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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第21話:一方そのころ

「マ……マルコ?」

「いらっしゃい」


 ベントレーを置いて、もう1人の僕はとっととあっちに戻っていった。

 1人放置された彼に、満面の笑みを携えて出迎える。

 そんな僕の全力の歓迎に対して、ベントレーが目の前でキョトンとしている。

 台座から身体だけ連れて来たので、縛られていない。

 周囲をせわしなくキョロキョロしている。


「ここは、どこだ!」

「うーんと、神の国?」


 なんて説明したものかと思い、少し考えたあとでこんな感じかなといった言葉で伝える。

 一瞬固まったあと、見る見るうちに顔が青ざめていく。

 そして、目に涙を浮かべたあとで口を真一文字に結ぶ。

 まるで、泣くのを堪えるかのように。

 そして自分の身体を抱きしめて、ガタガタと震え出す。

 せわしなく動く瞳が、彼の動揺を如実に伝えてくる。

 でも、それもすぐに収まる。

 僕を見た彼の目が、光を取り戻す。

 それから何度か頷くと、こちらに呆れたような寂しい笑みを送って来る。

 

「そうか……死んだんだな」

「えっ?」


 ベントレーが、俯いて呟く。

 思わず、こっちが慌ててしまう。


「いや、気にするな。何故かは分からんが、お前も死んだんだろ?」

「えっと……」

「ははは……確かにお前の事は気にくわなかったが、死んでしまえば家柄なんて関係ないもんな」


 そう言って、俺の肩を何度もパシパシと叩いてくる。


「本当は泣き叫びたいくらいに辛いけど……お前にみっともない姿を見られるのは、勘弁だからな。有難うな、お陰で取り乱さずにすんだよ」

「な……何を?」

「いや、1人だったらたぶん泣き喚いて、叫んで絶望していたと思う……でもさ、こんな場所だとたとえマルコでも知り合いが居るってのはホッとするな」


 何も言うなとばかりに慈愛に満ちた視線を送って来る。

 あの、従属化してないんだよね?

 

「いや「良いから、みなまで言うな。お前も寂しかったんだろ? だから、お前にとって嫌な奴でしか無かった俺でも、目の前に現れた事で嬉しかったんだよな?」

「だから!」

「死んだら何もかも終わりだ。取り繕っても仕方ないだろ?」


 誰この子?

 急に達観した感じになってて、怖いんだけど。

 っていうか、話を聞いて。


「どうぞ」


 百足の大顎が紅茶を2人分、運んできて来る。

 勿論、言葉は僕にしか聞こえない。


「う、うわっ!」


 いきなり銀のお盆に、高そうなティーセットを乗せて来た大顎に、ベントレーが思わず後ずさる。


「大丈夫だよ、良い人だから。有難う」


 僕がそう言って大顎から紅茶を受け取ると、ベントレーが唖然とした表情を浮かべる。

 そんなベントレーに向かって大顎が紅茶を勧めると、彼はおずおずと受け取る。


「有難うございます」


 カチコチになったベントレーが、紅茶を受け取る。

 ソーサの上でティーカップがカタカタと震えている。


「お前……やっぱ、すげーな」

「えっ?」

「こんな化け物みたいな百足が居るってことは、ここは天国じゃ無さそうだもんな」


 彼は全てを悟った目で、紅茶に映った自分を眺めて溜息を吐く。

 大顎が失礼なといった様子を浮かべているが、彼には伝わらないらしい。


「……うまい」


 紅茶を一口含むと、しみじみと漏らす。

 

「最後の晩餐を、まさか死んだ後に頂く事になるとは」

「いや、生きてるから」

「分かってる。認めたくないよな? まだまだ人生これからって時に死ぬなんて。お前も殺されたのか? 敵……多そうだもんな」


 失礼な! 

 本当に、失礼だ!

 敵は居ない……と思いたい。


「はあ……勘違いしてるようだから言うけど、ここは神の造った空間だけど、僕もクーデル君も生きてるからね?」

「辛くなるだけだぞ? 早く現実を見た方が良い……っていっても、地獄なんて非現実の極みだけどな」


 何がおかしいのか、1人でクックと笑っている。

 なんて思い込みの激しい。


「どうしたら信じてくれるかな?」

「どうしたらも何も、俺はさっきまでバラッド様の家に居たんだ。それが気が付いたら、こんな厳かな雰囲気の場所に……いや、最後に見たのは怪しい仮面の男が俺に短剣を突き立てるところだった。騙されたんだよ、俺は!」

