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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第23話:無理難題

「我は神であるぞ! 我にこのような無礼を働いてただで済むと思うなよ!」

「神ねえ……」


 見ようによっては、巨大百足と融合した邪悪な存在に見えなくはない。

 もう少しデカければ、ラスボスっぽい。

 某ゲームメーカーのラスボスは、何かに生えていることが多いし。

 咥えられているだけだけど。


「そうだ! この世界を創造せしめん2大神の一柱にして、闇を司る邪神マハトールである!」

「おお、怖い怖い」


 この世界には、善神様と邪神様の二人が居るとされている。

 その下にも色々な神様が居るという話だが、邪神様に聞いたら上位精霊が神として崇められているだけで、神とは一線を画する存在らしい。

 まあ、それで精霊が気を良くして人を助けて、人が豊かになるなら別に間違いを正すつもりはないとか。

 善神様は面白くなさそうだったが……


「お主、誰を相手にしておるのか分かっておるのか? 頭が高いぞ!」


 ダマシールがなにやら喚いている。

 こんな小物に騙されるとか、本当になんというか……


「邪神様! いまお助けします!」

「おお!」

「ぐはっ!」

「あっ……」


 オセが意を決して剣で大顎に斬りかかったが、回復を終えた蜂達のタックルを喰らい宙を舞う。

 さらにそこに向かって飛んでいく蜂達。

 空中で何度も打ち上げられ天井にぶつかると、そのまま地面に叩きつけられてピクピクと痙攣をしている。

 見事な空中コンボだ。


 マハトールが一瞬目を輝かせたが、その後の展開も一瞬だったためすぐに表情が曇る。

 

「お前は一体何者だ!」


 プルプルと震えながら聞いてくるダマシール。

 教えてあげるのはやぶさかではない。

 しかしなんと言ったものか。


 この世界の神候補で、邪神様と善神様の使いです。

 異世界から連れてこられました!


 胡散臭い。

 こんな言葉、誰が信じるというのだろうか……


 いや全員左手で吸収してしまえば、説明するまでもなく片がつく。

 それで良いのか?


 そもそも、洗脳による反省ってなんか違う。


 さらに言えば、マハトールが純粋に俺より弱いのかという部分も気になる。

 今まで相手にしてきたのは、人や虫ばかり。

 痛めつけて弱らせればそれも可能だろうが……ここは理性があるうちに多少はおちょくっておきたい。


 そもそも平気で人を傷つけ殺すような連中を配下に置きたいかと言われると、悩む。

 悩むが、洗脳してしまえば関係無い。


 全員それなりに権力を持っているみたいだし、利用するにしても心は痛まない。

 痛まないが、これだけの大所帯を配下に引き込むなら、もっとちゃんとした連中が良い。


 小物過ぎる。


「そうだな……信じるも信じないもお前ら次第だが、一応は神の使いかな?」

「やはり聖教会の回しものか!」


 この世界で神の使いを名乗るなら、どうあっても教会関係者と思うわな。

 

「いや、教会は関係ない。もっと直接的なものだ」

「神託を受けたと思っているのか? それこそお前が怪しい薬にでも手を染めているのではないぐあっ!」


 マハトールが口を挟んで来たので、大顎に目配せして顎に力を入れさせる。

 ちょっとぐったりした。

 首を噛まれてるから、全身がダランとなった感じだけど。

 大丈夫かな?

 生きてる?

 生きてる。

 なら良かった。

 ちょっと、溜飲が下がる。


「そ……その百足はお主の使い魔か?」

「使い魔? うーん、まあ頼れる仲間だよ」

「ぐおっ!」


 仲間と言われて大顎が喜んでいる。

 けど、顎に力を入れるのはやめたげて。

 喜びを噛みしめた拍子に、マハトールがさらに締め付けられているから。

 こらっ!

 くねくねしない!

