第44話:予定
色々と試してみた。
マルコの身体を使って……
ベリアルが憑依できるかという実験。
結論から言うと、憑依できた。
そして、吸収された。
どういうことかというと、ベリアルの持っている知識や経験、技術、スキル等は共有できる状態。
そして、意思の疎通もかろうじて可能。
ただし、身体の操縦の権限は奪うことはできなかった。
それどころか、こちらから譲渡することも出来ない……
すなわち、完全なる同居人というか……居候?
いや、割とガチ目な守護霊に近い状態か。
さらに憑依するにも、俺が右手で自分の身体に押し付けるような形でしかできない。
他の転生体のように、勝手に憑りつくことは無理だってさ。
いや、これ結構重要なことだよ。
下手したら、同じ転生体としてノーフェイスから人格を送り込むことだって、出来たかもしれない。
いや、過去にされたことがあるかもしれない。
とにかく、マルコの身体が安全地帯だと分かって一安心だな。
そのマルコだが、今は友人たちと夏休みの予定について考えることに忙しそうだ。
それ以上に、他に考えることは色々とあるだろう。
前期試験のことだとか、放課後の部活動のことだとか。
冒険者ギルドに登録しているけど、あれは校外活動だし。
学園の内申点なんて、進学が無いから就職に役立つ程度のものだからか。
貴族科の生徒なんてのは、内申がマイナスでなければ就職先は引く手あまただもんな。
そもそもが、実家に戻る子が大多数を占めている。
王城での就職を目指すのは、どちらかというと上級総合とか専門科の連中ばかりだし。
マルコの方は放っておいて、クロウニと子供たちの将来について話合うことにした。
提案してきたのは、クロウニだ。
トトはもう、仕方がないとのことだ。
彼女はここで就職したようなもので、ここで幸せを見つけた以上はお世話は必要ないとの結論らしい。
トトも全力で頷いていた。
ただ、クコとマコはまだ将来を決めるのは早すぎるので、色々と見せてあげたいらしい。
選択肢がある状況なので、自分たちで将来を決めてもらいたいらしい。
うーん……本当に、先生っぽくなってきた。
「俺は、冒険者やりたい!」
「わたしは、マサキおにいのおよめさんになりたい!」
と二人とも、すでに将来を決めている様子だったけど。
とりあえずマコの希望は、却下した。
クロウニが、少し呆れた表情でこっちを見ているけど無視だ。
キラキラとした目で、冒険のロマンを語るマコをトトが悲しそうな表情で見ている。
そのことに気付いていないのか、自分が将来冒険者になったらどんな冒険をするかを夢想して語っている。
熊耳がピコピコと動いて、成長に合わせて立派になって牙と呼べるくらいになった犬歯を見せて笑う姿は、確かに将来の有望さを感じさせる。
だけど、駄目だ。
「そんな危ない仕事は、駄目だ!」
「なんで!」
「なるんだら、俺も一緒になって一緒に冒険するなら、考えてもいい! 一人ではやらせん!」
「いや、ギルドでパーティ探すから大丈夫だよ!」
「駄目だ!」
俺がマコの希望を一蹴する姿を見て、トトがホッと胸を撫でおろしていた。
それでも言い募るマコを見て、トトがすがるような視線を俺に向けてくる。
俺も、黙って頷いて応える。
「お前は姉を悲しませるような仕事だと分かっていて、それを言ってるのか?」
「それは……それでも、俺は父さんと同じ仕事がしたい……」
考えたうえで、出した結論なのかもしれない。
それでも、そう簡単に許可できるものでもない。
危険すぎるし、獣人の扱いがどういったものかも分からない。
ポーターだから置き去りにされたのか、獣人のポーターだから置き去りにされたのか、獣人だから置き去りにされたのか。
でも冒険者ギルドで、獣人の扱いがそこまで悪かったのを見たことは無いし。
しかしなぁ……
「マサキ様」
「なんだ?」
「その……マコの戦闘のセンスは素晴らしいと伺っております。それに、現時点でもC級程度の戦闘力は有しておりますよ」
クロウニが余計なことを言ってくる。
マコに聞かれたら、説得が難しくなるじゃないか。
思わず、軽く睨んでしまった。
「あまり束縛を厳しくして、目の届かないところに逃げられるよりは……快く許可をして、目の届く範囲で行動させる方が安全で安心かと」
うーん……確かに一理ある。
けどなぁ……
やっぱり、俺も一緒じゃないとな。
とりあえず、あれだな……外に出たいってことか。
じゃあ、今年の夏も家族旅行を計画しよう。
その中で、冒険者の真似事が出来るようなイベントも企画したら良いかな?
