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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第23話:歓迎会後半

「どうだ、楽しんでるか?」

「あっ、マサキおにい!」


 俺が外の即席パーティ会場に顔を出すと、クコが一番に見つけて駆け寄ってくる。

 そして、俺の胸に飛び込んで……ちょっと待とうか?

 その口やら、服にべったりとついたいろいろな……はあ。

 仕方なく受け止めたけど、俺の服にもべったりとソースやら食べかすが。

 相変わらず、上手に食べられないのが流石に不安になってきた。

 あまり躾に厳しくするつもりはないし、柄じゃないけどさすがにまずい気が。


 左手で俺とクコの服の汚れを吸収しつつ頭を撫でてやる。


「おにさんのりょうりね、とってもおもしろい!」


 こちらを見上げて、ニパーッとはじけるような笑顔で料理の感想を言っているが。

 面白いというのは、果たして誉め言葉なのだろうか?


「マサキ様、あちらはもうよろしいのですか?」

「ああ、俺がいたんじゃやりづらいだろうし、ジャッカス達がちゃんともてなしているから問題ない」


 トトが料理の入ったお皿と箸を手渡してくれるので、受け取る。

 なるほど、大きな何かの骨付き肉に、色が毒々しいソースが掛かっているが。


「コカトリスモドキトリのもも肉に、山葡萄で作ったソースをかけたものらしいです。調味料が乏しいので酸味が強く、なかなかに興味深い味わいですよ?」


 そうか、いろいろと不思議なのだが。

 まずは、そのコカトリスモドキトリというのは?

 ああ、尾が蛇みたいな形をし大きな鶏と。

 蛇みたいというだけで、別に本物の蛇じゃないと。

 相手を石化させる能力もないと。

 ただの、大きな爪と鋭い嘴をもった、狂暴な鶏ね。

 それをただのとは、普通は言わないけどな。


 あと、山葡萄って山がついてるのに、山じゃなくて森でも採れるんだ。

 まあ、そうだろうな。

 気圧の関係で低い場所で育たないなんてことはないだろうし。


 とりあえずかじりついてみる。

 ジューシーとはいいがたい、固い肉質。

 本当にもも肉か?

 むね肉と言われた方が、まだ納得できるけど。


 ソースもほぼほぼ、葡萄を潰して煮込んだだけっぽいな。

 塩味が効いてるから、塩くらいはあるんだろうが。

 控えめにいっても、美味しくない。


「オーガのように顎が強靭なら柔らかいんだろうな。俺にはちょっと、固いかな?」


 口についたソースを左手で吸収しつつ、会場を見るとオーガの1人が絶望したような表情を。

 トトが彼女の焼いたものだと教えてくれた。


「まあちょっと固いだけで、全然食べられるし……うん、このソースも面白くていいと思うぞ」


 慌ててフォローすると、ちょっとだけ表情が和らいだ。

 ちょっとごつめの女性だが、それでも女性は女性。

 女の人の悲しそうな顔は、あまり見たくない……けど誉めて終わりだと、この料理がこれからも出てきそうだし。


「そうだ、この肉質なら煮込んだらどうだろう? 骨ごと煮込んでもいいかもしれんな。もしくは表面に水あめを塗って焼いてみるか」

「水あめですか?」


 俺の言葉に、鶏を焼いた女性が首をかしげている。


「あー、水あめ……」

「これですよ」


 ……土蜘蛛が持ってきてくれた。

 女性がちょっとひきつった笑みになっているけど。


「麦芽ともち米で作ったものですが、砂糖と水でもできますよ。今度、作り方を教えましょう」

「あ……ありがとうございます」


 満面の笑みで提案する土蜘蛛と、ひきつった笑みで対応する女性。

 まあ、気持ちはわからなくないけど。


 とてもいい笑顔だったから、安心して良いぞとフォローを入れたら、蜘蛛の表情が分かるのかって聞かれたが……

 えっ? 逆にお前ら分からないの?

