 あーあ、泣き出しそうになってるし。

 というか、誰かも何もここにまだ2人でしか組めてない人が居るんだけど?

 泣きそうになるほど嫌かい?


 むしろこれって、正面切って貴方は嫌ですって言われるより辛い……

 流石に腹をくくって、ポイントを稼いどいた方が良いと思うよ。


「おっ? えっと君はクルリだったっけ? 良かったな、貴族組以外はもうグループ出来たみたいだから、貴族様とご一緒だ」

「ひっ!」


 ひって……

 ひって言ったよこの子!

 流石に悲しくなってきた。


 この悲しみを共感してもらおうとディーンに視線を向ければ、彼は笑いを堪えるのに一生懸命だった。


「いやあ、嫌われてるねー」

「いや、怖がられてるんだよ!」

「ひゃあっ! いえ、そのような事はありませんので……どうか、家族だけは! 家族だけは!」

「怖く無いよー? 家族に何かする訳ありませんよ……」


 家族だけはって。

 貴族科の評判はどうなってるんだよ。

 ディーン、顔!

 顔が怖いから。


 青い髪の背の低い女の子。

 ちょっとオドオドしてて、庇護欲をそそられる感じだ。

 頬っぺたがちょっとぷっくりしてて可愛い。


 なんていうか、小動物的な可愛さだが。

 取りあえず、女の子を後ろに庇う。


「ディーンふざけ過ぎだから。これ以上やると、たぶん過呼吸起こしちゃう」

「そうですか? まあ、私達も何もしてないのに嫌われちゃったみたいですので、このくらい良いでしょ?」

「ひーん」


 あっ、泣きだした。


「なんだ、泣くほど嬉しかったのか? 良かったなクルリ」


 ゲイズ先生が、人の気持ちが分からないポンコツだという事が分かったところで、取りあえず全力でクルリをなだめすかして、落ち着かせることが出来た。


 折角楽しみにしてた授業なのに。

 前途多難だ……


「ちなみに、うちは侯爵家なんですよ?」

「ひっく、知ってます……」

「彼はベルモントなんです」

「うわーん」


 何故泣く。

 ベルモントか?

 ベルモントが怖いのか?

 というか、ディーン?


「痛い! 痛いよマルコ! 頭が! 頭が割れるから! 謝る! 許してー」


 すぐにクルリに意地悪をするディーンの頭を両手の拳でグリグリしてやる。


「ほらっ! クルリもがら空きのお腹に一発!」

「出来ませんよーーーー」

「おお、意外と仲良しじゃないか! 受け入れて貰って良かったなクルリ」

「は……はい」


 ゲイズ先生を睨むと、照れるな照れるなといって頭を撫でられた。

 違う!

 

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