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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第3章:高等科編

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第3話:高等科始動

「皆さんもそろそろクラブ活動等、どこに入られるか決められたと思います。先輩方の圧力等もあると思いますが……ありませんか……流石にうちにクラスには」


 貴族科新入生の担任のエルザが、教壇で教室内を見渡して頷く。

 彼女は少し張り切った様子の大きな声で、微笑みを浮かべている。

 しかし新入生といっても、彼らは初等科から高等科に進級したものたちばかりである。

 教師であるエルザからすれば新鮮な学期はじめも、生徒達からすれば担任が変わったことと教室が変わったこと以外は特に大きな変化はなかった。

 数名の編入生からすればアウェー感満載で、すでにグループ形成も終わっているため、まだまだ居心地が悪い状況だ。

 それでも王都の初等科を終えて編入した子爵家の子供ではなく、他の領地の学校から転入してきた伯爵位以上の上級貴族の子供であれば、親の派閥の関係ですんなりとグループに入れるからマシである。


 そう、いよいよ本格的な授業が今日から始まった。

 進級式から4日間かけてオリエンテーション的なものから、教員等の紹介を兼ねた授業見学を終え、週末の2連休明けからの本格始動。

 高等科から始まるクラブ活動に、殆どの生徒が所属したため何か注意喚起しようとしたのだろう。

 ただ、この学園が始まって3度目の、ちょっとあれなクラス構成にエルザも言葉を飲み込む。

 これが高等科で専属で受け持つ生徒としては、3組目なのだが。

 そのそうそうたる顔ぶれに、彼女は心の中で自分の後見人かつ義父となってくれたエインズワース公爵に改めて感謝をする。

 

 そして1人の生徒を見て、違う意味でため息を吐く。

 自分の義父エインズワースが羨望の眼差しを向ける英雄、スレイズ・フォン・ベルモントの孫であるマルコを見て。

 ちなみに過去2度のあれなクラス編成というのは、1度目は現国王エヴァン・マスケル・フォン・シビリアが在籍していた期間と、マルコの父であるマイケルが在籍していた期間の話だ。

