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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第14話:それは駄目だと思う

 結局お昼は、ジョシュアも加わり5人で歓談しながら食べた。

 さすが貴族科の給食ということだけあって、屋敷で食べるものと遜色ないレベルの料理で、つい食べ過ぎてしまったが。

 

 ジョシュアは純粋にマーカスとルーカスが一目置いた人物に興味があっただけらしく、好意的に話をしてくれた。


「じゃあ、ドルア殿も王都に?」

「いや、父は入学式だけ見られて領地にすぐに帰ったよ」

「ええ? じゃあ、家はどうしてるの?」

「王都の広い屋敷に、使用人2人とマーカスとルーカスだけ……まあ、ある意味自由で良いけどね」


 なるほど物騒な指示を出した人は、王都に居ないようで一安心。

 とはいえ、8歳の子供を一人で……厳密には世話係が居るけど、ほぼ一人で王都に住まわせるとか。 

 心配じゃないのかな?


「それって、寂しくない?」

「あら、私も家族は居ないわよ? 屋敷も一応あるけど、ただソフィアのとこに世話になってるわ」

「うちは両親とも、こちらに居ますからね」

「僕は、母が定期的に来てくれる予定です。ただ今は、家族は皆領地に帰ってしまったので、1人です。少し寂しいですけどね」

「そんなもんなのかな? 僕はおじいさまとおばあさまがいるからね……」


 まあ、それもそうか。

 領地があるのに、子供が学校に通う間中王都に居る訳にもいかないだろうし。

 仕事もあるはずだしね。


 エマはソフィアの所に、一緒に住んでいるらしい。

 それもそれでどうかと思うが、家族ぐるみで仲が良いのだろう

 ヘンリーのところは母親が領地と王都を行ったり来たりするらしい。

 内陸部の王都から、海辺の街となると往復で4日くらい……いや、もっとかかりそうだけど。

 いつか能力の事を話せるようになったら、カブトか蜂絨毯を貸してあげたいな。


「所詮三男なんて、そんなもんだよ。ただ、兄上が休みの日は帰ってきてくれるから。ほら、いま王都の騎士隊に入ったから、王都の寮に住んでるんだよ」

「そっか、ジョシュアのお兄様は優秀なんだね」


 おや、ヘンリーが敬語じゃない。

 まあ、あんな物騒な親を持つとは思えないほど穏やかな少年だしね。


 先ほど警戒したような事は無く、本当に純粋に友達の輪に加わりたかっただけらしい。

 いや、エマとソフィアが友達かと言われると、まだそこまでいってない気がしないでもないけど。

 穏やかな食事の時間はあっという間に過ぎていった。


――――――

「くそっ、むかつくな」

「おい、やめとけ。なんせ殿下のお気に入りだからな……あいつに手を出したら面倒だ」


 息巻くベントレーに対して、ブンドがたしなめる。

 確かに、公然と殿下が友達と宣言した以上マルコと揉めるのは、分が悪い。


「そうですね……生意気ですけど、さすがにちょっと」


 アルトは基本的に長い物に巻かれるタイプだ。

 ブンドに同意を示しつつ、頭の中ではマルコと仲良くなればその伝手を頼って、王子と知り合いになれないかを画策している。

 現状では、祖父の上司の孫であるブンドに逆らう事はできないし、自分が頑張れば祖父の立場も良くなるため一生懸命ゴマをすっている。


 が、王子に取り入る事ができれば、その力関係を逆転できる。

 そうすれば、祖父の発言力も増すのではと考えている。


 子爵家の当主に過ぎなかった祖父が、どれほどの苦労をして今の財務次官という位置まで上り詰めたのかを知っている彼は、少しでも祖父に楽をしてほしいのだ。


 むしろ自分のせいで、祖父の立場が悪くなるのではと必要以上に恐れている節もある。


「俺だって分かってるよ。俺がムカついてんのは、そのマルコの陰に隠れて堂々と、……と仲良く話してるあいつだよ!」

「はあ……、まだエマ様の事を諦めていないのか?」


 そう言ってベントレーが睨み付けているのは、今もマルコ達に混ざってエマと楽しそうに話をしているヘンリーだった。

 好きな子の名前を言うところで、ゴニョゴニョとなってしまうのはやはり子供か。


「結局殿下のお気に入りなのはマルコだろ? それにディーン様が庇ってはいたが、あの人からすれば所詮お遊び程度のもんだろ。面白そうだから首突っ込んだだけだと思うぜ?」

