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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第6話:管理者の空間の四天王

「やっぱり、四天王といえばボクたちかな?」


 リザベルが頭の後ろで両手を組んで、唐突にそんなことを。


「いや、どう考えてもカブト様、ラダマンティス様、土蜘蛛様……あと一人は、微妙に悩むところだけど大顎様か、ジョウオウでしょう」


 そんなリザベルの言葉に答えるのは、久しぶりにこの空間に戻っているジャッカス。

 ジョウオウだけ呼び捨てなあたり彼女が色々とアレな虫であることに、思うところがあるのだろう。


「いやいや、あれはそういう枠組みじゃないでしょ? というか、地上で行動する際に人型として側近を務めるとするならの話だから!」


 ジャッカスのあまりにも的を射た発言に、リザベルが慌てて顔の前で両手を振っている。

 別に、建物の外からザワリとした殺気を感じたからではない。

 ないはずだ……たぶん。


 デーモンロードのリザベルは王都でノーフェイスが送り込んだヴィネが暴れたときに、その配下として一緒に居たアークデーモンだ。

 今は、管理者の空間の闇の神気によって、デーモンロードに至っているが。

 身長160cmと悪魔にしては小柄な彼女は、その見た目からは想像もつかないほどに出鱈目な膂力を持っている。

 デーモンロードは伊達じゃない。


 アークデーモンだった当時はマハトールにボコボコにされていたが、今ならば……それでもマハトールには敵わないだろう。

 マハトールは、本当におかしな成長を遂げている。

 種族は、レッサーデーモンのままだが。

 

「何を己惚れているのですか、貴女は」


 そのマハトールが、リザベルの頭を片手で掴む。

 まるで不敬だと言わんばかりの表情を浮かべて。


「私たちは、この空間内でほぼ最弱だというのに」

「まあ……でも、人型なら……いや、キミは違うよね?」


 あくまでも人型にこだわるリザベル。

 悪魔だけに。

 いや、そういうことじゃない。

 窓の外に呼んだ? とばかりに、顔をのぞかせたのは室内にいるはずのリザベル。

 スライムのライムの悪ふざけだ。

 これで、僕も人型だよ? と言わんばかりに。

 そして……残念なことにライムの方が、彼らよりも強化されていたりする。

 マサキは人型には合成強化を施さないが、魔物や動物、虫達には欲望の赴くままに合成を行っている。

 そもそもが人型の時点で、この空間内の他の生物とは成長の地盤が違うのだ。


「でも流石に魚よりは、強いと思うよ?」


 リザベルの言葉に、全員が頷く。

 さきほどから、一言も発していないクロウニまで。


「確かに陸地であれば確実に勝てるでしょうが、水中ではどうでしょうか? それに色々と凄いんですよ彼らは! 人を楽しませることに関しては特に! 例えばですね……」


 いや、なんの返しだろうか?

 いまは、強さの話をしているところなのだが?

 素直にそんなことを思ったリザベルが少し首を傾げつつも、よく分からないことを考えてもしょうがないとクロウニを放置して他の2人に向き直る。

  

「少なくともトト、マコ、クコには勝てる」

「ええ、勝てますが彼らの後ろには主がついてますよ?」

「いや、そうじゃなくて……ああ、四天王って響きに憧れない?」


 純粋に、リザベルは四天王という言葉に憧れを抱いていただけらしい。

 

 珍しく人型の4人が管理者の空間に一堂に会したので、住人用の建物の一つで酒宴を開いて親睦会を行っていたのだ。

 無論マサキも誘われたが、たまにはお前たちだけで色々と話をするのも良いんじゃないか? と遠慮した結果だ。


 最初はポツリポツリと虫達のことや、外で行ってきたことなんかを話していたのだが。

 唐突にリザベルが4人を見て思いついたとばかりに、四天王の話題を振ってきたのだ。

 他のメンバーがあまり彼女が思っていた反応と違ったため、微妙に煮え切らない表情で果実酒を飲み干している。


「そもそも、ここっておかしいよね?」

「今さら何を……いや、おかしいというか、偉大な場所です」

「いや、まあそうなんだけど。悪くいうつもりはないけど、なんで聖気と邪気がこれほどまでに満たされているのに調和してるんだろうって」

「それは、主様が2柱の神の加護を得ているからです」


 リザベルが唐突にこの場所についての話題に、路線変更する。

 やはり、素直には同意がえられない。

 もっとポジティブな言葉を選べば、きっと盛り上がるのだろうが。

 これはこれで、話がはずんでいるようにも見える。


「ふふふ、でも我々悪魔にとっては、天国のような場所ですよ? 聖気の耐性さえ獲得してしまえば、闇の魔力も邪気も取り込み放題! お陰で、成長しないはずの悪魔がここでは成長もしますし、鍛えたら鍛えるだけ結果が身体に現れるのですから!」

