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第3話:ヒロイン候補

 最近、管理者の空間から地上を眺める事が増えてきた。

 あっちの俺が少しでも子供らしくあるためには、精神が半分くらいで丁度いいらしい。

 それにしても、人の身体って凄いな。

 俺用にあつらえてあるはずなのに、思考を半分に割るとあっちの俺はどんどん子供っぽくなっていく。

 まるで、マルコの身体がマルコらしさを出そうとしているみたいに。

 俺が戻ると、それも鳴りを潜めるけど……

 だから、精神を割った方が子供の時は都合が良いと思える。

 

 そんな6歳の俺こと、マルコが現在進行形で夢中な事がある。

 虫集め?

 まあ、それもだけど。

 住人に、カマキリや蝶にダンゴムシも増えた。

 そろそろ、ちゃんとした魔物を……

 いや、6歳児に魔物狩りは無理か。

 というか、自分より弱いって時点でまだ早い。


 脱線。

 夢中なのは『カランカラン……』

 そう、来店を告げる鐘の音を聞いてこちらを向いた熊みたいなオッサン。

 ではなく、その横に立って皿を拭いている少女。


 ここ、武器屋喫茶の一人娘のアシュリーだ。

 その前に武器屋喫茶ってなんだ?

 いや、武器屋兼喫茶店らしいけど。

 まあ、良いか。


 ちなみにその武器屋喫茶の一人娘、アシュリーはマルコと同い年。

 ちょっとくせ毛のある、栗色の髪。

 茶色い大きな瞳。

 可愛らしい、いかにも西洋人形のような女の子。


「いらっしゃいませ! あら、マルコまた来たの?」

「うん、おじちゃんオレンジジュース!」

「おう、良く来たなマルコ坊! 本当に、お前は武器が好きだな」


 マスターも笑顔で出迎えてくれる。

 一応、最初は屋敷の警備を担当する警備隊の隊長に連れてきてもらったのだが。

 その時は武器に夢中だったけどはしゃぎつかれて、喉を潤すためにカウンターでオレンジジュースを頼んだ時に、それを運んできたのがアシュリー。


 何事かと思ったよ。

 管理者の空間でボーっと、カブトとカマキリの訓練ならぬ虫相撲を楽しんでいたら急に心臓が跳ね上がるような感覚だったからね。

 それから、早鐘のように鳴る心臓。

 思わず、マルコに何かあったのかと思って意識を向けると、頬を真っ赤にそめて小さな少女を眺めてた。


 ははーん、これは恋だな……って、流石にこっちの俺は幼児愛者じゃないからちょっと待て!

 っとなったが、熟考。


 将来的にはありか。

 マルコが成人するころには、彼女も成人してるし。

 あっちの俺が、どうするのかちょっと暖かく見守る事にした。


 自分の恋愛を見るというシュールな光景だが、あっちの俺の外観があまりにも元の俺と掛け離れているせいで面白く見る事ができる。

 オレンジジュースで喉を潤しながらも、その視線はチラチラとアシュリーの後を追っている。

 マスターも、完全にマルコの恋心には気付いていると思う。

 時折、微笑ましいものでも見るようにマルコにも視線を送っているからな。


 ところで、なんでマルコが親も連れずに自由に出歩けるのかなのだが……

 それは、親の事情によるところが大きい。

 

 はい、俺の現地母であるマリアさんがご懐妊しました。

 二人目です。

 この世界だと、高齢出産にあたる31歳で妊娠発覚。

 俺を産んだ時が25歳だったらしい。

 屋敷はてんやわんや。

 なので、下手に屋敷に居るよりは外に居る方がいいかなと。

 で、居ても居なくても変わらなそうな、若手の警備員を勝手に拉致して出歩くようになった。

 一応、警備隊のものが護衛についているので、親もそこまで心配はしていない。


 この時ばかりは、親父も母さんに構ってばかりで俺の相手が若干おざなりに。

 仕方が無い。

 マルコも精神的には割と成熟してるし、寂しそうであるが理解してあえて屋敷の外に出ている。 

 勿論、先も言ったが従者は連れているが。

 最近はもっぱら警備隊の若手隊員の1人のトーマスさんがお気に入りだ。

 19歳独身。

 絶賛彼女募集中らしい。

 どうでも良い。

 のんびりした性格なので、一緒に居ても自由に動けるので彼を指名することが多い。


 そして一つだけ納得できないのが、気を使って出ているのにマリアさんが寂しそうな事。

 そんな気遣いをさせてしまって、マルコが不憫。

 というか、もっとお腹の赤ちゃんとママに興味を持って!

 って、なってるらしい。

 知るか!