「そのマルコと仲が良さそうなのが、問題なんだよ。貴族としてプライドも大事かもしれんが、名誉のためならともかく、自分の価値を落とすためには捨てられんだろう」


 ブンドが何やら面白くない事をしそうな友人に、溜息を吐きながら説教じみたことを言う。

 巻き込まれてはたまらんとばかりに。

 彼とアルトはマルコとヘンリーに関しては、静観を決め込んだらしい。

 

 だが、元々粗野で親の力とはいえ貴族という立場で、好き勝手してきたベントレーとしては自分より格下の人間が思いを寄せる相手と親しくなるのは何よりも許しがたいようだ。

 ブンドの言葉も、右から左にしかなっていない。


「お前は難しい事ばかり言ってよく分からん。騎士侯の孫でもなけりゃ、大した功績もあげていないラーハットのガキなんかどうでも良いだろう?」

「駄目だな……お前が何をしても勝手だが、俺達を巻き込むなよ?」

「チッ……友達甲斐の無い奴だな」

「友達だから、一度は真剣に止めてやっただろう?」

「ベントレー様……ヘンリーの周りに居る子達を相手にするのは、お父上にも御迷惑が掛かりますよ?」

「うっ……」


 引く気の無いベントレーにブンドがお手上げとばかりに首をすくめると、アルトが再度思いとどまるよう説得する。


「ああ、もういい……うちのもんとやるわ。お前ら、本当に薄情だよ」

「心外だな」

「心外ですね」

「いちいち、言い回しが面倒くせーよ! じゃあ、お先」


 そう言ってとっとと食事を終えて、一足先に教室に帰っていった友人に対して、顔を見合わせて溜息を吐く二人であった。

――――――


 それから暫くは特に問題無く、学園生活が過ぎていった。

 とはいえ問題無いのは学校内だけで、朝の訓練が日増しに過激になっているのは頂けないが。

 ようやく夜のお出かけもできるようになったので、週末は森に出かける予定だ。

 日曜日にあたる日は、祖父の早朝訓練も無いし。


 それと管理者の空間の僕の方も、静かで不穏だったりする。

 最近はこもりっぱなしで、虫と遊んでばかりだ。

 身体に戻ってきてくれれば、情報の共有もある程度できるのだけど。


 そんな事を思っていたら……


「マスター、朝ですよ」


 突如、脳内に響く甲高い声に起こされる。

 聞き覚えの無い声がした方向に目をやれば、そこには何も見えない。


「はは、見えませんか? ダニエルです」


 誰?

 うちの屋敷にダニエルという使用人は居なかったはずだけど。


「管理者の空間のマスターから、貴方の目覚ましとしての役割を頂きました、ダニのダニエルです」

「えっ?」


 その自己紹介に、思わず耳元を二度見してしまった。

 いままでなんとなく、配下の虫が思っている事は予測できたが、言葉として聞こえてきたことはない。

 

(ははは、驚いたか? 管理者レベルが上がったから、交信というのを取得できるようになったんだ)

 

 そして響いてくるもう1人の僕の声。

 

「驚くよ。っていうか、交信って?」

(文字通り配下になった連中と、脳内で直接やり取りできるようになる。一応、こちらから繋いでやる必要はあるが、ダニエルとはさっき繋いでおいた)


