表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

272/304

第16話:オーガの群れ

「で、お前たちは、何が目的だ? どのくらいの数がいるんだ?」


 ロープで縛り上げたオーガスカウターに、ジェームスさんが剣の切っ先を向けながら詰問。

 答える気がないのか、そっぽを向いて口を噤むオーガスカウター。


「このっ!」

「だめだって」


 ジェームスさんが剣で斬りつけようとするのを、止める。

 いくら、魔物とはいえ話が聞けるなら、少しはやりようがある気がする。

 というか、拷問的なのはちょっと。


「なんでだよ! 魔物だぞ! どうせ、情報を引き出したら殺さないとまずいだろ」


 ジェームスさんが思わず叫んだ言葉に、全員があちゃーって顔をしてる。


「リーダー、そういうのは思ってても、情報を聞き出すまでいっちゃだめだろー」


 キルクさんの心底呆れた様子の言葉に、ジェームスさんが頭を掻く。


「すまん」


 というか、こういのはキルクさんの方が得意そうに見えるんだけど。

 なんで、リーダーに任せちゃってるんだろう。

 本人がやりたがった?

 そうですか。


 あー、今まで良いところがないから、リーダーっぽいことがしたかったと。

 ……別に良いんだけどさ。


 ベントレーとヘンリーが周囲の警戒をしているが、このオーガスカウターの気に当てられてか魔物達が近付いてくる気配はない。

 うん、蜂や蟻達がいるからだとは思わない。

 この子たちは、いまはのんびりと普通の蜂と、蟻のフリしてるし。

 

「マルコ、肩に蜂が止まってる!」

「うわっ、でかいな! 動くなよ!」


 キーンさんが僕の肩に止まった蜂を見て、指摘する。

 そして、ソーマさんが槍を構え……危ないなー。


「大丈夫、刺さないから」

「ええ?」

「いや、絶対刺すような形してるぞ、そいつ!」


 2人が焦ってるけど、気にしない。

 すぐに蜂は飛び立っていった。

 足に何かを挟んで。

 あー、肩に毛虫が落ちてきていたのか。

 全然、気が付かなかった。


『これは、結構厄介な毒を持ってます。刺されると、一週間ほど何を食べても美味しくなくなるというちょっと変わった毒です』


 そっか……

 森で、そいつに刺されたら厄介だな。

 あー、いくら肉食系の魔物でも、数日したら食べることが苦痛になって他の動物や魔物を襲わなくなると。

 で、食事も取れずに徐々に衰弱していったところに、寄生すると。

 なかなかに厄介だ。


 まあ、良いか。

 

「毛虫?」

「ハングリーワームか……」


 念のために、吸収して管理者の空間に送っておいた。

 マサキなら上手に、どうにかしてくれるかなって。


「あれに刺されると、結構大変なんだよね」

「飯が不味くなるってあれだろ? ただ、薬があるだろう」

「前に刺されたときに、薬つかったけど完治はしないというか。薄味に感じるようになるんだよねー一週間くらい」


 経験者がいた。

 しかも、そこまで大変な毒じゃないそうだ。

 そもそも、僕の場合は毒を受けても左手で吸収することで、解毒できるし。

 心配なかったけど、蜂は褒めておく。

 刺されたら、痛いし。


『また、虫か……』


 管理者の空間の方から何やら、げんなりとした呟きが聞こえてきたけど気にしない。


「フン、我は偉大なるオーガキング、オーガレッド様にお仕えする100の将の一人。といっても、末席に置かせてもらってる最弱の将だがな」


 落ち着いたのか、オーガスカウターが流暢に言葉を喋りだした。


「言葉がしゃべられるのか?」

「お前たちの言葉くらい、聞けば簡単に覚えられる」


 そうか、もともと少しは喋られたのを、ここでの僕たちの会話等で発音やイントネーションを修正したのか。

 抑揚のない外国人さんみたいな喋り方から、現地の人の喋り方に一気にランクアップ。

 マサキから、毛虫よりそいつを送れという視線が向けられているのを、ひしひしと感じる。

 感じるだけで、応えるかどうかは別だけど。


「しかし、こいつはまずいぞ! オーガキングに、将ってことはあれだろ? リーダークラスが100匹いるってことだろう?」


 しかも盛大にふいてる上に、ジェームスさんがそれを丸っと鵜呑みに。

 いやいや、え? 

