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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第20話:事態収拾

「どうしますか?」

「どうするって、言っても」


 スカウターの言葉に、大顎達の方を見る。

 ソーマさんが糸でグルグル巻きにされ、オーガレッドさんが一人で奮闘している。

 ソーマさんの意識はない。

 でもね大顎……百足は、糸吐かないんだよ?


『魔力の具現化です。別に土蜘蛛殿と違って、口やお尻から出しているわけではありませんので』


 そういう意味じゃないんだけどね。


「くそっ、七重詠唱(セプタブルキャスト)……ありえんだろう!」


 七つの属性違いの魔法が、オーガレッドさんの行く手を防ぐ。

 完全に、手詰まりの状況。

 大顎にしては、珍しく調子に乗ってるみたいだけど何か嫌なことでもあったのかな?

 楽しそうで、良いんだけど。

 もう、オーガレッドさんになんて説明したらいいのやら。


 ソーマさんの意識も完全に刈り取ったみたいだし、もう良いかな?

 同時に凄い数の魔法を放ってるように見えるけど、便乗した蜂達の魔法も混ざってるんだよね。


「いくつ属性を持っているというのだ! こんなもの、災厄どころの騒ぎではない……」


 とりあえず、オーガレッドさんが大顎をソーマさんから離しに動いているのが分かったので、大顎にもそれについていってもらって距離を取る。

 勿論、森の中でソーマさんを放置すると、他の魔物に襲われたら危険……ああ、もう殆どの魔物が避難してる?

 虫一匹いない?

 ははは、ナイスジョーク。

 蜂や蟻が、たくさんいるけど?

 ああ、うちの子たち以外はいないと。

 そっか……


 あんまり爆音立てて戦うと、離れても結局ソーマさん起きちゃうよ?

 急いで、大顎たちの元に。

 スカウターさんが不安そうな顔でついていきている。

 そして、オーガレッドさんの他にもオーガが2体。

 ああ、隠れて様子を見てた人達ですね。

 加勢にと……


 いや、それよりも里に走った方がいいのでは?

 ああ、人相手は無理でも、虫相手ならうまくいけば逃げ切れると思ったのね。

 オーガレッドさんを連れて。


 早速後悔してますみたいな表情してるけど。


「はい、ストップ!」


 これ以上は収拾がつかなくなりそうなので、大顎の横にたって何節目かわからないけど身体に手を当ててとめる。


「なっ、マルコよ! 何をしておる! 早く離れろ!」


 オーガレッドさんが、慌ててこっちに飛び込んできたのを、魔力の障壁で防ぐ。

 カブトのスキルの【鉄の盾(アイアンシールド)】だ。

 今使えるものより、かなり落ちるスキルだけどオーガレッドさんならこれで十分。


「な、なにを! スカウター! 隙を見てマルコを連れて逃げろといっただろう!」


 いつの間に、そんな指示を出したのだろう。

 念話かな?

 オーガレッドさんが慌てているが、スカウターさんは困り顔でそれを見ている。


「これが奥の手」


 僕がそう言って、大顎に念話で指示を飛ばすと頭を地面スレスレにまで下げて、首に乗せてくれる。

 落ちないように、触覚を僕の身体に巻き付けて支えてくれている。


「奥の手? まさか、いまの一瞬でテイムしたのか? お主、魔獣使いか!」

「違うよ、もともと僕の友達だったんだよ」

「……ん?」

 

 僕の言葉に、オーガレッドさんと他2人のオーガが動きを止める。

 それからお互いに顔を見合わせて、首を傾げている。


「虫と友達になんて、なれるわけ……」


 そこまで言いかけて、完全に固まった。

 蟻や蜂達まで集まってきたからだ。

 カブトや、ラダマンティスがゆらりとマサキに近づいて行ってるのが分かる。

 土蜘蛛が鍋をお玉でカンカン叩きながら、すぐに出てくように追い立てていたけど。

 召喚してほしかったのかな?

