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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第14話:ベントレー無双

「フォーク」

「えっ? あっ、ん? はい」


 ベントレーがこっちに手をだしてきたので、フォークを手渡す。

 袋から取り出すふりをして、右手で管理者の空間から取り寄せる。

 ベントレーはそれを受け取ってボア肉にというか猪肉に、フォークでザックザックと細かく穴を開けだした。

 それも端から端まで。

 なんだろう?

 若干、狂気的な絵面になってるけど。

 淡々と無表情で、猪肉にフォークを突き刺すベントレー。

 まあ、頭に布を巻いて前掛けまでしてるから、調理してるのは見てて分かるけど。

 やる気、迸りすぎてない?


「不思議そうに見るな。筋切りの代わりだ。歯切れがよくなる」

「ふーん」

「ふーんって、土蜘蛛がいつもやってるだろう」


 両面に塩とこしょうを振って……あれ?

 ベントレーが、塩胡椒した肉を放置して次の肉の準備に。

 これは?

 てっきり、そのまま衣を付けて揚げるのかと思ってたけど。


「馴染むまで、少しおいておく」

「もうごはん始まるよ?」

「さきに、マルコが揚げたそれを出しておこう」

「うん」


 ベントレーに言われて、自分の揚げたカツを見る。

 衣が微妙にはがれかけてたり、ちょっと焦げてたり。

 うん、焦げてる部分はちょっと。

 でも概ね、上手に揚がってる。

 

「おい、お前ら食わないのか?」

「すいません。もうちょっとかかるから、先にこれ食べてみてください」


 それを、ジェームスさん達が車座になって座ってる場所に持っていく。

 ちょっと、イラついた様子のジェームスさん。


「まあ、調理できるならポーターとしては一級品だな。あまり無理せずに、適当なところで切り上げて参加しろよ? 時間に余裕がない時は、特にな」

「はい、分かりました」


 皆で揃って食べたい派かな?


「子供達に働かせて、大人だけ先に飯食うってのは……なあ? なんか、悪いことしてる気分になる」

「ははは」


 ただの、良い人だった。

 取り合えず、ジェームスさんに猪カツを渡す。

 自分の分を取って、横に回している。

 三切れくらいとってたけど、割と遠慮がない。


「君はこっちでいいのかな?」

「ああ、料理に関しては俺は無力だ……大体、男が料理なんて、うちの……知ってる料理人ほぼ男だったわ」

「料理人?」

「ああ、宿屋とか泊まっても、大体マスターがシェフ兼任してたなってな」

「そう言われたらそうね。家庭では女性が料理をするところが多いのに、不思議ね」

「ふむ、今度聞いてみようかな」


 ちなみにヘンリーは、ちゃっかりとクロエさんの横に座って話している。

 本当に仲良しだね、君たち。

 エマにチクっちゃうよ?


「じゃあ、またあとで」

「おう、早く来いよ」


 それから、ベントレーの元に戻る。

 あっ、自分の分を確保するの忘れてた。

 

「本当は一晩ワインか酒に漬け込むか、調理のちょっと前に蜂蜜を塗っておいておくと良いんだけどな」

「え? 変な味にならない?」

「調理前に洗えば大丈夫さ。猪はちょっと固いとこもあるが、下処理次第で十分柔らかくなるんだぞ? まあ、良い肉はそんなことしなくとも柔らかいけどね」


 ベントレーがそんなことを言いながら、肉に小麦粉をつけて……なんかはたいてる。

 そんな工程、僕の記憶には無いんだけど? 

 まあ、僕のというかマサキの記憶というか。 

 指示というか。


「余分な小麦粉は落とした方がいい。薄力粉を選んだのは流石だな」

「ありがとう」


 この世界、小麦粉は一種類だけ。

 あまり品質も良くない。

 もちろん、こだわってるものもあるけど、そういったのは王都のそれなりのレストランが直買いしてるし。

 酷いものになると、小石が混ざってたりと。

 使う前に篩にかけないといけないらしい。

 その点、マサキが仕入れるものはポイント購入の地球産だから、間違いない。 

 しかも強力粉、中力粉、薄力粉なんてもござれ。

 種類も硬質小麦から軟質小麦、デュラム小麦と幅広い。


「卵もいいものだな。材料選びだけは、間違いないな」


 褒められたけど、あまり嬉しくない。

 殆ど、マサキが用意したものだし。

 しかも、それ材料以外いいとこがないって言ってるんだよ?

 気付いてる?