 マイケルに至っては2大侯爵家の嫡男である、エクト・フォン・マクベスとウィード・フォン・ビーチェがクラスメイトという本当にアンタッチャブルな時代だ。

 ちなみに、そのエクトの息子がディーン、ウィードの息子がクリスである。

 ともに嫡男ではなかったが、その代わりといっては余りある王位継承権第1位のセリシオがいる。

 そう、王子様だ。

 ということは必然、このクラスの生徒は次期国王と2大側近候補、さらには1代限りとはいえその両侯爵家にひけをとらない騎士侯を賜ったスレイズの孫のクラスメイト。

 すなわち、貴族を束ねる親分の後継者と、貴族の最たるものたちとお友達なのだ。

 なんちゃって貴族に近い、王族の家系に連なる公爵家ゆかりのものがいないだけましか。

 いや、担任が公爵令嬢であった。

 完全無欠のアンタッチャブル貴族科ジェネレーションであった。

 まあ、マルコ自身はそのアンタッチャブルな貴族子弟という評価を、認めたくないと感じているようだが。

 勿論彼はスレイズの孫というだけで、本人はただの子爵家の嫡男でしかない。

 騎士侯はスレイズだけのものだから。


 ただそんなことは、誰も思っていない。 

 マルコとセリシオの関係を鑑みるに、マルコにもなんらかしらの措置が取られるのではないかと周囲は考えている。

 陞爵……もしくは、重役抜擢。

 ない話ではない。


 嘘か誠か、この剣鬼の孫には、それなり以上の逸話がわずかな初等科の期間で築き上げられてしまっていたからだ。

 剣鬼子なんて二つ名が定着してしまうほどに。


「ほどほどに、上手に色々な人とお付き合いするのですよ」


 のほほんとしたエルザ先生の言葉でHRは締めくくられ、それぞれ思い思いの放課後を過ごす。

 クラブ活動に向かうもの、サロンに行くもの、町に出るものと様々だ。

 流石に高等科ともなると、初等科よりは外での行動の制限はだいぶ緩くなる。

 その分、責任も大きくなるが。

 事件の如何によっては、退学があっさりと決まる程度には。


***

「さてと……どう思う?」

「どう思うって、言われてもねぇ」


 珍しくいつものメンバーでサロンに集まって、話し合い。

 少し重々しい雰囲気で漏らした僕の言葉に、エマが軽い感じで返してくる。

 せっかく半分大人になったんだから、落ち着いた雰囲気を演出してみたのに。

 半分大人というのは12歳になって、平民なら本格的に家の手伝いを始める歳に差し掛かったからだ。

 手伝いというか、仕事か。


 今回なにを話し合うって、僕たちをどこのクラブ活動も勧誘してくれなかったから、放課後に打ち込むことがないのだ。

 いや、遊びに本気になるって選択肢はあるけど。

 少しばかり、クラブ活動にも憧れが。


「うーん、何かに行動を制限されるというのは、あまり私は好きじゃありませんね」


 うん……

 確かにある意味、いつものメンバーだけどいちゃダメなやつ。

 ディーンが、紅茶を口に運びながらあまり興味無さそうに外を見つめて呟く。

 呼んでないともいえない。

 ここにいるメンバー全員が別に示しあわせたわけでもなく、いつもの流れで一緒にここに移動してきたのだ。

 誰かが行こうかと声をかけて歩き始めたら、みんな誰ともなしに一緒に移動を始める。

 うんうん、ペンギンみたい。

 この世界にペンギンがいるのかどうか分からないから、何も言わないけど。

 ペンギンの魔物とかいたら……うん、狩りにくいかな。


「剣鬼同好会というのがあったぞ?」


 ベントレーがそれとなく情報を提供してくれたが。

 ジョシュアは、あからさまに嫌そうな顔をしている。

 エマとソフィアの女性陣は少し困り顔。

 そして、僕も。


「それはどんな活動してるのさ?」

「あー、剣鬼流の試合や練習を盗み見たものを、研究して練習する活動らしい」

「……いや、僕たち本人に習ってるけど?」

「まあ……そうだな」


 ベントレーはどこに興味を惹かれたのだろう。

 思いっきり、創始者ともとれる人に師事してるというのに。


「僕は特に興味があるのは、貴族生がやってるものの中にはなかったよ」


 そう言って首を横に振ったのは、ジョシュア。

 マックィーン伯爵家の3男だけど、商人を目指すちょっと変わった子。

 いや、良い子ではあるんだけど。


「それよりも、町に出て流行チェックや市場調査をした方がいいかなって……貴族科じゃなかったら、商人の子たちがやってるクラブとかに、興味があったんだけどね」


 流石に伯爵家の3男で、貴族科の生徒が入部したら周りが気の毒か。

 その辺りの気遣いができる、立派な子供なんだけど……親は、かなりあれだったりする。

 僕も殺されかけたし。


「私はいくつか声を掛けてもらったのですが……」

「ソフィアは誘うのに、一緒にいる私には話しかけないとかふざけた連中のクラブ入らなくてもいいわよ!」


 へえ……

 エマの実家はトリスタ辺境伯……分類的には伯爵家ではあるけど、その領地の軍事的役割等から普通の伯爵家とは一線を画す爵位なんだけどね。

 侯爵家よりの伯爵家だし、公爵家から嫁いでいる人もいるからかなりの権力を持っている家なんだけどね。

 ソフィアの実家のエメリア伯爵家よりは、当然上の家格にあたるのに。


「そういえば、セリシオは?」

「ええ、今日はエインズワース公爵が学園生活についてお話を聞きたいということで、王城で茶話会ですね」

「ディーンは、行かなくてよかったの?」

「誘われてませんので」

「クリスは?」

「護衛見習いですので」

「ディーンは?」

「側仕え候補ですけど、なにか?」

「いや……」


 こういった集まりには強引に参加……いや、もう普通にメンバーに加わりつつある第一王子のセリシオは、彼の祖父ダライアス前国王陛下の従弟にあたるエインズワース公爵に誘われてお茶会か。

 王城でってことは、ホストはセリシオになるのかな?

 いや、国王陛下にとっても大事なひとだから、陛下がホストかな?


