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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第27話:編入生?

「しかし、本当になんというか……」


 マルコ達の様子を見て、溜息が漏れるというか。

 野営の授業を受けていたマルコ、ディーン、クルリを差し置いてベントレーが全てを取り仕切っているような状況に思わず顔を顰めてしまった。


「あらあら、私はマルコ様もだいぶ成長したと思いますよ」


 土蜘蛛がなにやら言っているが、具体的にどのあたりが成長したのだろうか……


「お手洗いのためだけに、この空間に来なくなったあたりとかですね?」

「あー……」


 そういえば、昔は野外で用を足すのに恥ずかしがって、ここに来てたことがあったな。

 そんなこと言ったら、女性陣はどうなるのかと。

 流石に公衆トイレがあるわけじゃないからな。

 まあ、彼女たちの名誉のためにもこの問題に切り込む必要はないが。


 そうか……公衆トイレか。

 そういえば、この世界にはそういった施設はないな。

 管理が大変ということもあるだろうが、上下水道があったりするのに不思議なものだ。

 といってもその上下水道自体、王都や大きな町にしかないが。

 ちなみにベルモントでは、大々的にそこらへんのインフラ設備には力を入れている。

 じゃないとスパリゾートなんかできるわけないしな。

 

 ベルモントとラーハット領に、公衆トイレは提案してみよう。

 それはそれとして、子供たちだけでキャンプというのも悪くないな。

 勿論、周りには保護者がいっぱいいるのはいるが。

 少しばかり親も成長を認めたのか、以前ならばもっと表立って護衛をつけていただろう。

 高等科に上がったことで、この辺りは少しだけ大人の仲間入りだな。

 それはそうと、公衆便所を配置するとしたらどのあたりがいいだろうか。

 ベルモントの町はっと……

 タブレットで、ベルモントの町の様子を映し出す。

 

「また飲んでるんですか?」

「まあ、特に今日はやることもないしな。考え事をするには、多少酒が入ってた方が頭が冴えるんだよ」

「まあ、良いんですけどね」


 神殿の椅子に座ってビール片手にタブレットを操作していたら、洗濯籠を持って通りかかったトトに注意された。

 そういえば、タブレットで買えるビールの一覧に、缶詰みたいに蓋が全開できる缶ビールが高額商品で追加されていたが。

 新商品なんだろうな。

 樽生が普通に選べるから、別に敢えてもらおうとは思わないが。

 試しに一本もらってみて少し感心したあとで、普通に生を交換した。

 家庭用には凄い画期的な商品かもしれないが、いかんせん飲みやすいというか飲みやすすぎる。

 一瞬で一本無くなるから、ある意味では家計に優しくない逸品だな。


「ほどほどにしてくださいね。もしかしたら、いきなりやらないといけないことができるかもしれないですし、鬼の方々が相談に来られることもありますから」

「ああ、分かった分かった」


 本当になんというか、小言も増えてきた。

 しかし、こうしてみるとトトのエプロン姿は見慣れたというか、もう完全に馴染んでいるな。

 本当に良いお姉さんというか、良いお嫁さんになれるな。

 ビールを飲みほして、タブレットに再度視線を落とす。

 あからさまなため息が聞こえてきた。

 