 こと、料理に関するとシビアだな。


 ベントレーが肉を卵にくぐらせ……ようとして止める。

 そして僕の用意したとき卵を見て、ため息をついたあと物凄い勢いでかき混ぜた。

 混ぜ具合が足りなかったのかな?

 そして、しっかりと丁寧にじっくりと卵につけている。

 それこそ漫勉なく。


そこから、パン粉の上に肉を置いた。

 うん、ここらへんは僕と一緒だ。

 でひっくり返……さないの?

 そのまま肉の上からパン粉をかけている。

 ひっくり返したんじゃだめだったのかな?


 で、また放置?


「15秒程度だ。肉に衣が馴染めば大丈夫だ」

「結構、色々やることあるんだね」

「料理は時に引き算も必要だが、手間を惜しんではいけない」

「なんか、プロのシェフみたいなこと言い出したよ」


 ベントレーって、どこを目指してるんだろう。

 細工物や工芸品も一流のセンスを見せ、人との付き合い方もかなり上手だし、料理まで得意ときた。

 剣の腕も、最近はおじいさまの指導にしっかりと着いて来ているし。

 むしろ、セリシオじゃなくてベントレーが王子でもおかしくない気がしてきた。


 そしてようやく、肉を油に投入。

 ジュワジュワと白い泡を立てて、いい音を鳴らしている。


 その間に、ベントレーがおもむろにジャガ芋の皮を剥いてスライスし始めた。

 それも、かなり薄く。

 手際よく、凄い速さで。

 右手で包丁を当てて、左手をクルっと回すと厚紙くらいのじゃがいもスライスが出来ている。 


「トンカツ……じゃなくて、猪カツの方は見てなくていいの? 揚物なのに」

「揚がったかどうかは音で大体分かる。そもそも、マルコは触りすぎだ。だから、衣がはがれる」


 ええ、でも……

 揚がってるかどうか不安だし、触らないと裏側がどうなってるかなんてわからないし。


「脂に入れたら、ある程度は放って置いても大丈夫だから。耳さえしっかりと澄ませておけば、他の作業をしても問題ない」

「でも」

「音が小さくチリチリといった感じに変わればいい感じに揚がってるから。そこまでいけば菜箸でつまんでみてその時に手に伝わってくる振動で完璧に分かる」

「全然、言ってる意味が分からないし」


 音とか振動っていわれても、気にしたことすらない。

 今度、ちょっと気を付けて……そんなに、料理する機会無かった。


 そうそう、そういえばベントレーは菜箸もしっかりと使いこなしている。 

 僕よりもずっと……

 マサキが褒めるくらいには、箸が上手なんだ。

 なんか、悔しい。


 色々と聞いて、自分の揚げたカツに自信がなくなってきた。

 ちょっと不安になって、食事をしているジェームスさんたちの方に目を向ける。


「これ美味かったな」

「うん、ちょっとお肉が固いけど、周りの茶色いのがサクサクしてて美味しい」

「パンと一緒に食べても……顎がちょっと疲れるけど美味しいな」

「凄いな。こんなところで、こんな美味いもん食えるなんて」

 

 僕の作った猪カツ、大好評なんだけど?

 ジェームスさんと、クロエさん、キルクさん、ソーマさんが褒めてくれている。

 みんな、凄い勢いで食べてるし。

 一枚だけだったから、もう木の器には残ってない。


「みんな、美味しいって言ってるよ?」

「ふっ……」


 鼻で笑われたよ。

 腹は立たないけど。

 確かに手際良いし。

 で、ジャガイモのスライスを見て、分かった。

 これは、ポテチを作ろうとしてるな?


「これも揚げるんでしょう?」

「ああ、よしっ」

「ええっ! なんで、水に入れちゃうの?」


 ベントレーがジャガイモ三個をスライスしたところで、水に全部ぶちこんだ。

 これから揚げるのに、これは暴挙だろ。


「はあ……」

 