 もう1人の僕の説明では、元々は遠く離れた配下とやり取りする機能らしいが、これを使えば虫たちとも言葉でやり取りが可能とのこと。

 とはいえ、現状繋いでいるのは目の前に居るか居ないかわからないダニのダニエルと、偵察に出ている蜂の部隊の各リーダーだけらしい。


 向こうから話しかける時は、信号のような音が聞こえてくる。

 その音に意識を向けると、繋がるらしい。

 拒否したいときは、音を拒否するようにイメージすれば良いとの事。

 音は全て同じだが、何故か誰からかというのが分かるので、すぐに応答できなくても折り返す事もできる。


 管理者の空間の身体を使って、ずっと実験をしていたらしい。


 これまで虫達はこっちの命令には確実に応えてくれたが、あちらからの報告や要望はイメージとしてしか分からなかった。

 なんとなく、こう言ってる気がするレベルだ。

 あってるか、確かめようが無い。

 いや、あってるって聞いたら、分かり易く合図は返してくれるが。

 言葉で応えてくれるのとは、やはり違う。


 ただ喋るダニとか……

 なんか、なんかだよ。


 しかも絶妙に声が甲高い。

 なんとなく、ダニエルがイメージできちゃったけどね。

 これ、他の虫の声はどうなんだろう。

 まあ、そんな事は無いと思うけど、蝶がダミ声だったらやだな。

 イメージが壊れそうでちょっと怖い機能だと思う。


 試しに、窓に泊まっている配下の蜂に繋いでみる。


「はっ、おはようございます主。昨夜も特に異常ありませんでした」


 めっちゃバリトンボイスの渋い感じだった。

 バスほど低くなく、壮年の騎士のようなイメージ。

 うん、カッコイイ。


 それから蝶や、室内の蜘蛛とか蛾に話しかけてみる。

 蝶は鈴の鳴るような女性の声で、蜘蛛は低めの男性の声、蛾はおばちゃんだった。

 割と、イメージ通りか?

 いや、声を聞いた後で、ああってなる感じだったかな?

 だって、蛾の声とかイメージしてなかったし。

 でも、大きく見た目とイメージを外してなくてよかった。


 それからあれこれ話して居たら、扉をドンドン叩かれた。

 おじいさまとの訓練の時間を過ぎたらしい。


「起きてますよ! すみません、少し考え事をしておりまして」

「そうか、なら良い!」


 それだけ言って遠ざかっていく足音を聞きながら、向こうの僕が暫くこもっていたのがなんとなく分かった。

 たぶん、いっぱい会話したんだろうな。

 少し羨ましいなと思いつつ、急いで準備しておじいさまの待つ庭に。


「主、上です!」


 剣を上段に構えて、打ち下ろしを防ぐ。


「ほうっ!」


 不規則に変化する剣の軌道を、隠れて見ている蜂の1匹が教えてくれる。

 視力強化と、行動予測が使えるらしく、剣が放たれた後はおじいさまでも複雑なフェイントは使えないらしく、予測はほぼ100%当たる。

 初動に関しては、筋肉の動きや視線の動きにも気を配っているらしく、行動パターンが複数出てくるらしい。

 確実ではないため、惑わしてはいけないとあやふやな予測は報告してこない。

 うん、凄く便利。


 そんな事を思っていたら……


「全く見えません!」


 という声と同時に、下段に構えた剣に脳天を撃ち抜かれるという意味不明な攻撃で、久しぶりに気絶した。


「マルコォォォォォォォ!」


 というおじいさまの声が、庭に木霊したらしく慌てて駆け付けた使用人に介護してもらった。

 お陰で、包帯を頭に巻いて登校することになったが。 

 治癒魔法でどうにか出血は抑えられたが、完治とまではいかなかった。


 学校の様子?

 勿論話題の人になったよ。


「あれ、どうしたんだろう?」

「馬鹿だな、剣鬼様との訓練の傷だろう」

「いや、単純に寝ぼけて頭をぶつけただけとか?」

「こけただけかも?」

「それだったら、屋敷に治療魔法使える人も居るだろうに包帯巻いて登校なんて怪我になんないだろう」

「そうだよね……ベルモントも大変だな」


 少しだけ皆が優しくしてくれた。


 明日の訓練は無しになったよ。

 なんでかって?

 ふふ……おばあさまがちょっとね。


 おじいさま?

 たぶん、ベッドで横になってるんじゃないかな?

 治療受けてる時に、庭で凄い音が聞こえてきたし。

 

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