第35話:管理者の空間から
しかし、結構注目を浴びている集団だな。
上空から子供たちの様子を眺める。
いかにも貴族の子の、ゴテゴテとした集団。
といっても見慣れたものというか、そこは流石王都。
気を遣いつつも、気にしてない様子の町の人たちの動きに感心する。
都会だな。
ベルモントを思い出す。
混沌とした観光都市だな。
ラーハットほどじゃないが。
住人たちも、ずっと続く好景気に沸きあがっている。
全員が良い笑顔だ。
観光客の質もまちまちだが、それでもそれなりの秩序は守られている。
おもにジャッカスとその一味のお陰でもあるが。
自警団以上に、自警団だな。
陰ながら町を守っているとはいえ、それなり以上に有名になりつつあるらしい。
「あそこに寄ってみてもいい?」
「うん、別に良いんじゃないかな? 特に予定も決めてなかったし」
結局、これといった目的もないため、行き当たりばったりで町を散策するらしい。
といっても3年以上もいたら、そこそこ見飽きたりはしないのか?
しかし、ベントレーの人気は凄いな。
他にも学校の子たちが町を歩いているのをチラホラと見かけるが、皆一度はチラリとベントレーの方を見ている。
中には手を振る子もいるし、声を掛ける子も。
その子達一人一人に丁寧に返事を返すベントレーを見て、なんというか……
高等科に上がって身長も伸び、元々あった落ち着きもさらに磨きがかかっている。
それはモテるだろう。
下手したらセリシオやクリス達よりも。
いや、下手しなくとも事実モテているな。
それに比べて、うちのマルコと来たら……
注目はされているが、遠巻きに見られているというか。
高等科に上がって、他の生徒とさらに距離が空いた気がする。
といっても、一定数の需要はあるが。
強くて、ちょっと危ない男が好きな女性というのは、どこの世界でもいるんだな。
中身はまだまだお子ちゃまだし、実際はお坊ちゃんだけど。
「これ可愛い」
「へえ、とんぼ玉か。王都にも入ってきてるんだな」
「まあ、真似しようと思えば、真似できなくもないからね」
「とはいえ、なんだろう少し濁ってる気が」
ジョシュアの言葉が聞こえたのか、ソフィアが少し嫌そうな顔をしている。
そういうのは、思っても駄目だぞ。
まあ、そこら辺は商人らしく、良い風に言い換えないと。
例えば……モヤが掛かっていて幻想的な雰囲気が……苦しいな。
うん、濁っている。
粗悪品だ。
ふっ……良い商品を扱えば済む話だな。
「マサキおにい! なに見てるの?」
「クコか、いやちょっとマルコの様子をな」
クコが来たので膝に乗せてやる。
だいぶ、ずっしりと来る。
それでもまだまだ膝の上に、すっぽりと収まるくらい。
可愛い。
このまま大きくならなければいいのに。
といっても、成長促進の水をあげないわけにもいかないしな。
コップ一杯で一日の時間変化が身体に現れる、ご都合主義的な水。
本気で隠そうかと思ってしまうこともあるが。
ロリババア化したら嫌だから、やめとこう。
「いいなあ、おかいもの楽しそう」
クコが耳をぴくぴくさせながら、画面に食い込むように見ている。
そうだな、そろそろまた子供たちを連れて、旅行に行ってもいいな。
それにしても、言葉がだいぶ上手になってきた。
嬉しいような、寂しいような。
うん、子供の成長を素直に喜ぶ場面だなここは。
「クコは、他の子と遊ばなくてもいいのか?」
「うん、あとでキコちゃんとガリュウくんとあそぶやくそくしてるよ。でも、お手伝いがあるみたいだからもうすこしあと」
そっか。
キコというのはオーガの子供で、クコと同じくらいの年の子だ。
名前が似ているからか、意気投合して結構一緒にいることが多いらしい。
そしてガリュウというのもオーガの子供で、どうやらキコに気があるとのこと。
少しかっこつけたがりのところがあるが、実際は臆病で怖がり屋さんでもある。
クコやキコの前では強がって、そういった様子を見せることはないが。
微笑ましく思えるな。
「わあ、あれおいしそう」
「土蜘蛛が作るお菓子の方が、美味しいと思うぞ?」
今度は、屋台でチュロスみたいなお菓子を買っているのが見えた。
マルコが支払っているが、そういえば食べ物は家格が上の子が出す。
それ以外は、店を選んだ子が出すといったルールだったっけ?
