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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第32話:それぞれの心配事

「なんじゃ、今日はやけに動きが良かったが」

「だからと言って、少し張り切り過ぎじゃないですか? 腕がもう上がらないのですが」

「お主なら、魔法でどうにかできるじゃろう」


 くそ、じじいが。

 今日も勝てなかった。

 俺も強くなった自信はあるが、このじじいは別格というか、

 別の世界にいるんじゃないかってレベルの剣の技術に、ただただ舌を巻くしかない。

 いつかは超えて見せると思うし、スキル込みなら勝てるという思いはだんだん確信に近づいている。


「魔法で……ですか」

「朝傷だらけの状態で学校に送り込んでも、返ってくる頃には治っておるしのう」

「……まあ」


 過保護な蝶たちのお陰というか。

 傷をそのままにするのを、彼、彼女たちはよしとしないからな。

 傷跡が残ったり、痣やしみになるのを気にしているというか。


 とりあえずマルコの為に、ある程度は回復魔法で傷等を癒してから意識を交代する。

 寝ぼけてるっぽいけど、大丈夫か?

 昨日は早々に管理者の空間で眠ったはずだから、精神面では完全回復していないとおかしいと思うのだが。

 

『大丈夫なのか?』

「久しぶりに朝ゆっくり寝たから、寝すぎて頭がぼーっとする」

『身体の方はやや睡眠不足だろうから、魔法で多少は回復してあるが』

「うーん、まあ学校まで歩いて行ったら目も覚めるよ」


 なんとなく怪しい雰囲気はあるけども、それならと送り出す。

 最近はファーマよりもローズと登校することの方が増えてきた。

 ファーマが最近やる気を出して、訓練を自主的に行うことが増えてきたのもあるからな。

 お陰でローズの機嫌はすこぶるいいが。


「朝の動き、あれはマサキ様ですよね?」

「やっぱり分かるんだね。といっても、僕は寝てたから見てないんだけどね」

「あんなに身体を動かしていたのに、寝てるというのも不思議なことですよね」」

 

 登校中にそんなやり取りをしているけど、誰かに聞かれたら……聞かれたところで問題ないか。

 ちょっとおかしな日本語程度の感じだろう。

 日本語じゃないだろうけど。


「とにかくスレイズ様が何度か焦った表情を浮かべておられたので。その分、受けたダメージも大きそうでしたが、攻撃されたスレイズ様の方が驚かれていたので、なんらかのスキルでダメージを押さえていたのでしょうか?」


 いや、単純に攻撃を受けた際に、その力の流れる方向に身体を動かして衝撃を逃がしていただけなんだけどな。

 最近は避けることは諦めたからな。

 攻撃されたら、当たった瞬間に抵抗することをやめて、その力の方向に反動も利用しつつ身体を動かすことでダメージを大幅に抑える方法を身に付けつつあるし。

 とはいえ、刃を潰した鉄剣だからできることだ。

 普通の剣なら斬り飛ばされて終わりだな。

 笑い事じゃないが、笑えて来る。

 スキルが使えるなら、その限りじゃないが。


『軽身功とまではいかないが、身体がかなり軽いからな』

「なるほど」


 マルコじゃ答えにくいと思って、直接念話で話しかける。

 分かったのか、分かってないのか。

 力はかなりあるし、それでいて身体も軽いからな。

 パルクールみたいな動きもできるし、身体をコントロールするという点では色々とマルコよりは上手だと思う。


「軽身功とは?」


 分かってないなら、分かった風な表情でなるほどなんていうなよ。

 まあ、良いか。

 

『気にするな、そのうち詳しく教えるさ』


 それにしても嫌な視線だな。

 アザーズのやつ、完全にマルコにターゲットを絞っているというか。

 なんだろう。


「おはよう」

「あっ、おはよう」

 

