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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第36話:マルコとして

「じゃあね、今日は色々と充実してたねー」

「送っていただき、ありがとうございます」


 ソフィアの家に、エマとソフィアの2人を送り届けて帰路に。

 ベントレーとジョシュアは、それぞれ迎えが来ていたのでそのまま馬車に乗って帰っていったけど。

 チラリと横を見る。


「で、どこまでついてくるつもり?」

「そう、邪険にしないでよ」


 アザーズが横を何食わぬ顔で歩いているのを見て、溜息を吐く。

 僕にも迎えが来たらよかったのに。

 ローズは、完全に空気になりながら後ろをついてきているけど。


「少し話をしないかい?」

「家は?」

「あってないようなものさ」


 そう言って寂し気な表情をされると、ここでじゃあねと言えない。

 そんな自分が嫌だけど、嫌いじゃない。

 仕方ない、付き合うか。


「ふふ、それにしてもヘンリーって子もなかなか面白い子だね。あれで、ラーハット伯爵の跡継ぎなんでしょ?」

「よくご存知で」

「君の交友関係に関しては、色々と調べさせてもらってるからね」


 ゾッとしないな。

 これらの中でも僕のアキレス腱になりうるところも、多々ある。

 人質を取られたような気分だ。


「そう不機嫌そうにしないでよ。君のことをよく知るために調べただけだから」

「あまり良い気はしないかな」


 少し距離を取る。

 あからさまなことはしないとは思うが、警戒しすぎるということもないだろうし。

 しかし、独自の伝手でもあるのか。

 それとも……あぁ……


「嫌だなあ、ただおしゃべりしながら色々と聞いただけだから」


 やっぱりノーフェイスと同類か。

 僕の周りから、色々と情報を得たのだろう。

 得意の印象操作や、記憶改善を使って。


「あんまりやりたくなかったんだけどね」

「どの口が」


 ちょっと楽しそうな表情なのが、余計に腹立たしい。

 

「いいよね、友達がたくさんいて」

「君だっているじゃないか……その顔の裏に」

「ふふ、酷いな―」

 

 つい棘のある言い方になってしまった。

 落ち着かないと。

 完全にアザーズのペースに巻き込まれている気がする。

 深呼吸をしよう。


「本当に12歳? 年相応には見えないね」

「まあ、中身はおっさんだからね」


 とりあえず適当に話を合わせて……


「それは、マサキさんの話でしょ?」


 っ!


「君は、マルコ君じゃないのかな?」


 なんて、嫌なことを言う。

 僕の中にも、マサキはいるのに。


「マサキさんはマサキさんでちゃんといるのに、君はマサキさんのつもりなのかな?」

「いや、だって同じ人物だし」

「本当に?」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、こっちを覗き込んでくるアザーズに気持ちをかき乱される。

 せっかく落ち着こうと深呼吸をしたのに、すぐに息を詰まらせてしまった。

 なんだろう、心がざわつく。


「それにマルコ君として、今世を楽しんでいるよね?」

「それは、そういう風に役割を「彼はそうは思ってないんじゃないかな?」」


 何が言いたいんだこいつは。

 だめだ、気持ちを落ち着けないと。

 ローズが緊張しているのが、伝わってくる。 

 くそっ、聞いてないフリしてろよ。

 だめだ、八つ当たりだ。

 ローズを睨んでも仕方ないだろう。


「無理に大人ぶらなくても良いんじゃないかな?」

「別に、無理なんて……」


 なんでこんなことを。 

 いや、2人きりになるタイミングで話を振ってきたんだ。

 気を遣っていないこともないと言えるけど。

 なんだ?

 何が目的だ?


