第239話:仲良し4人組と冒険者
「お、狼だ!」
「今度は、こっちに向かってきてる」
あまりに平和なハイキング状態だったので、蜂達による追い込み漁を……もとい、追い込み猟を。
ずるいとか言わないように。
だって、他の冒険者だってスキルとか使ってるわけだし。
僕だって、自分の能力を使って悪いことなんてないよね?
誰に言い訳するでもなく、そんなことを考えつつ目の前の魔物を見定める。
マサキが苦笑しているのが分かるが、独り言ならぬ独り思考だから反応しないように。
必死な表情の狼が4匹。
うんうん、一人一匹ずつか。
楽勝!
そう思ってた時期がありました。
いや、実際そうなんだけどね。
僕とヘンリーは鎧袖一触で、それぞれ1匹ずつ狼を倒していた。
「よしっ! これで残りは……ジョシュアの一頭だけか」
ベントレーも一合とまではいかずとも、危なげなく狼の首を斬って止めを刺していた。
うーん、僕とヘンリーは一刀で首を刎ねたから良いとして、ベントレーの相手の狼は傷だらけで素材が。
それよりも……
「危ないぞ!」
「っ!」
ジョシュアが後ろに下がると同時に狼が襲い掛かり、すぐに僕とヘンリーが突っ込む。
どうにか間に合って横から狼を蹴り飛ばすと、目の前を矢が横切った。
そして、蹴り飛ばされた狼はヘンリーによって首を刎ねられていたが。
僕はついユミルさんの方を睨む。
「ごめんなさい、間に合ないかと思って」
ユミルさんが僕に向かって謝る。
確かに、その判断は間違っていないけど。
僕じゃなければ。
逆に僕がもう少し遅ければ、僕に矢が刺さってた可能性も。
とはいえ、ジョシュアならと油断していたのも事実だし。
だから、これ以上は責めない。
「どうしたんだジョシュア、調子でも悪いのか?」
「いや……普通、あんな大きな狼が襲い掛かってきたら、ビビるよ?」
少し怯えた様子のジョシュアに、ヘンリーが首を傾げている。
「いや、でもスレイズ様の方がよっぽど強いし、怖いよ?」
「えっ? いや、そうじゃなくて……」
僕もヘンリーと同じようなことを考えてしまったが、ヘンリーと同じような考えという部分に引っ掛かる。
もしかしたら、普通じゃない?
「まあ、人と獣は違うもんな……この牙で噛まれたり、この爪で引っかかれたら無事じゃすまないだろうし」
ベントレーが狼の死骸をいじりながら、ジョシュアの意見に同意している。
そうか、ジョシュアは対人戦以外経験が無いから、獣相手に戸惑っただけだと思ったが違ったみたい。
魔物って手加減とかしてくれないし、100%殺しに来てるからね。
さらに、牙も爪も鋭くて危ない。
なら、なおさら固まっちゃだめだと思うけど……
「まあ、気迫に飲まれたのも、それが魔物に分かってしまったのも不味かったな」
「いや、普通の子供の反応だと思うよ?」
「ははは、スレイズ様に師事しておいて、普通とは面白い冗談だ」
「ヘンリー、少し黙ろうか?」
ジョシュアとベントレーの会話に割って入ったヘンリーを、僕が注意する。
確かにヘンリーの言う通りジョシュアはおじいさまの指導を受けているから、普通の子供よりは頭一つ分以上抜きんでてるはず。
それでこの反応ということは、普通の同世代の子供って……
「もしかして、みんな狼を狩ったりしないの?」
「……そうですよ? 兎とかならともかく、それでも野生の動物を狩るレベルだから。それすら、したことない子がほとんどだと思うよ?」
ジョシュアの返事にベントレーの方を見ると、彼も頷いていた。
ヘンリーは……もう、殆どこっち側だから参考にならないか。
よしっ、ヘンリーとベントレー、ジョシュアで線引きをしておこう。
でジョシュアの下に一般人と。
「普通の子は魔物を狩らないのか」
「普通の大人ですら、そういった職業でなければ狩らないと思いますよ?」
この世界の常識はベルモントでは学べないことが、一番の収穫だな。
うん……知ってた。
王都に来て少しした辺りから。
目を背けてたけど、直視せざるをえないか……
ちなみにセリシオとクリスも魔物狩りはしてたけど。
王族は剣鬼の英才教育を受けているから、除外か。
側仕えも、その王族に付き合うために必須と。
うんうん……おばあさまに、色々と相談した方が良いかな?
