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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第15話:ベントレー・フォン・クーデル

 結局頭の怪我は


「朝から元気ですねマルコ君。でも駄目ですよ? ちゃんと治療しないと……朝礼が終わったら衛生の先生のところに行ってきなさい」


 というマーク先生の有り難い申し出のお陰で、1限目の前に包帯を取る事が出来た。

 蝶達に治療してもらうという事も考えたが、自分の能力の事はまだ誰にも言って居なかったので、自然な言い訳が出来るに越したことはない。


「流石ベルモントですね。優秀な方がいるようで、何よりです」

 

 と衛生師の先生である、ジョゼ先生が褒めてくれた。

 20代前半くらいの、胸の大きな女性の先生だった。

 垂れ目で、優しさと色気を兼ね備えたような包容力豊かな赤い髪の先生に、もう1人の僕のテンションが上がっていたが、ちょっと歳がね……


 学校では、ヘンリーとジョシュアと一緒に過ごす時間が増えて来た。

 そこに、エマとソフィアも加わる。

 さらに、セリシオやディーン、それから嫌そうな顔をしながらもクリスまで参加するから権力はさることながら、人数でもクラス内最大の派閥となりつつある。


 校内には貴族科のみならず他の学科の貴族も集まれるサロンもあるが、僕が行く気が無いのでヘンリーも行ったことが無い。

 まあ、彼に1人で行く勇気は当然無いだろうし。

 ディーンとジョシュアは足繁く通っているらしい。

 先輩方もいるので、他の貴族たちとの顔つなぎにもとの事らしい。


 セリシオも僕が行かないならつまらんという理由で、たまにしか行って無い。

 彼の場合は、彼に顔を繋ぎたい者達が多くいるから、たまにでも顔を出さないといけないらしい。

 クリスは常にセリシオの傍にいるので、同じ程度だ。


 エマはそういった面倒くさい事は嫌いらしいのだが、甘いお菓子もあるとのことでソフィアが好んで利用している。

 それで仕方なく付き添いで行っているらしい。


 エマが行かないとソフィアも1人ではいけないらしく、顔を曇らせながら帰ると言っていたのを見てエマが折れた形だ。


 僕に対して好意的なクラスメイトも増えて来ているようで、ベントレー以外からはそれといって嫌な視線を向けられる事はかなり減った。

 ただ、それでも一緒に居るヘンリーやジョシュアに対して面白く思っていないらしく……


「ジョシュアの奴、うまいことやりやがって」

「流石、ゴマすりマックィーンの子だな」


 なんて声が聞こえてくる。

 校内で適当に遊ばせている蝶達からの報告だ。


 一応蟻と蜂も放っているが、蟻は校舎内に入れないし、蜂は見つかっただけで子供達は遠ざかる。

 こんなに可愛いのにとは、口が裂けても言えないけど。


 俺を介して、セリシオやエマと話をしているのが気にくわないらしいが、だったら君たちも話しかけてくればいいじゃんとしか思わない。

 そもそも、ジョシュアは元々2人とも知り合いだったみたいだし。

 

