第10話:冒険者見習いマルコ
昨日のデートは散々だった。
まさかのクルリの乱入に、アシュリーを彼女に取られてしまうという状況。
まあ、お陰で誤解は解けたのだけれども。
2人が仲良くなってしまい、ガールズトークに花を咲かされてしまえば口を挟む余裕もない。
本当によく喋る。
マサキがまだマサキだったころに、彼女と電話で話してる途中で寝て怒られてたっけ。
同僚の女の人にその話をしたら、その人の彼氏も電話の途中で寝たりするとのことだったけど。
仕事で疲れて寝る前に電話して、相手が一方的に話してくるのに相槌を打つだけだもんね。
電話ではあっちの方がよくしゃべって、こっちはたまに聞いてるのって言われて聞いてるっていう以外は相槌だけだから寝ちゃうよと言ったら、その同僚も納得していたらしい。
そして、アシュリーやクルリもそのタイプっぽい。
僕はただの首振りお茶のみマシーンと化してたし。
昨日のデートが不首尾に終わったのがエマにもバレてるのか、授業中もニヤニヤといやらしい笑みでこっちを見つめてたので敢えて無視しておいた。
人の不幸を喜ぶやつには、いつか罰が当たるさ。
でもって、今日は放課後は教師を交えた編入生同士の懇親会があるらしく、アシュリーとは会えない。
丁度よかったので、冒険者ギルドに向かうことに。
勿論、事前に予定は皆に伝えてあるので別行動。
結局ジョシュアは、経営研究クラブなるものに入っている。
商人の子達が中心だけど、貴族の子も参加してるらしい。
あとは、その取り巻きも。
ベントレーは肉体美研究クラブとかっていう、いかにも怪しいクラブに。
男色の人達が多そうだと思ったけど、女性も多いらしい。
美を追求する女性が、肉体美を誇る男性を見て目の保養もできると。
エマとソフィアは、いまだにクラブが決まっていない。
エマはソフィアが決めたクラブに入る予定らしいが、肝心のソフィアが引く手あまたで悩んでいるとか。
セリシオを始めとした、ディーン、クリスの側近候補組も未定。
というか、彼らを取り込もうというクラブがないらしく、勧誘すらされていないと。
また、一応はセリシオも準成人として公務が割り振られ、対外的な活動もおおいので放課後の予定がそこまで空いていないらしい。
の割には成人しているはずのフレイ殿下は、自由きままに学生生活を謳歌してたみたいだけど?
男子と女子の違いかな?
で、放課後にギルドに向かう話をしたら、セリシオがどうにか予定を調整できないか頭をフル回転させて煙を出していた。
そして、絶望した表情。
どうやら、外せない用事が入っているようだ。
本当に、王様はもう一人くらい男の子を作った方がいいと思う。
王妃様にも頑張ってもらって。
「いやあ、ワクワクするな」
「そうだね」
そして、そういったしがらみも持たず、普通についてくるヘンリー。
彼は……剣鬼同好会に入って初日で、やめてしまった。
理由は……まあ、お察しというか。
先輩方にやらかして、追い出されたというか。
先輩方に失望して、出て行ったというか。
まあ、彼から言わせたら、剣鬼同好会の特訓はまだまだぬるいとのこと。
うーん、スレイズブートキャンプを基準に考えたら、大概の訓練がぬるいんじゃないかな?
でもって、僕が冒険者登録したことを受けて、便乗した。
できれば、週末に何か依頼でも受けたいのだけど。
僕たちだけで依頼を受けることはできない。
冒険者見習いのF級。
しかも、年齢制限解除される14歳までずっとF級。
F級冒険者の中でも見習いは、正冒険者と一緒じゃないと依頼が受けられない。
例えベルモントであっても。
そして、このことを想定しなかったため、一緒に組んでくれる初級パーティの子達がいない。
こっちに来てから、このギルドの人達にも何度か手合わせをお願いしたことがある。
ベルモントよりも冒険者の質が低いというか、色々とやらかしてしまった自覚はある。
それを見られてたからか新人からD級冒険者くらいまでは、僕を見ても遠巻きに眺めるだけ。
かといってA級冒険者の方から、指導を受けるのも。
双方の同意があってギルドの許可があれば、B級冒険者以上のポーターとして依頼に参加できる。
ただし、見習い生の生存帰還確率の予想が100%のものに限りだ。
そしてS級冒険者のジャッカスを従える僕に、指導をつけようなんてもの好きの冒険者はいない。
ベルモント以外に。
そもそも、上級冒険者に冒険に連れて行ってもらいたいわけじゃない。
同レベルの子達と、和気あいあいと冒険がしたいのだ。
といっても、最低でも2歳上の子になるけど。
ケイが正規登録できる年齢だから……
いや、それも違うか。
結局これといっていい解決案もなく、王都の冒険者ギルドに。
皆こっちを見て、何か言いたそうな表情。
だが、面と向かってどころか、陰口をたたくものすらいない。
陰口を聞かれたら、逆に絡まれるとでも思ってるのかな?
