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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第30話:アザーズの秘密

「とりあえず、場所を変えないか? 外で話すにしてもな」

「だったら、この学園にもちょうどいい場所があるじゃない……別に、宿の個室でもいいけど」

「ふっ……魅力的な誘いだけどね、お姉さん以外の人格からすれば地獄じゃないかな?」

「意識を完全に抑えることもできるし、彼ら自身の意思で閉じることもできるわよ?」

「興味本位で覗くのもいるってことだな……まあ、この幼い身体じゃどうもこうもないが」

「できることはできるんじゃない?」


 目の前でしなを作る女性バージョンのアザーズに対して、鼻で笑うと顎をしゃくって移動を促す。

 別に本気でどうこうなろうってつもりもないし。


「しかし、本当に君たちは特別扱いみたいで、羨ましい限りだよ」


 学校のサロンに向かう階段の途中で、下からアザーズが俺の手を見てため息を吐く。

 まだこいつがノーフェイスで、俺たちを騙そうとしてるんじゃないかと疑ってはいるが。

 どうも、メインで相手をしている人格の様子を見るに、演技に思えないところもある。

 それが返って怪しいわけだが。

 ノーフェイスなら、そのくらい簡単にできそうというか。

 そもそもが、年齢不詳なところはあるし。


「素敵な場所だね。子供には過ぎた環境だと思うよ」

「ただの子供ならね。まあ、ほら……俺はともかく、周りはただの子供じゃないからさ」

「ああ、一応それは僕もそうだから、分かるけどさ。僕たちは違うよね?」

「まあ、焦るな。じっくりと話が聞きたいからね、お茶でももらってくるよ」

「君が右手で出した方が早いんじゃない? おっと、失礼。口が滑ったようだ」


 人を食ったような態度で、しょうもないことを言うアザーズを軽く睨みつける。

 両手を顔の前で振っているが、微塵も悪いと思ってない顔だな。

 顔か……本当に、顔なのだろうか?