 親父で我慢してくれ。

 折角、自由に動き回れるんだから。

 

 ちなみに、武器喫茶に関してはトーマスさんも武器を見るのが好きらしいし、おやっさんと武器談義をするのも好きらしく喜んで連れていってくれている。

 勿論、マルコの淡い初恋を見守るという役割も。

 そして、これらの話は全てマリアには筒抜けであったりする。

 マリアが、マルコの外出時の護衛を戻ってきたらすぐに呼びつけて、根ほり葉ほり聞き出すせいで。

 彼女も、マルコの恋の行方が気になるらしく目を輝かせて聞いているとか。


 ただ、嫉妬も少々。

 可愛いけど、面倒くさい母親である。

 あと、俺の事よりもお前は自分の事を頑張れ。


 それよりも、マルコとアシュリーの方はと。


「マルコは、今日もオシャレなおべべね」


 おべべとか……まあ、6歳児なら仕方が無いか。

 こういった部分まで忠実に翻訳する、管理者の空間は優秀といった方が良いのだろうか?


「変じゃないかな? 慌てて出たから適当に選んだけど」

「すっごく似合ってる! わたしも新しい服ほしいな!」

 

 適当にって……

 1時間も乳母のマリーを捕まえて、ファッションショーをしておいてよくもまあ。

 トーマスも、離れたところで笑ってるじゃないか。

 そして、新しい服と言われてマスターがちょっと渋い顔をしてるけど。

 この世界だと、新品の服は恐ろしく高いらしい。

 でも、新しいってそういう意味じゃないと思うから、マスターも安心してほしい。


 そういえば、蚕の幼虫を捕まえてたから今度、アシュリーに似合いそうな服でも織らせてみるかな?

 合成の結果、服の加工までできるようになったし。


 蚕といえば、管理者の空間も劇的な変化を遂げている。

 あれからさらに3年、かなりのポイントも溜まったし。

 町も一度に作らなくても、ちょっとずつ作ることもできるし。


 取りあえず神殿の前から50mほど石畳は敷いておいた。

 足が痛くなりそうだから、石畳の横の芝生部分を俺は歩くけど。

 実際に痛くなることは無いんだけどね。

 芝生の方が気持ち良いし。


 レベルも17になって物資の交換もできるようになった。

 といっても、素材になりそうなものはマルコでも手に入るものが多かったのでちょっとガッカリ。

 レベルが上がれば、選べるものも増えるらしい。


 メインは虫たちばかりなので森を作ったのに、神殿から遠すぎて誰も移動しようとしなかった。

 これは、ショック。

 仕方が無いので、神殿の周りにも木を植えたりもした。


 さらに水槽のようなものも用意して、そこに土やら木を入れてカブトを入れてみた。

 凄く喜んでいるのが分かる。

 他の虫たちが羨ましそうにしてたので、全員分用意した。

 神殿に似合わないので、神殿の横に小屋を用意してそこに置く。


 うん……またも神殿の周りに植えた木や、土、芝生が無駄になった。

 悲しい。

 空気を読んだのか、カブトが昼間は神殿の周りの木に止まって樹液を吸う事が増えた。

 ああ、一応24時間、365日、地上と同じように昼夜が訪れ、季節も巡る。

 でも、神殿内は常に快適温度だけどね。


 そして、カブト虫って夜行性じゃなかったっけ?

 夜だと見えない?

 昼なら、見えるから?

 そこまで、気を使わせてしまって申し訳ない。


 なんとなく、カブトの瞳を見てると思っていることが分かる。

 俺が成長したのか、カブトが優秀なのか。


 呼べばすぐに来てくれるし。

 そんなカブト。

 すでに20cmくらいまで育っている。

 いや、改良済み?

 鉄をさらに合成して、そのうえ鉄蜘蛛に造らせた鉄の糸も合成してみた。

 糸を吐いたりはしないが、スキルを覚えた。

 虫なのに。


 カマキリのラダマンティスにも鉄は食わせて(合成して)る。

 鎌が凶悪なものになってた。


 蚕の幼虫には布を食わせてみた。

 自分の糸で絹織物が作り出せるようになってた。

 便利。

 だから、白いローブはやめて新たに服を作り出してもらった。

 白いシャツと、白いパンツ。

 うん、ジジシャツと股引(ももひき)みたいでさらにビジュアルが悪化。

 ああ、お前が気にすることはない。

 色まで考えて無かった俺が悪いんだから。

 だから、へこまなくてもいいぞ。


 これは絵の具を食わせる事で解消できたから、いまは普通の染色された絹織物。

 糸の色自体が変わるらしく、洗っても色落ちしない。

 汚れないから、洗わないけど。


 カブトの今はというと。

 鉄の槍甲虫アイアン・スピア・ビートル

 スキル

 【鉄壁(アイアン・シールド)

 【鉄の槍(アイアン・スピア)


 なんの捻りも無かった。


 蟷螂は

 【鉄の鎌(アイアン・サイズ)


 うん、もういいよね?

 ほかも【鉄の糸(アイアン・ライン)】とか、【絹織物(シルク・クロス)】とかだし。

 そんな感じで、素材と虫の特性にあったスキルが合成で得られることがあるらしい。

 失敗しても、スキルが付かないだけでビジュアルが変わったりするから楽しい。

 虫は、大量に居るし。


 蜂、蟻、蛾、蝶、百足、蠅、蛞蝓……

 なんでも捕まえれば良いってもんじゃないぞ、マルコな俺?