 また、今度ね。


***

「で、結局マルコの方が強かったわけだ」

「まあ……」


 管理者の空間で、ヘンリーがニヤニヤと笑みを浮かべている。

 そして、マサキの前で膝をついているのは、オーガレッドさんとスカウターさん。

 心なしか、かなり緊張している。


 ちなみにあとの2人は、蜂の護衛を付けて里に先に帰しておいた。

 うん、ルシファーホーネット。

 天然のルシファービーじゃなくて、合成で出来た魔王雀蜂。

 オーガレッドさんの頬がひくついていた。

 規格外の大きさというか。60cm~m超えのスズメバチとか、もう何もかもを諦めたくなるレベルらしい。

 スズメバチの厄介なところは追い払って逃げることもあるが、刺激に反応して執拗に攻撃を繰り返してくることの方が多い。

 いや、巣に近づいたりしたり、ちょっかいさえ出さなければ割とそんなに危険なわけではないが。

 それでも、危険だから最初から近づかない方がいい存在。

 そんな存在が規格外のサイズで、10匹もブンブン飛んでたら絶望しかないそうだ。

 こんなに可愛いのに。

 つぶらな複眼で、こっちを見上げてくる姿とかとくに。


 オーガの方々には分かってもらえなかった。


「それで、貴方は?」

「ああ、そこのマルコの保護者だな」


 マサキが何かのたまっているので、軽く睨む。

 最近では、大人精神であるのをいいことに露骨にマウントを取り始めている。

 こういうと、嫌なやつになったっぽく聞こえるかもしれないけど、そうじゃない。

 本当に、僕を完全に子ども扱いどころか、子供のように扱いだした。

 同一人物なのに。

 

 まあ僕も、マサキとしての自我よりもマルコとしての存在の方が、しっくりときはじめているけど。

 完全に同調することもなくなってきた。

 どっちかが、管理者の空間にいるじょうたい。

 2人で1つの身体を動かすことは、無くなってきている。

 これで良いのかな?


「ああ、あとは俺に任せてヘンリーたちと遊んで来い。土蜘蛛も待ってるぞ」

「ええ」


 いかにも、もうお役目御免とばかりに手で追い払われそうになって、抗議の声をあげてはみたものの。

 紹介は終わってるし、そもそもがマサキもタブレット越しに様子を見ていたみたいだし。

 確かに、僕がやれることはもうほとんどないけど。


 オーガレッドさんとスカウターがこっちを、縋るような目で見てくるのが。


「マルコ様、お菓子の準備が終わってますよ」

「あっ、うん……」


 くっ、焼き立てのクッキーの甘い香りを身に纏った土蜘蛛の眷属の一匹が、神殿の中に入ってきて僕に声を掛けてくる。

 外では、楽しそうな声が。

 ヘンリーが大顎の飛行形態で、ジェットコースターもどきを楽しんでいるんだろうな。

 ベントレーは、土蜘蛛にべったりだし。

 あれこれと、今回の冒険譚を聞かせているのが分かる。

 土蜘蛛も楽しそうだ。


 ちなみにギルドに戻ったあとで、ジェームスさんに最後まで逃げずに残ったことで大目玉をくらったが。

 取り合えず大顎と、オーガレッド達を送ったあとで、集団で来た冒険者ギルドの人達には軽く事情を説明しておいた。

 オーガの増援が来て、死闘の末に大百足は追い払うことに成功したけど、ジェネラル達も大怪我を負って里に戻っていったと。

 しばらくは、精力的な活動はできないだろうし、大百足が森から出ないように鍛錬を積みつつさらに森の深部に居を移す話をしていたと。


 ソーマさんが自分も助けられたことや、大百足を追い払ったにもかかわらず僕も彼自身も襲われることが無かったことから、危険度は低いと説明してくれたお陰で様子見という結論になっていた。

 もちろん、オーガスカウターを発見した時点で、全員が帰らなかったことに関しては相当怒られていた。

 ただ、今回のオーガの調査の功績の方が上だと判断されて、それなりに報酬ははずんでもらったとのこと。

 元々は報酬も無い、僕たちの教育的指導が目的だったので叱られてなお、ジェームスさんとキーンさんが悪い顔をしてた。


 あっ、受付嬢に大きな貸しができたと。

 まさか、こんな事態になるとは相手も予想してなかっただろうけど、きっと気にしているだろうとニヤニヤとした笑みで例の受付嬢に声を掛けにいっていた。


「ふふふ、イレギュラーにも的確に対応して、なお子供達も全員無事と……あのレベルの事態に、足手まといともいえる子供達を連れてですか……そうですか」


 受付の人の方が、悪い笑みを浮かべていた。

 そして、打って変わって対峙していたジェームスさんとキーンさんは、笑顔は引き攣った笑みに変わっていた。

 大丈夫かな?