ということは、発案者はマルコか。
しかしなぁ……
「うへぇ……甘いうえに、食感が」
「私は、美味しいと思うけど? 本当にマルコって舌が肥えてるというか贅沢というか」
「王都だと、かなり人気のお菓子なんだけどね」
マルコが変な顔をしている横で、エマとジョシュアが普通に食べているが。
ぬれチュロスとでも表現したらいいか。
ぬれおかき的な。
歯ごたえがまったくなさそうなうえに、噛み切りにくそうだし。
なによりこれでもかとシナモンシュガーをまぶした上からさらに砂糖をかけていたからな。
砂糖を多く使うほど贅沢品という風潮は、いまだに根強いか。
「ベルモントの料理に比べたらそうなのかもしれないけど、これでも贅沢品なのよ」
エマがプリプリと怒っている。
まあ貴族の子供たちもよく通るから、屋台でもそこそこ値段の張る屋台もある。
作りもおしゃれで、少し高級感を演出した造りというか。
金の装飾が施された軒や、奇麗な色に染められた布を壁にあしらったりと。
まあ金はメッキだが。
「こんど俺が作ろう。これならレシピも知っているし、もう少しマシなものを作れると思うんだが?」
「ベントレーあんた」
一口食べた後で紙に包んでそそくさと鞄にそれをしまったベントレーを、エマが変な物を見るような目で見ている。
「お菓子まで作れるの? 何を目指しているの」
「ふむ……それが見つからないから、こうして色々なことを見て学んで覚えているんだけどね。目下のところ目標を見つけることを目指しているといえるか」
エマの言葉を受けて、ベントレーが困ったような溜息を吐いて視線を逸らすと、目を細めて遠くを見ているような感じで自嘲気味に笑みを浮かべる。
それだけで、隠れ見ていた周囲の女性がクラリとよろめいていた。
本当に……イケメンだなおい!
うちのマルコにもう少し分けてくれないか?
「それは僕も興味があるかな?」
同じようにチュロスもどきを一口食べて懐にしまったアザーズが、ベントレーに声を掛けている。
女性陣の勢いに押されて影が薄くなっていたが、ここにきてどうにか話の輪に入ろうと頑張ったようだ。
やはり主人格は、年相応の子供の精神年齢なのか?