「そうだね、だからギリギリで僕が「だが、このままでは終わらせん! たとえ地獄に居ようとも、バラッド様……いや、あの男だけは許さん! 必ず報いを受けさせてやる」


 固い誓いを立ててるところ申し訳ない。

 本当に、生きてるんだって。


「ああ、もう! こっちに来て!」

「なんだ? 引っ張るなよ!」


 僕はベントレーの手を引いて、神殿の玉座に向かう。

 それからそこに座ると、ベントレーが慌てて僕を引きずり下ろす。


「何するのさ」

「いや、そこは冥界を司る的な人の椅子だろ? 邪神とか、冥王とかが罪人に裁きを降す為の部屋じゃ無いのか?」

「なにそれ? もし冥王とかの部屋だったら、もっと禍々しいと思うよ? それに邪神様は黒がお好きみたいだから、こんな真っ白な建物は作らないし」

「ん?」

「それに、ここは僕の椅子だから! これを見て!」


 そう言って、空中に浮かべた映像をピンチして大きくする。


「なんだこれ?」

「ああ、僕の周囲を見られる魔道具みたいなもん! で、あそこ見て」

「ん?」


 僕が指さしたところを、ベントレーがじっくりと見る。

 それから訝し気にこっちを振り返る。

 そして、また映像に目を戻す。

 さらにこっちを振り返る。

 目ん玉が飛び出るんじゃないかって程に目を見開いて。


「あそこに君が寝かされてたんだよ」

「ああ……」

「でも、死体は無いよね?」

「ああ……」

「で、あそこに僕が居るよね?」

「ああ?」


 ああ? ってなんだ。

 

「あれ? マルコ? じゃあ、これは?」


 これって言うな!

 あと、指さすな!


「短剣が刺さる直前に、こっちに転移させたから今の君は生身だし」

「そ……そうなのか? いや、ちょっとまて。分からん、頭が混乱してきた」


 いやいやいや。

 来たときから、君混乱しっぱなしだから。

 本当に落ち着こうか?


「話せば長くなるから簡単に言うとここは僕の部屋みたいなもんで、えっと神様が用意してくれたものなんだ」

「いや、その神様がなんでお前に部屋を用意するんだよ!」

「それは、詳しい事は言えないけどさ……まあ、色々とあってね」

「死んだから?」

「死んだけど、死んでっていうか、説明が難しい」


 というか、黙って聞いて。

 いま、説明してるでしょ?


 それから、嘘を交えつつ差し障りの無い範囲で、僕の事を話す。


「全くもって、信用ならん!」

「まあ、そうだろうね! というか、いちいち突っ込んでくるから、話が全然進まなかったよ!」


 凄く疲れた。

 結論として、途中で僕が一瞬だけ戻って来て大顎を連れて行ったのを見てから、少し違和感を感じ始めたらしい。

 そして、ようやく話し終えた後の第一声が信用ならんってどういうこと?


「そもそもだ、なんでマルコは俺を助けた?」

「そりゃ、目の前で友達が殺されそうになってたら、助けるでしょ普通」

「友達? あんなにお前に突っかかっていったのに、友達だなんて信じられるか!」


 今度は疑心暗鬼か。

 話だけ聞けば、僕はかなり胡散臭い存在だもんね。

 その辺りも含めて、理解してもらおうと思ったのに……

 茶々が多すぎて、話の内容は伝わっても思いまでは伝わらなかったか。


「そもそも、なんで俺が殺されかけてるのを知ったんだ?」

「いや、なんかクーデル君が滅茶苦茶ヘンリーを睨んでたから、ヘンリーになんかするんじゃないかって見張りをつけてたんだよ。それはごめん」

「見張り?」

「うん、おいで」


 僕がそう言うと、蜂が数匹集まって来る。


「彼の仲間が、ずっと君に張り付いていたんだよ?」

「蜂? なんなんだよもう! お前なんなんだよー! お前、怖いよー! ママ―!」


 あっ、泣きだした。

 子供みたいに。

 子供だった。


 それから、ベントレーが泣き止むまで一生懸命宥めた。

 途中で心配になった、面倒見のいい土蜘蛛が彼を優しく抱きしめてあげてた。

 彼白目向いて、泡吹きながら気絶してたけど。


 地味に、土蜘蛛が凹んでた。


「ふふふ……蜘蛛って意外とフサフサなんだ。 気持ち良い……天国に居るみたいだ……」


 眼が覚めた彼に、土蜘蛛が律義に謝りに行ったらまた気絶してた。

 何度か気絶した彼は全てを諦めたのか、死んだ目をしながら土蜘蛛の背中に顔埋めて笑っている。

 魅惑とか、幻惑とか使ってる?

 使って無い?

 そうですか。

 疑ってごめんね。


「取りあえず、助けて貰ったのは事実なんだよな?」

「うん、危なかったね」

「なら、礼だけは言っておく……色々とお前も大変なんだな」


 落ち着いた彼が、ようやく色々と理解したと思ったら同情された。


「というか、神の使いとかってマジ? そう思ってるだけとかなら、かなりイタイぞお前」

「うーん、使いっパシリとかって意味だったら完璧にあってるけどね。謝罪の品が世界平和のお手伝いとか、マジおかしいでしょ?」

「おかしいのは、お前の頭だと思うが……事実だとしたら、聖教会の教皇クラスか? あの人は数少ない神の声を聞ける人らしいから」


 教皇どころじゃないけどね。

 この世界の神候補だから。

 

 一度死んだと思ったからなのか、顔の険もとれて穏やかな表情を浮かべている。

 そして普通に話をすると、何気に面倒見がよさそうな感じの子だった。

 

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