うーん、前に陰口をたたいた人を、都度都度、蜂が報告してくれてそっちに視線を向けてたら、誰も何も言わなくなったんだよな。
別に睨んだりしたわけじゃなく、あの人がこのようなことを報告があればつい視線が言っちゃうのは仕方ないよね?
そういうわけで腫物を触るような扱いを受けていて、ギルドに登録したはいいけど何もできないんだよね。
ヘンリーはそういったことは気にせずに、逆に声を掛けたりしてるけど。
僕と同類と思われているのか、苦笑いで丁重に断られている。
まあ、スレイズ様の弟子アピールをしながらだからね。
「俺は、スレイズ様につきっきりで1週間キャンプをしてもらって、鍛えたんだ。ちょっとじゃない程度には腕に自信があるぜ?」
とか、
「腹を空かせた熊を目の前にして瞑想をしたりもしたからな。度胸は王都でも上から数えた方が早いかな?」
なんてアピールをしてるけど。
かえって、逆効果なんじゃないかな?
みんな、あまりベルモントに関わりたく無さそうだよ?
もちろん、凄腕の冒険者もいるわけで。
そういった人たちは、僕やヘンリーの相手もしてくれる。
手合わせも当然してくれるけど……
やはり指名依頼やら、危険な依頼が多く僕たちは同行できない。
彼らが望んでも、ギルドが許可しないからだ。
一度それを不満に思って、おじいさまに相談しようかなとボソッと呟いたことがある。
職員の前で。
一緒にいたA級冒険者パーティのリーダーに、
「それは、やりすぎだろう?」
と言われてしまった。
そして、職員は青い顔でどこかに消えていった。
すぐに、ギルドマスターが来たけど。
見習いのうちに生死を掛けた冒険に出るなど等、散々説教をされたあとで頼むからスレイズ様には言わないでくれと言われたら。
微妙な顔になってしまったのは、仕方ないと思う。
「流石に王都じゃ無理なんじゃないか?」
「王都じゃ無理って言われても、外に出るのはおばあさまが……」
そうなのだ。
いまだに子供だけでの行動を許してもらえないのは、うちはおばあさまが心配するからだ。
ベントレーと遊ぶときですら、どちらかの護衛が必要になる。
ルドルフさんと一緒なら遠出はできなくもない。
最近ではベントレーの家に泊まるのも、あまり何も言われなくなった。
彼が毎朝欠かさずうちに訓練にくるから、おばあさまも彼のことを友人の中では一番信用しているらしい。
二言目にはベントレーさんと一緒なら大丈夫ねと言うのはやめてほしい。
まるで、僕が駄目みたいじゃないか。
劣等感に嫉妬。
「ベントレーにお願いして、週末ちょっと離れた町にいかないか? そこでなら、依頼の手助けできると思うぜ?」
「それは、ベントレーに聞いてみないと。はぁ……君もやらかさなかったら、おばあさまの信頼できる友人の1人だったのに」
「今は反省してるぜ?」
「いや、反省してるのは分かるけど。ヘンリーは最近おじいさまに似てきたから、余計におばあさまの信用を失ってる真っただ中だよ」
「はっはっは、そいつは酷い言われようだ。まあ、エリーゼ様はスレイズ様に手厳しいからな」
なんで、そんなに嬉しそうなんだよ。
もういいよ。
やっぱりベントレーに迷惑を掛けることになるのかな?
そうなると、ベントレーも参加したがるだろうし。
そしたら、子供3人を連れて依頼を受けるようなパーティって……
いないよね?
いないだろうね……
ダメ元で、やってみるかな。
「ん、うちは別に構わんぞ? どこまで行くかは知らんが」
「行先は決めてないけど、できれば身バレしてないところかな?」
「ヘンリーと一緒なら、転移は使えないか」
「そうだね」
「ヘンリーくらいには、教えてやってもいいんじゃないか?」
「なんか、どんな化学反応が起こるか分からないし」
「かがくはんのう?」
「なんでもない」
取り合えず、馬車で半日くらいで行ける距離。
でもって昼から依頼に出て、翌日の昼までには終えて王都に戻ってくる。
うーん、ちょっと無理か?
馬で駆けっていくなら。
いっそのこと、ヘンリーに内緒で……
「それは、可哀そうだろう」
「なんで、分かるの?」
「顔を見れば、なんとなく考えてることくらい分かるさ。伊達に、長い付き合いじゃないんだからさ」
ヘンリーを置いていこうと思ったら、ベントレーにバレた。
せめて3連休あれば。
まあ、とりあえず一旦お試してやってみて、本格的な活動は夏休みになるかな?





