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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第20話:邪神マハトール

「くそっ、落ち着いて対処しろ! プルフラス! ベリト! 蜂どもを落とせ」


 後ろでダマシールが指示を飛ばす。

 それなりに腕が立ちそうな5人を盾にして。

 見ていて情けない。

 プルフラス……地球ではマイナーな悪魔だったっけ?

 たしか、地獄のお偉いさんだとか。

 ベリトもベアルの別称だったな。

 偽名だろうと思うけど、悪魔の名前って一緒なのかな?

 というか、悪魔の名前をコードネームっぽく呼び合って、黒い衣装に身を包む集団とかイタすぎるだろ?


 しかも担ぎ上げている神の名前すら知らないとか。

 いや、名前は無い状態だったけど。


「【大火球(ハイファイアーボール)】!」

「【小竜巻(ローハリケーン)】!」


 どっちがどっちか分からないし仮面してるから不明だけど、悲しいお面の人が作り出した竜巻に蜂達が巻き込まれて天井に打ち上げられる。

 そして、そこに叩き込まれる大きな火球。

 

 大丈夫かな?

 この屋敷って木造だよね?

 地下だから、一応石で囲まれているみたいだけど。

 

 というか、早口で詠唱してたけど恥ずかしいな……

 火を司る精霊よ……この地をなんちゃらかんちゃらーって長いし。

 それで使うのが火球とか。

 風の大精霊よ……この地に顕現してその身に竜を宿せ! 顕現せよ吹き荒れる暴風! なんちゃらかんちゃらーとか言って、小さな竜巻とか。

 大精霊に頼ってるんだよね?

 しかも土蜘蛛から聞いた話だと、体内の魔力を使ってる訳だから別に変換のイメージがしっかりしてたら良いだけなんだよね?

 そもそも、精霊関係無いし。

 理論上、きちんと頭でイメージが出来ていたら言葉に魔力を乗せるだけなんだから、水よ!って言いながら火球を撃ったりできると思うんだけど?


 いや、まあそれでも十分凄いよ魔法。

 地球産まれからしたら、憧れる。

 それでも、あの呪文を唱えるのはちょっと……


「びっくりした!」

「ちょっと楽しかったです」

「うわっ、身体が熱い……」

「冷まさないと」


 蜂達は口々にそんな感想を漏らしながら、降って来る。

 身体は鉄でコーティングされているからそこまでのダメージは無さそうだけど。

 ただ熱され過ぎて中身は大丈夫かなと、少し心配になる。


「魔力でコーティングしてますので、問題ありません」

「ただ、羽が……」


 ああ、可哀想に。

 羽までは鉄じゃないから、風に巻き込まれたり燃えたりしてボロボロになっている。

 取りあえず蝶を数匹呼び出して回復に当てると同時に、風を起こして冷ましている。


「あとはガキだけだ!」

「行くぞオセ! オロバス!」

「はいっ!」


 ダマシールが叫ぶと同時に、バラッドがオセって人とオロバスって人を連れだって斬りかかって来る。

 なるほど、騎士か何かかな?

 オセの槍はなかなかに鋭く、割と早い突きを放ってくる。

 さらにオセの後ろから横に飛び出したオロバスが剣を振り抜く。


「ふふっ……遅いよ」


 オロバスを無視してオセの放った槍を左手で受け流しつつ、流れるように距離を詰めると右手に呼び出したナイフで脇腹を切り裂きながらすれ違う。

 オロバスの剣は標的を失い、空を切る音が背後から聞こえる。

 さらに、背後に居るバーラットに手に持ったナイフを投げれば、バーラットが焦った表情でそのナイフをはたき落とす。

 必死だ……

 軽めに投げたのに。


「オロバス!」

「くっ! 早すぎる!」


 あっ、槍使ってたのがオロバスさんか……

 まあ、どうでもいいや。

 

「ナイフを手放してどうする馬鹿め!」

「馬鹿はお前だ!」


 獲物を失った事で優位になったと思ったのだろう。

 バラッドが何も考えずに剣を前に構えて突っ込んでくる。

 すぐに右手にショートソードを呼び出して、出鼻をくじく様に構えた剣を弾くとそのまま剣の柄頭で顔面を強打する。

 バキッという音がして、仮面が真っ二つに割れる。


「何をしているのですかザガン! その子が空間魔法を使えるのは知っているでしょう」

「すいません」


 ザガンね……やめて! 

 もう、そいつがバラッドって分かってるから。

 そもそも、他の人達より背も低いし。

 細いし。

 今更、思い出したようにコードネームを呼んだりしないで!


 確か水をワインにしたり、血をワインにしたりする便利な悪魔だったっけ?

