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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第38話:チート

 あれから色々と考えてみた。

 アザーズの中の人達が言っていたこと。

 マサキに言われたこと。

 皆のこと。

 家族のこと。


「うん、やっぱり自分が何かなんてのは、分かんないや」


 結論として、自分が何のために産まれて何故ここにいるのかということは分からなかった。

 ただひとつ分かるのは、自分がマルコとして生きてきたこと。

 その結果が、今の自分であること。

 自分を形作っているのは、マサキを含めた周囲の人達との繋がり。

 そしてこれまでの経験。

 僕が僕であることが、マルコとして正しい生き方なのだろう。

 いや、それが正しいかどうかじゃない。

 結果として、僕がどうであったか。

 そこに至ってようやく、自分の存在意義を確認できるような気がした。

 そのために、何かを成すという意識だけはハッキリと持っておきたい。

 成したことの数だけ、僕の価値や証が残るのだから。

 そう決意を新たにして、布団からでたのだけど。


「やる気があるのはいいことなのじゃがのう」


 早速後悔することになった。

 自分のために、いまいちど出来ることを一生懸命に行おうと覚悟し。

 おじいさまの早朝訓練で、もっと強くしてくれとお願いし。

 僕の言葉にはりきったおじいさまが、自身最高の剣技である16個所同時フェイントフェイントというわけの分からない攻撃を見せてくれた。

 16個の剣筋の全てが虚像であり実像でもあるという謎の攻撃。

 結果全身打撲の状態で、地面に寝転がっている。


「3撃くらいは防ぐかと思うたが、全部当たるとは」


 流石に危険な技だからと、細い木の枝に布をグルグル巻きにした棒で打たれたからそこまでのダメージはない。

 はずなんだけど、青あざが16個所あるところを見るに木剣だったら、全身骨折だったんだろうなと。

 というか全部が必殺の剣である以上、一瞬でどれを防ぐかなんて考えられない。

 ただ今までのフェイントと違うのは、全ての剣筋を見ることができたということ。

 見せることで、相手の動揺を誘う意図があるらしい。

 じつはおじいさまは、腕が8本あったりとかしないよね?

 これでも世界最強じゃなくて、世界最強クラスの剣士。

 ってことはおじいさまが最強かもしれないけど、もしかしたらおじいさまより強い剣士がいるってことだ。

 それも、少なくとも数人は。

 世界が広すぎる。


***

「おはよう」

「おはよう……昨日はごめんね」


 学校についたら、アザーズがジョシュアと歩いていたので声を掛ける。

 彼はジョシュアの陰に隠れて、申し訳なさそうに謝ってきたが。

 中身はバドスなのだろけど、申し訳ないと思っていそうな割には狡いな。

 よりによってジョシュアを捕まえて、その陰に隠れるとか。


「いいよ、気にはしてるけど吹っ切れたから」

「なになに? 何があったの?」


 とりあえずジトっとした目を向けて、目の前で手を振ったらジョシュアが不思議そうに首を傾げていた。

 

「別に? ちょっと、色々とあっただけ。大したことじゃないよ」

「なんか、含みのある言い方だなー」

「思ったより元気そうで安心した」


 うん、君には言われたくないと思ったけど。

 よくよく考えたら、バドスは悪くないわけで。

 いや、他の人格を抑えられないのは悪いけど。

 一番若いから、どうしようもないことも理解できる。


「切り替えが早くて安心したわい」

「うっさい、黙れ!」

「マルコ?」


 急にじじくさい声でそんなことをのたまったアザーズに、ついつい条件反射で突っ込んでしまった。

 ジョシュアが、すごくびっくりしてた。

 