 今後、もっと無茶ぶりをされるようになるかもしれない。


 ジェームスさんが望外の報酬を得たことで、大規模な食事会が開かれたが。

 本当に大勢の人たちが集まっていて、楽しかったな。

 陽が落ちた時点で、子供達は帰されたけど。


 まあ、その辺りはまた詳しく思い出そう。


 流石に、クコに


「マルコにい! 一緒にクッキー食べようよ!」


 と言われ、マコに


「マルコ兄! 冒険の話聞かせてよ! ベントレーの話だとなんていうか……ところどころこう言葉が大げさというか、叙情詩的でむず痒いんだ」


 叙情詩とか、難しい言葉知ってるなー……

 とはいえ、キラキラと期待した目を向けられたら、話してやらないわけにはいかない。

 行かざるを得ないという、やつだな。


 入れ違いで、中に入っていったカブト、ラダマンティス、ジョウオウが隠す気のない威圧を放っていたのは見なかったことにしよう。

 大物ぶってるなー……

 そして直後に聞こえた悲鳴から、耳を塞ぐようにしてクコ、マコ、ベントレーと土蜘蛛のところに混ざりに駆けっていった。


***

 さてと、目の前の2人を見て、色々と楽しくなってくる。

 しっかし、本当に鬼だな。

 オーガジェネラルの方は、癖のある髪の毛だが両サイドにしか生えてない。

 そして角が三本か。

 それなり以上に魔力が角に溜まっているのに、魔法は得意ではないらしい。

 

 オーガスカウターの方は、わりとフサフサだな。

 一本角だが、長くすらっとしている。

 顔はいかついが優しくも見える。


 2人とも角がなくても、鬼と分かる感じ。

 ゴブリンが大人になって、イケメンになった感じか?

 分かりにくいか。


「マサキ様」

「来たか」


 マルコが出て行ったのと入れ替わりに、カブトとラダマンティス、ジョウオウが入ってきた。

 のっけからオーラ全開で、威圧を放っている。

 まるで、俺達は大顎より上だぞと主張しているかのよう。

 大人げない。

 あと、ジョウオウよりは、大顎の方が強いし役に立ってると思うぞ?


「ひいっ」

「あっ……ああ……」

  

 横を通り過ぎていったカブト達を横目で見た2人が小さく悲鳴をあげて、ガタガタと震えている。

 すれ違いざまに、思いっきり魔力も開放していたからなー。 

 ジョウオウが。

 カブトとラダマンティスは流石に、威圧だけだったが。


 ただカブトの場合は、漏れ出てる感じかな?

 王者の風格を表しているような、大きく力強い威圧のオーラ。

 上からのしかかるような、重圧を感じたことだろう。


 引き換え、ラダマンティスの威圧は研ぎ澄まされた刃のようなオーラだ。

 まるで薄氷の上を歩かされるような緊張感と、首に死神の鎌を当てられたかのような絶望感を味わったことだろう。


 そしてジョウオウのオーラは、幼子が母親に本気で怒られているときに感じるオーラかな?

 もしくは、奥さんや彼女の逆鱗に触れた、立場の弱いお父さんや彼氏さんの気持ちを味わっているってところかな?

 少し余裕があるような感じではあるけども、後がないというような。

 それでいて、許してもらえるかもという淡い期待を抱かせるような。

 そしてジョウオウが2人に微笑みかけた。

 魔力を放出しながら。

 目があった瞬間に傾国の美女が王女としての権力を翳し、自分の娯楽のためだけの理不尽に拷問を伴った無茶な死刑を言い放つときにしそうな笑みだった。 

 そして、2人が大声で悲鳴をあげてガタガタと……


「いたいですわ! ご褒美ですか」


 ……


「二度もぶちましたわ! ありがとうございます!」


 ジョウオウがやりすぎたから頭をぶん殴ったら喜んでいたので、強化をかけて頭をぶん殴ったら感謝された。

 誰だ、こんなやつ作ったの……

 割と、本気でいったのに無駄に頑丈になったな。


「どうか、我ら2人の首で里の者達の命だけは」

「何卒」


 オーガレッドが自分の命と、あとスカウターの許可も取らずに彼の命まで差し出してきた。

 それに不満どころか、当然とばかりに顔もあげずにさらに深く頭を下げるスカウター。

 もう一発ジョウオウを殴っとく。

 冷気を纏わせて。


「寒いのは苦手ですが……ご褒美ですね」


 もう、放っておこう。

 何しても喜びそうだ。


「あー、そう「面をあげよ」


 いま、俺話しかけようとしてたよね?

 なんで、そんな厳かな感じで、指示しちゃうの?

 カブトさん?

 しかも、主の俺の言葉をさえぎってまで……


『ここは、主の評価を最大限まで高めて置いた方が、良いかと。鬼は強さが全てですから、圧倒的すぎる力を見せる必要があるかと』


 念話で、言い訳してきたが。


『必要ないよね? もう、心ポッキポキに折れてるよね?』

『砕いておけば、なおいいかと』

『いや、あれもう粉みじんだよ?』


 不要だと思うけど、必要なことらしい。

 まだ、出会ったばかりで、なめられるのはまずいと。

 ある程度は主を知ってもらってから、砕けた関係に持って行った方が鬼は確実に従順になると……


 いや、そもそもスカウターが欲しかっただけで、ジェネラルまでは……

 まあ、良いか。

 取り合えず、マルコ達が楽しそうなのが羨ましい。

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