 ショボい……ショボすぎる。


「【大火級(ハイファイボール)】! 馬鹿め! 油断したな!」

「してないし……小声でも詠唱してたら、魔法使うって分かるでしょ?」


 背後に回っていた……えっと、プルフラスかベリトのどっちかが魔法を放ってくる。

 俺は振り向きもせず左手で火球を吸収すると、そのまま右手でバラッドに受け流す。


「なっ!」

「空間魔法の使い手に、飛び道具を使うとかこの間抜けが!」


 バラッドが火球に吹き飛ばされる。

 あーあ……ローブ燃えてるし。


「きゃあ! 火が!」


 しかも吹き飛んだ先で、避難してた3人の女性のうち1人にぶつかってそのローブにも燃え移ってるし。

 さらに言うと、ダマシールと固まっていたために彼と他の2人にも燃え広がって大炎上だ。


「【水球(ウォーターショット)】!」


 結構な範囲燃えちゃってますね?

 まあ、燃えてるのに呪文の詠唱とかしてたらそうなるよね?

 もうね、なんというか……


「すいませんダマシール様!」

「バラッ……ザガン様!」


 女性の1人がバラッドに駆け寄っているが、顔を顰めている。

 うわっ、顔から煙出てるし。

 死んでは無さそうだけど、酷い状況だというのは分かる。

 てか、焦ってバラッドって呼びかけていたよね?

 仰々しいわりに雑な集団だ。


「パリカー! すぐに手当てを」

「はいっ!」


 パリカーと呼ばれた女性が、ポーションを取り出してザガンの顔にビチャビチャと掛けている。

 大丈夫かな?

 悪魔とか、ポーションで浄化されて溶けたりしないのかな?

 そんな事を考えつつも、皆さんボーっとしておられたので取りあえずこっそりと魔法使いの2人の背後に移動して意識を刈り取る。

 管理者の空間経由の転移だから、音はしていない。

 ちなみに戻って来る時は大顎(おおあぎと)と名付けた百足も一緒だ。

 ついでに、土蜘蛛の鉄の糸のスキルを借りてグルグル巻きにしておく。

 その間に大顎が、音もなく地面を闇と同化して移動する。

 まだ、いけるかな?


「っ!」

「はは、余所見はだめでしょう?」


 剣を持つオセの方に向かうが、一瞬早く気付かれて放った突きが剣で防がれる。

 が、足元には脇を押さえて蹲っているオロバスさん。

 

「ぐあっ!」


 ついでに回し蹴りを顎に叩き込んで、意識を刈り取っておく。

 あとは糸で巻き巻き。

 

「うっ!」


 脇の辺りを強めに巻いたら、呻き声が出てたけど。

 安心して、圧迫止血だから。

 優しいでしょ?


 あとはオセだけかな?

 ダマシールは闇の魔法には特化してそうだけど、戦闘経験が思ったより少なそうだ。

 バラッドと、オルバス、プルフラス、ベリトの4人は戦線復帰は無理だろう。

 女性陣もローブが燃えて、色々とセクシーな感じに。 

 といっても流石に下にドレスを着てたみたいだ。

 そっちにも火が移ってたみたいで、良い感じにボロボロだ。

 顔は分からないけど、2人はおばさんっぽいから……一番若そうな娘以外は視界に入れないように。

 いやエロい意味じゃ無くて、おばさんのその肌が色々と露出した姿とか。

 精神衛生上宜しくないからね。


 取りあえず、女性3人も糸でぐるぐる巻きに簀巻き状態に。

 これで、見た目には問題無くなった。

 あれ?

 何故か若いお嬢さんだけ糸が足りなかったようだ。

 他意は無い。


 メタボおっさん4人のうち1人は早々にリタイアしてもらったし。

 他の3人も蜂に噛まれまくってて、蹲って呻いている。

 そっちも取りあえず糸でぐるぐる巻きに。


「ぐあっ!」

「傷が!」

「痛い! 食い込んでる! 傷に食い込んでる!」


 知るか。

 さてと、残すところはオセだけだね……

 司祭さんには色々と聞いとかないと。

 一瞬天井に視線をやろうかと考えたけど、まあ手を出してくる気もないみたいだし放っておこう。


「馬鹿な……一瞬で全員が……」


 待て!

 戦意喪失してるんじゃない。

 折角そこそこ強そうな人と1対1に持ち込んで、じじいの訓練の結果を試そうと思ったのに。

 オセが仮面越しにも分かる程狼狽している。

 というか、まだダマシールには手を出していないだろう。


「【闇縛陣(ダークバインド)】! 今です」


 先ほどからブツブツと何やら呟いていたダマシールが、魔法を唱えると足元から黒い影が足を狙って襲い掛かって来る。

 残念。

 魔法で、何かしようとしてたのは丸わかりだし。

 視線も足元に向かっていたし、手も足元に突き出したら下から何かくるなんて丸わかりでしょ?