 他の4人も顔色が悪い。


「事態は思った以上に、深刻なようだ」

「キルクは、すぐにギルドに応援を求めに行った方がいいんじゃないか?」

「私たちは、後方警戒をしつつ撤退ね。子供達は……キルクについていけそうでは、あるわね」

「まあ、魔物も無視して街まで走り続けるなら荷物にはならないかな? 半分も進めばこいつらが、その辺の魔物に負けるとも思わないし。ついてこられなくなったら、安全な場所を探して置いて……そこまで戻ればだれかいるから、預ければいいか」


 ソーマさん、キーンさん、クロエさんの意見を聞いて、キルクさんがこれからの方針を立て始める。

 

「残念ながら、私は走れる気がしないし、ソーマまで連れていかれると困るから、キルクだけにお願いすることになるけど……大丈夫?」


 キーンさんが心配そうに、キルクさんを見上げている。

 というか、キーンさんが走れないのって、単なる食べすぎだよね?

 まあ、良いんだけどさ。


「おい、聞こえてたと思うが、まずい! 巣じゃなくて、国が出来てるかもしれん!」

「ああ、聞こえてた。今から、俺が子供だけ連れて先に街に戻ろうかと思う」

「そうだな。それが一番か……すぐに応援を呼んでくれ! 俺とソーマで後ろは受け持つ! まだ、近くにはいないらしいが……こいつが、捕まったことで救援の通信を送ったらしい」

「くそっ!」

「クロエ、最悪はソーマと2人で逃げるのよ」

「姉さん?」

「私は、戦闘はまだしも、撤退戦になったらきっと足を引っ張るから……なあに、姉さんに任せな! 最後に一発、どでかい花火を……」


 なんだろう、皆で今生の別れみたいなドラマが始まったけど。

 これは、ギャグかな?

 本気みたいだ。


「なあ、オーガの職持ち100頭と、マルコどっちが強いと思う?」

「そりゃ、オーガだろう! 流石にマルコといえ、職持ちのオーガを複数相手できるとは思わん」

「賭けてみるか?」

「賭けにすらならんと思うが」


 ベントレーとヘンリーは、呑気なものだ。

 たぶん、僕でも100頭のオーガなら職持ちじゃなくても、たぶん無理じゃないかなー……

 マサキなら、行けそうだけど。

 ただ、皆が逃げてくれたら楽勝かな?

 蜂と、蟻だけでどうにかなるなら、最悪キングが来てもカブトかラダマンティスを呼べば。

 まあ、そのキングがいないんだけどね。


「甘いなーベントレーは。ここは森だぜ? せいぜい、一度にマルコに襲い掛かれるのなんて、3~4頭だろ? 3頭だとして、33回ほどぶちのめしたら良いだけだぞ? 師匠との100回組手よりはマシだろ」

「そう言われると……いけそうな気が」


 しないよ?

 ベントレーもうまいこと、乗せられないでね?

 木の上から奇襲されたり、遠くから魔法を打たれたり。

 さらには、周囲の木をなぎ倒されたらどうにもならないからね?


「30頭……」

 

 取り合えず、わたわたしてる銀の槍のメンバーと、ベントレー達を放置してオーガスカウターに近づく。

 僕の言葉に、オーガスカウターが肩を跳ね上げさせる。


「オーガジェネラル……と君とソルジャーが数頭……で30頭」

「……」


 続けて耳元でささやくと、顔色悪くして黙り込んでしまった。

 うーん、もう一押しかな?

 

「オーガキング? 100の将? いくら、非戦闘型とはいえソルジャーとユニークじゃあねえ? 君が群れで2番目に強いよね?」

「言葉ムズカシイ……ワカラナイ」

「オーガジェネラル1頭、オーガソルジャー4頭、オーガスカウター1頭、雄オーガ12頭……うち子供が4頭、雌オーガ12頭、うち子供が2頭……」

「くっ、頼む見逃してくれないか? いや、族長とソルジャー2人、我の命で許してもらえないか?」


 急に殊勝になったな。

 

「最悪、子供達と女たちだけでも」

「でも、君たちは人の子供だって殺して食べ「食わん! 我らは森の恵みのみで、生きてきた! 狩りの獲物も熊と猪だけだ! まあ猪や鹿がメインだな、熊や狼はあまり、美味くないし」