 大半が、合成もせずに虫かごの住人だ。


 蜂と蟻は巣ごと吸収してたから、いきなり蜂や蟻の大群が俺の目の前で整列してて焦った。

 綺麗な整列で、英国の衛兵みたいだけど……

 太鼓や旗を合成したらマーチングとかできるようになるかな?

 まあ、役に立たないしどうでも良いか。


――――――

「今度、一緒に買い物行こうよ!」

「えっ? でもお小遣いあんまり無いし」


 おお、勇気出したな俺。

 ちゃっかり、アシュリーをデートに誘ってる。

 マスターの目がキラリと光ったのを見逃さない。

 いや、俺の事は見逃せよ。

 まだ、6歳児だぜ?

 それに、アシュリーを連れて買い物に出かけるにしても、トーマスあたりが付いてくるだろうし。


「アシュリー今度誕生日だろ? 俺がプレゼントするよ」

「でも……服って高いから……」


 グイグイいくな俺。

 前世の俺は、そこまで女性に強気じゃなかったぞ?

 やはり金もあって、ビジュアルもまあまあだと自信が違うのかな?


「一生懸命お手伝いして貰ったお小遣いも貯まってるし、古着になるけど選べるくらいには持ってるよ!」

「そういえば、マルコは子爵様のところのお坊ちゃんだもんね」


 確かに親は金持ちだけどね。

 

「ううん、これは僕が稼いだお金で買いたいから月のお小遣いは使わないよ! それに、お手伝いってマリーや、ヒューイさんのお手伝いで稼いだお金だもん! 親は関係ないよ」


 6歳児のセリフではないぞ俺。

 まあ、その心意気やよしだが……その2人に給料を払ってるのはお前の親なんだがな?

 しかも、事情を知ってるマリアが給金とは別にお金を渡して、お手伝いを斡旋してるぞ?

 俯瞰の視点で、全部見てきたから。


 ヒューイってのは、警備隊長なんだけどね。

 マリーもヒューイも、ちゃんとマリアから貰った手当を全部マルコに渡してた。

 くすねてたら、精神を統合してチクリと言おうかと思ったけどその必要はなかった。

 素直にごめんなさい。


 なんとなく、時代設定やらなんやらでそういったのは誤魔化して当たり前と思ってたけど、まあそんな人間が乳母や、警備隊長になれるわけないか。

 というか、それ以前に二人ともマルコにデレデレだったし。


「嬉しい! でも、そんな私、マルコの誕生日に何もしてない」

「おめでとうって言ってくれたじゃん! それだけで、何よりも幸せだよ!」


 お父さんが聞いたら泣くぞ?

 マイケルさん、今年は奮発して立派な鉄製の騎士の模型を買ってたからね。

 それは、騎士になってほしいという親の願望が漏れてるだけでマルコは満面の笑みを浮かべて、内心は微妙だったけど。


 その点、マリアは流石だ。

 5歳からこっそりと剣の練習を始めたのを知ってて、刃の無い鉄の子供用の剣を用意してたからね。

 マイケルさんのプレゼントの方が、遥かに高価だったけどマリアさんのプレゼントの方が本心で喜んでた。


 ちなみに、マリーがわざわざ勤務の前に誕生日のために焼いたケーキを、一心不乱に食べるマルコを見てマリアが悔しがっていたのは内緒だ。


「坊っちゃん、そろそろ」

「もう、そんな時間?」


 おっと、マルコが移動するみたいだ。

 別にいちいち見る必要もないし、身体に戻ればいいだけなんだけど。

 俺が戻ると、時たま子供っぽくない行動や発言をうっかりしちゃうこともあるし。

 基本は、あっちの俺に任せっきりだ。


「ごめんアシュリー! また、今度ゆっくり予定を決めよう!」

「うん! 楽しみにしてるね!」


 アシュリーが嬉しそうにマルコに手を振っている。

 うん、普通に可愛い。

 子供として。

 外国人の子供って本当に天使みたいだよね。

 そういった意味だと、マルコもめちゃくちゃ可愛い。

 でも自分だと思うと、複雑だけど。


 うわっ!


 マ……マスター……

 スキンヘッドの髭面のおっさんがエプロンを噛まない。

 悔しいかもしれないけど。

 二人は少し、背伸びしたいお年頃なんだから。


 もう少ししたら、男の子同士、女の子同士の方が楽しいって時期が来るから。

 その後の思春期までは、暫く安心して過ごせるからさ?

 いまは、大人になろうよ。


 涙を滲ませて、エプロンを噛むマスターにドン引きしつつマルコの後を追う。

 向かう先は、冒険者ギルド。

 別に、6歳にしてすでに冒険者ってわけじゃない。

 今日が週に2回の、冒険者ギルドにとある依頼を頼む日だからだ。


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