「もう少し外に出ても良いと思うのですが」

「いや……うん、日が落ちたら少し周りを見て回ろうかと思う」


 トトの視線に耐え切れずに、ついその場しのぎで言葉にしてしまった。

 今日はここから移動する気は無かったのに。

 いや別にここでの俺の肉体は物理的にあるようで、精神的なものでもあるからな。

 激しい運動をしなければ疲労を感じることもなければ、特に不具合があるわけでもない。

 歩き続けたところで足が痛くなったりするわけじゃないんだから、別にそのくらいなんともないが。

 気分の問題だな。


「もう昼か……」


 廊下から騒がしい声が聞こえてくる。

 クロウニによる勉強会が終わったのだろう。

 クコとマコ以外にも、オーガの子供たちも参加している。

 オーガスカウターのガスターが人間の言葉を完全に理解しているように、オーガ達も勉強して学べば理解できる。

 そのくらいの知能はある。

 しかも俺の配下になったことで、人の言葉は完全に理解できる状態だからな。

 勉強も捗る。

 そして、やはり学ぶ場がない者たちの勉強に対する意欲のなんと高いことか。

 マルコの通う学校の生徒と比べるべくもなく、クロウニの授業に参加している者たちの勉強への意欲はすこぶる高い。

 素晴らしい。


「ふふ……」


 オーガの集団が越してきてから、だいぶ周りもにぎやかになってきた。

 なんとなくこの空間内で人の暮らしを見られることに、喜びを感じる。 


「ご機嫌ですね」

「ああ、やっぱりなんだかんだで、こう生活感があるのは良いなと思ってな」


 大顎(おおあぎと)がコーヒーを入れて持ってきてくれたので、受け取ってうなずく。

 管理者の空間がこれからどうなっていくのか、ようやく楽しくなってきた。

 ノアの箱舟的空間だというのに、そこまで生物の移住もできていないからな。

 というか、そうか……

 微生物とか病原菌もやっぱり、一定数はここに連れてこないとダメかな?

 そういった存在まで配下になるって、どういうことになるのか不安ではあるが。

 虫歯菌とか、そこら辺の取り扱いに関しては善神……様がかなり慎重だった気がする。

 普段は大雑把なくせに。

 邪神様に相談した方がいいかもしれないな。

 

 タブレットの映像をベルモントの町から、マルコ達の方へと移して思わず苦笑い。

 ディーンが適当に片づけを切り上げさせて、キャンプ地を後にしていたが。

 すぐにマクベス家の家人たちが、後始末をしっかりとしていた。

 いやマルコ達の後片付けも及第点くらいはあったんだけどな。


***

「むぅ……」

「どうしたん、マルコ?」


 学校に着く手前でヘンリーに声を掛けられる。

 今日の護衛はローズだからか、ヘンリーの表情がいつもより気安い。

 ファーマさんの時は、どこか緊張した様子が見られるから。

 

「いや、最近アシュリーの様子がちょっと」

「んん?」


 なんで嬉しそうなんだよ。

 こっちは、悩んでいるというのに。

 といっても、そこまで深刻な悩みというわけじゃないんだけどさ。


「悪いことじゃないんだ……僕が誘っても先約が入ってることがちょくちょくあるというか」

「ほほう……」

「なんか、腹立つ顔だね。もういいや」

「わりい、そんなつもりじゃないんだけどさ……なんか、そういう話って新鮮というかさ」


 そう言ってヘンリーが緩んだ頬を無理矢理抑えこもうとしているのが、なんとなく分かるような不自然な表情で首を傾げる。

 あー……あぁ……

 なんだかんだで、中学生相当だもんね。

 いくら貴族の子供で、そういったことに関しては色々と知識や事前の教育がなされているとはいえ、感情がようやく追いついてきたというか。

 恋に関しては拗らせたヘンリーだが、思春期相当の好奇心が沸いているのか。

 以前のそういった感情的なことにはやや淡白で、ただ貴族として男女間の関係性について学んでいたから故の反応や考察と違って、心がノッてるのがよくわかる表情だ。

 平常心を保っているように見せかけようと、どうにか普通の表情を作ろうとしているのが感じ取れる。

 その顔を見たら、なんか相談というか愚痴としても聞かせるのが面倒に思えてくる。


「簡単に言うと、僕が誘ったらたまに先約が入っていて、その相手がエマやソフィアだったりするんだよね……たまにフレイ殿下の時もあるけど。ただなんというか、なんだかモヤモヤするというか。まあ、当人からこっちに遠慮がないから、純粋に良い関係を築いているんだということは分かるんだけど」