 食い気味に、大声で怒鳴られた。


「証拠に、お前らの誰も殺してないだろう! 追い払っただけで……その時に多少の怪我はさせたが。それは、我らの領域に近づくなという警告だ」

「そうなのかな?」

「警告したのに、もっと強そうなやつらを送り込んでくるとは……まあ、我がやっていることも似たようなものだが」

「森は誰のものでもないし」

「お前らは、自分達に害をなすと思ったら、すぐに滅ぼしに来る。しかも、追い払ったり、殲滅したりしたら数を増やしてくるからな。黙って滅ぼされるものなど、おるはずもないだろう!」


 いま言ってることは、全部本当っぽいな。

 人は食べないのか。

 人食い鬼とかって、聞いたことある気がするけど。

 

「会話できるなら、会話で「毛色が違うだけで、迫害するような生き物とか? 亜人に対する差別とかもあるのだろう?」

「場所によってはね。というか、やけに人に詳しいね」


 そう言ったら、目線をずらされた。

 どうやら、町にも何度か来てたようだ。

 凄いな。

 誰にも気づかれずに。

 優秀すぎるだろう。

 逃げた冒険者についていって、入ったのかな?

 どうりで、服とかを身に着けてるわけだ。

 盗んだんだろうな……盗むの得意そうな職業だし。


「買ったんだよ! 仮面さえ付けとけば、多少は動けるからな」

「言葉は?」

「必要最低限の接触しかしてなかったからな。そこまで必要性も感じてなかった……いまは「交渉を有利にするためにも、早急に完璧に近い形に修正する必要があったと」

「……そうだ」

「しかし、それにしては色んな言葉を知ってるね」

「お前らのことを知るために、本も読んだからな……なかなかに、傲慢で不遜で残酷な連中だというのはよく知っているぞ!」


 どんな、偏った本を読んだのやら。

 もしかして、その本の話をジェネラルにもしたりしてないかな?

 めっちゃ、脅してそう。


「ということらしいですよ」

「ふーん、キングはいないのか……よし、応援を待って全部殺すか」

「ちょっ、なんでそうなるの? いま、人は殺して食べないって言ってたよ?」

「ほらみろ! 残酷なのはお前たち人間じゃないか!」


 なんでもないかのように言うジェームスさんに、僕とオーガスカウターが揃って抗議する。

 今の流れで、サラッと当たり前のように殲滅を選んだジェームスさんに、愕然とする。

 まさか、まさかだよ!


「いや、だって魔物だし。数が増えたらどうなるか分からんだろう? 森の生態系が崩れたり、資源が減ったりするかもしれん」

「お前たち人間だって、どんどん数を増やしていってるではないか! 貴様らの数に比べれば、我らが10倍、100倍になろうが大して影響ないだろう! それにその資源や生態系ってのは、貴様らにとって都合が良いように維持したいっていうだけだろうが!」

「まあ……言われてみたらそうなんだけど、魔物どもの事情なんて考慮したことないな……ああ、採りすぎや、雌、子供の個体は狩りの獲物からなるべく外すようにとかはしてるぞ? まあ、雌や子供の方が美味いから、多少は狩るが」

「……」

「……」


 語るに落ちるというか。

 ジェームスさんがなんでもないように、言ってる言葉。

 普通なら、なんとも思わないけど。

 先のオーガスカウターの話と合わせると、割と……うん、かなりあれだ。

 雌とか子供が美味しいとか言っちゃうあたり。


「どうした2人揃って変な顔して……というか、魔物相手に何を話してるんだろうな? どうせ、集落の場所も吐かないだろうし、殺せるうちに殺すか? 話して情が湧くのも面倒だ」


 オーガスカウターがめっちゃ、こっちを睨んでる。

 なんで、僕が恨まれる流れになってるんだろう。

 

「これだけ、流暢に喋られたら……亜人ってことになりそうじゃない?」

「マルコ、魔物に情を持つな。簡単にそいつらは、掌を返すぞ」

「えっと……」

「熊の魔物や、狼の魔物を子供の頃から育てたのに、大人になったときに殺されたって話をきいたことあるだろう?」


 それは……たくさんあるうちの事例のなかの、一部かな?

 狼の魔物が子供の頃から育てられて、飼い主を襲った話は一度も聞いたことない。

 虎とか、獅子とかじゃないかな?

