第2話:新入生歓迎パーティ
「やあ、マルコ君……」
おっと、数少ない総合上級科の貴族の知り合いが僕に声を掛けようとして、固まった。
「君は?」
そして、ディーンが声を掛けているけど。
固まってしまったのは、チャック・フォン・ビルドラーン。
子爵家の次男。
えっと……クルリを虐めてたパドラの所属してたグループのリーダーっぽい少年。
横に居る子は、チェイサー・フォン・アガサ。
アガサ子爵家の次男。
チェイサーは客観的に物事を考えられる、ちょっと変わった子。
いや、普通だと優秀な子なんだけど。
彼の周りがチャック以外、いかにもボンボン、お嬢様の集まりだったから。
彼らの家のことは、彼らと出会ってだいぶ経ってから詳しく知ったんだけど。
領民第一主義の、とっても人情味あふれる当主様らしい。
子爵家同士、少しは仲良くしたかったし、彼らの父親にも話を聞いてみたかったんだけど。
色々とあって、無理だった。
主に、彼らの取り巻きが……
だいぶ脅しあげてしまったし。
チャックとチェイサーは、割と話の分かる貴族の子供で好印象だったんだけどね。
「ディーン様、失礼しました! 私は、ビルドラーン子爵家当主エガールが次男、チャックと申します」
「アガサ子爵家当主、オルダが次男チェイサーと申します」
慌てた様子で頭を下げる2人。
僕より立場が上のディーンがいるのに、僕に先に声を掛けてしまったからか。
いや、しょうがないよね?
彼らから来た方向からじゃ、絶対に見えない位置にいたし。
まあ、周囲のメンバーを確認せずに声を掛けてきた彼らが迂闊ともいえるけど。
分かるけどね。
先輩方の攻勢が強すぎて、なんとか同級生同士で固まろうとしてたもんね。
結局、徐々に分解されていったけど。
で、2人が最後に残って周りの取り巻きがいなくなったから、僕のところに来たらしい。
普段は、周りがビビって近づいてこられないからね。
2人がこっちに来たことで、あちこちからため息が。
たぶん、この2人を取り込もうとしていた先輩方。
お互い牽制しあってるうちに、こっちに来ちゃったのか。
目の前の2人は、カチコチに緊張してしまったけど。
「殿下、この2人が挨拶をしたいそうですよ?」
「えっ?」
ディーン……
君ってやつは。
チャックとチェイサーが酷く驚いている。
チャックの呼吸が荒い。
大丈夫かな?
「おお、お前たちは……誰だ?」
おいっ!
「こっちがチャックで、こっちがチェイサー。僕の友達だよ! これでいいね? ちょっと、2人と話してくるから」
あまりにもチャックが可哀そうだったので、ディーンの代わりに紹介して2人をこの場から……
失敗。
肩をがっしりと掴まれる。
セリシオに。
「そうか、お前たちはマルコの友達か」
「はっ!」
「光栄なことですが、見知っていただいてます」
友達って言ってくれてもいいんだよ?
「なら、俺にとっても友達だな」
セリシオのこの言葉に、会場のあちこちからさらに深いため息が。
彼らを取り込むことが出来れば大きいが、これで彼らは殿下の友達。
2人が神輿となる資格を得たのだ。
担ぎあげればワンチャン出てきたかもって、かえってギラついた先輩もいたけど。
「恐れ多いお言葉」
「誠に、光栄でございます」
ふふふ、片膝ついて頭を垂れてるけど、一瞬固まったのは大きなマイナスポイントだよね?
だから、ディーンがきっと止めてくれる。
「てことは、私の友達でもあるわけですか」
おいっ!
意外と友人以外からの、礼儀にうるさいディーンが。
くそっ。
クリスは?
ダメだ、あいつ肝心なときに役に立たねー。
セリシオの言葉を彼に代わってスピーチしたことで、めっちゃ群がられてる。
手に持ってるスピーチの文言が書かれた用紙をめっちゃ高く掲げてるけど。
まるで鹿の群れに襲われた観光客みたいになってる。
あっちは、注意しなくていいのか?
