第31話:情報整理
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是非、そちらも宜しくお願いいたします。
「はぁ……」
管理者の空間で、神殿の椅子に座ると自然と溜息がでた。
その後も、アザーズと色々と会話をしたが。
気が滅入る話も、少なからずあった。
大顎が気を遣って、ぬるめの紅茶を煎れてきてくれたが。
香りが豊かで、それだけでも少し落ち着くような気がする。
美味しい。
ぬるいお陰で、スッと喉に染み渡る。
「ふふっ」
アザーズがこのお茶というか、地球産のお茶に興味を示していたことを思い出してつい笑い声が漏れてしまった。
「何か、楽しいことでも?」
大顎がすました様子で確認してくるのも面白い。
どっからどう見ても大きな百足なんだけどな。
立ち振る舞いのせいで、執事のそれっぽく見えるのがなんとも。
「ああ、思い出し笑いだ。敵か味方かよく分からんやつが、このお茶を欲していたのを思い出してね」
「なるほど、お茶を振舞うことで安全が買えるなら、いくらでも私がお煎れしますよ」
ふむ、そうだな。
アザーズの目の前で、大顎にお茶を煎れされるのも悪くないかもな。
前向きに検討しておこう。
椅子の肘置きに肘をついて、そのまま手の甲で頬杖をついた状態で目を閉じる。
アザーズの話を丸々全部信用した場合、色々と疑問が解決されるのは確かだ。
それと同時に、俺がここにいる理由も……
(ただ、地球から転生してきただけにしては、君は強すぎると思わないかい?)
アザーズが言った言葉を思い出す。
その後も色々と言われたが、確かにチートだとかそういう話じゃない。
厳密にいえば、分かりやすいチートを貰ったわけじゃない。
吸収、強化、世界創造。
どれもスキルの範囲を超えている。
そう、まるで神の権能といっても過言じゃない。
いや、神候補なのだから、当然の能力配分なのかもしれないけれども。
嫌な想像ばかりが膨らむ。
ノーフェイスについても。
アザーズに関しても。
そして、善神と邪神様に関しても。
さらにいえば、俺についてもだ。
(君はこの世界のスキルに関して上手に使え過ぎるし、対応が的確過ぎることを自覚して考えてみるべきだと思うよ)
嫌なことを言う。
本当に奴は、ノーフェイスとは別の存在なのか?
俺に疑心暗鬼を植え付けるために、目の前に現れたんじゃないのか?
いや、違うな。
こいつら自体が、そういう存在なのだ。
当人に悪気はないと思おう。
……他にもいるのか。
嫌になる。
できることなら、一生関わり合いになりたくないが。
***
「というわけでさ、色々と魔王のことを調べようと思って」
「なんじゃ藪から棒に。とりあえず、ジュースでも飲むか?」
「いやいや、そっちもいきなりだと思うよ」
とりあえず夜まで待ってマルコが寝たあとで、身体を借りて魔王城に。
色々と知りたいこともあったし、少し殺伐とした心を落ち着けるためにも。
本当はミスリルさんのところに行くのが一番なんだけど、カイザーさんに用があったからね。
それにこっちでも、サキュバスメイドが色々と助けてくれるし。
「歴代魔王についてのう……」
目の前で好々爺な雰囲気が定着した魔王カイザーが顎髭をさすりながら、首を傾げる。
「どこから話したものか」
「まずは当代魔王様がいかに素晴らしいかを、私が聞かせてあげましょう」
「いや、カイザーさんのことは、色々と知ってるしこれからも付き合っていくから、いいよ」
同席したバルログさんが口を挟んできたので、ビシッとはっきりと断る。
歯ぎしりしつつも、それ以上は言ってこなかった。
意外と聞き分けが良い。
「それにしても、相変わらずここの飲食物って黒いんだね」
「ああ、黒烏龍茶は身体に良いのじゃろう?」
「うん、これは違うけどね。なんで、ダージリンの紅茶が真っ黒でコーヒーみたいな色してるのかは不思議だけど、味は美味しんだよね」
魔王の領地で育てた植物は、なぜか実や果肉、葉が黒いことが多い。
というか、可食部が黒いことが多い。
なすびは葉っぱは緑なのに、なすび自体は黒い。
まあ、あれは黒に近い紫だから違和感ないけど。
サツマイモやジャガイモの中まで真っ黒なのはいただけない。
黒い大根とかも。
でも、トマトとかも黒いけど、トマトの葉は緑色だし、根は白に近い茶色なんだよなー。
もはや、嫌がらせじゃないかと思うときもある。
動く野菜シリーズはちゃんとした色だし、魔王が裏庭で育てた魔王が用意した野菜も概ね色は付いているんだけどね。
普通の魔王領の農地で作った俺が用意した野菜の可食部だけ、黒い。
黒いレタスとか、黒いキャベツもある。
まあ。考えてもしょうがないか。
「美味しければ良いではないか」
「まあ、そうなんだけどさ」