 やっかみっていうのは仕方が無い事かもしれないけど、友人を悪く言われるのはあまり心地よくない。

 良くないけど、マックィーン家の評判を考えたらなんとも言えない。


 ヘンリーに至っては、クラス外の子爵家の子や男爵家の子達からもあまりよく思われていないらしい。

 靴を隠されたりしたこともあったが、うちの()がヘンリーが登校する前にこっそり戻しておいてくれたから、誰も気付いていない。


 ただ、クラス内でも賢い子達はヘンリーを値踏みしつつも、話しかけたりはしている。

 そうじゃない子達は、そもそも貴族科には子爵家でも選ばれた子しか入れないという事をよく考えた方が良いと思う。

 どうすれば入れるのかというと、その貴族科の彼等の親が推薦するという事も重要な要素の1つだ。

 今や海産物で多額の利益を上げているラーハット。

 寄子にすれば、献金も期待できるだろう。

 それに、王都で食の素材としての地位を大きく上げた、ラーハット産の海産物も安く手に入るかもしれないとなれば、大きなステータスにもなりえる。

 美食外交なる言葉もあるように、もてなした貴族に最高級の魚料理を提供できれば、自身の力を強く見せる事も出来る。


 まあ、子供達にはそれは語られないんだけどね。

 貴族として人を見る目を養う事も大事らしく、学校に通う生徒に関しては親から他の子の情報は伝えないらしい。

 中には子供を使って仲を取り持とうとする親も居るけど、時たま勘違いした子が高圧的に子分になるように強要して、返って関係悪化に繋がったりという事もあるらしい。


 ヘンリーの親である、ガンバトールがどれほどその評価を上げているか知らない子からすれば、ポッと出の子爵の子が上級貴族に混じって楽しそうにしているのは妬みの対象になる。

 廊下ですれ違う子達も、基本的には貴族科の生徒には道を譲るのだが、わざとヘンリーの場合はギリギリを通り過ぎたりする。

 とはいえ、肩をぶつける程の度胸は無いらしい。


 そんな肩身の狭い思いをしながらも、ヘンリーは気丈に頑張っている。

 だから、僕もエマもディーンも彼を応援しているのだが……

 それすらも、本心ではないと思っている連中の多い事。

 嫌になる。


 そんな中、事件が起こる。


「ごめんヘンリー! 大丈夫か?」


 クラスメイトの1人、フルーター伯爵家の子供のモルダーがヘンリーの食事に水をぶっかけるという事が起こった。


「はは、大丈夫だよ」


 目の前の料理は、見た目にも台無しになってしまったのは丸わかりだ。

 モルダーが、本当に申し訳なさそうにしているので彼に悪気が無かったのは分かる。

 事実、即座に後ろを振り向いて、1人の生徒を睨み付ける。


「お前、何したか分かってるのか?」

「いやあ、ごめんごめんモルダー。つい、足が長すぎたみたいで」


 そう言ってニヤニヤと笑っているのは、ヘンリーをいつも睨むようにしているベントレー。

 ベントレーの実家のクーデル家と、フルーター家は元々仲が悪い。

 何度か小競り合いをしているくらいに。


 クーデルとフルーターの領地は隣あっており、その境界線上にある小山から銀が発掘されてからお互いが自領だと主張しているからだ。

 現状では本当に中間にあるので、それぞれの麓から掘り進めて折半しているが若干フルーター家側の方から多く銀が採れる事で、何かにつけてクーデル側がいちゃもんをつけているのだ。

 というか山を頂上から真っ二つに割って境界線にするなよと言いたい。

 まあ、領地を分割した当時は山から銀が発掘されていなかったことと、クーデル側、フルーター側それぞれの麓に人が住んでおり彼等が山の恩恵を預かっていたからそうなっただとか。


 そんな親の関係が子供達にも影響しており、事実この2人も仲が悪い。


「お前が足かけたからこんな事になったんだろ? お前もヘンリーに謝れよ」

「言いがかりつけんなよ! それだったら、俺の足を蹴ったお前が俺に謝れよ」


 ちなみにモルダーは、王都で魚を食べてからラーハットには一目置いているらしく、ヘンリーに対しては普通に接してくれるクラスメイトの1人だ。


「言い掛かりは、お前んとこの専売特許だろ?」

「あん? うちの家を馬鹿にすんのか?」


 すでに被害者のヘンリーそっちのけで、モルダーとベントレーが火花を散らしている。


「モルダー、僕は大丈夫だから」

「お前が余所見してぶつかってきたくせに、ほら優しいヘンリーもそう言ってるんだし謝れよ」

「お前……」


 モルダーが顔を真っ赤にして、ベントレーを睨み付ける。

 これは良くない。

 下手したら殴り合いに発展しそうな2人に、周囲も一部緊張している……が、多くの面々が楽しそうに見ている。

 