なぜ、こういうときだけ見てみないフリをするんだディーンは。
もういい。
「ごめんね、2人とも。あー、殿下、ディーン?」
「ん?」
「なんですか?」
「ちょっと、久しぶりに2人と話したいからさ……遠慮してもらって良いですか?」
「なんでだ?」
「はい」
「ディーン?」
笑顔で譲ってくれるようにお願いしたら、ディーンはあっさりと譲ってくれた。
セリシオが不思議そうにしてるけど。
ディーンは、意外とこういった引き際を心得てたり。
「おばあさまに「分かった、あっちで3人で少し旧交を温めたら、また改めて紹介してくれ」
セリシオも分かってくれたようで何より。
「いやあ、びっくりしたよ。というか、そうだよね……」
「貴族科の集まりに突っ込んでいくから、てっきり予測してると思ったが?」
チャックの言葉にチェイサーが突っ込んでいるが。
よっぽど彼も必死だったのかな?
「だって、先輩方の目がだんだん鋭くなってくから……誰に声かけるみたいなプレッシャーも」
「はは、チャックは優良物件だからな」
「そういえば、ヘンリーは?」
「あー……ヘンリー君なら」
「あそこ」
うわぁ、いたよ。
凄い機嫌、悪そう。
意外と人望あるというか、あっちはあっちで大変なことに。
令嬢多めの貴族の先輩方に囲まれて。
まあ、貴族科落ちの総合上級科だし。
本来ならレッテルだけどエマの許しを得て、いまだにセリシオとも交友があるとなると。
総合上級科で一番の優良株扱いか。
本人は、こっちに来たがってるけど。
先輩方が必死でブロック。
まあ、セリシオゾーンに入ってこられたら声かけられないもんね。
「そろそろ良いか?」
早くないか?
どんだけ、寂しん坊なんだよ!
ほらっ、それよりもクリスがそろそろ限界っぽいけど良いの?
ヘンリーも、とうとう人込みをかき分けるようにして、こっちにズカズカと歩いてきてるし。
凄い、良い笑顔だ。
あの2人なら仕方ないか。
まあ、貴族科に近い子爵家だもんね。
そして高等科から入ってきた貴族の子達は……
うわあ、かなり可哀そうなことになってる。
先輩方ももとからいた子達もめっちゃ、フレンドリーに接しているけど。
言葉と表情は。
ただ目が怖い。
そうか、こういう世界なのか。
あー、あそこの領地とかほとんど山ばっかりで、そんなに街も発展してないんだよな。
パーティとかも、こじんまりした会食みたいな感じだったし。
前にお父様に連れていかれて、参加したけど。
のんびりしてて、かなり良いところだった。
そこの令嬢。
ケーファちゃん。
カチコチに固まってる。
でも、ここで声を掛けたらもれなく、セリシオ会に入会することになるだろうし。
あっ、目があった。
軽く手を振る。
わーっと盛り上がった。
「ケーファさんは、マルコ様とお知り合いなので?」
「えっ? あの、小さい頃に……」
「幼馴染なのですか?」
「いや、数えるほどしかあったこと……」
「へえ、どこでお会いに」
凄い質問攻めだ。
ごめん……
「あそこのグループやばいな」
「殿下率いる最強派閥」
「最大じゃないんだ」
「いや、殿下に2大侯爵家、騎士侯に辺境伯、聖家……仮に殿下抜きで半分になったとしても、どの派閥も勝てないだろう」
「騎士侯が……」
「あそこがついただけで、逆らえなくなる貴族家がどれだけあるか」
「ただ、まああんだけキラキラしてたら、嫉妬する気もおきんな」
丸聞こえだから。
こっちを噂している先輩方。
蜂が耳元で、同時報告してくれる。
声真似しつつ。
他に同級生はどんな会話を……
先輩方が物分かりの良い新入生たちに、ニコニコしてる。
そして、今の彼らの色々と考え方とか質問してるけど。
「貴族序列絶対」
「裏のつながりを考える」
「開拓民いじめたら、侯爵家と鬼が出てくる」
「先を見据えた人付き合いが身を救う」
「狭い視野は身を亡ぼす」
「武力にまさる権力なし」
最後のは違うと思う。
違うよね?





