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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第24話:やっと訪れた平穏

 その後ベントレーを自宅に送り届け、部屋に戻って寝る。

 よりによって日曜日の夜とは……

  

 これが土曜日なら、ゆっくり出来たのに。

 早朝には起きておじいさまとの訓練。

 そして、それから学校。

 バラッドに対して、恨みがましい気持ちを抱きつつ横になる。

 布団に居るダニ達のお陰で、安眠……というか爆睡。


「マスター、朝ですよ」


 そしてダニのダニエルに起こされる。

 よほど疲れていたのだろう。

 眼を閉じたと思ったら、朝だった。

 

 勿体ない。


 割と夢を見る方なので、一切夢も見ず目を閉じて開けたら朝が来たというのは、あまり好きではない。

 寝た気が全くしないからだ。


 ぼやいてもしょうがない。

 朝が来たんだ。

 修行の時間が来たんだ。


 溜息をついて着替えてから1階に降りると、タライに水を張って顔を洗う。

 それから歯磨き。

 眠い……


「なんじゃ、眠そうじゃのう?」


 気が付いたら、隣でおじいさまも歯を磨いていた。


「本を読み始めたら、続きが気になってしまって」

「そうか? だったら、しっかりと目を覚まさせてやらんとな」


 勘弁してください。

 ただでさえ夜に身体を酷使したばっかりなのに、朝の訓練がマシマシとかなんの冗談だ。

 悪夢だ。


 もう1人の僕はマハトールっておもちゃが出来たから、これから何をするか考えるのに忙しいらしい。

 いや、悪魔なんだから滅ぼせば良いのに。

 割とお人好しに思える。

 

 まあ、それも僕なんだけどね。


「ぼやっとするな!」

「うわっ!」


 ボーっとしてたら、目の前に剣が迫って来てた。

 咄嗟に【強化(ブースト)】を使って後ろに飛び退く。

 魔力を身に纏って、身体の動きを補助させるスキルだ。

 薄い膜のように張られた魔力は、自分の意思に沿って操る事が出来る。

 若干の防御力の上昇効果もあり、放出系と違って魔力の消費も抑えられるので使い勝手が良い。


 カブトの使う【身体強化(フィジカルブースト)】は、筋肉内部にまで魔力を浸透させて力を大きく伸ばすスキルらしい。

 残念ながら、まだそこまではいっていない。


 魔力を変換放出させて、現象を起こし魔法を放つことは出来るようになった。

 だけど、魔力の緻密な操作はまだまだ出来ない。

 それも土蜘蛛先生に教えてもらっている最中だ。


「ほうっ……マルコはもう、強化が使えるのか? 学校で習ったのか?」

「いや……学校では習ってないけど」

「ふむ……まあよい。それなら」


 それなら?


「もう一段階上げても問題無いな?」

「えっ?」


 頭と脇腹に同時に激痛が走る。

 どうやら、叩かれたらしい。

 木剣で……

 僕、まだ8歳児なんだけど?


 訓練(虐待)が終わると、全身痣だらけだった。


「スキルを覚えて使いたいのは分かるが、基礎がなっとらんうちからそんなもんに頼ると、肝心の技が育たんぞ? ハッハッハ!」

「はい、分かりました」


 笑い事じゃない。

 打ち身になっていて、痛い。

 取りあえず、治療魔法の仕えるメイドに治してもらう。


「もう、旦那様は酷すぎます! こんなに可愛らしいお孫様を、木の棒で叩くなんて!」

「ははは……僕もそう思う」

「もし我慢出来なかったら言ってくださいね! すぐに奥様にお伝えしますので」

「うん」


 スレイズベルモント家の最強は、やはりおばあ様らしい。


――――――

「大丈夫ですか? 大分手酷くやられていたみたいですが」

「うん、ローラのお陰で、殆ど治ってるし」


 ファーマが心配そうに聞いてきたので、笑顔で応える。

 実際に痛みは殆ど無い。

 押さえると痛いけど。

 どんだけ、強く叩いたんだ。

 

 おじいさまの前で頑張るとその分張り切るから、今度から少し手を抜こう。

 そんな事を考えつつ歩いていたら、すぐに学校に着く。

 ボーっとしてた。

 眠いし。


「おはよう、ヘンリー、ジョシュア」

「おはよう、マルコ!」

「おはよう」


 教室に入ると、ヘンリーとジョシュアがすでに来ていた。

 ヘンリーにも友達が増えて一安心だ。

 それからちょっと遅れて、エマとソフィアが来る。


 今日は珍しくディーンが来ていない。

 いつも僕と同じくらいか、ちょっと早めに来るのに。


「おはようございます」

「おはよう、マルコ達」


 ソフィアが丁寧にお辞儀をしてくれる。

 そしてエマも、僕の隣の机に鞄をドンと置きながら声を掛けてくる。


 てか、マルコ達って……

 そこは、ヘンリーにしてあげようよ。


「おはよう、エマ、ソフィア」

「おはよう」

「おはよう!」


 ちょっと、ヘンリーが元気だ。

 いいねえ、青春だねえ……いや、早くない?

