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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第7話:週末突撃隣の魔王訪問 前編

「うわっ!」

「大丈夫か!」


 牛型の魔族の振るった斧に、はじきとばされ壁に背中からぶつかる。

 どうにか足の裏を壁にぶつけることができたので衝撃の半分を逸らすことができたが、そのまま前のめりに地面に……

 さすがに、顔からべちゃっといくほど軟な鍛え方はしていないが。

 これが本気の(たま)の取り合いだったら……


「うん、吹き飛ばされただけだから、斧のダメージはそこまで無かったよ」

「そうか、良かった」


 俺の言葉に牛の魔族の男性が首を縦に振って、こっちに来て手を差し伸べてくれる。

 その手を掴んで立ち上がる。


「いや、モータの斧を受けて無傷とか……」

「いくら木で作った、模擬戦用の斧とはいえ」


 特にダメージは無かったので、なんとなく服についた気がする埃を払っていたらそんな声が聞こえてくる。

 いま俺がいるのは、魔王城の訓練場だ。

 ベントレーとマルコが管理者の空間に遊びにきたので、俺は魔王のところに顔を出したのだが。

 最近戦闘訓練がマンネリ化してきてる気がしたので、ここの魔族の兵士に訓練をつけてもらっている。

 人型との訓練は特に最近では、スレイズのくそじじいとしか行っていないし。

 王都だと流石にベルモントの冒険者ギルドと違って、そこまで特権が通用するわけでもなし。

 いや、ワクワクとした様子で、訓練をしたそうにしている人たちもいるが。

 そういったのはマルコに譲っている。

 

 その代わりたまに魔王城に来たら、こうやって魔族に訓練をつけてもらうことにした。

 一応スキルの使用に制限を掛けて、自身の肉体のみで戦闘に挑んでいるが。

 まったく、勝てる気がしない。


 ただ逆にスキル込みだと、負ける気がしないというのが正直な感想だ。

 純粋に身体のポテンシャルの差だけで、戦闘技術は人のそれと大差……

 ないこともないか。

 人が振り回す武器(それ)よりも、重量のある武器を人よりも軽々と振り回すのだから。

 長さ2mの大剣を振り下ろす、薙ぎ払う以外に使える人はいないが。

 こいつらは、片手で自由自在に振り回せる。

 身長が3m近くあるからこそだな。

 ハルバートなんか、4m近くあるし。

 リーチが人のそれとは、全く違うし。

 その分、遠心力が強く働くので一撃の重さも比べ物にならない。

 

 現にモータと呼ばれた牛魔族が振るっている斧も、長さが1m20cmと長剣ほどもある。

 人型の魔族であれば、160cmから2mとそこまで大差ないが。

 異形の魔族は、往々にして規格外の体躯を誇っている者が多い。

 その逆で、小さな魔族もいるにはいるが。


 サキュバスは背こそ小柄であるが、その胸部装甲は平均値が人のトップクラス……

 

「さて、もう一回お願いします」

「うむ、ではどこからでも掛かってくるがいいぞ!」


 俺が剣を構えると、モータも斧を構えてこっちに対峙してくる。

 どうにか打ち合えることはできるが、油断したり受け方を間違えるとあっさり吹き飛ばされてしまうので、やはり体のサイズの差は馬鹿にできない。


「訓練は終わったのか?」

「ああ、良い汗かいたよ」


 それから小一時間ほど模擬戦を繰り返したあとで、水を浴びて汗を流すと魔王の元に。

 魔王もちょうど執務がひと段落ついたらしく、応接テーブルの方に移動してお茶を用意してくれる。

 

「しかし、本当に何者じゃおぬし。うちの者達が、まだ子供なのに普通に打ち合えることに驚いておったぞ?」

「うーん、普通の子供なんだけどね」

「ほっほ、そういうことにしておこうか。そうやってクッキーをつまんでいる姿を見れば、あながち否定はできぬからのう」


 そう言って、魔王が俺の頭を優しく撫でてくれる。

 こうしてみると、ただの面倒見のいいお人よしのおじいさんだ。

 角が生えているけど。

 牙も生えているけど。

 

