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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第17話:異世界なんだから、魔法くらいは使いたいよね?

「ですから、もっとこう魔力をぐぐーッと集めてですね」

「ぐぐーってのが分からないんだけど?」


 夜になり、管理者の空間で蝶の1匹に魔法の使い方を学ぶ。

 明日は日曜日なので、朝の訓練が無いから少しゆっくり眠れる。

 当初は森に向かうつもりだったが、誰がいつ部屋を覗くかも分からないので、もう一人の僕が部屋の周りを監視した状態で管理者の空間に来ているのだ。


「お腹が、こう暖かくなってきませんか?」

「いや?」


 可愛らしい声で、一生懸命説明してくれるのだがさっぱり分からない。


「人と虫では、魔力を扱う器官が違うのだと思いますよ」


 そんな僕と一匹を見かねて土蜘蛛が話しかけてくる。

 高齢の落ち着いた、どこかの貴婦人のような綺麗な声をしている。

 耳に優しい彼女の声に、より一層の好感を抱きつつ土蜘蛛の方に目をやる。


「元々人間は言葉で呪文を紡いで、魔法を使います」

「それが良く分からないんですけどね」


 土蜘蛛の言葉に、今度は蝶の方が不思議そうだ。


「言葉に魔力を乗せる事で魔力を体外に出し、言葉の意味にイメージを持たせることで魔力の質を変える事によって望んだ現象を発現させるのが、人間の魔法です」

「そうなのですか?」

「そうなの?」


 意外と博識な土蜘蛛に、2人(?)が揃って感動したような声を上げる。

 照れくさそうに前足で頭を掻きながら、魔力について話してくれる。


「私達は言葉を発することが出来ませんので魔力を外に放出する器官を持っており、そこを通る過程で魔力の変換を起こし事象を発生させる機能を持ってます。故に固有魔法といった形で、決まった魔法しか覚える事が出来ません」

「人にはそれが無いの?」

「そうですね。ただ、熟練の魔法使いともなると、言葉を使わずとも脳内のイメージのみで、現象を起こす事が出来るようですが、そんなものは100年以上生きる人間を辞めた、化け物に近い賢者と呼ばれる人だけです」

「それは気が遠くなる話だね」


 一応無詠唱魔法もあるらしいが、声に出さずに魔法の詠唱を行っているだけで、また脳内で唱える事で高速化が出来るらしく詠唱魔法より素早く使えるらしい。

 訓練を積まないと言葉にするよりも威力が落ちてしまう代わりに、何の魔法を使うかが相手に伝わらないためメリットも大きい。


 1つ覚えてしまえば応用も簡単らしく、他の魔法もすぐに出来るようになるらしい。

 その1つ使えるようになるまでが、気が遠くなるほど大変らしいけど。


 さらに言えば使う魔法の威力を上げるのは、その魔法を繰り返し使う事しか方法が無いらしく、【火球(ファイアーボール)】の魔法をひたすら無詠唱で撃ったからといって、【水撃(ウォーターショット)】の威力の向上は微々たるものらしい。


 その代わり、【火球】の効果は使った分だけ詠唱魔法の威力に近づくとの事。

 ただ全ての魔法を均等に練習すれば、総合的なイメージの訓練になるらしく後半の伸びはよくなるのでいずれは、一点特化の訓練を超える結果を得られるとの事。

 

 そうなるには恐ろしい時間が必要で、大魔導士と呼ばれる人たちは殆ど高齢なのはそのせいだと言われている。

 その先の完全無詠唱ともなれば、それこそ人の人生1回分では足りないらしい。


 リアル来世に期待が出来る僕ならば、来世か来来世では産まれてすぐに完全無詠唱魔法が使えるかもしれないけど。


「元々虫の魔力なんてのは微々たるもので、現象を起こす程の力は無いんですけどね」


 そう言って蝶に目をやれば、羽ばたきと共に正面に向けて小さな竜巻を放っている。

 ポイントで購入した風の魔石を合成した蝶だ。

 中々に高額商品なので、属性魔石を合成した虫達は数少ないが。


 土蜘蛛には土の魔石を合成してある。


「私は元の属性が土でしたからね、魔石のお陰で大幅に魔力が強化されましたし、魔力をたくさん蓄積出来るようになりました……けど、魔力を土属性に転換して、現象につなげる器官は元から備わってましたし」


 そう言って、土蜘蛛が地面を叩くと、小さな砂の山が出来る。

 やっぱり、魔法ってカッコいいな。


「人はさしずめ、固有魔法でいえば想像魔法ってところですかね? 音と創造と魔力で色々な属性を付与することが出来るのは羨ましいですね」

「でも人それぞれ得意な属性があるんでしょ?」

「そうですね、変換効率には属性差があります。その主な原因としては、祖先の暮らしぶりに大きく左右されているという説が1つ、それと神や精霊との相性という説がありますね。そして、祖先起因の考え方は2通りあります」