 笑顔を浮かべて挨拶をしてきたアザーズに対して、マルコが同じように挨拶を返しているけど。

 あまり不用意に仲良くなってもらってもな。

 そもそも、そいつ見た目と歳が違うというか。

 結構な長生きだと思うんだけどな。


「なかなか学校生活には慣れないね」

「そうなの? 学校に通ったことが無いとか?」

「うーん、あるのはあるんだけどさ」


 なんか、微妙に危ない会話だな。

 アザーズ、マルコは俺とは違うからな。

 うっかりボロが出ることもあるから、あまり突っ込まないでやって欲しい。

 というか、関わらないで欲しいというか。


「なんとなく色々な事情で、アウェー感が凄いというか」

「でも、女の子たちには人気あるよね?」

「あはは……僕の中にもレディーが何人かいるからね。あんまり女子人気を稼いでも……」


 本気で困った表情の笑みを浮かべている辺り、ここは本音かな?

 ちょっとだけなんかアザーズの中に、冷たい空気を感じたし。

 女性陣が殺気立ってるというか。

 色々と苦労してそうだな、こいつも。


「なんで、メイン人格というか、対外交渉の殆どを僕に任せるのか不思議でならないんだけどね」

「それだけ、信用されているってことじゃない?」

「それは絶対ない」


 はっきりと言い切ったな。

 もしかしたら、こいつはアザーズの中で最も立場が弱いのかもしれない。

 もしくは、女性陣に対して弱みを握られているとか。


「ほっほ、まあこやつは若くして人生に幕を下ろしたからな……精神年齢という点でも学園に溶け込むには丁度いい人材なんじゃよ」


 これまた、急にじじ臭いやつが出てきたな。


「爺さんが全部やってくれてもって、引っ込むの早っ! もう少し、僕に休ませてくれても」


 と思ったら、それだけ言って引っ込んだのか。

 なんか女性を押さえられないとかって言ってたけど、こいつに限って言えば他の人格全てを押さえて切れないんじゃないかな?

 なんともいえないが、少しだけ安心したというか。

 逆に言えば、他の人格の中に曲者が紛れ込んでいても、こいつは気付かなさそうだな。

 いや、複数の人格がお互いを見張っていれば、そんな変なことにはならないか。

 ノーフェイスのスパイとしての人格が送り込まれている可能性もあるが、こいつらの人格形成の仕組みも分からないし。

 分からんことを考えても仕方ないか。


***

「そろそろ収穫しますよ」

「ああ、すまんすまん。すぐ向かおう」


 マルコ達の様子を眺めていたら、蜂たちに呼ばれる。

 魔王の領地から持ち帰った野菜をここで育ててみたから、それを収穫するためだ。

 

 なんでそんなことをしたかって?

 いや、なんで魔王の領地で野菜を育てたら黒くなるか、気になったからだよ。

 でその黒い野菜をこっちで育てたらどうなるかなと。


 ……結論、全部普通の色だった。

 いや、少しは黒い野菜が採れるかとも思ったんだけどな。

 ものの見事に、なんの特色もない野菜だ。

 ということは種子の問題ではなく、やはり土地柄の問題か。

 日の光もちゃんと当たるというのに。


 アスパラやもやし、えのきとはまた違った作用があるのだろう。

 となると、今度は魔王の領地の土を持ち帰ってみるべきか。

 そうだな、そうするべきだろう。

 もしかして、その土を合成材料にしたら、他に何か分かるかな?

 うん、まずはその土で野菜を育てる方が先か。


 残りの収穫は虫達に任せて、管理者の空間を適当に歩く。

 すぐにカブトが来て、背中に乗せてくれた。

 最近、あまりカブト達の改造をしていないことを思い出したが、なかなかめぼしい素材も手に入ってないしな。

 伝説級の金属等が満足いく量入ってくればと思わなくはないが。


「何も聞かないのだな」

「いきなりですね」


 特に指示したわけでもないのに、カブトに湖に連れてこられた。

 そして、そこには見知った人影が。

 珍しい。


「気にならないのか?」

「別に気になりませんよ。色々と憶測はできますし」


 山羊の頭骨のような仮面をかぶった男性。

 邪神様がこっちに背を向けて、湖を眺めながら声を掛けてきたのだ。

 