 魔王はクッキーを全然食べない。

 というかお菓子自体、そこまで多く食べない。

 いつも、俺のために用意してくれているのだ。

 本当に、近所のおじいさんみたいだ。


「また、来ているのですか?」

「ん? 珍しくバルログさんが健康的な顔色をしてる」

「はぁ……最近は、野菜たちが協力的になってくれてますから。逆に言えば、野菜のせいでいままで疲れていたのです……ひいては、あなたのですからね? 農業参謀役殿」


 あっ、余計なこと言った。

 大きくため息を吐いて首を2度ほど横に振ると、こっちに近づいてきて魔王の横に座るバルログ。

 魔王の側近だ。


「確かにあなたが悪戯に仕込んだ変な野菜は、物凄くメリットが大きいですよ? デメリットも半端じゃないですが……ただ、それと相殺しても余りあるくらいにメリットが大きいから、私も対処に困っているのです! 無思慮に処分するにはもったいないけど、放置するわけにもいかないジレンマ。が分かりますか?」

「子供の僕には難しい話だと思う! もっと、分かりやすく」

「ほう?」

 

 あっ、子供っぽく対応したら、物凄くイラっとされたのが分かった。

 まずい、これは雷が落ちるパターンだ。


「バルログさんが、わけの分からないこと言って怒ってくる!」

「っ! 魔王様の影に隠れるとは、卑怯ですよ!」

「ほっほ……」


 魔王の背中に隠れた俺に手を伸ばしてくるバルログ。

 そして、俺の盾になるようにバルログの手の動きに合わせて身体を揺らしつつ、楽しそうにそのやり取りを見ている魔王。

 ある意味、人の町とは比べ物にならないくらいに平和な景色のようにも思えてくる。

 魔国だけど。


「もう良いです……といって油断したところを!」


 バルログが諦めたふりをして背中を向けたので、魔王の背中から飛び出す。

 その瞬間に振り返って、俺に手を伸ばしてきたバルログ。

 うん、入り口の横にかけられた姿見を見て、俺の動きを確認していたのだろう。

 そっちから見えるってことは、こっちからも見えてるからね?


「うわぁ!」

「捕まえました!」

「残念、それはただのマサキ君人形です!」


 なのでこっちもそのバルログの動きに合わせて、管理者の空間経由の瞬間移動でバルログの背後に移動。

 身代わりに土蜘蛛が造ってくれた、俺の人形を差し出した状態で。


「くっ! 腹立たしい」

「あっ!」


 バルログが腹立ちまぎれに人形を握ったら、爪が人形の肩にと脇腹に刺さって綿が飛び出す。

 思わず声を出してしまった。


「なんじゃバルログ大人げない!」


 そして、魔王様が眉を寄せて、説教モードに。

 

「お主はこの世に生を受けて数百年となるのに、たかだか10年そこらしか生きておらぬ子供相手にムキになりおって!」


 うーん……

 なんだろう。

 弟をいじめたお兄ちゃんが、おじいちゃんに怒られてるみたいな図になっているけど。

 当のバルログはバルログで、俺の人形に傷つけたことであわあわしてる。 

 魔王が説教するまでもなく、だめなことをしてしまったと理解しているのだろう。

 それは良い。

 いや、バルログのその考えは褒めるべきことなんだけど……


 それ、土蜘蛛の渾身の力作なんだよね。

 しかも、俺を模したものに傷を入れるということは……

 管理者の空間からザワザワとした気配を感じる。

 

「すまん! 悪気はなかったのだ!」


 バルログがすぐに謝ってくれる。


「いや、自分の姿をした人形を傷つけられて怒るのは分かる!」


 うーん、実は俺はさほど怒ってないんだ。

 ただ、虫達が怒ってる気配が伝わってるのかな?

 バルログさんも心の奥底から謝ってくれてるし、迂闊に身代わりにした俺が悪いから許してやって……

 それはそれ、これはこれ?

 いやいや、それもこれも一緒……


 そもそもこんなに愛くるしい子供形態の主様を、無条件で愛でられない時点で?