「これは本物の僕の顔だよ? 人格によって顔は変わるけど、それぞれ本物だからそこは疑わないで欲しいかな?」


 何か言ってるけど、とりあえずシカトしてお茶を取りに行く。

 その際に、使用人に誰も席に近づけないように釘をさす。

 用があればこちらから行くから、気遣い無用でと。

 流石に上位貴族を相手にするような教育を受けた人たち。

 その辺の理解度は高い。


 テキパキと俺とアザーズの周りの椅子と机の配置を変えて、人が近づきにくくかつ近づいてもある程度の距離が取れる位置に並び替えてくれた。

 満足を表すように頷くと、アザーズの元に向かう。

 今度、ベルモントのお菓子の差し入れでもしておこう。


「ほら」

「君が用意できるお茶の方が、興味あるんだけどな」

「見た感じ、この世界の人間のように思えるが?」

「まあ、私たちはこの世界で生まれて育った人であることには、ほぼ間違いはないかな?」


 また、女性の顔に変わる。

 思いっきり睨みつける。

 こっちを注目しないように使用人たちが気を遣っているのは分かるが、見られたら面倒だ。


「ごめんね……彼女の力は僕たちの中でも一際強くてね。大人しくしてるようにお願いはしたけど」

「頼むぞ、本当に」


 まだ、肝心の本題にすら辿り着いていないというのに、すでにどっと疲れた気がする。


「さてと、君が気になるであろう僕たちの正体なんだけどさ……多少は見当がついてたりする感じ?」

「あー、いくつか仮説を立ててはみたけど、どれも正解っぽくもあるし不正解のような気がしなくもない」

「概ね、合ってるとは思うけどね」


 そう言って、目の前の少年が手に持ったティーカップを揺らしながら、口をつける。


「流石、良い茶葉を使っている」

「そりゃそうだろう。お坊ちゃんやお嬢様が飲むんだからな」

「それだけ?」

「まあ、舌を肥やすというか、良い物に触れさせて良し悪しを学ばせる目的もあるんだろうけどな」

「金掛かってるな」

「利用者の親の金だ。保護者の寄付金でやりくりしているが、ほら、いまはね」

「王族に、侯爵家、それも兄弟で在席ともなれば、まあ多大な寄付金が集まるよね」

「その手はやめろ」


 人差し指と親指で丸を作っているアザーズを睨みつける。

 どうも話が脱線してなかなか進まない。

 こっちのペースに引き込むこともできずに、フラストレーションばかり溜まっていく。

 くそっ、管理者の空間で久しぶりにマルコが一人でゆっくりまったりできるからと、土蜘蛛が全力で甘やかしているのが分かる。

 呑気な顔して、パンケーキにメープルシロップたぷりかけて食ってるのが、しっかりと伝わってくる。

 思わず舌打ちしそうになるのを堪えて、一度伸びをして気持ちを整える。


「でだ……仮にノーフェイスと別の存在だとして、その身体はどうしたんだ?」

「この身体? まあ、元々僕のだったというか……よくある話だよ。木から落ちたら前世の記憶を思い出した……みたいな?」

「よくある話ではないかな」

「といっても、すでに善神にはバレてるんだけどね。それでも彼が介入してこないことが、僕がノーフェイスとは違う存在である証明にならないかな?」

「神でも所在の把握が難しいと言っていたな。俺とこうもダイレクトに接触したうえで、見逃されているんだ。お前の言う通りかもしれんな」


 確かに。

 ノーフェイスが絡んでいたとしても、直接的な手助けはしてこないが。

 流石にこっちの生活圏をこんな方法で脅かして来たら、流石にこれ幸いと善神……様や、邪神様が手を出してくる可能性は高い。

 そうしないということは、俺とアザーズで会話することに何か必要性があるか……もしくは、目の前の存在に対して介入する必要が無いかのどちらかだな。


「君はまだ分からないだろうけど、僕は君の未来の可能性でもあるんだよ」

「チッ……やっぱり、そっちか」


 アザーズの言葉を聞いて、俺はどっかりと椅子に深く座り直し背もたれに全体重を掛ける。

 柔らかなソファに全身を鎮めつつも、眉間を押さえて首を振る。

 

「転生するごとに、君の中の人格は増えていくんだよ」

「俺とマルコだけじゃなく、次の人生を迎えたら第3の人格が生まれると。いや、そうなったら俺が最初から最後までその人生を送ればいいだけだな……」

「女性に産まれたとしてもかい? ましてや貴族の女性なら結婚もしないといけなければ、出産の義務も……」


 無理だな。

 うん、その器の人格に、人生丸投げだな。

 そうなると、その場合俺は完全に守護霊というか、守護神のような立ち位置になるのか。

 まあ、土蜘蛛やらカブト、ラダマンティスも大きく成長しているだろうし。

 マハトールなんかも、尋常じゃない存在にはなれているかも……無理だな。

 うん、無理だろう。

 あいつは、生涯小物だ。

 

 なんか、管理者の空間から凄い抗議のオーラが向けられている気がするが、俺がちょっと認めたようなことを考えただけで調子に乗りそうになったマハトールが悪い。

 というか、従属化していないのに俺の感情の機微に、かなり敏感になってるよなマハトールって。

 こうやって考えると、完全なる純粋な下僕ってマハトールとクロウニだけなのか。

 マハトールもいつの間にか、俺に心酔した様子だけど、

 何がきっかけだったんだろう。


「もういい?」

「ん?」

「思い出になにやら浸ってたみたいだから」


 うん、軽く現実逃避してたけど。

 待っててくれたのか。

 案外、良い奴だなアザーズ。


「君と根本的に違う部分は、君は神に認められた主人格のもと転生を繰り返すことになるというか、輪廻転生といった形に近いかな? でもって、僕の場合も結論からいえば輪廻転生ではあるのだけれども……どちらかというと憑依に近い形なんだよね」


 分かるような、分からないような。


「全然分からないな。というかだ、ぶっちゃけたらどうだ? お前……というか、ノーフェイスは逃げて来たんじゃないのか?」

「逃げてきた?」

「ああ」


 とぼけるアザーズに対して、俺は天井を見上げたあとで再度目の前の彼に視線を向ける。

 睨みつけるように。


「お前が俺に対して、また周囲に対して危害を加えないことはなんとなく分かった。もしかすると、ノーフェイスに対する有力な協力者になる可能性も見えてきた」

「言い辛いことではあるんだけどね。気付いたようだから白状すると、僕たちみたいな存在は他にもいるんだよ」

「そんなにたくさんいても困るんだけど」


 これは想定外、

 せいぜいがノーフェイスと、目の前のアザーズくらいだと思っていたけど。

 他にもいるの?


