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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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通算300話記念閑話2:マハトールの里帰り 前編

「じゃあ、イザベルが手伝えばマハトールも地獄に行けるのか?」

「いや、ちょっとその台詞ってどうなんです? 私を地獄に落とすみたいな」

「うん、行けるよー! 楽勝でイケるって!」


 管理者の空間で地獄に関する話になった時に、ふと気になったので聞いてみた。

 まあ、俺たちも行けるみたいだけど……特に、魅力は感じないし。

 人付き合いならぬ、悪魔付き合いもアレな場所だとか。

 毎日、ご近所トラブルが起こってる地域とか……


 魅力は無いな。

 景色に色味もあまりないって話だし。


「一度、里帰りも兼ねてマハトールを地獄に落とすか」

「いやいや! 私の里は寂れた村の、小さな墓所ですよ? そんな物騒な場所じゃないですから」

「大丈夫! 大丈夫! 概念的な世界だし、そんなに悪いところじゃないから」


 概念的な世界か……ここと、似たような感じなのかな?

 とりあえず、最寄りの地獄行きのスポットにマハトールとリザベルを送り込む。

 王都シビリアディアの近くにある、打ち捨てられた神殿の祭壇の間だった。

 近くといっても、30kmは離れてたけど。

 これを近いというのは、こういった時代背景だからだろうか?


