第5話:管理者の子供達
庭で鍛錬を行っているマコとクコを見る。
この子達も8歳。
本来なら、どこかしらの学校に入学する年齢か……
すでに、クロウニに勉強を教えてもらっているけど。
そして、その横で洗濯物を干しているトトを見る。
彼女は15歳。
この世界なら、立派な成人だな。
彼女たちが来て、はや4年。
月日の過ぎることの、なんと早いことか。
そして、クコの方がマコよりも少し背が高い。
双子なんだけどな。
やっぱり獣人も女の子の方が、成長が早いのか。
トトの身体は一時期丸みを帯びてきてたけど、いまはある程度引き締まってシュっとしている。
胸は……あまり育ってないみたいだけど。
「あの……視線が失礼です」
胸を見ていたのがばれたのか、軽く睨まれた。
いや、ただの成長チェックだから。
そんな、いやらしい気持ちで見てたわけじゃないから。
別に残念だとか、可哀そうだとか思ってないし。
「思ってますよね?」
何故か考えていたことが、バレた。
そこそこ、栄養価の高いものを与えているはずなんだけどな。
熊の耳と狼の尻尾のある獣人だけど、それぞれ成長の方向性が変わってきている。
マコは、熊獣人の色が強く表れたのか身体がちょっとがっしりしてきた。
子供の範疇からははみ出さない範囲でだけど。
その分、クコは細身な感じに育っている。
出会った頃のトトよりはまだ幼いが、それでもしっかりと食べてきたからか当時のトトを思い出させるほどには成長している。
うんうん、みんな可愛い。
「マサキおにい! クコ参上! キラッ!」
「俺参上!」
アクロバットにロンダートからの宙返りをしながら、休憩に入ったマコとクコが俺の目の前に飛び込んでくる。
そして、そのまま神殿の玉座に座っている俺の膝に飛び込んできたので、2人まとめて抱きかかえて膝にのせてやる。
「まったく、あなたたちはいつまでたっても甘えん坊ですね」
洗濯ものを干し終わって、箒を片手に掃除にきたトトが苦笑いだ。
「そろそろ昼食ですよ」
そこに土蜘蛛が、俺達を呼びに来た。
食事の支度が終わったらしい。
日本式のいただきますの挨拶をして、早速食事を頂く。
なるほどどうして、ツボをおさえた料理の数々に舌鼓を打つ。
最近は、さらに調味料の使い方が神がかってきている。
美味しい。
「これ、美味しい!」
「うん、クコも好き!」
2人が特にはまっているのは、ロールキャベツ。
一時期、サラダを食べあぐねていたマコに、野菜を食べさせるにはと土蜘蛛に相談されて教えた1品。
いや、割高なポイントを払って買った、地球産のレシピ本から選んであげただけだけど。
俺に、そこまで料理の技術を求められても困る。
ふわっとしたことしか言えない。
ミネストローネっぽいスープに、キャベツで肉をくるんで煮込むとしか……
ミネストローネってなんですか? って言われたなら。
トマトスープ? としか、答えられない。
いや、料理は出来るんだよ?
完成形をイメージして、それに近いものを作ることも。
ただ、正確なレシピをしらないだけど。
こんなもんが入ってるだろうという想像で、そこそこイメージに近い料理は作れる。
一味足りなかったり、パンチが効いてなかったりするだけだ。
「今日は、これからどうされるのですか?」
食事を取りながら、トトが質問を投げかけてくる。
うーん、マルコも学校が始まってしまったしな。
トトの方に視線を送りながら、途中でチラリと見えたクコに対して思わず目を閉じてしまった。
前掛けが、真っ赤に染まっている。
口の周りも。
もう8歳になったというのに、相変わらず食べるのが下手……
というか、がっつくからそうなるんだろうな。
まだ、前掛けの卒業は時間が掛かりそうだなと、少し不安に。
テトラですら、こんなにとっちらかさない。
いや、流石にかなりお上品に食事を取っている。
甥や姪を思い出しても、4歳くらいならこの大惨事を起こす子もいたけど。
4歳くらいでも、もっと上手に食べる子もいた。
うーん……この辺りの教育も、クロウニに任せた方がいいのかな?
いや、それは俺の仕事か。
しつけや礼儀作法は、親が教えてしかるべき……いや、マルコの礼儀作法の勉強はマイケルでもマリアでも無かった。
いやばかり言ってるが、いやいや、これは流石に俺が教えてやるべきだと決意する。
「マサキ様?」
っと、トトの質問を放置してしまっていた。
彼女も俺の視線に気付いて、苦笑いしていたが。
「一応、特に予定は決めていないかな? 適当に空間内を散歩しようかなと」
「それが良いと思います! 最近は少し暖かくなってきて、何もしないときは昼間からお酒を飲んでおられることが多いみたいですし」
うーん、しっかりと見られていたか。
といっても、がっつりと飲んでいるわけではない。
嗜む程度に飲みながら、管理者の空間の改装やら虫達の合成を行っていたんだけどな。
飲みながら作業ってやつだ。
その方が楽しく、そして仕事が捗る気がするからだ。
御三家は……うん、本当に規格外になっている。
初期の蟻や蜂、蝶も。
ただ回復特化の蝶はそっち方面では頭打ちになってきたので、いまは本人たちの強化に力を入れている。
どれだけ回復力を上げても、死者の蘇生は行えないことが分かったからだ。
俺が魂を左手で回収して、この空間で身体や依り代に定着させたらどうなるかと考えたこともあるが。
いまは、その定着させる方法が分からない。
下手したら、霊体でこの空間にとどまることになるだろう。
試したことないから、分からないけど。
死んだら魂が抜けるかも分からない。
分からないけど、ゴースト系の魔物もいるってことは……なんかありそうだけどな。
食事を終えて、久しぶりに皿洗いを手伝う。
トトと並んで、一緒に作業。
俺が洗って、トトが拭いて水切り用の台に置いていく。
別に昼間っから飲んでばかりいるのを指摘されたから、点数稼ぎでやってるわけじゃない。
親子のコミュニケーションの一環だ。
「まあ、ここの主はマサキ様ですから。別に、何をされようともご勝手ですが、マコやクコの悪影響にならないように配慮いただけたらと思います」
なんてことを、クロウニに言われたからでもないぞ?