「祖先起因?」

「例えば山に住む人たちは土と触れ合う機会が多いので、土がイメージしやすく土属性との親和性が高いとか、水辺に住む人たちは水属性との親和性が高いという考え方、もう一つは良く使う魔法の属性に対して変換効率が上昇し、それが子孫に受け継がれるという考え方があります。私としては後者の方が正しい気がしますが、正確には分かりません」


 そう言って、土蜘蛛が8つの目でこっちをチラッと見てくる。


「神に愛されて、魔力の変換適性を得られる方も実際に居たみたいですね」


 確かに僕の聖属性と闇属性の適性は間違いなく、神様のものだろうね。

 元々、ベルモントには魔法使いは居ないし。


「土蜘蛛様は物知りですね」

「いえ、実は蜘蛛たちに森や街で情報を集めさせましたので」


 いつの間に、そんな情報網(ネットワーク)を。

 蜘蛛だからか?

 蜘蛛だからなのか?


 というか、リアルWEBになりそうだな。


「存在値が大幅に上がり種族としての格が大きく向上したため、元々仲間だった同種と亜種の蜘蛛たちとの繋がりが持てるようになりました。キング系の魔物と同じですね……配下とすることで、それらの蜘蛛たちも進化したようですし」


 なるほど……分からん。

 けど、キング系の魔物は同族の配下に対して、絶対的な命令権と情報の共有能力を有してるものも居るってはなしだっけ?

 だから、キングが生まれると、たかだかホーンラビットですら災害に繋がるのは有名な話だった。


「土蜘蛛は淑女だから、さしずめクイーンかな?」

「そうですね……生まれてまだ19年ですが、蜘蛛の中では長寿ですし。プリンセスって年齢では無いですね」


 そういえば、土蜘蛛のメスって15年~20年生きるものもいるんだっけ?

 日本に居た時に、ドキュメンタリーかなんかでやってた気がする。

 大体1年~3年しか生きられない蜘蛛が多いから、確かに長生きだ。

 それでも、改造せずに土蜘蛛よりも長生きしている蜘蛛がいるってのは凄いな。


「お手数お掛けしますが、いずれ主だった蜘蛛はこちらに連れて来ていただけたらと思います」

「うん、大丈夫だよ!」

「有難うございます」


 土蜘蛛の申し出に、笑顔で応えると土蜘蛛が頭を下げて感謝を述べる。

 優しくて面倒見もよくて、巨大な蜘蛛だけど返ってそれが安心感に繋がっている。

 カブト、ラダマンティス、土蜘蛛の3体が居るだけで、どんなことも対応出来る気がしてくるし。


「それでは魔法の訓練に戻りましょう。蝶さんの説明だと、主には向かないみたいなので私が引き継ぎます」

「蝶さんの方はそれでいい」

「はい、私も興味ありますので、このままご一緒させてもらって宜しいですか?」

「構いませんよ」


 土蜘蛛の言葉に、蝶が頭の上を周回して喜びを身体全体で表している。

 やっぱり、意思疎通ができるとどんな虫も可愛く思えるね。


「まず、マスターが自身の魔力を感じられないのは、産まれた時から頭の天辺から爪先まで魔力で満たされているからかと」

「うーん……そうなの?」

「そうですねかなり密度も濃ゆいですし、体内で動かすのは殆ど無理かと……逆に言えば、いつでも魔法を放つ準備は出来ているともいえますが」


 魔力が全体に行き渡っているから、塊で捉える事が出来ないらしい。

 外に放出する術さえ覚えたら、そのまま魔力を移動させなくても魔法が使えるとか。


「ちなみにですが……カブトさん、手伝ってください」

「ん」


 土蜘蛛に呼ばれて、ラダマンティスと訓練していたカブトがドタドタと駆け寄ってくる。


「もう少しゆっくりでお願いします。埃が舞っているような気になりますので」

「すまん」


 土蜘蛛に注意されて、カブトが角を下げて謝る。


「それではすいませんが、主の周りに【魔素空間(マナ・プール)】を」

「ん」


 土蜘蛛の指示に従ってカブトがスキルを発動させると、身体の周囲を青白く輝く空間が包み込む。

 ねっとりと身体に纏わりつくような空気だ。


「これが、魔力です」

「へえ、確かになんとなくだけど、分かる」

「そして、主の体内にもあります」


 言われて意識を体内に向けると、なるほどよく似た感覚の何かが体内を満たしているような気がしてくる。

 気のせいかもしれないけど。

 思い込みは大切なのだ。


「そして、主には魔力を外に排出する器官も備わってます」

「そうなの?」

「はい」


 僕の言葉に、土蜘蛛が嬉しそうに頷く。


「まず、右手ですが、聖属性とそれに寄った、水、風の属性に変換して放出することが出来そうです。左手は逆に、闇と火、土属性への変換放出ですね」

「ふーん……」


 土蜘蛛に言われて自分の両手を見てみる。

 よく分からないけど、土蜘蛛がそう言うならそうなのだろう。


「ちなみに呪術師と呼ばれる方達は刺青を彫る事で、魔力を流す器官を作ってますが、所詮はまがい物です。主のものは、純正の変換放出器官なので、ほぼ完ぺきに思った事象を発生させることができると思いますよ?」

「よしっ! じゃあ、火よ!」


 左手に意識を集中して、火を思い浮かべる。

 それから手を突き出して、魔法を放つイメージをするが何も起きない。


「プッ」


 神殿で地図を見ながら周囲を観察していた、もう1人の僕が噴き出している。

 恥ずかしいとは思わない。

 僕は君だからね?