「一生懸命考えて、可愛いなあもう」

「今の君だって、年相応に見えないよ?」


 楽しそうにこっちを見てくるアザーズを睨んで、そっけない言葉で返す。

 

「そりゃあ、今は違うからね? 私は、貴方よりもずっと年上だから」

「それは、マサキよりも?」

「生まれてからの年月だけでいけば、そうね。でも、そこまで表に出てないから、彼よりは若いつもりよ」


 女だ。

 アザーズの中の、女性人格か。

 

「ずっと貴方のことを見てたけど、どこか友達を見下しているというか……保護者にでもなったつもりなのかしら?」


 心臓が跳ねる。

 いや、そんなつもりはない。

 みんな、大事な友達だ。

 見下したりなんて。


「妙に大人ぶってる時があるけど?」

「何も言ってないだろ?」

「ムキになっちゃって。そういうところは、マサキさんとは違うみたいね?」

「お前に、マサキの……僕の何が分かるんだよ!」


 どういうつもりだこいつ。

 マサキ……見てないの?


「そんな不安そうにしないでよ。それに、困ったら彼を頼るのはどうかと思うわよ?」

「うるさい! マサキは僕なんだから」

「都合が良いことを言うのね。普段は落ち着いていて大人びて見えるけど、案外中身は年相応で安心したわ」


 気持ち悪い。

 男の子の外見で、女の口調で喋るとか。

 

「ふむ、やはりまだまだ童じゃのう。主らのの言う通りじゃったわ」


 口調と声音が急に変わる。

 今度は、しわがれた老人の声だ。

 この感覚、どこかで。

 ローズがどう対処したらいいのか、困っているのが視界の端に移る。 

 とりあえず手を振って、何もするなと伝える。


「なんなんだよお前ら! 何が言いたいんだよ!」

「お主、今のままじゃノーフェイスには太刀打ちできんぞ?」


 はあ? 

 言ってる意味が分からない。


『マルコ』

「マサキ!」


 怒り、不安、恐怖、いろんな感情が綯い交ぜになって押し寄せてくる。

 そんな中でマサキに声を掛けられて、ようやく気持ちが少し落ちつく。

 安心できる、そんな頼りになる声。

 

「ふふふ、ふはははは! マサキ殿と同一人物だと言い切った割には情けない。結局は、保護者頼みのただの童か」

「うるさい!」

『変われ、マルコ!』

「いやだ!」


 ここでマサキと変わったら、こいつらに余計に馬鹿にされる。

 そんなこと、できっこない。


『強制的に変わるぞ』

「やめて! 絶対に嫌だ!」

『だが』

「マサキ殿も聞いておられるのだろう? ならば、しばらくわしらの話に耳を傾けてみぬか?」


 こいつ……

 いや、大丈夫だ。

 マサキの声に焦りは無かった。

 ということは、脅威はないということだ……たぶん。

 本当に拙い状況だったら、有無を言わさず身体の主導権を取られていただろうし。


「その前に、こやつから話があるから、聞いてやってくれ」


 アザーズがそう漏らすと、雰囲気がまた変わる。

 さっきまで一緒にいた彼っぽい。


「ごめんね……今日は楽しかった。でも、これから楽しくない話をすることになるんだ」

「君は」

「この身体の主人格……バドスが本名だよ。君たちと一番年齢が近い人格だと思ってくれたらいいよ。あまり友達もできない人生だったから、学校に通えて君たちと出会えて楽しんでるのは本心だから」


 なんだろう、さっきまでの剣呑な雰囲気や、こっちを見下した雰囲気がまるでない。

 彼は本当のことを言っている気がする。


「少しだけ、彼らの話を聞いてあげて欲しい」

「ふう……うん、良いよ」


 バドスと話して、ようやく気分が落ち着く。

 さてと、誰でも来い。

 

「すまんの。じゃが、どうしても気になってのう……お主が、いまだにマサキのつもりでいることがのう」

「それは、そうなんだからいいじゃん」

「しかし、それは果たしてお主のためになるのかのう? 肉体に宿った新たな精神体から、マサキとしての意識を抜いたのは……肉体年齢に引っ張られて精神年齢が若年化するお主のためじゃないのか?」


 確かに、そんなようなことを言っていた。 

 この世界を楽しむためには、マサキであることが邪魔をすると。

 それでも、僕のマサキとしての部分を全部持って行ったわけじゃ……


「お主のマサキとしての意識は、お主が知っているマサキを演じているだけではないのか? すでにお主のなかにあるのは、マルコになって知った記憶としてのマサキという人物だけのように見えるが」


 ……本当に嫌なことをいう。

 それじゃあ、僕はなんなんだよ。

 誰だっていうんだ!