「でも、マハトールはいまだにレッサーデーモンのままだけどね。というか、悪魔にとっての天国って地獄じゃん……」

「地獄ってどんなところなのですか?」

「あー……まあ、ここと大よそ似てるかな? 殺風景だし、色はないし、何も面白いことはないうえに、殺伐としてて悪魔関係も最悪な場所だよ」


 悪魔にとっての天国が地獄だとしても、悪魔個人からすれば全然住みよくはなさそうに聞こえる。

 人間関係ではなく、悪魔関係が最悪とか……人のそれよりも殺伐としてそうである。

 

「ただ、闇の魔力と邪気、それから魂は定期的に堕ちてくるから何もしないでぼーっとするのには、最高の場所……いや、ここを知ったら、2番目に良い場所かな?」


 ちなみに上位のアークデーモンや、デーモンロードはその地獄もしくは冥界とよばれる空間と、この世界を行き来できるらしい。

 レッサーデーモンのマハトールには、縁のない話だ。

 そしてリザベルが配下に加わっているため、マサキやマルコも行こうと思えば行けるのだが。

 行く気はさらさらなさそうだ。

 もし、最強の悪魔よりも強くなったら、そこで全ての悪魔を配下に加えて悪魔の軍団を作るのも……

 マサキにリザベルが提案したことがあるが、反応は芳しくなかったようだ。


「ジャッカスはS級冒険者、クロウニは国王なのに……ボクとマハトールだけ、何もそういったステータス的なのが無いのはちょっと寂しいね」

「といっても、何になれるっていうのですか?」

「悪魔ですもんね、あなたたちは」

「ていうか、敬語やめろ! なんか、他人行儀すぎるよ君たち!」


 マサキに矯正されたせいで、基本的に綺麗な言葉遣いをするジャッカス。

 元からこういった喋り方の方が、人に畏怖を与えられると考えていたマハトール。

 貴族として、きっちりと教育を受けてきたクロウニ。

 無理な話である。

 

 さっきから、話の輪を乱しているのはリザベルばかりなのだが。

 ジャッカス、マハトール、クロウニの3人だと淡々と現状や、マサキ、マルコ、虫達の凄いところを話して盛り上がる程度なので、3人ともこういった盛り上がり方は新鮮だなと楽しんでいるが。

 一人フラストレーションをためているのがリザベルだ。

 周りはそのリザベルのお陰で楽しんでいるというのが、余計に腹立たしいらしい。


 しかし……


「まあ、四天王最弱はボクだね」

「また、その話をぶり返すのですか? まあ、良いですけど。粘鉄蚯蚓(ビスカスワーム)様と、鉄甲毒百足(アイアンセンチビート)様が手助けしてくれなければ、私が最弱だと思いますよ」

「それをいったら、剣鬼流をどうにか程度にしか扱えない私が、最弱ではないですかね? 地力でもジャッカス様には勝てそうにないですし、経験値も足りてないですからね」


 自虐的なリザベルの言葉に、客観的な自己判断で反応するジャッカスとクロウニ。


「まあ、私がおそらく最強ですね」


 マハトールのこの空気を読まない発言に、3人がイラっと……いや、リザベル以外はしていなかった。

 ジャッカスもクロウニも、大人なのだ。

 精神的に。

 いや、強者ゆえの余裕か。

 軽く微笑んで、頷きを返す程度には。

 

