第21話:神と聖魔
「わ……我らが何かしたと?」
カブトの許可を得て発言をしたオーガレッドの言葉だ。
かなり焦っているのが分かる。
というか、なんでカブトが発言の許可を出してるんだ?
ラダマンティスが満足そうだから良いけど。
しかしうちの主力の護衛人は、2人とも格さんっぽいよなー。
「特に何もしておらぬな……しいて言うならば、わが主の前に現れたことか」
「そ……そんな」
何故連れてこられたのかという、不安からの質問だったのかな?
オーガレッドがプルプルと震えているが、怒ったのかな?
「それだけ? たった、それだけのことで……気に入らないからと……それだけの理由で、このような地に」
混乱しているのかな?
よく分からない感情が渦巻いてるように見える。
このような地がどのような地か分からないけど、悪い場所ではないと思うのだが。
「ここをどのような場所だと思ってるのだ?」
カブトが顎をしゃくるというか、角をしゃくって続きを促す。
おっと、ジョウオウ……お前にお銀は無理だぞ?
網タイツっぽいものを土蜘蛛に強請っているが、いま土蜘蛛は忙しいんだから邪魔をするな。
いつの間にか消えたジョウオウが、外で土蜘蛛に纏わりついているのをタブレットで確認したので注意しておく。
いや、別にこの茶番に飽きたとか、見てて恥ずかしいって思ったわけじゃないんだけど。
なんというか……退屈で。
あと大仰すぎて、見るに堪えないというか。
「冥府の国ではないのですか?」
「ふんっ、まあ言い得て妙ではあるが、一応はまだ現世に近い場所だな」
「現世に近い? やはり、中間にある断罪の間的な……」
カブトの言葉に、スカウターが顔を青くさせているが。
そもそも、そんなに悪さをしたわけじゃないと思うんだが。
現世日本仏教みたいに、絶対に天国いかせないマン的な数の地獄があるわけじゃないだろうし。
「ふぅ……少しは落ち着け。そもそもがだ、気に入らないから連れてこられたわけじゃなく、主が気に入られたから呼んだのだ」
「えっ?」
カブトの言葉が意外だったのか、オーガレッドもスカウターも両方が素っ頓狂な声をあげている。
うーん、いつまで続くのかな?
早く、終わらないかな。
俺もトトたちのところに行きたいなー。
「ゴホン」
気もそぞろな俺に対して、ラダマンティスが咳ばらいをして注意してくるが。
そもそも俺が喋ると存在が軽くなると言われて、喋るなって言われてるんだけど。
本当は、直接話したくてウズウズしてるんだけど?
てか、置物になるくらいなら、外で楽しんでたいんだけど。
「ああ、マルコ様!」
「いいから、いいから」
「ふふふ、ありがとうマルコにい!」
なんだ?
何が起こった?
外から聞こえてくる声が、凄く気になる。
トトがマルコを注意して、クコが喜んでる。
タブ……取り出す前に、ラダマンティスがまたも咳払い。
うーん、もう俺いらなくない?
「というかだ……そのような理由で我らを連れ去ろうなど。そのお方は神にでもなったおつもりか?」
「ハッハッハッハ!」
おお、こっちも大詰めか?
オーガレッドが大きな声を出したかと思うと、カブトが高笑いを始めた。
「まだだな……」
「まだ?」
「だが、いずれその高みに上り詰めるお方だ! 今から、仕えて置いて損はないと約束しよう」
「なんと、不遜な!」
「ふむ……その言葉は、看過できぬな。だが、知らぬのも道理。人の身で神に至るなど、普通に考えればそのような反応になるのは致し方あるまい」
神になるというか、できればその昇進は拒否したいんだけどね。
定年退職までが長すぎて……
「どういうことだ? 何が……」
「鬼程度では気付けぬか。この地に満たされておる光と闇の神気に」
「神気だと?」
盛り上がってるなー。
俺、そっちのけで。
喋っちゃ駄目かな?
「そもそもがだ。この地を任せられここにあるものを全て作り出したのは、そこに座っておられる我が主、マサキ様のお力ぞ?」
「ば……馬鹿な。それこそ、本当に神の所業ではないか!」
お前ら、事前に打ち合わせとかしてないよなー?
なんか、面白いくらいに演技掛かったやりとりだけど。
まあ、オーガレッドは迫真の演技というか、もう助演男優賞まったなしのリアルな反応だけど。
「だからそう言っておろう。マサキ様は神に仕えし、この世界の管理者。神の執行代理といっても過言ではない」
「……大それたことを」
「これを見て、まだそれが言えるかな?」
そう言ってカブトが合図すると、マハトールが入ってくる。
よく分からない表情をしつつ、微妙に何かに怯えている。
ああ、蟻や蜂達に脅されてきたと。
声を出さずに堂々と立ってるだけでいいと言われた?
うーん……堂々とは立ててないかな?
生まれたての小鹿もかくやというほどに、膝が笑ってるぞ?