 

 大顎の揺れる身体に合わせて、力を失ったマハトールの身体がブランブランと揺れている。


「というかだ……邪神教を名乗る癖に、邪神様の事なんにも知らないんだな」

「はっ? 何を言っているのだ?」


 俺の言葉に、あからさまにムッとした表情を浮かべているだろうダマシール。

 仮面越しでも丸わかりだ。

 両手を肩の高さで開いて、首を振るやれやれのポーズで小ばかにしてみる。

 蓑虫みたいな状態なのに、敵意を露わに睨み付けてくる。


 あっ、オセもついでにマキマキしておこう。

 ダマシールを無視して、オセに蜘蛛の糸を巻き付ける。


 それから全員を天井から吊るす。

 ついでにマハトールも、糸でぐるぐる巻きにしておく。

 何故かって?

 なんとなく、全員お揃いの方が見た目がスッキリするだろ?


「やめろ! 何をする!」


 マハトールが喚いているが、何をするもなにももうしおわったんだけどね。

 ハハハ。

 悪魔だから肌の色も真黒だし、角を折ったら本物の蓑虫になりそうだな。

 そうだ、折ろう。

 持って帰ったら、素材に使えそうだし。

 あっ、でも虫達に悪影響とか及ぼさないかな?

 まあ良いや。


「きさま」

「はいはい、怖い怖い」


 角を折られたマハトールが親の仇でも見るかのように、睨み付けてくる。

 蓑虫だ。

 まんま蓑虫に威嚇されている。

 不思議な光景だ。


 蜂達に気付けさせて、全員を目覚めさせる。


「なんだ、お前は!」

「こんなことして、ただで済むと思ってるのか!」

「わしを誰だと思っておる! ジェッター伯爵家当主、ボンジョーだぞ!」

「キマリス……」


 自己紹介しちゃったよ……

 コードネーム使うくらいだから、正体隠してるのかと思ったのに。


「なんで私だけ中途半端なのよ! あんっ……ちょっと、引っ張らないで! 食い込んでる」


 うーん……たまたま、糸がそんなに出なかっただけだから。

 他意は無いからね?


 取りあえず全員の仮面を外してみる。

 うん、良かった……

 若い娘は確かに若かった。

 20代前半くらいか?

 顔は……こんな集団なんてとてもじゃないが似合わないくらいに、可愛い。

 

