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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第9話:アシュリーとマルコ

「ここが、マルコ様がよく行かれる露店通りですか」

「あー……うん」


 久しぶりにアシュリーとほぼ2人っきりで、デート。

 ほぼ2人っきりというのは、護衛にファーマさんとローズが着いて来ているから。

 そして他人行儀というか、いやに丁寧な言葉で話しかけてくるアシュリーに距離を感じてちょっと寂しく感じる。


 僕が王都に居る間も、ときおりベルモントの屋敷で教育を受けていたらしい。

 週末は管理者の空間で過ごしたため、アシュリーと会えなかった。

 予定が詰まっていて、ようやく週の中ほどの放課後に本当に久しぶりにといった状況。


 なんだかんだで、エマやジョシュアからのお誘いが多くて。

 断りにくいんだよね。

 いくらアシュリーがこっちに来たとはいえ、今までいっつも一緒に行動していた子たちからの誘いは。

 だから今日は念入りに準備して、事前にこの日は予定があるからと皆には伝えていた。

 エマが不機嫌そうな表情で、舌打ちをしていたのが……

 きみ、貴族令嬢だよね?

 それも、上位貴族。

 お父様や、お兄様が見たらきっと泣くよ?


 で、例のバザーっぽいものが常時開催されている、アシュリーに露店通りを案内してるところだ。


「その、いつもみたいに喋っていいよ」

「いつもみたいにと言われましても……流石に、マルコ様がどのような立場の人が知ってしまいましたし」


 うーん、僕のために頑張って言葉遣いを直してくれたんだろうけど、凄く嫌だ。

 せっかくこうやって、一緒にいられる時間が増えたのに。


「でも、僕の知ってるアシュリーじゃないみたいで」

「はい、言われることは分かるのですが。ただ、貴族様がどういった存在なのかを改めて実感してしまったいま、以前のような言葉遣いで声を掛けるのはどうも勇気が」


 勇気なんていらないから。

 いや、それでも尊敬語よりもやや丁寧語よりだから、まだどうにか耐えられているけど。

 確かに、マサキだったころに憧れはあったような気も。

 こう、ですます調で、いかにも亭主を立ててくれるようなお嫁さん。

 幻想と分かっていても。

 いや、居るところには居るから、絶滅してるわけじゃないけど。


 あー、そうじゃなくて。

 そもそも、僕たちまだ12歳の子供だというのに。


「いいよ、どうせ誰も聞いてないし。子供同士なんだし」

「ダメですよ! ご学友の方と偶然出会うかもしれないじゃないですか! ただでさえ、平民の私と2人きりっていうのは不快に思われるかもしれませんのに」

「だ……大丈夫だよ! へ……平民の友達だっているし。開拓民の責任者の娘さんとか」

「……」


 あっ……なんか、周囲の気温が下がった気が。


「へー……一般の女性の方とも、親しくなられたのですね」

「いや、そうじゃなくて! えっと、野営の授業の班分けが一緒で。ほら、ディーンも一緒だから」

「その子は、お可愛らしいのですか?」

「あー、まあテトラみたいで、子供っぽくて可愛いと思うことはあるけど。そんなんじゃないから! 全然、そんなのとは違うから」

「そうですか……ふーん、そうですか」

「あう……」


 すっごく、管理者の空間からマサキの呆れた視線を感じる。