 まだ、皆8歳だし。


 それからブンドとアルトも登校してきて、2、3言会話して自分達の席に向かって行く。

 こうしてみると、僕も結構話せる友達増えたな。


 それから5人で他愛も無い話をする。

 エマがどこそこのお菓子が美味しいという話題を振れば、ジョシュアが補足をしてくれる。

 僕とヘンリーが、今度買ってみようかという計画を立てれば、彼等も便乗してくる。

 

 というか、エマはこないだ食べたばっかりだろう。


「じゃあ、私が案内してあげるよ! オススメも教えてあげるしさ」

「おっ、それは楽しみだね」

「ソフィアも来るよね?」

「えっ? 私もですか?」


 ソフィアはいつもニコニコと話を聞いているだけの事が多い。


「まあ、エマが来るんだったらソフィアも当然来るでしょ」

「まあ、エマだけだと色々と心配ですし」

「ああ! ソフィアったら酷いんだ! そんな事言うんなら、もう夜お手洗いに着いていってあげないんだから」

「もうっ! エマったら! その話は、私達だけの秘密でしょ」

「えへへ、ごめんごめん!」


 この2人は本当に仲が良い。

 面倒見が良いのはエマの方だけど、そのエマの面倒を甲斐甲斐しく見ているのがソフィアだ。

 精神年齢は間違いなくソフィアの方が上だな。


「それで、いつにする?」

「そうだね……明後日は午前中授業だし、その後とかは?」

「うちは大丈夫、ただ護衛の人はどうする? 全員連れて行ったら、結構威圧的じゃない?」

「うーん、じゃあ取り敢えずうちのファーマさんにお願いしよっか? 馬車も出してもらう?」

「いや、歩いて回りたいから馬車はいいわよ。ベルモントの護衛なら、腕も立ちそうだし私は賛成」

「ファーマさんは確かに強いけど、1人で5人全員は見られないと思うから、もう1人か2人は欲しいかな?」

「じゃあ、マーカスとルーカス連れていく? マルコ、知り合いなんだろ?」

「そうだねー」


 そんな会話をしていたら、扉が開く音がする。

 誰が来たのかなと、チラリと目をやればベントレーが立っていた。

 

 そしてこっちを見据えて、スタスタと歩いてくる。


「また、ベントレーの奴、マルコ達に絡むつもり?」

「エマ、聞こえるわよ」


 エマが軽くベントレーを睨みつつ小声で漏らしたのを、ソフィアが咎める。

 ジョシュアが、ヘンリーの前に出る。

 父親に似ず、良い子で良かった。


 だけど、たぶん問題無いんだよね。

 だって……


 ベントレーは僕たちの前に来ると、今まで教室で見せたことも無いような笑顔を僕に向ける。


「おはよう、マルコ!」

「おはよう、ベントレー」


 普通に挨拶をしにきたベントレーに、エマとジョシュアが怪訝そうな表情を浮かべている。

 それに引き換え、ヘンリーもソフィアも驚いた表情だ。


「まあ」

 

 と言って、ソフィアが笑顔になる。

 うん、ソフィアとヘンリーは純粋な子供で良かった。

 貴族の子って、どこかすれたところがあったりするから。


「何よ!」


 ぼやとエマを見ていたら、凄まれた。

 怖い。


「というか、どういう事?」

「何があったんだ?」


 エマとジョシュアが、慌てた様子で僕に詰め寄って来る。

 目の前に本人が居るんだらか、あっちに聞けば良いのに。


「えっと……」


 そのベントレーだが、ヘンリーの方に向かっている。

 ヘンリーがちょっと困ったような表情を浮かべる。


「その……ラーハットにも迷惑を掛けた。今まで、色々とすまなかった」


 そう言って、あのベントレーが頭を下げたのだ。 

 腰を直角に曲げて。


 僕は実害が無かったから、ヘンリーに対する態度に腹は立ったが根には持っていない。

 ただ、ヘンリーは食事に水を掛けられたりしたし、親まで馬鹿にされているから。

 簡単に許せるかな?