 一瞬早く上空に移動すると、そのまま落下しつつオセの肩を蹴ってダマシールに飛び掛かる。

 が一瞬早く上から闇を纏った刃が降って来て、俺の目の前を通過する。


「これは……」

「フフフ……助けに来ましたよ。可愛い子羊達よ」

「まさか!」

「マハトール様!」


 頭上から頭に直接聞こえてくるような重低音を響かせる声に、オセとダマシールが視線を向けるが俺は無視してダマシールを蹴り飛ばす。


「ぐあっ!」


 そしてグールグールと巻き巻きしておく。


「なっ! 貴様!」

「後は、お前1人だな?」

「えっ?」

「はっ?」


 レッサーデーモンを無視して、オセに剣を突きつけると間抜けな声が正面と頭上の2カ所から聞こえて来た。

 が、敢えてさらに無視をする。


「なにを驚いている、もうここに立っているのは俺とあんたしか居ないだろう?」

「いや、あの邪神様の声が……」

「何を言ってるんだ? 頭大丈夫か?」

「おいっ! 聞こえているんだろ? 無視をするな!」

「ほらっ、今!」

「その手には乗らないから……なっ!」

「えっ、ちょっ!」


 2人とも無視をして突っ込めば、オセが慌てた様子で俺の剣を受ける。


「本当か? いや、でもこれなら!」

「ほうっ、やっぱりあんたが一番の手練れか」

「いや、後ろ!」

「おいおい……そんだけの実力があって狡い事してんなよ。興醒めだ」


 レッサーデーモンがまたも闇の刃を放つのを感じ取ったので、そのままオセを押し込んで射線上から外れる。

 背後で地面に刃がぶつかる気配がする。

 

「受けるだけか?」

「いや、本当だから! 本当に邪神様が!」

「いや……なんで聞こえていない? なんで見えていない? どういう事だ?」


 困惑する2人に対して、剣を下に構えて首を横に振る。


「怪しい薬でもやってるのか? 教会に行った方が良いぞ?」

「えっ? もしかして……本当に? 俺がおかしい?」

「おいっ! 騙されるな我が信徒よ! 我は確かに居るぞ!」


 レッサーデーモンが滅茶苦茶焦っているのが分かる。


「本当は聞こえているのだろ? 我こそは偉大な邪神マハトールである」

「仕方がない……1度だけだからな?」


 そう言って後ろを振り返る。

 地面が抉れた跡があったが、見なかった事にする。


「何も居ないじゃないか」

「そっちじゃない! 上! というか、後ろの床……」

「斬りかかって来なかったところを見ると、本当に幻覚が見えてるみたいだな? これは重症だ」

「くそっ! マハトール様! 是非、貴方様の御力を目の前の愚者に示してください」

「わ……分かったぞ……」


 残念時間切れです。

 直後ドサッという音と共に、背後に何か重いものが落ちてくる音がする。


 後ろを振り返れば、大顎(おおあぎと)が自称邪神様を咥えて、地面に降り立っていた。

 壁を慎重に登って気配を消しつつ天井に回り、そのままレッサーデーモンの上に降り掛かったのだ。

 しっかりと首を延髄の辺りからガッチリと咥えて。

 そのまま落下。


 持ってて良かった聖属性。

 数匹の虫には実験の過程で聖水とかも、合成してるからね。

 巨大コロニーの中の1匹の女王蟻に聖水を混ぜたら、1000匹くらいの蟻が神々しい雰囲気を放つ純白の蟻に変わったのは苦笑いだ。

 リアル白蟻……なんか凛々しいけど、名前がね。

 種族名は聖甲蟻(ホーリーアント)だったけど。 

 気分は白蟻だ。


「ぐあっ!」

「マハトール様?」


 実験の失敗を思い出して居たら、自称邪神様の呻き声で引き戻される。

 そのまま鎌首をもたげるように上半身を持ち上げ献上するように、レッサーデーモンを加えた大顎を見て苦笑い。

 邪悪すぎる絵面だ。


「無礼者! 我が邪神マハトールと知っての狼藉か!」

「おいっ! 貴様! 邪神様を離せ!」


 偽邪神様とオセが喚き散らしているが、大顎が睨み付けるとオセが青い表情を浮かべて俯く。

 ついでに顎に力を入れたのか、偽邪神様がうぐっ! というくぐもった声を漏らす。


「邪! 邪神様!」

 

 なんだ、もうお目覚めか?

 後ろを見ると、首から下をグルグル巻きにされたダマシールがキラキラとした目で大顎を見ている。


「えっ? あれっ? 大きくなった……というか、あれが本体? いや、確かに邪神様なら様々な姿をお持ちなはず。 それにしてもなんと雄々しいお姿」


 いや、そっちじゃないから。

 ダマシールの視線の先には大顎しか映って無さそうだ。

 あんたらの言う、邪神様はその口に加えられているんだけどね。

 見ようによっては、大顎から生えているように見えなくもないか。

 百足の顔の部分に悪魔が融合してる感じ?

 なるほど、本当に一体化した生物なら強そうだ。

 残念なことに、捕食されている感じなんだけどね。 


 まあ、マハトールさんの事を詳しく教えてあげようと思って、そこまで思いっきり蹴らなかったんだけどね。


 さてと……どうしたら一番楽しいかな?

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