ちなみにジョシュアの行動に、虫達もびっくりしていた。
慌てて助けに入ったからか、ジョシュアに襲い掛かった狼の死体には虫に噛まれたあとがいっぱい。
なんで、うちの蜂は刺すということをしないのだろう……
刺して毒が回るのを待つより、噛み切った方が色々と捗る?
まあ、そうなんだろうけどさ。
その後は皆でジョシュアのサポートをしつつ、魔物狩りを。
そこは流石剣鬼流をかじっているだけあって、落ち着いて対処すれば危なげなく狩ることが出来ていた。
簡単にというわけではないけど、危険は少なそうだ。
遠巻きに見ていた冒険者の人達が、ジョシュアの戦い方を見てほっとしているのがなんとも。
「やっぱり、あれが普通だよな?」
「いや、あれ普通じゃないからな? あれが普通の天才クラスだと思うぞ?」
「そっか……マルコ様に見慣れてると、子供の基準が分からなくなるよな」
「たまに、人としておかしいレベルの動きすることあるし」
あー、マサキのせいでだいぶ僕の評価が酷いことになっている。
おかしいレベルの動きって、マサキの時のことだろうし。
僕は自重している……かな?
それから一度森の入口へと戻る。
流石に素材が多すぎて持ち運びが大変になったのと、お腹が空いたからだ。
狩った魔物を食べてもいいけど、血抜きも満足に出来ていないし。
多少は熟成させないと、どうしても固くて臭いお肉だし。
それなら、お肉も売ってそのお金で屋台で美味いものを食べた方が。
……他の冒険者の人も同じ考えのようで、屋台は大盛況だ。
街に帰りたくなるレベルで。
「これ並ぶ?」
「まあ、仕方ないだろう」
「お腹ぺこぺこだけどね」
「さっきの兎焼いてくったら、よくね?」
僕の言葉に、ベントレーとジョシュアは疲れ気味の返事だった。
ヘンリーは無視しておこう。
様々な装備を身に着けた人たちが、ところ狭しとひしめき合ってる様子はなかなかに楽しいが。
主催者権限で割り込みというか、本部に届けてもらったり……は当然だめだよね?
出資者だけど……だめかな?
だめか……
マサキが呆れた様子なので、仕方なく並ぶ。
前の冒険者の人が譲ってくれようとしたけど、遠慮しておく。
甘えてしまったら、マサキがこれみよがしにため息とかつきそうだし。
そもそも出資者で主催者の僕が優勝したところで、誰も喜ばない。
こともないか。
ヘンリー辺りが、喜びそうだけど。
魔物があまりに出なさ過ぎて、余裕をなくしていたようだ。
気を利かせて本部についてすぐに屋台に並んでいたジャッカスが、持ってきてくれた串を頬張りつつ頷く。
空腹が和らいで、ようやく落ち着いて考えることが出来た。
まあ美味しそうな焼いた肉の匂いに、周囲の空腹の冒険者さんは迷惑そうにしてたけど。
彼らも僕たちも、この列の先にあるカレーもどきが食べられるのを今か今かと待っている状態だし。
匂いが強い料理が、やはり人気だよね。
モンロードの方から来た人がやっているらしい。
異国料理ということで、なおさら。
というか、マサキが勧誘してベルモントの街に出店した人なんだけどね。
スポンサーは僕というかマサキというかジャッカスだけど。
「もう適当に屋台を回って、テントでゆっくりしない?」
「そうだな、少し眠くなってきたし」
「あっちで、お湯が借りられるみたいだよ」
「汗を流して、少し休むか」
お腹いっぱいになったら、狩りにいこうって気分じゃなくなってしまった。
そして、それは冒険者の人も一緒らしい。
お腹いっぱいになったからもうひと踏ん張りって人達と、一休みって人達にきっかり分かれていいる。
ちなみにヘンリーは、ジャッカスと一緒にまた森に向かっていったけど。
僕とベントレーとジョシュアは、色々と満足してしまった。
夕方の結果発表では、なんと優勝はトーマスとその彼女だったり……
トーマス大人げないというか、参加するなら言ってくれたら良かったのに。
「言ったら、絶対に冷やかしに来ましたよね?」
あえて無言で横を向いておいた。