とりあえず、クッキーをつまみながら色々と話を聞く。
バルログさんが魔王の話に合わせて、当時の資料を即座に出してくれるのでなかなかに分かりやすい。
魔族の言語もしっかり読める自分に感謝しつつ、魔王も古い文献の文字もスラスラ読み取る俺に少し驚いていた。
その後目を細めて、頭を撫でながら追加のお菓子を出してくれたが。
持ってきてくれるのはサキュバスメイド。
目の前にお菓子を置いてくれたときに、零れそうな胸に目がいきそうになるのをぐっと堪える。
流石に魔王とバルログの前で、そんな子供らしからぬ行動はとれないというか。
割と真剣な話の最中だからね。
でも良い匂いだけは、堪能させてもらう。
「何を鼻を膨らませているのですか」
「ん? 良い匂いだなと思って」
バルログさんが少し呆れた様子で聞いてきたから、素直に答える。
「まだまだ童ということじゃな。お菓子の匂いに、そんなに反応するなんてのう」
「ふん、あなたにもそんな子供らしく可愛らしい一面があったのですね」
何か勘違いしているけど、敢えて訂正する必要もないか。
お菓子の匂いを嗅ぐのに、鼻を膨らませたと思ってもらおう。
それからも、話の続きを聞く。
「なるほどねぇ……」
魔王城の長い歴史の中でも、数えるほどだがクーデターや下剋上はあったらしい。
まあ、超絶実力主義の種族だからね。
その歴史の中でも最強最悪の魔王と呼ばれたのが、8代前の魔王らしい。
単体での強さは歴代最強とのことだが、人間との融和政策に心血を注いで国交正常化を目指した魔王でもある。
しかし講和会議の場にて人による裏切りから側近を含む多くの魔族を殺されたうえに、本人も深手を負って帰国。
そのことで国民である魔族からも責められ孤立。
その会議の直前、人側に魔族側から当時の魔王が講和会議の場にて、参加者に対して魅了の魔法を使い傀儡とする計画があるとリークがあったとの噂も。
そういった様々な情報が交錯し、魔王自身が何も信じられなくなり暴走。
魔族側、人側に多大な被害を与えた後に、姿を消したとのこと。
一説では人の勇者によって滅ぼされたとも、次代の魔王にて粛清され消されたとも言われているとか。
他にも似たような魔王がいたり、本当に何もしなかった魔王の話も聞いたりした。
気になる話は聞けたから、他に用事は無いけれど……
ああ、ミノタウロスのエドガーも久しぶりだから、色々と俺と遊びたいのかな?
割と魔族領だと、人気なんだよな。
サキュバスや、悪魔族の人たちも俺に対しては柔らかい態度で接してくれるし。
「本当にお主が大きくなった時にそれなりの権力を持っておれば、人と魔族の懸け橋となってくれそうじゃというのに」
「それは難しいかな? いや、出来なくもないと思うけど」
魔王がしみじみとそんなことを言っているので、少しだけ真面目に答える。
「それもですが、最近飛ぶ野菜が元気がないというか、あまり高く飛ばないという話が一部の国民からあがっているのですが」
「あー、それはさっきここに来るときに確認したけど、水のあげすぎじゃないかな? あからさまに大きくなりすぎな気がするけど……何か、変な物あげてない?」
「いえ、そうですね……飼育方法を確認してみた方がいいですね。全部の野菜が飛べないとか、そういう話ではなく一部の野菜の話ですので」
「飼育じゃなくて、栽培ね。あれ野菜だから」
「野菜……ですか」
俺の言葉に対して、バルログさんがもやっとした表情を浮かべているが。
そこは素直に納得してほしい。
明日も学校があるから、あまり身体を酷使はできないが。
とりあえず一時間くらいなら大丈夫かな?
***
結局3時間ほど、魔族の人達に付き合って身体を布団に戻した後で、管理者の空間に戻ってきた。
マルコがスヤスヤと眠っていたから、じじいとの訓練の時間の30分前に意識を身体に送るようにしよう。
いや、明日の朝の訓練は俺が受けてもいいか。
こういう時は身体を動かすに限るしな。
「まだ起きてらしたんですか?」
「ああ、色々と考え事があってな」
「最近難しい顔をされてますもんね」
神殿の玉座で首を回しつつ、自分でマッサージしていたらトトが声を掛けてくる。
「肩をもみましょうか?」
「うーん、それなら肩を揉んであげるって言いながら、揉んで欲しいかな?」
「えっと……」
「娘に揉んでもらえたら、きっと疲れも一気に取れると思うんだ」
俺の言葉に対してトトが少し複雑そうな表情を浮かべつつも、すぐに笑顔になって肩を揉んでくれた。
うん、凄く気持ちがいい。
ああ、このまま眠れそうだな。
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そこそこ文量あるので、暇つぶしに是非どうぞ。