 今度は溜息だ。

 なんだろう、馬鹿にしてるというよりガッカリした感じで、腹が立つというよりやるせない。

 でも、僕だってちょっとは知ってる。


「だって、水ついてたら油が跳ねるじゃん」

「拭けばいいだろう。表面のデンプンを取っておかないと、くっつくしサクッと揚がらないからな」


 そう説明しながら、浮いてきたカツを、ひっくり返している。

 そして、ジャガイモを付けた水が濁ってるので、捨てて手を差し出してくる。


「すまん、水もう少し出してくれないか?」

「あっ、うん」


 弱いな、僕。

 普通に、皮の水筒に入れた水を手渡す。


「あと、2回くらいかな?」

「大事な作業なんだね」

「そもそも、外で揚物って……火力の調整も難しいのに」


 少し左手でフライパンを持ち上げて、薪を調節している。

 それから、水にさらしたジャガイモのスライスを、綺麗な布で拭いていくベントレー。


「よしっ、いい音だお前たち」


 ジャガイモを置いて、カツを丁寧に箸でつまんで木の器にうつしていく。

 なんか、ベントレーが変なテンションだ。


「切って持って行ってくれ」

「うん」


 すでに僕が作ったのは完食されていた。

 思わずにんまり。

 いまは、ぼそぼそとパンをかじっているけど、あまり進んでない様子。

 なんか、盛り上がってないというか。


「おかわり持ってきたよ」


 ってなに、この空気。

 近付いて分かるけど、明らかに空気が悪い。

 食べるものなくてというより、なんか気まずそうにパンをかじってる。


「あー、ほら、おかわり来たから、機嫌直せキーン」

「私は別に、機嫌悪くないけど?」


 僕の持ってるカツを見て、助かったとばかりにジェームズさんが一際明るい声でキーンさんに声を掛ける。

 うわあ、めっちゃ機嫌悪そうな返事で返されてる。

 その声のトーンと、勢いで機嫌悪くないって言われても説得力0だよ。


「冷めないうちに、食べて欲しいんだけど?」


 そこにベントレーが近付いてきた。

 どうやら、僕がまごついているのを見てやってきたらしい。

 ちょっと、不機嫌そうに首を傾けて皆を軽く睨んでいる。

 軽く頭を傾けて伸ばした方の首を、菜箸でトントンとやりながら。

 いや不機嫌そうというか、明らかに機嫌が悪い。


「あっ、ああすまん」

「ほら、キーン食え食え」

「なんで、私にしか言わないのよ」

 

 ジェームスさんがベントレーに謝って、ソーマさんがキーンさんにカツを勧めていた。

 なんだろう?

 何があったのかな?

 しっかりと、座って食べてるヘンリーにあとで聞いてみよう。

 我関せずって感じで、パン齧ってるし。

 クロエさんと話しながら。


 ベントレーが一際強く音を立てて、菜箸を首にパシンと叩きつける。

 その様子を見て、キーンさんがため息をつくとようやくカツに手を伸ばす。


「もう、いいわよ。てか、凄く綺麗ね。黄色? 金色? 茶色にしては淡いし……」

「美味しそう」


 キーンさんも、とりあえず皿に乗せたカツにフォークを伸ばしていた。

 ようやく機嫌の直ったキーンさんを見て、クロエさんもちょっと意識したような明るい声を出している。。

 その間に、ベントレーがトンカツの2枚目を持ってきてくれたので再度切り分けて皿に盛る。

 仕事が、早い。

 そしてチラッとみたけど、2枚目を取り出す前に菜箸を綺麗に洗って拭きとっていた。

 うん、衛生管理もできてる。

 てっきり、首に当てた菜箸でそのまま取ると思ってた。

 マサキだったら、高温の油で消毒とかいいそうだし。


 ベントレーの方に視線を向ける。

 油に3枚目のカツを入れて、またも黙々とジャガイモの水気を拭いている。 

 地味だな。

 いって、僕が水気を吸収した方がいいかな?

 

「うわっ、柔らか」

「美味しい! サクサクしてて、ちょっとジューシーで」

「やっべ、うっま」


 ぼやっとしてた意識を、一気に引き戻される。

 凄く盛り上がっている。

 意図的に盛り上げようとしたのかと思ったけど、本気のテンション。


「さっきのも美味かったが、やっぱ揚げたてだからか?」

「いやいや、格段に美味しくなってるぞ。やるな、坊主」


 そっか、さっきのより格段に美味しいのか。


「……はい、ありがとう」

「おう、褒めてるのに、今度は坊主が不機嫌になったのか?」


 いや、別に不機嫌になんかなってないし。

 ジェームスさんが、若干困惑してる意味が分からない。

 まあ、確かに僕の作ったちょっとべちゃっとしてそうな衣のはがれかけたカツより、遥かに美味しそうだし。

 しかもそんな状況なのに、若干焦げてたし。

 それに引き換え、ベントレーの作った完璧な黄金色のカツ。

 うん、これに負けたところで、悔しくはないけど……

 ただ、さっきまで僕のカツだって褒めそやしていたくせにと、思わなくもない。

 