 いや、自分に馬鹿にされるとかかなり恥ずかしいかも……


「すいません。魔力を動かす方法から覚えないといけないですね……体内で動かす事は出来ませんが、体外に放出することはできますので、いま感じている魔力を掌から外に押し出すイメージで動かしてみましょうか?」


 そう言って、土蜘蛛がお手本を見せてくれる。

 彼女の口から、魔力が漏れているのが分かる。


「鉄の糸を作る際に、口から放出するのは魔力を変換しているからです。いまは、魔力をそのまま垂れ流しにしていますが、分かりますか?」

「うん、なんとなく」

「コツは、主の場合は掌に栓があると思って下さい。それを開くようなイメージで掌を外の空間と一体化させるのです」

「難しい……」


 言おうとしていることは分かるし意味も理解出来たけど、いざ実際にとなると、出来ない。

 というか掌を外の空間と、一体化させるのがまず難しい。

 

「掌を外と繋げるような……」

「うーん……ちょっと、待ってて」


 一生懸命イメージするけど、一向に出来そうになる気配はない。


「なんだろう……才能無いのかな?」

「いえ、この段階が一番難しいのです。これさえ出来るようになれば、あとは応用ですから」


 なるほど……

 一番最初に、馬鹿でかい壁があるような感じか。

 それを超える事が出来たら、その後はいくらでも乗り越えられると。


 そんな事を思っていたら、カブトがこちらを見てくる。


「ん」


 そして、それだけ言うと魔素空間を僕の掌に一気に圧縮する。

 右手に凄い圧力が加わって来るのを感じる。

 押されている訳でもないのに、自然と拳を握ってしまう。


「何を?」


 土蜘蛛も、カブトの行動が理解出来ないのか不思議そうな表情を浮かべている。


「ん」


 そして、次の瞬間一気に魔素空間が膨張され、掌に掛かっていた負荷が無くなる。

 というか、掌の周りにだけ一切の魔力が無い。

 と同時に、その掌が何かに引っ張られるような感覚に陥り、右手から肩にかけて魔力が少し放出されたのが分かった。


「なるほど!」

「これって?」

「ん」

 

 んじゃないよ!

 いや、カブトが手伝ってくれたのは分かったけど。

 無理矢理右手に魔力を押し込んで、弁を開かせたのだろう。

 そして、一気に引き離すことで体内の魔力も引っ張りだしたと。


 ただ、お陰でなんとなくだが感覚が掴めた気がする。

 あとは、これを自在に出来るようになればいいだけだ。


「カブト! もう1回お願い」

「ん」


 それから、カブトに何度か付き合って貰ってようやく、魔力を放出することを覚えた。


「これで後は変換処理だけですね」


 そこは、流石土蜘蛛。

 魔力の変換については、懇切丁寧に分かり易く教えてくれた。


 ようはあれだ……頭で理解出来ないなら、身体で覚えろってことさ。


 どれだけかみ砕いて説明しても出来るようにならない僕に、土蜘蛛に掌以外糸でぐるぐる巻きにされて、視覚、聴覚、嗅覚を塞がれた状態でひたすら魔力を掌から流し込まれた。

 属性の魔力を体内に掌から無理矢理流し込まれて、ようやくなんとなく理解できた。

 身体で……


「主様! 駄目です」

「えっ? うわあああああ!」


 掌から火球とは程遠い火柱が放たれ、土蜘蛛の毛を少し焦がしてしまった。

 本人はすぐ生えるからと笑って許してくれたが、自分がちょっと情けなくなった。


「流石主様! 魔力の質も量も私とは大違いです」

「凄いですよマスター! いきなり、そんな大魔法が使えるなんて」

「近接でも大分強くなったのに、魔法の才まであるとは……文字通り神は二物を与えておりますな」

「そうでしょうね。なんせ、主神2柱が加護を与えたお方ですから」

「二物なんてもんじゃないでしょう! とんでもないスキルに知性溢るる可愛らしい容姿に、数えきれない程の才を受け取られておられる!」

「いやあ、主の群れに加われたことが、私にとって最高の祝福ですね」


 虫達が一生懸命周りで励ましてくれる。

 うん……余計に惨めになるだけだから。


 

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