 どんな悪い事をしてきたんだろうね……男絡みのイメージしか湧かないけど。


「ちょっ! なんで糸が減ってるの? あっ……んっ……」

「食い込んでるとか言うから、きついのかなと思って」


 それからおばさんと思った二人に目をやる。

 1人はおばあさんだった。

 本当に、良かった……


「私も糸が食い込んでキツイわあ……」

「黙れババア!」


 ちょっと小太りのけばいおばさんの口の周りに糸をぐるぐると巻き付ける。

 ウーウー言ってるが、聞こえない。


「なるほど……顔を見ても分からんな」


 バラッドは、校内で見た事があるような無いような。

 似たような顔の似たような歳の子なんて、ざらに居るしね。


「取りあえず、そいつ邪神でもなんでもないからな? ただの悪魔だから。てか、レッサーデーモンだから」

「「「「はっ!」」」」


 俺の言葉に、全員が目を丸くしている。

 馬鹿か……

 神様が蜘蛛の糸なんかにグルグル巻きにされて、角をへし折られるわけないだろ。


「てか、マジで弱すぎだろ? レッサー(小さい)ってだけのことはあるわ」

「騙されるな! そいつの言うことは嘘だ! 我がまだ万全でないだけで、依代を手に入れて力さえ取り戻せば「そんな日が来ると思うか?」


 角無しデーモンに顔を近づけて、睨み付ける。

 仮面の鼻がデーモンの額に当たった。

 ちょっと、距離感難しいな。


「ひっ」

「ひっ! って、神様がそんな声出すわけないだろう!」


 俺の言葉に、蓑虫たちがざわめき始める。


「というかだ……そもそも、邪神様に名前は無い! これ、豆な?」

「「「「「えっ?」」」」」

「ああ、分からないか……豆知識って意味だ」

「「「「「そっちじゃない!」」」」」


 マハトール含めてこの場の全員殺しても、世間的には問題無い。

 問題無いが、個人的に無抵抗な人間を殺すのもどうかと思う部分はある。

 それ以前に、人殺しとか出来ればしたくないし。

 こういう世界だからやむを得ない事もあるかもしれないが、そういう時以外は基本的に殺すつもりはない。


「さらに言うと、邪神様は善神様に敗れてもいなければ、弱ってもいない。万全です」

「なんで、そんな事が分かる」

「会った事あるからね! カーテン越しだけど」


 おいっ、そんな目で見るなお前たち。

 いかにも、嘘つきみたいな視線を送って来る面々にイラッとしたので、ちょっと糸をきつく縛る。


「くっ!」

「きつい」

「さっき食べたのが出てくる……」

「あんっ……はあ、はあ……」


 なんか若い子の息遣いが荒くなってきた。

 これ以上は宜しくない気がしたので、糸をしっかりと巻きなおす。


「えっ?」


 なんで、残念そうな表情を浮かべる。

 眼福ではあったが、マルコがこっちを覗いているみたいで、一部の虫達から警告も入って来た。

 子供に見せるようなものでは無いとの事。

 残念……


「あと、邪神様と善神様は仲が良い! そして、どちらかというと邪神様の方が常識的だ」

「……」

 

 そんな訳あるかといった表情だ。

 これが、世間一般のイメージか。

 お前らの崇拝する邪神様を褒めてるんだから、喜べ。


「じゃあ、お主は我らの仲間ということか?」

「あのさあ……司祭さん馬鹿なの? なんで偽物の神を信じて崇めて、肝心の本物の事を知らない連中と俺が仲間になるのさ」

「いや、邪神様を崇めているであろう?」

「崇めてはいない……かな? どちらかというと、信仰の対象というより上司って感じだし」


 そうだな……

 邪神教や、聖教会とかじゃない……部下だ。

 スーパーブラックっぽいけど。


 楽しんでるのも事実だから、何とも言えない。

 勤務予定は億年単位。

 まあ、それまでに退職届を出すつもりだけど。

 退職願いじゃないよ?

 確定だから……

 許して貰えるかな?


 まあ、最初は邪神様に相談だな……うん。


「どこまでも不遜な奴め! そのようにうそぶいておいたら、いつか天罰が下るぞ!」

「馬鹿だなあ? いま俺が神様の部下として、お前らに天罰を下してる途中なの! 天罰が下ってるのお前らの方な?」

「そんな戯言信じられるわけないだろう!」


 まあ、信じるも信じないも自由って言ったし。

 信じられないならそれでも良いけどさ。


「あんたらさあ? 生殺与奪の権限、いま俺が持ってるって分かってて発言してるの? ねえ?」

「な……何を!」

「俺がちょっと糸を思いっきり締めれば、簡単に細切れになるんだぜ? 口には気を付けた方が良いと思うんだけど」

「わ……私は、貴方を信じるわ! だから助けて!」

「そうだ! わしを助けてくれたら悪いようにはせん……だから、見逃してくれ」

「お……俺も怪しいと思ってたんだよ。邪神様が直接言葉を授けてくれるなんて」

「わ……我はレッサーデーモンだ! 邪神じゃない! だから助けてくれ!」


 マハトール……お前……


「あのさあ? マハトールはなんで助かると思ってるの? こいつらは人間だから悩んでるだけで、お前は殺すよ? そりゃもう躊躇なくプチッと! だって、よりにもよって邪神様を騙ったんだからさ?」

「ひいっ! 何故だ!」


 何故って……

 たったいま、理由を説明したばかりだろうに……


 典型的な小物だ。

 こんな奴に騙されて、軽率な行動をしたこいつらを可哀想とは思わないが。

 少し憐れだとは思う。

 思うだけで、許すつもりはないけど。

 