 なんでデートの最中に他の女の話題なんか口にしてるんだ、この馬鹿はとか思ってそうだ。

 うん、きっと思ってるはず。


 間違いない。


「その子は、マルコ様に馴れ馴れしく気安い口調で話しかけるのですか?」

「えっ? いや、あー敬語です」

「そっか……そうですか。なら、まだ」


 思わずこっちが敬語になってしまったが、少しだけアシュリーの機嫌がよくなったぽい。

 いや、最悪からかなり悪いに良くなったという意味で。

 マイナスがプラスになったわけじゃないっぽいけど。


「あっ、マルコ君」


 そして、不意に背後から少女の可愛らしい声が。

 ……なんで、このタイミングで。


「や、やあクルリ」

「マルコ()?」


 あうう……

 アシュリーが最悪を突き抜けたような低い声で、クルリの僕の呼び方を復唱する。

 彼女は最近僕のことをマルコ()と敬称を付けて呼ぶようになってたのに、まさかのさっき話題に上がった少女からは気安い感じで君で呼ばれるとか。

 やばいやばいやばい……


「あっ、お友達の方とご一緒でしたか……えっと、どちらのお貴族様のご令嬢でしょうか」

「初めまして。私はアシュリーと申します。最近王都に、お父様が武器屋喫茶を開きまして」

「あ、商人の方でしたか。えっと、マルコ君とは……」


 喫茶店って商人のくくりになるのかな?

 まあ、商売人という意味では商人か。

 それよりも、クルリの動向が気になる。

 お願いだから、余計な地雷は踏み抜かないでほしい。


「もしかして」

「もしかして?」


 もしかして?

 何を言うつもりだろう。


「ダメですよ! マルコ君! いくら、マルコ君がベルモントで武器が好きだからって、無理やり店を案内させようとしちゃ! 大丈夫? 怖かったですよね? こっちに来てください!」

「はあ?」

「はあ?」


 クルリが膝をガクガクと震わせつつも、凛とした口調で僕を注意しつつアシュリーを手招きする。

 それに対して、思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは僕。

 不機嫌そうなはあ? は、アシュリーだ。


「こちらの方とは、ずいぶん親しいようですねマルコ様」

「えっと……マルコ君には色々と助けてもらったことがあるので。こう見えて、とっても優しいんですよ。だから安心してください」


 ふふふ、僕はもう全然安心できないよ。

 あー……凄く丁寧な言葉遣いだけど、こういうときって却って怖いよね。


「もう、マルコのバカ! 知らないんだから!」


 とかって、怒ってもらった方がよっぽどいい。

 背筋が凍るような思いってのは、こういうときに使うもんだね。

 

 うちの護衛は何をしているんだろう。

 目下、護衛対象が相当な危機に陥ってるっていうのに。

 あっ、ローズの野郎……

 口に手を当てて、物凄く楽しそうに笑うのを堪えてやがる。


 ファーマさんは……あー、こういったことに口をはさむつもりはないと。

 というか、管轄外ですっていう感じで、すました表情を浮かべて立っているだけ。

 流石、おじいさまの部下だ。

 戦闘以外は、からっきしというのがよく分かった。


 これなら、トーマスの方がよっぽどましだ。


「クルリちゃん、こちらのアシュリーはベルモントの領民ですよ? マルコ様の行きつけの武器屋喫茶の娘さんです」

「えっ?」


 めっちゃローズを睨んでいたら、慌てた様子で助け舟を出してくれた。

 いや、こっちをチラチラ見てるけど、簡単には許さないからね?