 そう言ったら、すっごく変な顔をされた。


「マサキ兄! こいつらすごいぜ。子供なのに、めっちゃ力強い」

「マコの方がすごい……獣人なのに、全然かなわない」


 うわあ、マコと鬼の子供たちが泥だらけの格好で近づいてくる。

 その様子を、数人の鬼たちが不安そうに見ているけど。

 親かな?

 止めに入った方がいいのか、俺とマコの邪魔をしたら悪いと思っているのか。

 遠巻きに見てるだけ。


「あーあ、そんなに汚して。トトやお母さんたちに怒られるぞ」

 

 とりあえず、左手をかざして汚れを全部消し去る。

 背後でどよめきが起こってるけど、こればっかりは慣れてもらうしかない。

 俺は無精者なんだ。

 楽にできることは、楽にする。


 いや普段は洗濯をきっちりするけど……トトか土蜘蛛が。

 こういった染みになりそうな汚れとか、頑固な汚れは俺が担当してるんだよ。

 汚れ全部吸収したらいいとかって思ったこともあったけど、洗濯して干した服とは違う。

 匂いが……

 まあ、洗剤を使ったり天日に干してるわけじゃないから当然だけど。

 奇麗だけど無臭っていうのは、なんか違ったんだ。


「ありがとう、マサキ兄」

「ありがとうございます! すげー! ピカピカ!」

「奇麗になった!」


 マコと鬼の子供たちがはしゃいでいる。


「で、マコたちは何をしてたんだ?」


 聞くまでもないけど、一応聞いてやるのが親の務め。

 向こうに見える輪が張られた場所と、足跡やこすった跡がたくさんある地面。

 泥だらけの服。

 うん……


「相撲!」

「マコすごい! 5回やって4回も負けた!」

「俺は2回勝ったぞ! 3回負けたけど……」


 へえ、子供とはいえ鬼を相手に、マコも強くなったな。


「力はお前らの方が強いんだから、コツさえつかめばきっと俺よりも強くなるぜ!」

「そう力は俺たちの方が強い! でも負ける……これ、すごいこと! 俺たちもまだまだ強くなれる」

「じゃあ、あっちで続きしようぜ!」

「おう!」


 マコの言葉に子供たちが盛り上がっている。

 後ろの人達の雰囲気が、ほほえましいものを見るような空気に。

 楽しんでるようでなにより。

 子供たちが土俵っぽい場所に向かっていったけど、食べたあとでよくあれだけ動けるよな。


 そして、こっちにジッと向けられる視線。

 子供たちがいなくなったいま、親たちが俺との接し方を模索しているのかな?

 こちらから、花を向けた方がよさそうだな。

 あっちのお偉方とは、一足飛びに仲良くなれなさそうだったからこちらの方々と。

 将を欲するなら、まずは馬とやらだ。


「皆さんも、お食事を楽しんでおら……いや、跪かないで」


 満面の笑みで鬼の皆さんの方へと歩を進めたら、一歩下がって片膝を地面に付こうとしたので手で押しとどめる。

 膝をつきかけた中途半端な姿勢で固まる一同。

 感謝、畏怖、好奇心、尊敬、恐怖、いろいろなものが入り混じった目だな。

 ここにいるのは、普通のオーガたちばかり。

 一斉に向けられる48の瞳に、思わずたじろぐ。


「あの、この度はこのような場所にお招きいただき、誠にありがとうございます」


 静寂の空気があたりを漂い、お互いに気まずい雰囲気に。

 なりかけたところで、沈黙をやぶったのは老齢のオーガ。

 さすが、空気を読めるっぽいぞ。

 ゆっくりと立ち上がりながら、きわめて明るい声で話しかけてきてくれたのでその手を取って立ち上がるのを手助けする。


「慣れない土地で最初は苦労するかもしれないが、徐々に慣れていってほしい」

「ほっほ、もはや慣れた土地ですら苦労してきたわれらですじゃ。そのようなこと、それにここは以前暮らしていた場所よりも、よほど良い場所のように思えます」


 おお、なかなかに上手い。

 周りの不安を取り除きつつも、俺もこの場所も立ててくれるとは。

 流石、亀の甲より年の劫だな。


「料理も美味しいものばかりでして、我らの料理など横に並べてよいものかと」

「なあに、祭りの準備はみんなでするものですよ。それに、皆さんの料理だって個性的で悪くない。我々の知らない材料や、調理法もあるみたいですし、そこから発展させていけば双方の料理の質の向上につながるかと」