「次持ってくる」


 取り合えずなんとなく面白くないのに、それだけ言ってベントレーの元に。

 

「どうしたんだあいつ」


 ジェームスさんが不思議そうにしてる。

 お気になさらずに。


「あー……一枚目のカツ……肉を揚げたやつはマルコが作ったやつで、今回のはベントレーが作ったやつだぞ?」


 ヘンリーが余計なことを言う。 


「えっ?」

「あー、リーダーさいてー!」

「うーわっ、うーわっ、リーダー酷くないですか?」

「あーあ、マルコ君傷ついたんじゃない?」

「ちょっと、待て! お前らだって、今回の絶賛してたじゃないか」


 凄い勢いでジェームスさんを全員で責めてるけど、他の人達のテンションも全然違ったからね?

 てか、皆声がでかいからやり取りが丸聞こえだ。


「私は、別に今回だから褒めたわけじゃないですよ?」

「私はこれ最初だから」


 あー、キーンさんは最初のカツを食べ損なったのか。

 それで、不機嫌になってたのね。

 あれ? 

 人数分切って、持って行ったはずなのに。


「お前らだってさっきのととかって、言ってたじゃないか」

「それは、キルクとリーダーだけ。他の皆は普通に1枚目も2枚目も美味しいって食べてたじゃない」

「うん、最初のと比べたのは、キルクとリーダーだけだからな?」

「キルクさんと、リーダーが確かに言ってましたね」

「ちょっ、お前ら急に裏切んな! てか、ジェームスようこそみたいな笑みを浮かべて近づいてくるな」


 醜い争いだと思わなくもないけど、何やら楽しそうだしまあ良いか。

 気が付いたら、もう3枚もカツ出来てるし。

 そして、ベントレーが油に浮いた衣を綺麗に取ってる。

 横にはスライスしたジャガイモが。

 水気も綺麗に切って、拭いてあるみたいだ。


「2人とも美味しかったよ。ずっと作ってるけど、スープだけでも飲んでみて」


 ベントレーとポテトチップスが出来上がるのを待ってたら、クロエさんが話しかけてきた。

 手に、木の器をもって。

 僕が渡した香草のお陰か、少し良い香りがたっている。


「ありがとうございます。ちょっと、いま難しい作業なので……マルコだけ先に貰ったらどうだ?」

「あ、うん」


 ベントレーはジッとフライパンの中を見つめたまま、僕に先に食べるように促してきた。

 そのまなざしは、真剣そのもの。


「あー、彼は料理人の子供か何かかな?」

「うーん、まあ子供というか、弟子入りしてるというか。あっ、ありがとうございます」


 ちょっと面食らった表情のあと、苦笑いを浮かべてクロエさんが僕にスープを渡してくれた。

 湯気が立ってて美味しそう。

 火の傍にいたから、別に寒くはないけど。

 匙で掬って、口に運ぶ。

 うん、美味しい。

 薄味だけど、パンチはきいてる。


「お口に運んであげようか?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべて、ベントレーに近づくクロエさん。


「あー、危ないんであまり油の傍に、来ない方が良いですよ」

「……むぅ」


 それに対してチラリとも視線を向けてこないベントレーに、クロエさんが若干頬を膨らませている。

 可愛いけど。

 いま、彼は全力でフライパンに向かってるから、邪魔しないように。


「マルコ、皿を」

「あっ、うん」


 ベントレーに呼ばれたので、とりあえずスープを置いて大きめの皿を彼に渡す。

 完全にクロエさんを無視してる。


「ぶー」


 クロエさんが完全に拗ねてしまった。

 面白くなさそうに、そっぽを向いちゃった。


「よしっ」


 まだ白っぽくない? と思ったタイミングで、ベントレーが全てのポテトチップスを掬いあげてしまった。

 そして、上から塩を振っている。

 いや、それ揚がってる?

 おお? 少し時間を置くと、余熱のお陰かちょうどいい色味になってく。

 みれば、絶妙な感じの色合い。


「ようやく出来たの?」


 一つつまんで満足そうに頷いているベントレーに、さきほどの不機嫌な様子はどこにやら。

 クロエさんが、興味津々の様子で近づいていく。

 懲りないな、この人も。 


「はい、お待たせしました。揚げたて美味しいですよ」


 ベントレーが笑顔を浮かべて振り返る。

 なんか、その顔を見たクロエさんの頭が、一瞬だけ後ろに仰け反ってた。

 ベントレーが1枚大きめのポテトチップスを取って、クロエさんの口の前に差し出しす。


「えっ? あっ……うん。ありがとう」


 条件反射で口を開いたのか、クロエさんがそれを咥えている。

 ベントレーがそっと人差し指でポテチを軽く押すと、クロエさんが口の中に入れてサクサクと小気味良い音を立てて味わったあと飲み込む。

 頬がほんのり赤い。


「ちょっと、恥ずかしいけど……美味しいよ。うん、ベントレーくん、これすっごく美味しい」


 少し頬を染めてはにかんだ笑みを浮かべて頷くクロエさんに、ベントレーが頭に巻いていた布を取って顔を振って髪を下ろした後、前髪を掻き上げながら凄く良い笑顔で応えていた。