「ああ、ごめんね。この位置からだと、ベントレーが足を出したように見えたんだけど?」

 

 嘘だけど、仕方なく証言する。

 現に、蜂が見ていたのを報告してくれたから間違いはない。


「ああ? マルコまで言い掛かりつけてくんのか?」

「ほらっ、マルコが見たって言ってるぞ! お前も謝れよ!」

「チッ……」


 2対1になったことで、旗色が悪くなったことを察したベントレーが忌々し気に舌打ちをするとこちらを睨み付けてくる。

 おじいさまと比べたら、ウサギに睨まれている程度だけどあまり好い気はしない。


「ヘンリーはどうなんだよ?」

「いや、僕は別に……」

「まあ、魚野郎なら水が多く入ってるくらいが丁度良いだろうし、仮に俺が足を出したとしても許してくれるだろ?」

「えっ?……うん……」


 この野郎……


「ちょっと、あんたねー」


 ベントレーの余りの言い種に、エマが口を挟んでくる。

 が、流石に僕だって怒る時は怒る。

 友がここまで馬鹿にされていて、許せる訳はない。

 というか、それもだけど加えて食べ物を粗末にするのは、もっと許せないかな?

 

 ただでさえ、食料事情があまり宜しくないこの世界。

 ここにある料理なんて、一生食べられない人達ばかりだ。

 しかも、食材は領民の人達の税金で賄われている。

 まあ、一部貴族からの寄付もあるが、それらは学校の運営や設備投資に当てられている。


 前世が兼業とはいえ、農業も少しやっていたからか、食べ物を粗末にしたことに許しがたい気持ちが沸き上がって来る。


 取りあえずエマを抑えて、前に出る。


「ふーん……あのさあ? ここの料理に使われてるのってさ、皆の領民の方達の税で賄われてるんだよね」

「あん?」


 言いたい事が分からないのだろうか?

 馬鹿っぽいし。


「この野菜も、肉もさ……彼等が頑張って作ったものだよ? それをここの料理人の人達が彼等でも食べられないような上等なものにしてくれてる」

「領民が領主の息子に美味いもん食って貰えて、満足だろう」

「それを台無しにしたんだけどね……君が」

「何が言いたいんだか、さっぱり分かんねーわ」


 言いたいことは分かってるはずなのに、とぼける彼に怒鳴りそうになるのをどうにか堪える。

 取りあえずベントレーの元まで歩いて行くと、彼の食事を取り上げてヘンリーのと交換する。


「何しやがる!」

「君には、食べる価値が無いって事だよ」


 立ち上がってこっちに詰め寄るベントレーを、思い切り睨み付ける。

 土蜘蛛の威圧を借りて。

 一瞬背後に口を開く獰猛な蜘蛛の幻影が見えただろう彼が、顔を青くして後ろに下がる。


「所詮親が伯爵ってだけで、何の力も実績も無いボンクラが調子に乗るなよ?」

「……」


 正直、食事も満足に取れずに飢餓に苦しむこともあるこの世界で、食べ物を粗末にするとかまず許せない。

 それが友達を揶揄うためだとか、ぶん殴っても許されるのではないだろうか?

 うん、そうだ。

 もう、いっそぶん殴って暫く流動食しか食べられないようにしてやろう。

 そしたら、食事のありがたみも分かるはずだ。

 

 本当は殴るなんていやだけど、これも彼の為だ。

 彼の為だから仕方ないけど、許してくれるよね。

 そう思って拳に力を入れた直後、後ろからパチパチパチと拍手する音が近付いてくる。


「よく言ったよ、お坊ちゃん!」

「えっ?」


 そして、大人の男性の声が聞こえてくる。

 振り返ると料理服に身を包んだ、背の高い男性が立っていた。

 おそらく、この料理を用意した料理人だろう。


「それに引き替えそこの坊っちゃん……せっかく君たちに美味しく食べてもらいたくて、一生懸命作ったのに。そういう事するなら、君には二度とご飯は出さないよ?」

「うっ……」

「謝ってくれるかな?」

「……ごめんなさい」

「俺にだけ?」

「……ヘンリーも、悪かった」

 