「悪魔! いや、デーモンロード! しかし、そのうちにあるのは聖気……どういうことだ」
オーガレッドの混乱に拍車がかかる。
マハトールは真顔で突っ立っているが、その脳内は混乱の極みっぽいな。
早く解放してという感情がありありと伝わってくる。
「ふん、そこにおるのはただのレッサーデーモンよ。聖属性と光属性を身に着けつつあるな」
「い……意味が分からぬ! 負の感情の発露から生まれし存在が、正に位置する属性を操るなど! 天使であるならばまだしも、このような禍々しい見た目で」
禍々しいの部分で、少しマハトールが嬉しそうにしてた。
喜ぶなよ。
蟻達が顎をカチカチとならしたら、すぐに真っ青な真顔に戻っていたが。
「あの表情はなんだ。まるで感情を感じさせない、全ての不幸を背に負ったような空気を出しながらも、完全なる無表情」
なんか、よく分からんが。
オーガレッドはそう感じたのだろう。
俺にはいつもの、調子に乗りすぎた後のマハトールにしか見えないが。
「その悪魔を使役しているのが、我が主だ」
「……聖なる悪魔。はっ! まさか聖魔! 聖魔を従えているというのか! そのものは闘神の化身とでもいうのか!」
マハトールの頬がピクピクとひくついている。
聖魔という言葉に、色々とくすぐられているらしい。
これは、益々訓練に精が入りそうだが。
結果として、負の要素である闇属性が弱まったら本末転倒じゃないかな?
案外天使に昇華したりして。
「オーガレッド様……そのものの体内に、デーモンロードの脈動を感じます」
「種はあるというのか。それを自分の意思で押さえつけているというのか? 何故だ」
「もしかすると、聖属性を操る関係かもしれません」
「第二形態があるということか」
オーガレッドとスカウターが何やらヒソヒソ話をしている。
凄いな、どんどん憶測で見当違いな方向に、勝手に話が進んでいる。
もう、どうにでもなれとしか思わないが。
マハトールの鼻がグングン伸びて行ってるような幻視に襲われるのも、楽しいし。
こいつが調子に乗ってるの見るのって、最近は楽しくなってきたんだよな。
情が湧いたというか、もはやここに住むものと遜色ないくらいには受け入れちゃってるからなー。
最初は罰のつもりで、色々と無茶ぶりをしてきたけど。
愚直に努力と根性で全てを乗り越えたこいつを……悪魔ってなんだ?
真面目に努力してたよな、この悪魔。
しかもストイックに、最近ではより過酷な訓練を望みだしてるし。
泣き言を言いつつも、俺にずっと仕えたいみたいなことも言ってたし。
もしかして、ジョブチェンジしてないよな?
してないか。
レッサーデーモンのままだ。
良かった。
「とりあえず、里の者全員連れてここに住むつもりは無いか? きっと。後悔はさせんぞ?」
「まあ、断れば後悔することになるだろうがな」
カブトの言葉に続いて、ちょっと調子にのったマハトールが目線をはずして横を向いてボソッと呟いていた。
「くっ……選択肢などないではないか」
オーガレッドが悔しそうにつぶやいている。
ん?
ああ……ええ?
うっ……
はあ……
「マハトール……黙れ」
「ひっ……出過ぎた真似を致しました。申し訳ございません」
蟻と蜂、カブトから全力で威圧を放って、マハトールを黙らせろと言われた。
なんていうか、有無を言わさない雰囲気というか。
念話で必死で断ったけど、今がチャンスですみたいな。
黙れだけでいいと。
余計な言葉は足すなと。
あと目は閉じてと……
うん、数秒前のマハトールと同じ調子の乗り方っぽいか、凄く気乗りしないんだけど。
タイミングが大事、いまですと全員に声をそろえて言われたら、つい反応してしまった。
「無念」
「こ……この先の未来に、期待をしましょう! オーガレッド様!」
完全に心が砕け散ったのが分かった。
オーガジェネラルをもってしても、挑もうという気にすらならないマハトールを、一言で黙らせるのが最高に効果的と。
しかも威圧の余波が、2人も届いているからなお効果的。
自分に向けられたわけじゃない威圧に怯えた時点で、服従以外の選択肢は無いと……
そうですか、そうですか。
あー、穴があったら入りたい。
せっかくの人型。
もっとこう、フレンドリーに付き合いたかったんだけど?
そんなものは、時間が解決してくれる?
まず最初は、ガツンといっちゃうべき?
……そういうものかな?
そういうものだと言われた、どうしようもない。
取り合えず、残りのオーガ達を迎えにいかないといけないらしい。
マルコが取込み中だから、俺がマルコの身体を使って……
良い身分だな、お前ら。
武者修行じゃなかったのか?
結局、ここで普通の休暇を過ごしてるようなもんじゃないか。
ヘンリーが楽しそうだから、大目に見てやるが。
少しはこう、俺にも気を使え!