 難しいかも……


「なんだかよく分からないけど、悪い事したと思ってるんだよね?」

「ああ……お前達に嫉妬して、みっともない事をしてしまった。全て俺のせいだから、許してくれとは言えない。ただ、もうお前に突っかかるような真似はしないから……信用は出来ないかもしれんが」


 最後の方は、声が小さくなって消え入るようだった。

 彼も不安なのだろう。

 子供っぽくない謝罪の文章だけど。


「じゃあ、僕の事はもう良いよ。でも、うちの父を……魚を馬鹿にしたことは許せないかな?」

「そうだよな……簡単に許せる訳無いよな」


 ヘンリーにしては珍しく、人を睨んでいる。

 ただ目つきが鋭くないから、全然怖くない。

 ベントレーも怯んではいないが、ちょっと残念そうだ。


「だから……さ、今度うちに魚を食べにおいでよ! 二度と馬鹿になんてさせないから」

「えっ?」

「今度はお父様と魚に、心から謝らせてあげるよ」


 そう言ってケラケラと子供っぽく笑うヘンリーを見て、僕も何故だかホッとした。

 ノホホンとしていて、人を恨むような事が似合わない彼らしい答えだ。

 ベントレーもあっけに取られている。


「それって」

「そしたら水に流してあげる」

「うっ……有難うな……」

 

 あっ、泣きだした。

 なんだかんだいっても8歳児。

 謝るのにも勇気がいっただろうし、許して貰えるか不安だったんだろうね。

 良かった、良かった。


「どうして、急に謝る気になったの?」

「ふふふ……人は死んだら家柄なんて関係無いって事が分かったからかな?」


 どうやらベントレーは8歳にして、悟ってしまったらしい。

 それほどまでに怖い思いをしたのだろう。

 これで死んだら解脱間違い無しだ。

 良かったね!


 でも、この世界の神様は仏様じゃなくて、善神様と邪神様だから極楽浄土があるかは不明だけど。


「私は納得いかない! マルコ、貴方達に何があったのか言いなさい!」 


 エマが何故か僕に当たって来る。

 いや、いまベントレーが言ってたじゃん。


 死ぬほど怖い目にあって、色々とどうでも良くなったって。


「ベントレー!」

「ベントレー様!」


 そこにブンドとアルトが駆け寄ってくる。


「きゃっ!」

「あっ!」


 アルトがベントレーに駆け寄った際に、肩が思いっきりエマに当たっていた。

 が、本人は気付かずに「ベントレー様! ご立派です!」


 などと褒めている。


「良かった……どうやら、普通に戻ったみたいだな」

 

 ブンドもなんやかんやと、ベントレーの事を心配していたらしい。

 それから3人で、また前みたいに仲良く席に戻っていった。


 これで一件落着……とはいかないんだろうな。


 横に目をやると隣の机で腰を打っただろうエマが、腰をさすりながらアルトを睨んでいる。

 伯爵様より怖い、辺境伯様の大事な御令嬢が激おこだよ?


 逃げて!

 全力で逃げて!


 えっ?


 何故かエマが、僕をキッと睨み付けてくる。


「ちゃんと説明してくれるんだよね?」

「えーっと……」

「放課後、サロンで待ってるから」

「……僕、サロンとかって苦手だなあ……」

「待ってるから」

「はい……」


 どうやら、今日が僕のサロンデビューになりそうだ。

 あまり、良い始まりになりそうには無いけれども……


「「「「「おはようございます!」」」」」

「おはよう……あっ! マルコ!」


 うわっ、面倒くさいのが来た。

 

「おはようございます殿下」

「おはようございます」

「ああ、おはようエマ、ソフィア。それよりも、おいっ! マルコ! また、今日も俺を置いて行ったな?」

「殿下、連絡していないのに置いて行ったは無いでしょう」

「また、うちに寄ったの? あっ、ディーンおはよう! 今日はで……セリシオさんと一緒だったんだ」

「おはようございますマルコ、家を出ようと思ったら父上に引き留められましてね。殿下の馬車でご一緒しろと言われまして」


 ジトっとした目をセリシオに向けながら、ディーンが応える。

 側仕えは大変そうだ。


「おはよう、エマ、ソフィア、ヘンリー、ジョシュア!」

「「「「おはようございます」」」」


 もう1人の側仕えは、あえて僕を無視して挨拶してるし。

 まあ、良いけどね。


「なんだそのセリシオさんというのは! 殿下よりも他人行儀ではないか!」

「ええ? 名前で呼べって言ったのはセリシオさんじゃん!」

「そうだけど……それは酷いぞ!」


 平穏で騒がしい一日が始まった。

 殿下の勢いに眠気なんか、吹き飛んじゃった。

 




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