 流石に食事が二度ともらえないとなると、困るらしくベントレーが素直に頭を下げる。

 その表情は、どこか青冷めていたが。


――――――

「だから言っただろう……後ろで殿下も睨んで居たぞ?」

「うっせー! くそっ、腹立つ!」


 ブンドに注意され、ベントレーが腹立ち紛れにゴミ箱を蹴飛ばす。

 周囲にゴミが巻き散らかされる。

 廊下に居た子供達が一瞬体を強張らせたあと、何事かと音と怒鳴り声のした方に視線を向ける。

 そんな周囲の子供達に、何を見てんだとばかりにだれかれ構わず睨み付けるベントレー。


 正直ブンドも、アルトも一緒に居るのが恥ずかしいと感じていた。


「エマ様にも睨まれたじゃないですか」

「言うなよ! なんでエマまであんな奴の事」


 アルトの言葉に、ベントレーが泣きそうな表情になる。

 というかだ……意中の人の目の前であれだけ分かり易く、嫌な奴を演じる事が出来るこいつは真性の考えなしだとしか言いようがない。

 アルトは敢えて分かり易く反省を促せるような言葉を探して掛けたのだが、それもヘンリーに対する妬みの言葉しか返って来なかった。

 本当に、この人駄目だなとばかりにブンドに目配せすると、ブンドも首を横に振るだけだった。


 そんな2人の気持ちを知ってか知らずか、当の本人はヘンリーのみっともない姿を見せればエマ様も愛想をつかすはずだとか、見当違いな事を呟き出した。


「おい、そこのお前! 片付けとけよ!」

 

 そうしてすぐに気を取り直して歩き始めたベントレーが、廊下に居た他の生徒に命令する。

 おそらく男爵家の子だろう。

 不満そうにベントレーを睨み付ける。 


「なんで僕が?」

「あん? なんだその目は? 俺はクーデル家のベントレーだぞ?」


 そう返されてしまっては、特には言い返すことはできない。

 家格が違いすぎる。

 とはいえ、あまりに理不尽な言葉に不満は隠し切れない。


「文句あるのか? お前も敵か? 奴の味方か?」


 奴が誰か分からないけど、クーデルの子にかかずらるのは得策じゃないと感じたのか仕方なく応じることにする。


「いえっ……すいません、すぐに片づけます」


 そうして八つ当たりされた子供が泣きそうな顔で頭を下げると、慌てて道を譲ってゴミを片付け始める。

 その様子を不憫そうな表情で眺めるブンドとアルト。

 

「くそっ、生意気な奴等が多くてイライラする」

「可哀想な事するなよ。アルト、手伝ってやれ」

「はい」


 同級生を付き人のように扱うブンドもどうかと思うが。

 だがそんな不満は一分も表情に出さずに、アルトが可哀想な男爵家の子供を手伝う。

 

「マルコは……やっぱり、手を出すべきじゃない」

「そんな事は分かってるよ」


 ブンドの言葉で、先ほどマルコに睨まれた時のことを思い出したのか、ベントレーが思わず身震いする。


「それもこれも、ヘンリーのせいだ」

「自業自得だろう……」

「もう良いよ! 俺はヘンリーに痛い思いをさせないと気がすまない」

「重症だな」


 これ以上は話にならないと、ブンドが立ち止まってアルトを待つ。

 その彼の視線の先には、周囲に当たり散らしながら廊下を進むベントレー。


「廊下に貴族科の先輩とか居ないかな? そっちに絡んだら面白い事になるのに」


 ろくでもない事を考えつつ大きく溜息を吐くと、ブンドはベントレーとの友達付き合いを真剣に見直すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 虫は蝶々以外視界に入っただけで泣き叫ぶ(絶叫)くらい 嫌いだけどうちの子たち可愛いわぁ…愛おしいぃぃ…
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