 それも、きちんと最後まで襲わなかった個体の方が多いみたいだし。

 そもそも、魔獣使いや魔物使いってのもいるわけで。


「いやいや、あれは話が通じない魔物でしょ?」

「魔物は……魔物だろ?」


 なんで分かってくれないんだろう。

 いや、なんで僕はいまオーガを庇う状況にいるんだろう?

 ふと、我に返って後ろを振り返る。

 僕の顔を見たオーガスカウターが、絶望したような表情に変わる。

 うん、言葉が通じるからかな?

 人を殺してないからかな?

 ジェームスさんの方があれだからかな?

 というか、他の人達は……

 あー、キーンさんたちは、遠巻きにこの先の展開を見守ってる形……キルクさんがいない?


『すでに、町に向かって走ってます。オーガの群れが小規模ということで、まだ対処可能とふんだようです』


 ……

 ベントレーとヘンリーも、ついていってるのか。

 これは、衝突は必至かな? 


「お前、いまそいつらを見逃して、これから先冒険者や、町の住人に被害が出て責任とれるのか?」

「責任はとれないけど、絶対に被害は出さないようにすることはできるけど?」

「ああ、全部殺せば、被害は出ないな」


 そうじゃない。

 けど、事情を説明するのも。

 吸収して召喚すれば、従属できるとか。

 言っても、分かってもらえないだろうし。


「僕の配下に加えたら、大丈夫じゃないかな?」

「オーガが人の下に付く? 聞いたことない」

「ええ! 魔獣使いの人がたまにオーガを従えて、色々とやってたりするじゃん!」

「それは、1頭から数頭の話だろ? 群れごとなんて聞いたことないぞ?」

「こ……交渉して、群れから出稼ぎに来てるのかも?」

「いや、だから、聞いたことないって!」


 オーガスカウターが後ろから、頑張れ頑張れと念を送ってくるのが分かる。

 交渉は難航しそうだし、なんで僕がオーガの為に必死になってるのか分からない。

 分からないけど、たぶん気持ちの問題かな?

 いまのところ、ジェームスさんのせいで人間の方が野蛮な感じになってるし。

 オーガスカウターに人が野蛮で残酷な生き物だと思われてるが面白くなくって反論してた矢先に、ジェームスさんが雌がー! 子供がー! 皆殺しだー! と野蛮なことを言いだしたからムキになってる感が否めない。


『ジェネラルが単独でこちらに向かってます』


 ええ、臆病だったんじゃないの?

 単独?

 ソルジャーは?


『群れの防衛に置いて来たようです。自分が倒されたら、全速力で奥に逃げろといって。荷物は全ておいて、子供達はソルジャーと雄のオーガで強いものが担いで走れと』

 

 ……

 どのくらいで、ここに来る?


『10分は掛からないかと』


 意外と、近くにあったんだ……オーガの巣。


『いいえ、ジェネラルが速すぎるだけかと。敏捷がやけに高いですね……それと皮膚もかなり固そうです。そこのスカウトもでしたが、やはり防御特化型のようです』


 そうか……

 なんで来ちゃうの?


『今まで何度も群れを救ってくれたスカウターに、礼も言わずに一人で逝かせることなどできないと、勇気を振り絞ったようです。それに報いるために、なんとしても彼だけは救って逃がすつもりみたいですよ! 群れに有意義なのは自分よりも、彼のスキルだとも言ってました』


 うーん……


『せめて、一言礼が言え逃がすことが出来たら最上。最後まで群れのために尽くしてくれた忠臣と共に死ぬことになっても上々と笑って、群れを飛び出してきたようです』


 ……そう。

 

『そして2頭のオーガがかなり遅れて、追ってきてます』


 ふーん。


『死後の世界で雑務をスカウター様にやらせるわけにはいかないと。あるか分からないが、死後の世界に行くなら召使いくらいいるだろうと笑って言ってました……』


 えっと?

 そのオーガ達は、主人公特性でも持ってるのかな?

 なんか……ジェームスさんの顔が、だんだんと悪人っぽく魔物っぽく見えてきた気がする。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの管理の仕事に出向する話

↓↓宣伝↓↓
左手で吸収したものを強化して右手で出す物語
1月28日(月)発売♪
是非お手に取っていただけると、嬉しいです(*´▽`*)
カバーイラスト
― 新着の感想 ―
[一言] こんなの群れごと保護するしかないじゃないかw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