「お土産、よろしくー」

「久しぶりの故郷を楽しんできてくださいね」

「いや、クロウニさん? 私、別に地獄生まれじゃないですからね?」


 そうこうしているうちに、リザベルによってマハトールが祭壇に吸い込まれるように消えてしまった。


***

「じゃじゃーん! ここが、地獄の一丁目だよ」


 リザベルが、後ろを振り返って両手を広げて満面の笑みではしゃぐ。

 それを見て、マハトールは顔を顰める。


「一丁目ですか……何丁目まであるのでしょう?」

「八丁目が、大悪魔のバークレアドスおじいちゃんの家だよ」


 バークレアドスという悪魔は聞いたこと無いが、おじいちゃん呼びはどうなのだろう。

 マハトールは、少しだけこの場所の凶悪さを下方修正して辺りを見渡す。

 そこかしこから、敵意を向けられて思わず鼻で笑ってしまった。


 空を見上げれば、曇天……加えて夕焼けのように真っ赤だ。

 これで街並みが街並みなら、それなりに幻想的な景色に移ったかもしれない。

 ただ、周囲の景色も赤や黒が多い。

 あと、全体的に暗い。

 影のある場所も多いし、見ていて楽しくない。

 まったくノスタルジーにも浸れない、そんな場所を故郷扱いされたマハトールは複雑な感情で、人差し指で頬を掻きながら首を傾げる。

 悪魔が何を好き好んで、この場所に集まるのか理解できないからだ。


「私たちの家の方が、遥かにいいところですね」


 直後、周囲の殺気が膨れ上がるのを感じるが、気にした様子も無くリザベルに声を掛ける。


「そもそも、地獄というのはどこにあるのです?」

「うーん、おじいちゃんの頭の中?」


 リザベルの答えに対して、これは哲学的な何かだろうかとマハトールが顎をさする。

 頭の中が、このおどろおどろしい雰囲気の景色だとすれば、その者はかなり病んでいる。

 メンヘラ確定だ。


「バークレアドス様は、全ての悪魔の頂点に位置するお方。そして、この世界の創造主様であられる」


 呼んでも無いのに、真っ黒な見た目の人型の悪魔が出て来て説明を始める。

 面長の顔の中央には、白いチョークで書いたような縦向きに目があるだけ。

 頭には、皮膚と同じような真っ黒な角のような何か。

 悪魔と言われたら、納得できる風体の男だ。


「あっ? 呼んでもねぇのに声かけてくるとか、いつからてめぇはそんなに偉くなったんだ? ああ?」


 そして、リザベルが下から睨みつけて、オラつく。

 可愛らしい小さなボーイッシュ女の子の威嚇に、声を掛けた悪魔が困ったような表情を浮かべる。

 表情を作るパーツは、顔には無いが。


「お知り合いですか?」

「いや、知らねーやつ! てか、こんな最下層に居るような奴が、私に声かけていいわけねーだろ!」

「口が悪いですよ」


 腰に手を当てて、一つ目の悪魔のスネをガンガン蹴るリザベルの首根っこを、マハトールが掴んで引っぺがす。

 それから、一つ目の悪魔に軽く詫びをいれつつ、二人は次の場所へと向かう。

 おそらく、地獄の二丁目あたりだろう。

 うん、地獄二丁目……ノーマル男子が迷い込んだら、一生出られなくなるような場所なのだろう。

 心無し、赤というよりピンク色が多めに見えなくもない。


 ここは、足早に行くべきだとリザベルのアドバイスを受けて、マハトールも早足で移動する。

 時折、なまめかしいしゃがれ声に呼び止められるが、前だけを向いて進む。

 そして、三丁目。

 より一層、夕焼け感の増した景色に、少しだけ懐かしいような気持ちを感じる。

 少しだけ楽しくなりながら景色を堪能していると、向こうから来た悪魔と肩がぶつかる。

 マハトールが半分、身をかわしたにも拘わらずだ。

 ぶつかりに来ているのは、明白だった。


「てめぇ、いってーな! オラッ!「うっさい、黙れ雑魚」」


 そしてマハトールにいちゃもんを付けようとした瞬間に、リザベルに頭を殴られて地面に埋められていた。

 なんだかんだで、アークデーモンだけのことはある。

 しかも、目下のところ猛特訓でさらに強くなっているはずだ。

 そして腰に手を当てて、マハトールを見上げる。

 マハトールに向けて、指を一本立てて突き付ける。


「この世界は嘗められた終わりだから、最初からガンガンいかないとだめだよ」


 どうやら、この世界での心構えを説いているらしい。

 当の本人は、理解できないのか首を傾げている。


「そうなのですか? 別に、嘗められてもいいですよ? 立場を分からせるなんて、必要な時にすればいいことでしょうし」


 リザベルが最初が肝心だとアドバイスをしたが、マハトールは特に気にした様子もない。

 むしろ、嘗めたマネして喧嘩を売ってくるのすら、ウェルカム状態だ。

 そして、マハトールはきっとその喧嘩を……買わないのだろう。

 喧嘩を買わないことでマウントを取ることを、最近覚えたのだ。

 相変わらず、こじらせている。


「とりあえず……てめーら、ただのデーモン風情が私に気安く声かけてっと、消すからな?」

「はいはい、分かったから先に行きますよ」

「ちょっと、待って! 道知らないのに、先にどんどん進んだら、もっと地獄に落ちるよ!」

「もう、地獄に落ちてますけどね」


 それから、ありがちな景色を案内して、楽しそうにマハトールとデートをするリザベル。

 小悪魔っぷりを、いかんなく発揮している。


「ここはね、針の山だよ! ここにね、連れてきた人間を突き刺しておいとくと、死なないし腐らないんだよ! しかも、ずっと苦痛の声をあげてて、リラックス効果があるんだよ」


 これは本当の地獄っぽいと、少し感心するマハトール。

 でも、実際はそうでもないらしい。

 というのが連れて来られる人間というのは、意識体だけらしい。

 しかも、本当に運の悪い悪人程度しか、地獄には来られないと。

 悪魔とかなり高い親和性を持っている、悪人限定らしい。

 

 そして、そういった人間の意識体は悪魔の種にもってこいだとかで、悪魔として生まれ変わる者もいるらしい。

 現世に肉体があれば、それを媒体に顕現できるとか。

 マハトールは、マサキの部下にも強制的に改心させられただけで、そっち方面の才能に溢れる人材は多かった気がするなと考えながら先に進む。

 その後ろを、リザベルが小走りについていく。


「速いよー! 足の長さが違うんだから、私に合わせてよー」

「何をアホなことを。だったら、飛んだらいいじゃないですか」


 ふざけてマハトールにじゃれつくリザベルを、アホな子を見るような目で見下すマハトール。

 マハトールに女性の機微など分かるはずもなく、そもそもが女性に興味が無いのだから仕方ない。

 流石、年齢イコール恋人いない歴の悪魔だけのことはある。


「へえ、だったら俺が相手してやろうか?」

「黙れ、カス!」


 その二人の姿を見て下卑たニヤケ面で声を掛けてきた一本角の悪魔を、拳一撃で頭ごと吹き飛ばすリザベル。

 そちらを見るでもなく、ただマハトールを見上げながら拳を横に向けて放っただけ。

 スキルを使ったわけでもなく、魔力を乗せたわけでもない一撃。

 デーモンでも、そこそこ自信があったであろう一本角の悪魔は、名乗る事すらできずに霧散する。

 復活は、絶望的かもしれない。 


 周囲から、悪魔の気配が一気に消えていく。

 どうやら、よほどにリザベルを甘く見ていたらしい。

 一緒にいるのが、まったく闇の魔力を身に纏わないレッサーデーモンのマハトールなら仕方ない。

 相変わらず、聖属性の魔力で闇の魔力を隠して抑えているらしい。

 ここぞという時に、それを解放してマウントを取ることを覚えてしまった。

 能ある鷹が爪を隠すのは、マウントを取るためではない。

 相手を油断させるためだ。

 なので、やはりマハトールに脳はないのだろう。


長くなりそうなので、分けます。

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