「ちょっと他国の重鎮の子供に、言って良い言葉じゃないんじゃないかなあ……というか、普通にあまりいい言葉じゃないというか」

「いや、僕が悪いんだ」

「ええ? アザーズ君、そんな酷いことをしたの?」

「いや、彼は悪くないよ」

「えっ? もう、意味が分かんないよ」


 僕とアザーズのやり取りを見て、ジョシュアが困惑した様子を浮かべる。

 後々改めて考えた結果、まあ人格がバドス君の時は優しくしてあげてもいいかなと思えるようにはなった。

 彼は彼で、凄く苦労してそうだし。


「おはよう」


 とりとめのない会話をしていたら、後ろから小走りにベントレーが近づいてきた。


「あっ、ベントレーおはよう」

「今日は割と遅いんだね」

「まあ、時間帯によって来る人の傾向を調べてみようと思い立ってね」


 どうやらベントレーの人間観察に拍車がかかっているようだ。

 そんなベントレーだが僕の顔を見た後で、アザーズの方をジッと見ていた。


「2人は何かあったのか?」


 鋭い。

 僕はともかく、アザーズに関してはいくら子供が主人格とはいえ多少は上手く表情を消せると思うのに。


「それが僕にも教えてくれないんだよー」


 ジョシュアが横で呑気に唇を尖らせているが、その横にいるアザーズがびっくりした顔をしていた。

 

「話したくないなら無理には聞かないが、変にこじれる前に相談位はしてくれ」

 

 こうしてみると、本当にベントレーは早熟だ。

 僕が目指すのはマサキのイメージで大人ぶるんじゃなくて、ベントレーを目指した方が良い気がしてきた。

 

***

「アザーズ君、ちょっといいかい?」


 その日の放課後、アザーズを呼び出すようにマサキに言われた。

 ちょっとギクシャクした感じでしこりのようなものを感じているのは、僕だけのようだ。

 マサキの切り替えの早さには、素直に感心してしまう。

 こういった部分を見ても、やっぱり僕がマサキになろうとしていただけで別人なんだなと理解して落ち込む。

 そういった感覚や感情すらも、とっくの昔に切り替えていたんだろうな。

 たぶん、僕を子ども扱いしだしたころから。

 色々と上手にやるマサキだけど、僕の扱いだけはあまり上手じゃないかもと思うと少しだけおかしかった。


「で、こんなところに連れてきて、なんの用かな? もしかして、その……仕返し的な……」


 少しだけアザーズの声が震えているのも、おかしかった。

 本当にバルドは、子供なんだと分かるくらいに。

 演技かもしれないという疑いは晴れないけど、だとしてもボロもいっぱい出ているからなー。

 向かった先は、人払いしたギルドの地下訓練場。

 そこにいるのは、ジャッカスとクロウニの2人。

 しかもアザーズを警戒して、完全装備。

 確かにこれは、警戒されても仕方ない。

 S級冒険者のジャッカスの要請なので、ギルマス権限でここは封鎖している。

 職員の立ち合いすらもない状況。

 

「うん、そうだな」


 ここでマサキと交代。

 今回は僕の意識も体の中にある。

 だから普通に肉眼で見たのと同じように、状況が分かる。

 特等席だ。

 とはいえマサキが何をしようとしているのかは、分からないけど。

 

「チッ!」


 すぐにこっちの人格が入れ替わったのを察知したアザーズが、僕から一瞬で距離をとる。

 中身は……違う人っぽいな。

 離れたと同時に、手に剣のようなものを出していた。

 いや作り出したのかな?

 流石に、ジャッカスとクロウニ以外は帯剣してなかったし。

 それはアザーズも一緒だ。


(ごめんマサキ、やっぱりあっちに行く)


 最初は特等席だと思っていたけど、一瞬で視界がグルリと回ってアザーズの背後にマサキが回り込んだと気づいたときに、少し気持ち悪くなった。

 自分の意識で動かしてない体から見える景色が、あまりに高速移動を続けられると吐くかもと思ったから。


(精神体に吐くようなものなんか無いだろう。空っぽなのに)

(エクトプラズム……とか?)


 呆れ果てたといった感情が伝わってきた後、すぐに管理者の空間に送り込まれてた。


(そこから動くなよ! 何があってもだ)


 同時にマハトールとカブトとラダマンティスが周りに。

 大顎も体を巨大化させて、僕の周りに蜷局を撒くように包み込んでくる。

 何を警戒しているのかと思ったら、すぐに分かった。

 目の前におじいさんが現れたと思ったら、壁まで滑るように吹き飛ばされていた。


 天井に張り付いてた土蜘蛛が糸を飛ばして、グルグル巻きにする。

 完全に気配を消していたから、気付けなかった。

 天井のど真ん中に張り付いていたのに。


***

「ふーん……やっぱり俺の方が上か」

「流石、お気に入りだな」


 とりあえず一人ほど管理者の空間に飛ばせたが、一体何人が入り込んでいるやら。

 目の前で狼狽えているアザーズを見て、溜息が出る。


「くそが!」

「っと、遅いな」


 すぐに迫ってきて突きを放ってくるが、ギリギリで躱して左手をアザーズの腹に当てる。

 !