モンロードも良いけど、今度はまた行ったことのないところが良いかもしれないな。
「クコは、俺のお嫁さん?」
「うん! そしたら、ずっといっしょにいられるんだよね?」
「お嫁さんにならなくても、クコがここに居たいならずっと一緒だぞー」
どうせ子供の頃しか言ってくれない言葉だと分かっているけど、嬉しくてニマニマしてしまった。
可愛い。
この子を嫁にやるなんて、とんでもない!
とはいえ、いつかは孫も見たいかもって願望もあるし。
俺自身未婚で、三人とも養子のようなものだけども。
でも、本当の親子のように思ってるし。
大きくなったクコを見たい気持ちもあるけど、いつまでもこの可愛いままでいて欲しいって希望もある。
大きくならないで欲しいけど、将来を期待している。
誰かの嫁に出すのはいやだけど、孫の顔も見たい。
くう……悩ましい。
「ト……トトも、マサキ様のお嫁になっても、良いですよ」
「ん? はは、トトも実はいつまでも甘えん坊さんなんだな。珍しいな、トトがこんな素直に甘えてくるのは」
「えっ? いや、ちがっ……」
「でも、この年でパパのお嫁さんになる発言は、少し心配だな……可愛いから嬉しいけど」
「あっ、いや……はい」
たまには、デレることもあるんだな。
最近は思春期特有の感情の乱れからか、少し当たりがきついこともあったけど。
反抗期的なあれだったのかもしれない。
それを乗り越える、成長期にまた入ったのか。
本当に、子供たちの成長は早いな。
「マサキ様も、色々と心配ですね」
「クロウニに心配されるのは、心外だな。ただでさえ、苦労が絶えなかったんだ。手間のかかる主かもしれないが、俺のことまで気に掛ける必要はないぞ? そんなんだと、老け込むぞ」
「そういうことでは無いのですが」
とりあえず三人とも可愛いので、やっぱり長期休暇中に三日くらいマルコに身体を借りて旅行に行きたいな。
今度は、九份っぽい景色の町も良いかもしれんな。
***
「今年の夏は、どうするの?」
「前はエマのところにお邪魔したから、今度はうちに来る? ベルモント領メインで! たぶん、流れでまたラーハットにも観光に行けると思うけど」
「マルコのところは、結構お邪魔してると思うけど……でも、行くたびに真新しいものがあって、飽きないからそれでも良いけどさ」
「エマも、マルコも普通に夏休みに泊まりで遊ぶことが決定してるみたいだけど、皆の予定とか聞かないの? 高等科に上がって、最初の夏休みだよ」
放課後に教室に残って、何故か夏休みの予定について話し合っている。
まだ、前期の半ばにもなっていないというのに。
ジョシュアが何か言ってるけど、だからこそこんな早い時期に予定を立ててるんだけどね。
流石に高等科ともなると、家の社交関係にも顔を出さないといけない機会が増えてくるから。
だから、先に予定を立てておこうということに。
そして、各親に報告をしておくことになった。
エマの発案で。
予定なんてのは、早い者勝ちだし。
「こんなに早くから予定を立てて、忘れないか?」
ベントレーが呆れた様子で、手帳を開いている。
かっこいい……システム手帳のようなもので、この世界の暦も載っている。
日付ごとにページが分かれている、素晴らしい逸品。
作ったのは、マサキだけどね。
革の装丁の手帳とか、出来る男っぽいけど……土蜘蛛に習ったレシピを書いてることの方が多いのを知ってるから、なんとも言えない。
ベントレーの言葉に、全員がエマの方を見ていた。
エマの顔が、ちょっと赤くなる。
「失礼な! 私は、大丈夫よ! よほどのことが無い限りは」
いや、予定が変わるとかじゃなくて、根本的な予定を忘れてダブルブッキングの心配をしてるんだけど。
後から割り込んできても身分によってはそれがまかり通るから、断れるなら断った方がいいし。
ただ辺境伯家や侯爵家、伯爵家の面々が集う予定だし。
王族でもなければ、割り込めないと思う。
……フレイ殿下とセリシオくらいか。
二人とも、参加を希望する程度かな?