俺がトトとたまには、一緒に家事をしようと思っただけだぞー!
今週末はベントレーがマルコと一緒に泊まりに来るからな。
何かしら、空間内に新しいものを用意した方がいいかな。
うんうん……
ゴーカートが獲得できる商品に加わっているが。
嘘みたいなポイントだ。
そもそも、ここで車に乗ったところで、あっちには存在してないからな。
なんのために、用意したんだ善神……様は。
少しため息をつきつつも、タブレットの商品ページを閉じる。
特にめぼしいものは無かった。
いやあったにはあったけど、地球産品には相変わらずえぐいポイント設定がされている。
ポリカーボネートが同じ質量のミスリルより高いとか。
絶対地球だと、ミスリル銀の方が高値が……いや、存在しない金属だからな。
値がつかないか。
こんな鉱物は存在しない、人工品だと言われてしまえば。
おそらく、綺麗な石コロ程度の値段になってしまうだろう。
取り合えず、神殿から外に出て居住区を……
ランドがギガントバジリスクの子供達と一緒に迎えに来てくれていた。
背中に、鞍を着けて。
最近、あんまり山の方には行ってなかったからな。
寂しかったのかな。
ランドは昔はこっち側に住んでいたというか、居住区の外にある森や平地で過ごしていたけど。
ギガントバジリスクが山に住み始めてから、そっちに住むようになったんだよな。
無駄に広い空間のせいで、最近は行動範囲が却って狭まっていたのかもしれない。
少しばかり反省。
この際だ、週末までの期間を空間内の視察にあてよう。
その間に、ベントレー達をもてなす何かを思いつくかもしれないし……思いついた。
巨大プラモデル。
いや、プラスチックはないから、森の木を加工した部品で組み立てて何かできるようにするとか。
楽しそうだ。
なるべく大きなものがいいな。
家……とか?
まあ、その辺りを考えながら……唐突に、商品に建材キットが追加されたけど。
取り合えずスルーしておこう。
カブトとラダマンティスは、毎日マコとクコの特訓を行っている。
そのあとの時間は、2匹で乱取りをしていることが多いが。
今日も、遠くで土煙があがっているとこをみると、あそこで特訓をしているのだろう。
……マハトールが打ち上げられているな。
いや、別にかわいがりとかじゃない。
聖属性の習得に光明が見いだせたらしいが、あくまでもその息吹を感じる段階とのこと。
そこから全然発展しないので、いまは望んでカブト達の乱取りに参加している。
自身の強化が必要だと感じているらしい。
魂を取り込む以外で成長しないはずのマハトールが、ここで成長を始めたのは聖属性の耐性を完全につけた頃かな。
当初の彼のイメージからはだいぶかけ離れてしまい、いまじゃ色々なことに貪欲でストイックな悪魔になってしまった。
実力も大きく伸ばしているし、本当にね……
アークデーモンのリザベルが、ドン引きするくらいに強いレッサーデーモンらしい。
それでもレッサーなのかと、少し不憫に思うが。
その核には、デーモンロードのヴィネの核が埋め込まれているからいずれは……
俺の許可待ちでもあるけどね。
ヴィネの核は完全に俺の配下だから、力を貸すも貸さぬも俺次第と。
しかし、森もだいぶカオスなことになってきた。
季節感を全く感じさせない植生に、なんともいえない微妙な気分に。
いや、俺の配下ともいえるから、植物に葉を枯らせと命じれば茶色くなって葉を落とすし。
紅葉を楽しむこともできるけど。
「ん? ついたのか?」
ボヤっとしていたら、湖のほとりでランドが急に立ち止まる。
そういえば、魚たちも最近は会ってなかったな。
時折水球にのって、神殿まで会いにきてくれていたけど。
あの感情を感じさせない魚眼に見つめられると、なんとも不思議な気持ちになる。
ネガティブな感じの不思議な気持ちに。
本人たちには言わないけど。
ところでなんで湖に?
ランドから降りて、彼の顎をさすってやりながら首を傾げる。
取り合えずランドに逆らわずに、彼の背中で揺られながらぼやっと着いて来ていたけど。
あー、魚たちが新しい芸を覚えたのね。
俺が来たらそれを見せようと思っていたけど、全然こないからと……
で、たまたま水浴びに来たランドとギガントバジリスク一家に相談して、ならば連れてこようという流れになったわけか。
ふふふ……
魚たちの芸は、凄かったとだけ。
来週にはお花畑にいかないといけないよね。
蝶や蜂達が慌てた様子で、花畑に飛んで行ってたし。
いや、そっちはたまに顔を出していたけど、一週間出入り禁止を言い渡された。
お願いされた形ではあるけども。
うんうん、練習期間は必要だよね。
もう少し、この空間の生物たちとコミュニケーションを取らないと。
森担当の虫達もウォームアップを始めたようです。
しばらくは、退屈しそうにないな。
魚たちの芸や、虫達の芸はまた後日詳しく……
感想は全て目を通させていただきました♪
ありがとうございますm(__)m
もう少し余裕が出てきたら、返信させていただきます(*´▽`*)