 クロエさんが面食らったような顔で、よろよろと後ろに下がる。


「うん、その笑顔が見れたなら、頑張った甲斐があった……かな?」


 そして、横を向いて頷いて小さくガッツポーズするベントレー。

 あっ、クロエさんがなんかぶつかったみたいに、上半身が一瞬仰け反ったけど……大丈夫かな?

 何がぶつかったのかな?


「ふ……ふふふ……ずるいわね」

「あっ、スープ頂きますね」


 クロエさんが何か口走ってるけど、気にした様子もなくスープを口にするベントレー。

 なんか、息遣いも怪しいし……クロエさんがチラチラとベントレーがスープを飲む様子を見ている。


 てか、もしかしてクロエさんって……ショ……

 あー、まー。ベントレーは別格だから、そうとは限らないか。


「うん、美味しいですよ」

「お……お口にあったみたいで、何より」

 

 あまり、嬉しくなさそうかな?

 なんか、心ここにあらずみたいな……

 ああ、そのまま向こうのテーブルにフラフラと戻っていった。

 僕が持って行ったポテトチップスに、大盛り上がりしてる一団に加わりに。


「美味しいね」

「事前に準備さえすませておけばもっと美味しくできたんだがな」


 こんなに美味しいのに不満そうなベントレーに、思わず吹き出しそうになった。

 本当に、ハマるととことんのめり込むタイプのようだ。


「他には何か用意してるのか? もう、皆腹が膨れてきただろうし」

「うーん、これの反応も確認したかったんだけど」

「ああ、干し芋か」


 次に、ちょっと試してみたかったのが干し芋。

 干し芋って、この時代背景の世界だと無いんだよな。

 そもそもが、干し芋自体の歴史が浅く、200年くらいしか経ってないうえに日本で生まれたものだから。


 ただ、もうみんな腹が膨れてるっぽいし。

 いらないかな?

 まあ、一切れずつくらいなら。

 取り合えず、ジェームスさんたちのところに持っていく。

 といっても甘味のつもりなので、女性陣に先に渡しておこう。


「これ、食後に甘いもの代わりに、皆で食べられないかともってきました。うちの領地で開発中の保存食ですよ」

「へえ、なになに? ちょっと、味見してもいい?」

「ええ、どうぞ」

「どうしたのクロエ? なにをもらったの?」

「あっ、キーンさんもどうぞ」


 袋から布に包んだ干し芋を取り出すと、クロエさんが何か分からない様子で首を傾げる。

 答えが思い浮かばなかったのか、手を出してきたので比較的こぶりなものを渡す。

 そして、全然話しかけてこなかったキーンさんも、近付いてきた。

 甘いものに対して、嗅覚がいいのかな?


「甘い、美味しい」

「これは、いいわね」


 概ね、好評。


「歯ごたえもあって、腹持ちもよさそうだし。これ、簡単に作れるの?」

「どこの領地か知らないけど……なるほど、流石は貴族のお坊ちゃんね。どうりで、ちゃんとした剣術をそれなり以上に習得してるわけだ」


 っと……クロエさんは干し芋に興味深々だったけど、キーンさんは別のところに食いついたらしい。

 どこで、墓穴を掘ったか思いあたら……マサキが、自分の領地の開発中の未発表商品を持ち出して意見をきく子供が、ただの平民の可能性は低い?

 身に着けてるものやいろいろな要素を加味すれば、決定打なりえるのは分かるだろう?

 出すにしても、言葉を気を付けろと言われてしまった。

 むう……


 マサキからの反応が全然なかったから、違うことでもしてるのかと思ったけど。

 どうやら、見てるのは見てたらしい。


 たまたま、手が空いたから見たら、この瞬間だったと……

 なんで、いっつもやらかしたときを、ピンポイントで見てくるんだろう。

 いや、やらかすと誰かに見られるのは、割とあるあるか。

 

 

 

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