無理矢理、僕たちを誘って何かするってことはあまり無いし。
「いや、親が予定を先に立ててたら……」
「マックイーン伯爵なら、もう大丈夫じゃない? お兄様方がジョシュアの味方についたんだし」
「そうか……そうだよね」
うん、ジョシュアは長い事、親に好いように扱われていたからね。
どうしてもそういった刷り込みがあって、親から何か言われたら逆らえないんだよね。
今はジョシュアの一番上の兄のエランド様が、間に入ってくれることが多いみたいだし。
「あいつは、どうするの?」
「あいつって? ヘンリーのこと?」
「ヘンリーは当然来るでしょ? そっちじゃなくて、アザーズの方」
ああ……というか、エマの中でヘンリーが当然のように、メンバーに入っていることが驚きだ。
確かに別人のように変わったし、何故かストーカーされていたエマが最終的に振られたような、待たされているみたいな形で騒動が終わってしまったが。
エマは逃げるものは追いかける、猛獣型のようなところもあるし。
かといって、追われると逃げる……こともないか。
牙を剥くことの方が多い……件の時のヘンリーは得体の知れない怖さがあったから、怯えていたけど。
猫科の猛獣っぽい……
「なんか、失礼なこと考えてるでしょう?」
「いや、アザーズ君も……本人から、打診があればメンバーに入れてあげれば良いんじゃない?」
「相変わらずお人よしと言うか、能天気というか」
「当然の如く参加者の輪に入ってるけど、本当に来られるの? 側仕え候補として、セリシオの面倒を押し付けられるんじゃない?」
あたかも普通の顔で、セリシオと別行動をしている側仕え候補に飽きれてしまう。
「でしたら、ベルモントでお世話をすればいいだけの話です。重要な会談は、全てそちらで執り行うよう差配すれば問題ありませんよ。今からなら、十分予定は立ちますし」
「当然の如く、セリシオを引き込むつもりなんだね。上手く、コントロールできるといいね」
「予め予想してましたので、概ね根回しは済んでますよ。関係各所には、空けるべき日程は伝えてますし、そこに予定を入れるならベルモント領になる可能性が高いと伝えてますから」
そうですか……
そうでしょうね。
とりあえず、ベルモントとラーハットに行くことは、確定したっぽい。
ヘンリーとベントレーだけなら、行動範囲は広がるんだけど。
世界レベルで。
でも、ソフィアたちとも思い出は作っておきたいし。
アザーズが職員室に呼び出されたときに、この予定を話し始めたエマには若干の悪意を感じるのは考え過ぎだろうか。
なぜか、あまり良い感情を抱いていないんだよね。
本能で、何か感じる部分でもあるのだろうか。
猛獣系だし。
「また、失礼なこと考えてる?」
「いや、別に」
野生動物並みの、嗅覚だと思うよ。
「やっぱり、考えてるよね?」
うん……疑心暗鬼が強いだけかなぁ……
合ってるけど。
実は300話目のメモリアル回だったことを、忘れてました。
メモリアル回……スペシャルな内容をと、299話の時は思ったのですけどね……