「そこまでは想定してなかったんだね。まあ、最初に逃げ出したのは、ノーフェイスじゃないんだけどね。その彼は、すでにいないよ。消滅する直前にノーフェイス含めて、複数の分身体を残してはいたけど」


 なるほど。


「で、僕はさらにそのノーフェイスから派生した分身体というわけ。でもね、だからといって彼の味方というわけじゃない。むしろ、彼と合わないから分身体として袂を分かったんだ」


 こうやって、こいつらはどんどん増殖していったんだろうな。

 紅茶を飲もうとカップを持ち上げて、思わず眉を寄せてしまった。

 いつの間にか空になっていたようだが、このタイミングで取りに行くのは憚られるな。

 仕方なくこっそりと右手から紅茶を……目の前にカップが差し出された。

 そうか、アザーズのカップも空になっていたのか。

 だったら、取りに行ってもなんの問題もないか。

 2人とも紅茶のおかわりが欲しいんだから、利害の一致だな。

 話の腰を折ることになるかもと思ったが、ただの小休止だ。

 アザーズがあからさまにガッカリした表情を浮かべていたが。


「ほら」

「ありがとう」


 感謝の言葉ではあるが、どこか不満そうだ。

 思わず、少し笑ってしまった。


「さっきの話に戻るが、本当は最初に分かれたのはノーフェイスじゃなくて善神なんだろう? それも邪神様から」

「……やっぱり、分かる? というか、腹を括ったみたいだね」

「いや、全然。それの意味することなんて考えたくもないからな。まあ、知ってると知らないとじゃ行動の指針も変わってくるし、確信をもってそうだと分かればなおさらね」

「カマを掛けた……ってわけじゃないのか。ある程度の自信はあったわけだ」

「あまり、当たって欲しくない予測だったんだけどな」


 となると、目の前のこいつがノーフェイスと別の存在だというのが、またまた半信半疑になってきた。

 そもそもノーフェイスのやり口が回りくどすぎる。

 もっと簡単に世界を滅ぼせそうな雰囲気はあるのに、間接的な行動が多すぎるし。

 もしかして、神に準ずる存在として直接的に手を下すことに、制約……もしくは忌避感があるとしか思えない。

 だから、現地の存在に任せて、どうにかしようとする行動が多いのだろう。

 いや、アザーズの話を聞いて、より疑いは強まった。


 同等の存在というか、この世界の理から外れた俺には直接関与できても、この世界との結びつきが強いマルコには直接の手段が取れない可能性も。

 となれば、対処法が色々と増えてくる。


 しかし、そうしたミスリードを誘うために、アザーズを派遣……もしくは、自らアザーズに扮して接触してきたとなれば……考え過ぎてもしょうがないな。

 ある意味では渡りに船だ。

 警戒心を捨てることはできないが、もう少し前向きにこいつの話に付き合うか。

 ティーカップを持ち上げて、顔を顰める。

 また中身が空になっていた。

 緊張のせいかやたらと喉が渇く。

 

 目の前のアザーズも同じようだな。

 カップがすでに空になっている。

 向こうも、それなりの覚悟を持って俺に接触してきたと考えることもできる。

 それすらも演技という可能性を頭の片隅にでも入れて、建設的に会話を進めていこう。

 とりあえず……


「えっ?」

「2回も俺がもらってきたんだ、次はお前が行ってもいいんじゃないかと思うんだけどな」

「ある意味だと、僕は先輩なんだけど?」

「いまこの場では、誰もそうは思わんよ」


 ため息を吐いて、素直にお茶を貰いに行ったアザーズに対して、少しだけ溜飲が下がった。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も宜しくお願いいたします。


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