「あ、ああ……そうか」


 こいつ。

 思ったんと違うって表情してやがる。

 先約の相手がエマやソフィアだと知って、あからさまに興味を半分くらい失った顔になりやがった。

 ちょっとエマが許してくれたというか、また普通に接してくれるようになったからって調子に乗ってやがる。

 エマが許すのが早すぎたんだ。


「君が思ってるようなことはないよ……まあ、父親と一緒に王都に移住してきたとはいえ、こっちは元領主の息子だからね? 不義理なことはしないくらいの分別はあるよ」

「まあ、そうだな……いや、その考え方というか、それを口にするマルコにちょっと引くけど」

「君が面白半分に邪推なんかするからだよ」

 

 そう言って睨みつけると、ヘンリーが目を逸らした。

 自覚はあったんだろう。

 配慮は無かったみたいだけど。


「わりぃ」

「それで、謝ってるつもりかい?」

「すまん」

「……」


 まあ、良いんだけどさ。

 大げさにため息を吐くと、ヘンリーが気まずそうな表情を浮かべる。

 というかだ……ローズまで若干引いているのが気になる。

 この辺りはファーマさんとは違うな。

 まだまだ、未熟というか。

 彼女自身、まだ若いということだろう。

 

「貴族の子供って……」


 僕が普通の子供じゃないの知ってるよね?

 まあ、良いけど。


「おはよう」

「おはようベントレー」

「よう! 珍しいな、いつも教室に一番乗りだと思っていたんだけどな?」


 おお、後ろからベントレーに声を掛けられるという、貴重な体験。

 結構前からベントレーは教室に一番乗りになってたからね。

 なんでも、校門付近や廊下、教室でいつもあまり関わらない生徒と会話する時間が生まれて、新しい発見や刺激の多い時間を過ごせると言っていたが。

 ヘンリーも少し驚いた様子だった。


「最近は月に数回程度は時間をずらして、他の子たちの様子も見てるんだ」

「へえ、相変わらずだね」


 惰性を嫌って、常に新しい発見を探している彼らしい発想だな。


「ふふ、時間を固定すると、ベントレー目当ての子たちがそこに集中するからだよ」


 ジョシュアもこの時間だったようで、声を掛けてきた。


「ジョシュアか、おはよう。まあ、そういった理由もあるな」

「おはよう!」

「こうして教室に着くまでに揃うのも珍しいな。よう!」

「おはよう」


 ヘンリーが偉そうだけど、この中で一番家格が低いんだけどなー……

 もう、ヘンリーに関しては、みんな認めているというか。

 なんだろう……まあ、おじいさまの弟子というのも大きいんだろうけど。

 

「それはそうと、うちのクラスにこの中途半端に時期に、編入生が来るらしいよ」

 

 そして遅れてきたジョシュアが、唐突にそんなことを言い出した。

 それは……初耳だ。


『転入生……伝えてませんでしたね。失念しておりました』


 蜂から念話で報告が……失念?

 今までそんなこと無かったのに。


『いまいち素性が掴めないのと、不確かな情報でしたので』


 蟻からも、ふわっとした報告が。

 これって……

 あっ、あっちの方でもざわついてるのが伝わってくる。


『おいおい……あからさますぎるだろう』


 マサキからも念話が。

 いやいや、確かにありがちではあるけど。

 流石に、この状況というか……周囲を虫でがちがちに固めている場所に、怪しい要素を全く隠さずにとかありえないよね?


『とりあえず、裏取りからだな。増員を送った方がいだろう』


 ヘンリーとベントレーだけならよかったんだけど、ジョシュアがいるからな。

 ちょっと、離れてから蟻と蜂、それから蛾や蝶も、蜘蛛も呼びだしておこう。

 マサキも僕も疑惑の範疇を出てないけど、あからさまに怪しい子が編入してくるということだけは分かった。

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