第12話:銀の槍とマルコ、ヘンリー、ベントレー
「俺達はD級冒険者パーティーの銀の槍だ」
「普通の名前ですね」
「普通の名前じゃ悪いのか?」
ジェームスさんの言葉に、素直に答えたら少しすごまれた。
うーん、D級ならもう少し引きずった名前のパーティ名だったりすると思ったけど。
せめて、銀龍とか?
まあ、そこそこの年齢だからそんなに子供でもないのかな?
「いや、僕の知ってるD級パーティってもう少し強そうでかっこいいのが多かったから」
「へぇ……竜槍陣とっか、剣地人とかか? まあ、パーティ名ってのは簡単な方が良いんだよ。とくに何回も書類に書くようになってくるとな」
アドバイスっぽいこともしてくれるから、ある程度は育ててくれる気があるのか。
受付嬢の人が好きなのかな?
道すがら、自己紹介。
リーダーは剣士のジェームスさん。
髪の毛を少し立て気味のオールバックの、ちょい悪親父っぽい人。
色は濃い茶髪で、顎から耳に繋がった髭がいかにも。
強面の代表みたいな風体だけど、皺の入り始めた目尻等含め目元は優しい印象だ。
他は槍士のソーマさんと、レンジャーのキルクさん。
ソーマさんは髪の毛を短く切って、ツンツンに立てている。
これまたジェームスさんよりもさらに濃い茶髪で、黒に近い。
30前後くらいだけど、爽やかな印象を受ける。
ガッチリとしているけど、スマートでもある。
良い感じに筋肉がついてるんだろうな。
ちなみにジェームスさんもだけど、2人とも背が高い。
190まではいってないだろうけど。
見上げるような大きさ。
キルクさんは20歳後半くらいかな?
すらっと細く、前の2人に比べると低いけどそれでも背の高さは180手前くらいはありそう。
さらさらの赤毛が特徴的だけど、顔にかからないようバンダナを巻いている。
休憩のときにナイフを使ってジャグリングのようなものを見せてくれたし、どうやら明るく陽気な性格のようだ。
そして、魔法使いが2人。
キーンさんとクロエさん。
魔法使いの2人は女性だ。
この2人は姉妹らしい。
年齢は20代前半から30代半ばまで。
ジェームスさんが一番年上らしい。
一番若いのがクロエさんで、22歳と。
キーンさんの妹さんらしい。
キーンさんは目がシュっとしてて、少し気が強そう。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでるスタイルの良い女性。
途中までサラサラの長い茶髪は、毛先が外にはねている。
そういうセットをしているのか、癖なのかは分からないけど可愛いらしい女性だ。
そしてクロエさんは似たような見た目で、毛先が内側にカールしている。
これは、2人で示し合わせてセットしてるのかな?
ただ目元は少し垂れ目で、優しい印象を受ける。
喋り方も姉のキーンさんと違って、柔らかな声音と口調が耳に優しい印象を受ける。
銀の槍のメンバーで主に僕たちに話しかけてくるのはジェームスさんとレンジャーのキルクさん。
あとの3人は、少し面白くなさそうというか……面倒くさそうな雰囲気を隠そうともしていない。
「ジェームスさんは剣はどのくらい使われてるんですか?」
ベントレーがジェームスさんに話しかける。
使い込まれた剣と、鍛えこまれた身体を見て純粋に気になったのだろう。
そこそこやりそうって雰囲気はあるけど……ローズくらいかな?
ローズの方が強いかも。
「ああ、12歳には冒険者になると決めたのが8歳だったから……そこから、ずっとだな」
「そんな子供の頃から? 何かきっかけでも?」
ベントレーの質問に、ジェームスさんが頭を掻きながら照れくさそうに答える。
結構長いこと剣を鍛えてたのか。
うーん、たとえ純粋な剣技でも僕たちの方が強いかもと思ってしまうのは、どうなのかな?