 そして、クルリがびっくりしたような声を出している。


「マルコ君の、もともとのお知り合いの方だったんですね。すいません、私勘違いしてしまっ……勘違いだよね? マルコ君?」

「勘違いってなんだよ! 僕のかの……大事な……友達……えっと……かの……いいお付き合いをさせていただいている、大事な女性だよ」

「わー、すいません! 申し訳ありません。まさか、未来の子爵夫人」


 何を口走ってるんだこの子は。

 アシュリーを紹介するときに彼女と言いかけて、なんか妙に気恥しかったから言いよどんだけど。

 めっちゃ、マサキにこういうときは、はっきり言えと怒鳴られ。

 悲しみやら怒りやらをオーラだけで伝えてくるアシュリーに戦慄を覚え、どうにか良い言い方ができた思ったけど。

 そんな僕の頑張りを吹っ飛ばすようなクルリの言葉に、アシュリーの雰囲気が少しだけ柔らかくなったのを感じる。


「そうなれば嬉しいのですが……恐れ多いことですから」

「ええ、身分を超えた恋愛って素敵じゃないですかぁ! 私は応援するよ」

「そう言ってもらえて、とても嬉しいです」

「あー、敬語じゃなくていいですよ! 私なんて、ただの開拓民の子供ですし」

「ええっと、そういうクルリさんも」

「じゃあ、私も敬語やめるから。クルリって呼んでいいよ」

「分かりました。最近は、言葉遣いの勉強をずっとしてたので、ちょっと出ちゃうかもしれないけどよろしくね」

「うん、こちらこそ!」


 そう言って、一気に親密になる2人。

 なんだか、自然な流れで3人で買い物に。

 クルリは高等科が始まって必要なものが足りてなかったらしく、その買い足しにも来たついでにここを覗いていたらしい。

 初等科からエスカレーター式にあがって、油断してたらしい。

 また、親がそばにいないから、全部自分で準備しなきゃならないらしく大変そうだ。


 そして、2人の会話がはずむことはずむこと。


「皆がさっさと班を作って、私はマルコ君とディーン君が手ぐすねを引いて待っている班に」

「それは、災難だったね。私は2方のことをよく存じ上げてるので、むしろ積極的にいけるけど。貴族子息の方が多い班に一般人って……猛獣の群れに兎を放り込むようなものだもんね」

「分かってくれる? 本当に、あの時は周りが全て敵に見えたんだよ!」


 ふふふ、当事者を前にしてよくもそこまで言えるね、クルリ。

 ディーンがいないから油断してるのかな?

 それとも、ようやく僕が怖くないって分かってくれたのかな?

 そうだよね?

 そっちだよね?


「でも、その様子じゃクルリにもマルコ様の良さは伝わってるみたいだね」

「うん、王都だとベルモントってアンタッチャブルな貴族NO1どころか、王族含めて一番逆らっちゃダメな相手だから」

「そんなに?」

「マルコ君を見てたら、きっとスレイズ様も優しいんだろうなとは分かったから」


 残念。

 おじいさまは味方に優しい……こともないか。

 全てを武力で簡単に片づける、面倒くさがりやなだけで。

 それは、ヘンリーの矯正を頼んだ時に身に染みて分かった。

 逆らっちゃいけないというか、おじいさまに師事したら逆らえなくなるのが。

 

 そして、敵には容赦ないから。

 戦場で会って剣を交えれば先に殺され、剣を交えなければ後でゆっくり殺される相手だとか。

 

 そして良い感じに空気もあったまってきたし、アシュリーも柔らかな雰囲気に戻ってきた。

 クルリの役目は終わったってこと、そろそろ空気を読んで2人きりのデートに戻してもらえたりなんか。


 しかし、ガールズトークの盛り上がりは収まるところをしらず。

 気付けば、僕だけ完全に蚊帳の外に。

 

「今度ゆっくりと、またいろいろなお話をしようね」

「うん、楽しかったよ」

 

 そして、楽しい時間は過ぎ去り。 

 夕方、陽も落ち始めたのでクルリを学校の寮に送って、アシュリーを自宅まで。

 ベルモントの馬車で。

 遅くなったのでローズが走って屋敷に戻って、手配したのだ。

 そう、髑髏の目に剣が交差して突き刺してある紋章がついた、スレイズベルモントの馬車。

 本家ベルモントの紋章が入った馬車は、おばあさまが乗って出て行ってたらしい。

 

 凄いよスレイズベルモントの馬車。

 誰も近づいてこないし。

 てか、すれ違う人の中には、失笑してる人とドン引きしてる人が少なからずいる。

 酷い人は、2度見したあと視線を逸らして離れていくし。


 勿論、好意的な視線もあったけど。

 両極端。

 普通に、してもらいたい。


 そして……今日も、ちゃんとしたデートができなかった。

 なんだろう。

 こんな調子で、彼女と進展することはできるのだろうか。

 不安だ。

 

 あと、マサキ笑いすぎ!

 今日は管理者の空間で、ほぼタブレットに張り付いて僕の様子を見てたっぽい。

 くそー!

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