「これほどの料理を作り上げながら、まだ納得されていないと。いやはや、恐れ入りました」


 ちょっとわざとらしくもあるが、驚嘆の声をあげて大笑いする老人に悪い気はしない。

 うん、そうだな……ちょっと、デモンストレーションをするか。


「例えばこちらの平ぱんですが、変わった風味の香草ともっちりとした食感はとても良いですよ。人が作る固いだけの平パンとは少し様子が違う……山葡萄から酵母を作っているのでは?」

「ええっと、酵母というのがよくわからないのですが」

「果実の汁っぽいものとか……」

「そうですな。昔からある果物等を壺に入れて作る、なにやら泡の出る液体を使ってますぞ」


 酵母を使っていると。

 なら、平パン以外もできそうだけど。


「これは焼いてもいいですが、油で揚げてもいいですよ」

「揚げる?」

「まあ、見ててください」


 俺は右手で植物油を呼び出すと、水魔法の要領で空中で球体に押しとどめる。

 さらに、平パンの中にある空間に空気を少し送り込んで。

 油に熱を加えて、熱くしたうえでそこに平パンを突っ込む。

 少しまって、大きく膨らんできつね色になったところで取り出す。


「これは、パンが大きくなりました!」

「まさか、量が増えるとは」


 はは、量が増えたわけじゃないんだ。

 まあ、食べてみてもらおう。


「う……うまい」


 俺が手渡したそれを、老齢のオーガが少しちぎって食べる。


「お前たちも食べてみなさい! これはすごいぞ」


 そのオーガの言葉に、他の村民たちも恐る恐るといった様子で近寄ってくる。

 それから、パンちぎって分け始める。


「ほう、すごい! カリカリしてるのに、なかはふんわりしっとり」

「うわあ、しぼんじゃったけど、まだまだ美味しい」

「見た目も派手だし、食感も良いし……でも、魔法が使えないと」


 あー、無精し過ぎたか。


「何も魔法でやらなくとも、鍋に油を入れて熱してやれば」


 俺の言葉に、村人たちが少ししょんぼりした表情。


「油……高価とはいいがたいですが、決して安くないものをあんなにたくさん」


 そうか、油はやや高いんだった。 

 いやいや、いくらでも油なんて作れるし。


「油を作る方法も教えてやるし、ここにはたくさんあるから気にするな。作り方が分かって、自分たちで作れば気兼ねをすることもなくなるだろう?」

「油の作り方ですか?」

「まあ、搾るだけなんだが力自慢のお前らなら、簡単な作業だよ……ただ、労力に対して採れる量が少ないからな」

「それで、高いのですな」

「まあ、専用の道具もあるから一度に大量に搾れるようにはなってるから、ここでは気にするな」


 そんなやり取りを繰り返しつつ、徐々に村について慣れていってもらう。 

 うん、もうそろそろ緊張もほぐれてきたんじゃなかな?


「ここでは……ということでは、やはり下界とは違うということですか」

「あの方は、やはり人ではないのでしょうな……」

「森より安全かもしれないけど、森より強い生き物が……というか、ここだとわれらが弱者か……」

「ま……まあ、新しい長となられるかたが、その強く優しい方であったことを喜ぼうではないか」


 何やら、別の意味で緊張した面持ちで会話をしていたが。

 もう少し、誤解を解くのに時間が掛かりそうだ。


 まずは、ここはたぶん別次元かこの世界のどこかだから! 確かに空の上かもしれないけど、そうじゃないかもしれないから普通の世界を下界なんて思ってないぞー。

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