足運びとか見ると……
でも、もしかしたら敢えて弱そうなフリをしている……弱そうではない。
あくまで、そこそこな雰囲気。
「月並みだが、小さい頃に森で魔物に襲われてな……その時に、剣を使う冒険者に助けてもらったんだよ」
どうやらピンチに颯爽と現れた冒険者に、ヒーローを見たらしい。
確かに分かりやすい動機だ。
そして、列の後方では。
「なんか、冒険者見習いやってるわりには言葉遣いが綺麗ね」
「うーん、もしかして金持ちの坊ちゃんたちか?」
キーンさんとソーマさんが、そんな会話をしている。
現在森の中を、とりあえず奥に向かって進んでいる。
オーガの目撃情報があった場所まで。
うん、森にオーガが出たからといって、別に無理に討伐しなくてもと思わなくはない。
街道で馬車が襲われたりしてるわけでもないのに。
ただ、この辺りで取れる野草や薬草が新人冒険者の収入源でもあるらしく、森の中でみれば比較的浅い場所になるとか。
なぜ、こんなところにオーガが出たのか分からない。
分からないが、ここにいた新人冒険者が襲われて命からが逃げて来たらしい。
ということは、弱い獲物がいるとみてまた出るだろうとの見解。
はぐれオーガかな?
「いたぞ!」
「オーガ?」
「いや、フォレストウルフの群れだ。10頭程度だが……お前らにとっては脅威だろう?」
ジェームスさんにそう言われて、思わず苦笑い。
ヘンリーは……ああ、クロエさんと仲良く話してて聞いてなかったか。
こんな挑発っぽい言葉を聞いたら、ヘンリーなら鼻息荒く前に出ていきそうだし。
「マルコはほんとにすげーから。まあ、俺が本気出したらそこらの魔物くらい、瞬殺できるけど、マルコはその俺を瞬殺するからな? やべーだろ?」
「フフフ、それは凄いね。マルコ君のことが、大好きなんですね」
うーん、仲良さげに話してるけど、完全に子ども扱いされてるな。
というか、ヘンリーの言葉遣いも会話の内容にも思わずため息が漏れる。
身内自慢を間近で聞くのって、ある意味拷問だよね?
そしてその後ろでは。
「あー、普通はああだよな?」
「いや、あれはまたあれで、言葉遣い悪すぎじゃない? 無理に背伸びして悪ぶってる感じが、可愛らしくもあるけど」
ソーマさんとキーンさんのそんなやり取りが聞こえてくる。
うん、僕も概ね同意だ。
というか、この2人は本当に仲が良さそう。
いや、仲が良すぎて僕たちも、話しかけづらい。
他のメンバーとは話してるのを見るけど。
「はあ……お友達は呑気だな。まあ、うちのメンバーも似たり寄ったりだけど」
そう言って、キルクさんがナイフを腰から抜く。
フォレストウルフ10頭相手に、ジェームスさんとキルクさんだけで戦うのかな?
っと、ベントレーは剣の柄に手を掛けているから、やる気満々みたいだ。
「おい、坊主! 足手まといになるから、下がってろ! お前らは素材運びの手伝いだろ?」
「えっ? むしろ戦闘をメインで手伝いにきたのですが?」
「はあ? 見習い冒険者に戦闘の許可を出すかは、リーダーが決めることだろう! そして、リーダーは「お先に、行かせてもらいます!」」
ジェームスさんの言葉の途中で、ベントレーが駆け出す。
狼の群れに向かって。
「くそっ! 待てこら! 速すぎるだろう! キルク!」
「お前の友達元気だな」
ジェームスさんの指示を受けて、キルクさんも地面を蹴ってベントレーを追いかける。
これは、僕も追いかけた方が良いのかな?
「何やら、前の方が騒がしいな」
「狼が出たっぽいよ」
「そうなのか? まあ、ベントレーとマルコがいるから、俺が今から追いかけても終わってるだろうな」
ヘンリー……
そんなに、クロエさんとお話がしたいの?
エマに、チクっちゃおうかな?