 いやだって、種族も違うし。

 それに、結構優しくしてもらってるんだぞ?


「あー、ごめんバルログさん……僕はそんなに怒ってないんだけど。というか気にしてないんだけど」

「はっ? いや私の魔眼がはっきりと立ち上る怒気と覇気、そして威圧を感じているというか……子供どころか、人族の放てるような圧じゃない何かに現状襲われているところなのですが」


 真っ青な顔で、ちょっと困惑気味に俺に話しかけてくるバルログ。


「ほっほ、子供相手に形無しじゃのう」


 魔王は、少し呑気すぎやしないか?

 俺でも抑えるのが必死なくらいの覇気やらなんやらが、強制的に右手から溢れ出てるのが分かるのに。


「とっ……取り合えず、知り合いに裁縫が得意な人とか?」

「う……うむ、ちょっと城内のメイドか、誰かの奥方に得意なものがいないか、聞いて「うちが直すね」


 あっ、トクマさんだ。

 この人も、神出鬼没だよな。

 ミスリルさんの塔にいたかと思えば、魔王城にもいるし。

 大体が掃除しているけど。

 そうか、裁縫も得意なの……か?


「元通りね!」


 トクマがマサキくん人形を空中に浮かばせると、綿と糸が自在に動いて勝手に人形が修復されていった。

 流石にこれには管理者の空間の虫達も驚いたのか、あっけにとられた様子。

 そして土蜘蛛が悔しそうに、歯ぎしりを……いや、顎ぎしりかな?

 土蜘蛛も糸を自在に操るけど、糸の先端の強度を変えて手も使わずに縫い合わせる方法は、思いつかなかった?

 いやあ、それでも巧みに針を操って縫物をする姿は、十分にかっこいいお母さんだと思うけど。

 それはそれ、これはこれ?


 その考え方、いまお前たちの間で流行ってるのか?


「どうやら怒りを納めてくれたようだな。トクマ、助かった」

「だいたい、バルログは短気すぎるのがいけないね。他の子たちには寛容なのに、なんでマサキちゃんにはすぐ怒るね」

「いや、こやつが人の神経を逆なでするのが上手すぎるのが、悪いと思う」

「子供のいうことに、いちいちムキになる方が、古今東西悪いと決まってるね!」

「かといって、お前のように子供を甘やかしすぎるのも「だから、目の前の子供(バルログ)を厳しくしつけてるところね!」


 魔王の側近相手にもずけずけと説教が出来るトクマさんは、本当に何者なのだろうか。

 

「とりあえず、本来の予定の春野菜の収穫パーティの会場に向かうか?」

「うん」


 魔王が手を出してきたので、その手をつないで魔王の部屋をあとにする。

 本来の目的は年中冬みたいな気候のこの国でとれた、春野菜の試食を兼ねた収穫祭なのだ。

 勿論発案者は魔王で、農業参謀役の俺が招待されないはずがない。


「春菊とは、本来黒いのか?」

「うぇ? いや、普通に鮮やかな緑だけど。濃い緑のものはあるけど、黒って?」

「そうか……」


 黒い春菊とか、灰汁が半端無さそうだ。


「お主の仕業か?」

「いや、魔王の庭の野菜以外には、変なの植えてないよ」

「そうか……」


 魔王の庭には植えたところは、スルーされてしまった。

 黒い春菊か……畑に生えるわかめみたいなものを想像してしまった。


「スナップエンドウとやらは、中の豆は黒いのか?」

「えっ? いや、たぶん黄緑?」

「そうか……」


 丹波の黒豆?

 いや、そんな品種ではなかったはず。

 色々と不安になる試食会会場に、到着。 

 うん……なんか、色々とカオスな野菜が祭壇に飾られている。

 いや、形はしってるそれたちと同じなんだけど、色が。

 魔力が豊富で、色々と環境が人のすむ大陸と違うからかな?

 それとも、異世界だからかな?



ある意味で人物紹介を兼ねた、日常回が続いております……あと数話ほど続く予定です♪

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