「馬鹿が! 引っかかったな!」


 手が触れるか否かのタイミングで、一気に加速して俺を飛び越えて出口に突っ走るアザーズ。

 とりあえず、ここから逃げることを選択したか。

 だが……


「どけ!」

 

 ジャッカスの払った剣を滑るようにして躱したアザーズが、クロウニを蹴り飛ばすように回し蹴りを放った。


「っ! なんて硬さだ!」

「どうぞ、お戻りください」


 しかしガードもせずに脇腹に蹴りを受けたクロウニは、特に気にした様子もなくアザーズを掴んで俺の方に投げ飛ばす。

 うーん、あいつあんなに頑丈だったか?


「このくらいでダメージを受けてたら、私の受けている訓練では体がいくつあっても足りませんよ」


 俺の疑問が分かったのか、クロウニは服を手で払いながら苦笑いを浮かべていた。

 えー……そんなに、厳しいのか?

 マハトールの訓練じゃあるまいし。


「あー……彼の訓練なら今の私でも、一日に何回も死ねますが」


 そうか……それでも、マハトールの訓練は異常と思えるレベルなのか。

 とりあえず。


「もう一人っと!」


 アザーズの頭に触れて、引き抜くように手を引く。


「くっ、くそがぁ!」


 そんな声ととともに、アザーズの容姿がまた変わる。

 今度は、いつも人を食ったようにした態度の女性か。


「あらぁ、マルコちゃんおこなの?」

「いーや、俺がムカついただけだが? とは別に、あんたらを助けてやろうと思ってね」

「その考え……嫌だわ。あいつらみたいで……」


 あいつらってどいつらだ?

 善神か? ノーフェイスか?

 どっちにしろ……


「それは傷つくな」

「調子に乗らないでちょうだい!」


 おお、さっきの2人と違って魔法特化か。

 とはいえ……

 氷の槍がいくつか飛んできたが……


「【守護王の盾(イージス)】!」


 カブトの持つスキルで盾を呼び出す。

 そして全ての槍が盾に吸い込まれるように消えていく。

 なかなか、優秀な盾だ。


「調子に乗っても許されるほど、強いんでね」

「くっ、この依怙贔屓が過ぎるわよ!」

「お前らが可愛げが無さすぎたんだろう」


 とりあえず、一瞬で目前に移動して顔を掴むと。

 この人格も引き抜く。

 

「ごめん! 待って!」

 

 とここで、いつものアザーズの顔が出てきた。

 こいつも引っこ抜くか?

 そしたらどうなるんだ?


「もう残ってるのは、何考えてるか分かんないのと、平穏を望んでいる人だけだから」


 いやいや、何考えてるか分かんないって、危険人物だろ。


「大丈夫! 大丈夫だから! これ以上減らされたら、何もできなくなっちゃう」

「ん? 何かするつもりだったのか?」

「いや、そうじゃなくて、日常生活での話だよ」


 まあ、本気で焦ってるみたいだからこのくらいにしておくか。

 しかし、俺の左手なんでも吸収できるな。

 これ……ノーフェイス対策にならないか?

 思わず空を見上げる。

 どこまで俺に頼る気だったんだ?

 こんな、反則級の左手を用意してまで。

 むしろ、この能力ができたから、俺を用意したのか?

 あー……自分の存在や起源まで疑わしくなってくるわ。

 若干、嫌な気持ちになりながらマルコと交代する。

 あっちに飛ばしたやつらの、おもてなしをしないとな。

 なんか大顎が、飛ばした女性人格の頭をずっと甘噛みしてるって報告入ってるし。

 ジョウオウが、チクチクやってるとも。

 物理的に。

 憂鬱だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忙しすぎてんあろう全然読めて無かったらご褒美来とるやんけ!ひゃっほー
[良い点] うおおおおー! 久しぶり!
2022/08/15 20:16 退会済み
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