「そうか……」

「一人なのですね」

「ああ、あやつは……お前に顔を合わせるのが怖いらしい」


 そう言って、邪神様が笑う。

 そっか……


「どの面下げて……」

「どの面だろうな」


 冗談と皮肉を込めて漏らした言葉に、邪神様がおかしそうな声で返してくる。

 際どい発言だったが、ちゃんと冗談として受け取ってもらえたようだ。


「質問にはできるだけ真摯に応えるつもりだ」

「まあ、本当に気になることが出てきたら、その時は質問させてもらいますよ。むしろいまは、色々と腑に落ちたということの方が大きいですからね」

「そうか……」


 いつもに増して寡黙な気がするが、だからといって気まずさを感じることもない。

 おこがましいかもしれないが、どこか俺に似ているから考えていることが微妙に理解できる部分もあるし。

 そのこと自体がまた、ちょっとした疑惑に繋がるが。

 ただ、一緒にいるこの空間が居心地の悪いものじゃないことだけが救いだな。

 

「まあ、気にするなと言っても難しいかもしれないが、好きにしていいのだよ? それが君に与えられた、権限の一つでもあるのだから」

「そう言ってもらえると、気が楽になりますね」

「正直、あ奴に対してはあまり良い感情を持っていないかもしれないが、それでも今までのように接してもらえないかな?」


 思わず言葉に詰まる。

 別に善神に思うところが……うん、思うところはいっぱいあるが、嫌悪感等を抱いたことはない。

 面倒な人だとは思うことはあっても、嫌いではないし。

 悪い感情は持って……持ってるか。

 なんだろう難しいな。

 色々と思うところはあるが、嫌いじゃないというのが正直な感想だな。

 

「なんだその顔は……まあ、少しは安心できたが」


 よほど変な顔をしていたのだろう。

 邪神様が少し顔を顰めていたが……そんな表情に対して、どこに安心できる部分があったのだろうか。


「いや、いつもお主があやつに向けている表情に近かったからな。それなら、態度や感情はあまり変わらぬかなと思い安心しただけだよ」


 そっか……

 複雑な気持ちだな。


「まあ、多少は便宜を図ってやるから、困ったことがあれば言ったらいい」

「現在、ノーフェイスとアザーズに困らされているのですが」

「……すまん」


 おっと、思った以上に深刻に考えていたらしい。

 冗談のつもりだったが、冗談として受け取ってもらえなかったようだ。


「まあ、その辺も含めて上手いことやりますよ」

「本当にすまんな」


 気まずい。

 完全に失言だったかもしれない。

 

「まあ、期待して待っていてください。彼らに関してもどうにか解決して見せましょう」

「……! そうか……頼む」


 俺の言葉が意外だったのか邪神様が顔をあげてこっちをジッと見た後で、頭をしっかりと下げられた。

 なんというか、ずっしりとプレッシャー掛けられた気がした。

 色々とやることは多いけど、最終的にはノーフェイスたちをどうにかしたら、色々と解決しそうだな。

 前途多難かもしれないが、やるしかないか。


「それと善神様に、地球産の品を安くしてくださいって伝えてもらっていいですか?」

「はは、分かった。伝えておこう」


 やはり見返りを求めた方が、分かりやすいか。


「気を遣わせてしまったようだな。お主で良かったと改めて思ったよ」

「いえ、お気遣いなく」

「相変わらずで安心した。また、顔を出すよ」

「ええ」


 どうやらこっちの考えなんてお見通しか。

 とりあえず、納得したのかそのまま消えてしまわれたが。

 カブトの角を軽く引っ張る。


「教えてくれてもよかったんじゃないのか?」

「口止めされておりましたゆえ」

「お前の主は誰だ?」

「マサキ様ですが……かのお方は、マサキ様の保護者にあたる方故に……」

「はぁ……だったら、こっそり教えてくれたらいいじゃないか」

「流石にばれますよ」


 そうだろうね。

 神様だもんね。

 

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