 かなり後ろ髪を引かれる思いで、帰路についたのは想像に容易い。

 そして、何食わぬ顔でこっちに参加している側仕え候補をみやる。

 うん、本当に何も気にしてない様子でなにより。


 ある意味で成長しないというか……もとから、熟成されていたというか。

 これがディーンクオリティってやつだな。


「で、マルコは何か決まってるの?」


 ディーンがこの場にいることに、僕以外は特に何も思っていないみたいだ。

 証拠にエマが今のやり取りをすスルーして、普通に話を振ってきた。

 僕は……残念ながらどこのクラブも参加したいと言えば、歓迎してくれるだろうけど。

 現状、言い出さない限りは、歓迎されそうにないし。


 お父様にも勧められたこともあったから……


「とりあえず、冒険者ギルドに登録かな?」


 仮登録しかできないけど。 

 冒険者パーティの手伝いくらいならできるし。

 他にも、ギルドが行う様々な教育も受けられるしね。

 何より、小遣い稼ぎにもなるし。


「それは悪くないな」

「えぇ……」


 ベントレーが僕の言葉に頷いているけど、ジョシュアはあからさまに嫌そうな表情。

 いや別に、皆で登録しなくても。

 放課後はある程度、思い思いに過ごしてもいいと思うんだけど。

 そもそも、学校が終わったあとに、次の日の朝の登校に間に合うような依頼なんてないし。

 

「いや、平日は冒険者活動なんかしないよ? ただ、皆がクラブに参加して予定がなければ、訓練とか受けてみたいと思って」

「ええ、全員同じクラブに入ると思ってた」


 僕の言葉にエマは不満そうだけど。

 えっと……

 別に、一緒のクラブに入らなくてもいいと思うけど。


「逆に、クラブを立ち上げてみてはどうですか? ほら、それぞれ得意分野がバラバラですし、武術や狩りなんかはマルコに、経済関係はジョシュアに、料理関係はベントレーに教えてもらって、お互いに色々な能力を伸ばすような感じの」


 黙って紅茶をすすっていたディーンが、なんとなくエマの意を汲んでか放課後も一緒にいられそうな提案をしてきた。


「いや、一緒に行動したいなら別に、無理にクラブ活動しなくても今まで通りでもよくない? ってこともないか。マルコをメンバーに組み込むなら、それなりの理由も用意しないといけないわね」

「え?」


 エマが一瞬チラリとソフィアを見たあとで、僕を見て顎に指をあてて首を傾ける。

 それから、ディーンの方に視線を移して神妙に頷いている。


「ええ、今年からマルコの良い人も、この学園に通っていますからね」

「流石に、クラブ活動なら放課後にマルコを、私たちが連れまわしても不満はいえないわよね」

「それとも、マルコは彼女との時間を作るために、クラブ活動をしないつもりでしたか?」


 なんだろう……

 高等科の総合普通科に編入してきたアシュリーのことだというのは分かるけど。

 総合一般学課の枝的な位置づけになる、総合普通科。

 エスカレーターで上がってきた子じゃない、商家や一般家庭の子供達が所属する教室だ。

 といっても、それなり以上の倍率の試験を乗り越えてきた子たちばかり。

 能力的なものでいえば、この学校でも上位に食い込めそうな子も多くいる。

 

 アシュリーは物凄く頑張って、国立総合シビリア学園に入学してきたのだ。

 僕と一緒に、学園生活を送るために。

 それなのに、堂々と邪魔する宣言が親友ともいえる2人から……

 ディーンは味方じゃなかったのか!


 少しだけ恨みがましい視線をディーンに送ったら、涼やかな笑みで流された。

 絶対、面白がってるだけだこいつ。

 

 それからあれこれと放課後の過ごし方を話合った結果、とりあえずどこかのクラブを乗っ取るなんて物騒な意見がエマから飛び出したり、冒険者ギルドで本格的にとベントレーが言い出したので、各自持ち帰って考えることになった。


 くっ……

 まあ、今日は帰りに新しくできた武器屋喫茶に、ファーマさんと行くことになってるし。

 よし、とりあえず開店祝いに何か買っていかないと。

 マスターとアシュリーの両方に贈った方がいいかな?

 開店祝いだから、お店の物の方がいいか。


 取り合えず、先に商店を覗いてみよう。


「じゃあ、このあとはどうする?」

「えっ? 解散の流れじゃ……」

「まだ、クラブ活動もしてないですし、とりあえず町にでもいきますか?」


 ……エマの提案にディーンが乗っかって、なし崩し的にいつもの放課後の行動に。

 くっ、予定があるとはっきり言えない自分にげんなり。

 

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