「ほう、貴様はいつからそんなに偉くなったのだ?」

「えっ?」


 そして窓を角で開けて、にゅっとその角を室内に突っ込んでくるカブト。


「いや、えっ?」

「そうかそうか、貴様が最強なのか……」


 楽しい話を聞いたとばかりに、その角をマハトールの執事服の襟に引っ掛けて外に連れ出す。


「いや、その人型で最強という話で」

「呼んだ?」


 慌てて言い訳をするマハトールの前に、もう1人マハトールが。

 そう、彼に擬態したライムだ。


「呼んでません! というか、えっといまはまだ親睦会の最中なのですが、カブト様?」

「是非、我らとも親睦を深めた方がいいんじゃないか?」


 そう言ってカブトが建物を背にして、マハトールを庭に向かって突き出す。

 そこには整列した蟻達と、蜂達が。

 カチカチと顎を鳴らして、楽しそうにマハトールをジッと見つめている。

 遠くからは水球がいくつも飛んできている。

 おそらく、中には魚たちが入っているのだろう。

 自力で飛んで移動ができるのだ。

 ここの、魚たちは。


「冗談だ。主が、湖のほとりで待っている。そこで本格的な酒宴を開くらしい。どうやら、魚たちが新しい芸を覚えたみたいでな」

「迎えに来ただけですから……ただ、そうですね」


 カブトが笑いながらそっとマハトールを地面に下す。

 マハトールが心底ほっとした様子で、地面に両手両膝をついてその有難みを確かめている。

 そして、そんな彼に近づいてくるジョウオウ。


「余興として、この空間最強を決める武闘会というのも悪くありませんわね。マハトールさんと参加者全員総当たり戦で……マハトールさんに主観で、最強を決めてもらうというのはどうでしょう?」


 ジョウオウの提案に、周囲の蟻や蜂達が同意を示すように顎をならす。

 まるで拍手をしているようだ。


「いや、それ……消えちゃわないですか?」

 

 マハトールが泣きそうな表情を浮かべている。

 

「それは、いいかもしれぬな……マハトールにとっても最強の鍛錬になると思わないか? この空間の強者たちを相手取っての組手。おそらく得る物も多いだろう」

「言われてみれば……」


 カブトの発言に、さっきまでビビっていたマハトールの目に闘志が宿る。

 本当に怠惰を好む悪魔が、なんでこうなってしまったのか。

 いや、生存本能に従ったゆえに進化なのかもしれない。

 自身を追い込むことに、やりがいや幸せを感じないと精神的に死ぬだろうと。

 そもそも聖水やポーション漬けにされるという苦行まで強いられてきたのだ。

 そういった方面に思考が根底から改善されないと、とっくに廃人になっていたはずだ。

 いや、廃悪魔か?


「2人とも悪乗りが過ぎるぞ。マハトールも乗せられるんじゃない。普通に、数日は再起不能でその後の訓練に支障がでるから駄目だ」


 そこにため息を吐きながら、ラダマンティスが首を横に振って近づいてくる。


「あまり主を待たせるな。とっとと行くぞ」

「あ、いやすまん」

「分かりましたわ……と言っても、妾が本気で羽ばたけば、そう待たせることもありません」


 ラダマンティスの言葉を受けて、ジョウオウがパタパタと……ブンブンと凄い早さで飛び立っていた。

 その後姿を少し呆れた様子でカブトとラダマンティスが見送ると、ゆっくりと進みだす。


「あれ? いや、私的に落ち着いて考えても、凄く良い鍛錬のような気がしてきたのですが? あの、師匠方? ちょっと、待ってもらえませんか?」


 あっという間に自分から興味を失って歩き出した虫達を、慌てた様子でおいかけるマハトール。

 彼は一体、どこに向かっているのだろうか?


「やっぱり、あいつはおかしいわ」

「見習うべきことかもしれませんが……あそこまで、ストイックになるのは」

「知ってますか? 彼悪魔なんですよ?」


 そのマハトールの背中を、リザベル、クロウニ、ジャッカスが白い目で見つめていた。

 今日も、管理者の空間は平和なようだ。





今日も更新できましたm(__)m

感想、とても励みになっております♪

いえ、本当に申し訳ない気持ちも感じつつ、素直に喜んでおりますm(__)m

また、ここ数日で多くの方に評価いただき、本当に感謝しております。

現金なものでやはりポイントが伸びると、意欲に繋がりますね( ´∀` )

あと少しで、3万8000……4万ポイントを目標に頑張りますので、是非後押し頂けたらと思います( ー`дー´)b

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[一言] マハトール・・・立派になりやがって・・・
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