どこかマルコ以外には遠慮している節が見られるし。
「そうだな、お近づきの印にアザーズにも御馳走しよう。といっても素人の手慰みだ、あまり味に期待しないでもらえると助かる」
「いやいや、作れるだけでも凄いって」
特に他人に対して壁を作らないベントレーの柔和な雰囲気に。アザーズが安心したのか声を弾ませている。
他の人格には一癖も二癖もありそうなのから、腹に一物抱えてそうなのもいそうだが。
この人格だけは見たままを信じてもいいかもしれないな。
「またクコは主の邪魔をして」
「じゃましてないもん! おにいがおいでっていってくれたもん」
クコの頭に腕を置いてその上に頭を乗せてタブレット見ていたら、洗濯を干し終わったトトが入ってきた。
それからクコを見て、顔を顰める。
邪魔というか、なんというか。
特に仕事をしてるわけじゃないから、邪魔でもなんでもないんだよな。
最近はトトの方が、俺よりもよっぽど働き者だし。
それが仕事だと言われても、娘が家事を仕事と割り切るのは複雑な気持ちになる。
土蜘蛛が母親代わりに色々と教えたりもしているが、別にトトがやらなくても虫たちにやらせてもいいわけで。
かといって仕事を奪ってしまったら、トトが悲しむのも分かっている。
彼女はここに居ても良い証明が欲しいのだ。
安心してここにいるために、対価として家事を頑張っているのだ。
だから、それを無下にすることはできない。
できないんだけどなー……もう少し年相応に我儘をいったり、自由にしても……
「もうそういう年齢は過ぎたかと思います……いつまでも子ども扱いされても」
トトが困ったような表情を浮かべている。
どうやら、考えていたことがバレたらしい。
まあ、いつも思ってることだし、言葉にもしてるから分かるだろうけど。
「あっ、マサキにい! 土蜘蛛は?」
今度はマコが部屋に飛び込んできた。
凄い勢いで。
「こら、マコ!」
トトが怒鳴っているが、おかまいなしに俺の前に立ち止まってこっちを見上げてくる。
「土蜘蛛なら、さっき厨房の方にいたぞ?」
「分かった」
返事を聞くやいなや、すぐに土蜘蛛のいる厨房の方へと走っていった。
「待ちなさい! そんな汚れた格好で厨房にいかないの!」
「土蜘蛛とお菓子作る約束してたのに、訓練が長引いちゃって」
「だからって、その恰好は無いでしょう」
確かにな。
たぶんあれじゃ、土蜘蛛に外に放り出されるな。
「マサキ様!」
「どうした?」
「もう!」
マコが土蜘蛛に怒られる前にと左手でマコの服や体についた汚れを吸収すると、トトに俺が怒られた。
解せぬ。
「お菓子作り? クコも!」
あっ……
クコがお菓子の魅力に負けて、マコと土蜘蛛の方に行ってしまった。
心地よい重みと温もりが膝から消えて、ちょっと寂しくなる。
目の前にはプリプリと頬を膨らませているトトが。
「来るか?」
「行きません! 私は、もう子供じゃありません!」
膝を叩いてトトを誘ったら、余計に怒らせてしまったようだ。
しかしおかしなことをいう。
「俺の子供は、いくつになっても俺の子供じゃないか。なら、いいんじゃないか?」
「いくつになってもマサキ様の子供……」
そんなショックを受けるようなことか?
逆に俺の方がショックなんだけど……
「いや、そういうことじゃなくてですが……クラスアップというか、ジョブチェンジというか……そういった、希望が」
なんだろう、獣人の子は親離れしたり歳をとると何か変わるのか?
そんな話は聞いたことないが。
「マサキ様って、こういう方面に関しては唐変木というか……」
考え込んでいたら、なぜか罵られたのだが。
唐変木とかよく知ってたというか、いや翻訳機能が優れているだけか。
こんなピンポイントで、小難しい言い回しの悪口に変換するとか。
唐の変わった木偶人形が語源だったり、遣唐使が持ち帰った変な木とかって語源の言葉が異世界で普通に使われてたらびっくりするわな。
この世界だと、どうなるんだろうな。
魔国変木とかかな?
長いし言い辛いな。
「いつまでも私は、マサキ様の子供ですか?」
「そうだよ。トトはいくつになっても、俺の大事な大事な可愛い娘だ」
「マサキ様の朴念仁!」
そういって目の前から走り去っていったトトに、思わずポカーンとした表情になってしまった。
なぜ、俺が怒鳴られないといけないのか。
難しい年ごろなのかもしれない。
思春期や反抗期といった、心の成長のタイミングなのかな。
「違います!」
遠くに居ても、俺の考えていることが分かるとは。
血は繋がっていないが、流石は俺の娘だな。
「もー!」
しかし、気難しいことには変わりないか。
レビューを頂きました!
本当に嬉しい(*´▽`*)
投稿日が土曜日なので、月末にレビュー拝読させていただいたのですが、すぐに御礼申し上げられず申し訳ありません。
モチベーション、アップアップです(≧▽≦)