「ギャアアアア!」
「もう、ぶつかったのかよ! キルクのやつ、間に合ったか?」
遠くから聞こえてきた狼の悲鳴に、ジェームスさんが青い顔をしている。
「ああっと……狼が3頭ほどベントレーに殺されて、他の群れが距離を取ったところだよ。丁度、キルクさんもそのタイミングで追いついてるから、2対7だね」
「分かるのか?」
「うーん、普通に気配で分かるけど……うん、もう2頭ベントレーが切り倒して、キルクさんが1頭ナイフで首を切ったから……もう終わるかも」
「本当か? 本当にか? なんだ、遠視系の坊主スキル持ちか?」
「いや、普通に気配で……」
「……そうか。本当にそうだといいな」
ジトっとした目でこっちを見たジェームスさんだったけど、子供の話と割り切ったのか自然と足が速くなっている。
僕の話を信じたのが失敗だったって顔だけど。
「終わったよ」
「そうか」
もう、話を聞く気はないらしく、走り出そうとして止まる。
「狼はどうしますか?」
ベントレーがこっちに戻ってきたからだ。
特に返り血等を浴びた様子はなさそうだけど……
「えっと、キルクは?」
「いるよ……参った、この小僧はどっかの道場に通ってたっぽいぞ」
「そうか……」
ジェームスさんが声を掛けると同時に、奥からキルクさんも出てくる。
眉を寄せて少し困った表情を浮かべ、両手の掌を上に向けて首を傾げる。
うん、ベントレーが剣術をかじっていて、調子に乗っていると思われたかな?
確かに少しはやるから、調子に乗ったのだろうとでも思って面倒が増したって顔だ。
「狼程度なら、問題ないってわけだ」
「熊も狩ったことはありますよ? 地竜は……どうにかといったところでしたが」
「……」
ベントレーの言葉に、こっちに顔を向けるジェームスさん。
取り合えず、頷いておく。
おじいさまの訓練の過程で、熊との戦闘もあったからね。
地竜は、一度僕について狩りにいったくらい。
満身創痍で、どうにか小型の地竜を1頭狩った。
だから、彼に中型以上は到底無理。
うーん、この人達の反応を見るとやっぱりおじいさまが、僕たちに求めてる基準はおかしいんだろうな。
すでにベントレーは、セリシオどころかクリスよりもかなり強くなってるみたいだし。
ヘンリーはさらに、その上をいってるとか。
おじいさまの見立てでは、学校で間違いなくトップ3に入ってると。
先輩方を合わせても。
まあ、ベントレーは管理者の空間でも訓練してるから当然か。
げに恐るべきは、ヘンリー。
おじいさまに心酔してしまって、彼の無茶苦茶な訓練を全てきっちりこなしているから。
スレイズJrとかって、陰で言われてるらしいし。
僕かヘンリーのどちらか、もしくはどちらもがおじいさまのようになると思われている。
いや、ヘンリーはガンバトールさんの剣術をマスターしないと。
「ま……まあ、調子に乗るのも仕方ないか。よし、オーガを探すぞ」
ジェームスさんが深く考えるのを諦めたらしい。
「ふむ……少し訂正してもらいましょうか? 流石にフォレストウルフ程度を狩ったくらいで、調子に乗っていると思われるのは師に失礼にあたるので」
「あー、すまんな。お前さんの師匠を悪く言うつもりは無いが、お前さん自身が慢心しているというか……フォレストウルフを侮っているように思えてな。これでも、年に何十人ものひとが犠牲になってる恐ろしい魔物だぞ?」
「ふふ、そうじゃなくてですね。フォレストウルフ如き、そこらの子ウサギを狩るような簡単な作業レベルまで、師匠は鍛えてくれてますからね? 調子に乗ってたり侮ってるわけではなく、難しいですね。確かに子供なので、どう言いつくろっても調子にのった子供にしかみえませんか」
「あー、うーん……やっぱり、想像つかんな。フォレストウルフを簡単に殺す子供ってのが」
「ジェームスさんに視野を広げてもらうしかないですね。常識は捨てて、目に見えたものを信じられるように」
「いや、追いつく前に終わってたから、見てないんだけどな」
「その事実から、私の実力を推測していただけたら一番良かったのですが」
「たはは」
ジトっとした目でベントレーに見つめられて、ジェームスさんが苦笑いで後頭部を掻いて誤魔化す。
どうしても、ベントレーがあっさりとフォレストウルフを仕留めたことが信じられないらしい。
しょうがないよね?
子供だもんね、僕たち。
ただ、目的は冒険と依頼がしたいだけだから、そんな小さなことにこだわらずに先に進まない?
「いつまで止まってるの? 早く行こうよリーダー!」
そんなことを考えていたら、キーンさんがジェームスさんに先に進むよう促してくれた。
「うーん、まあもう少し様子を見させてもらうわ」
「はい、お願いします」
2人もこれ以上の問答を繰り返すつもりもないらしく、素直に進み始める。
うーん、どうしたものか。
今回は、僕も実力を隠すつもりもないから。
まっ、なるようになるか。