 領民を手に掛けるとか、言語同断だからな。

 ああ、そうだな……

 こいつら曲がりなりにも貴族なんだった。

 使い道はあったか。


 ダマシールとマハトールには、なんの利用価値も無いけど。


 取りあえず、全員管理者の空間に連行した。

 なんか、ベントレーがマルコと楽しそうに話をしていたので、ちょっと安心。

 ベントレーが土蜘蛛にべったりと引っ付いてるのは何故だろう。

 まあ、良いや。

 嫌われるよりは、マシか。


 悪逆の限りを尽くしてきた貴族連中は、領民を第一に考えた領地運営を命じておいた。

 当主連中には子供達の教育も徹底するようにと言い含めて。

 そして、彼等の子供達にその意識が根付いたら、とっとと引退しろよと言ってある。


 若い女は、男達に貢がせまくっていたらしい。

 そして、思い上がって面倒臭くなると、男同士をぶつけて潰し合わせていたとか。

 ついでに、目の前で殺し合いをさせたりもしていた。

 うん、真黒だ。

 どうしようもなく手に負えなくなると、腕の立つ家人に殺させたりと。

 相手が貴族だと、暗殺者まで雇ったり。

 それでいて、相手には指一本触れさせないとか……酷い、酷すぎる!


 いま、こうして艶っぽい目で俺を見ているのもきっと演技なのだろう。

 いや、配下にしているから、本物かもしれないが。

 地雷臭しかしない。


 この手の輩は、本当に好きになった相手は、何が何でも手に入れようとするだろうし。

 とことん尽くすようになるかもしれないが、同時に束縛や独占欲も激しい。

 さらに言えば、男にちやほやされていたらか、自意識もプライドも高い。

 まじものの地雷だ。


 触らぬ神に祟りなし。

 踏まぬ地雷に爆発無しだ。


 教会にぶち込んで修道女にしておいた。

 コイツ目当てに、お布施を持ってくる奴も居るだろうし。

 たぶん、役に立つはずだ。


 マハトールは……


「すいません! なんでもしますから、許してください!」


 と目に涙を浮かべていた。


「なんでも……ねえ」

「はい、私は貴方様の忠実な僕でございます」


 ちなみに、配下からは外してある。

 配下にしてしまえば、こいつは喜んで俺に殺される。

 それは面白くない。


 が、そうするまでもなく俺の靴の裏を嘗めそうな勢いで、縋って来る。

 ちなみにダマシールは、教会で聖者の模範となるよう過ごさせることにした。

 清貧に努めさせ、多くを救えと。

 

 それでもこいつらの罪が消えてなくなる事は無い。

 殺した人間の100倍の人を救い、1000倍の人を幸せにしたら配下として認めてやると言ったら、必ずや戻ってまいりますと、目に闘志を燃やして帰っていった。

 何それ……怖い状態だ。


 改めて、この能力の恐ろしさを垣間見た。


 問題はマハトールだ。

 正直言って要らない。


「悪魔だから見つけたら殺すなんて言われて怖かったんです」


 いや、まあお前ら悪い事しかしないからね?

 当然だろ。

 害虫と同じ扱いになるのは、仕方ないと思う。

 現に、アホどもを使ってかなり悪い事させてたし。


「じゃあ、聖属性を操れるようになったら助けてやろう……期限は100年な? 修行場所はこの空間の山の中だ」

「えっ? ……それは「なんでもやるって言ったよね?」

「はい……」

「頑張れよ? 見張りはいっぱい居るからな? それ以前にこの空間に居る限り俺からは逃げられんし、さらにいえば、この空間からも逃げられんからな? 頑張れよ?」

「はい……」


 虚ろな目をして、角の無い悪魔が山へと消えていったのを確認し、後ろでキョトンとしているベントレーとマルコに振り返る。


「終わったぞ」

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