「何が言いたいんだ!」

「お主の中に垣間見える傲慢さを消したいのじゃよ。そう……マサキという人物を真似て大人ぶって友人を子ども扱いする意識を、早いところどうにかすべきじゃと感じたからのう」

「お前に僕の、マサキの何が分かるんだって言っただろう! 知った風な口を利くなよ!」

「マルコ様……」

「ごめん」


 思わず怒鳴ってしまったため、ローズが申し訳なさそうに声を掛けてきた。

 周りにあまり人はいないとはいえ、目立ってしまった。


「確かにそうやってすぐに自分を抑え込めるのはいいことじゃ。じゃがのう……お主がマサキ殿を真似ている間は彼の下位互換にすぎぬ。ノーフェイスとの闘いじゃ何の役にも立たん。結局、マサキ殿が一人で戦うことになるだけじゃと思わんか?」

『マルコ……お前は、マルコだ』

「違う、違わないけど違う! 僕はマルコでマサキだ」

『違う、お前の中に俺は殆どいない。もう消えかかっているんだ』

「じゃあ、僕はなんなんだよ! マサキじゃなかったら、僕は……」


 マサキまで変なことを言い出した。

 僕はマサキの生まれ変わりで、この世界を救うために転生したのに。


『言っただろう。お前はマルコだって』

「お主はマルコじゃ。マルコという人間なのじゃよ」

「なんで、急に」

「ノーフェイスは……マサキだけでどうにかできるほど、甘くはない」


 もう嫌だ。

 何を言ってるのか、さっぱり分からない。

 何も考えたくない。

 

『お前の本心はどうなんだ? ベントレーや、セリシオ、エマたちと一緒にいるときのお前は? 何よりもアシュリーに対するお前の気持ちは……俺のものか?』


 あっ……

 いや……

 

「ズルくない?」

『ふんっ、前にも言ったが人生やり直すなら、俺ならアシュリーじゃなくてソフィアを選ぶよ』

「ロリコン」

『年相応の相手だ。それに、俺は光源氏も悪くないと言ったろ?』


 マサキがアシュリーに対して、恋心なんか抱くわけないし。

 それは僕が、年相応の精神年齢だからだ。

 でも、マルコとしての経験を積んだ肉体年齢相応のマサキの精神だとずっと思ってたのに。

 

「まあ、しばらくは悩みも尽きぬと思うが、今一度自分を見つめ直して、正しく人生を謳歌するのも悪くないと思うぞ」

「……」


 こいつに言われると、微妙に腹が立つのはなんでだろう。


『本能で分かるんだな』

「言ってる意味が分からないよ」


 マサキが感心したようなことを言ってたけど、意味が分からない。

 それからバドスに戻ったアザーズは、ひたすら謝り倒してくれた。

 ズルいよね。

 バドスに謝られても……あの女の人とおじいさんに、色々と言われたわけだし。

 許さないわけにもいかないし。


 許すよと言ったら、心底ほっとした表情を浮かべられてなんとも言えない気持ちになった。

 そのあと、空を睨んでいたのはなんでだろう……


***

「くそじじいが……そういうことが、できるならノーフェイスもなんとかできるんじゃないのか?」


 神殿の玉座でさっきのことを思い出して、思わず肘置きを殴りつけてしまった。

 周りに誰もいなくてよかった……


 ガスターがビクッとしながら、申し訳なさそうに横切ったけど。

 きっと聞かれてないはず。


「あれはアザーズとは違う……私たちに対する悪意の塊のような存在さ。完全に途切れた存在だよ」

「聞いてたんですか?」

「まあね」


 それだけ言うと、一瞬だけ現れた邪神様の気配が消える。

 盛大にため息が漏れる。

 色々と、面倒なことになってきた。

 こういうときは、魔王城にでも行くかな。

 ミスリルさんとこでもいいし……

 なんか、癒されるというか……

 魔族が心の拠り所ってどうなんだろうね。

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