第238話:仲良し4人組と冒険者 前編
「へえ、あんたそこそこ強そうだな」
「こいつやべーです……特に剣と、篭手が異様です」
翌朝僕たちを迎えに来たジャッカスにそんなことをのたまうマチルダさんと、ウルナ。
鉄甲毒百足と粘鉄蚯蚓込みでS級冒険者とはいえ、ジャッカスもそれなり以上にはなってきた。
マチルダさんのお眼鏡に適うくらいには。
「ちょっと、ギルドで訓練場を借りて手合わせでも」
「あー、今日はマルコ様とご友人の方々の護衛ですので」
マチルダさんが早速誘っているが、ジャッカスが苦笑いで応える。
というか、マチルダさん好戦的な割に僕の前で勝ったことがない。
本当に強いのか、甚だ疑問だが。
ローズには勝てると思っているらしいが、僕から言わせてもらえばそれすらも首を傾げてしまう。
取り合えず、本家ベルモントでもどこまでやれるか。
スレイズベルモント家なら、最弱の名を欲しいままにしそうだ。
「逃げるのかい?」
「ええ、では不戦敗ということで良いですよ。それでは、皆様行きましょうか」
「ちょっ、待てよ!」
取り付く島もないとはこのことか。
あっさりと負けを認めたジャッカスに、マチルダさんが焦っている。
「彼、S級冒険者だから」
「……申し訳ありませんでした」
「やっぱり、やべーやつだったです! いたいっす!」
さしものマチルダさんも、S級の肩書を聞けば素直になるらしい。
S級の称号恐るべし。
そして、ウルナがマチルダさんに殴られて、頭を押さえつけられていた。
「ジャッカスさん、よろしくお願いします」
「お噂は兼ねがね聞いてます」
「ん、また世話になるな」
ベントレーとジョシュアが丁寧に挨拶をしている。
貴族も気を使う相手、それがS級冒険者……らしい。
ヘンリーとは長い付き合いなので、ニューヘンリー宜しくな挨拶だったが。
勿論、彼が覚醒したあともジャッカスとはあっている。
そんな彼に対して、ジャッカスは優しい目をして微笑むだけ。
無条件で子供好きのジャッカスは、どんな性格の子供でも好意的に受け取ってくれる。
本当に、なんでチンピラなんかやってたのやら。
いや、ここまで子供に情愛を向けるようになったのは、僕とマサキの配下になってからか。
もともとそうだったのだろうけど、リミッターが解除された感じの。
早い話が、素直になったということだろう。
「自由に過ごせるのは今日だけだからね、無駄に出来る時間は無いんですよ……マルコ様がせっかく最終日の護衛に選んでくださったわけですし」
「本当にすいませんでした……」
暗に、余計な手間を取らせるなとマチルダさんに……ああ、本心から出たただの状況説明と。
別にそう他意はなかったらしい。
「へえ、ウルナさんは豹人族なのですか。なるほど、確かにしなやかな筋肉をしてますね……将来有望そうだ」
「えへへ……照れるです」
道中ジャッカスがウルナを褒めて、マチルダさんが恨めしそうに弟子を見つめていた。
そんな師匠の視線に気付かずに、ウルナは頭を撫でられてご満悦。
羨ましい……
いや、ウルナが羨ましいんじゃなくて、ウルナの頭を撫でることのできるジャッカスが羨ましい。
「今日はなんと、森でサバイバルですね」
「えっ?」
「しかもキャンプです!」
いっつもオセロ村で社会見学だから、今日は思い切って冒険者見学にした。
僕たちを基準に考えているからか、戦闘に関しては自己評価の低いジョシュアの為でもある。
ちなみに、キアリー、ユミルも合流する。
それぞれ、護衛につく。
キアリーさんはともかく、ユミルさんは僕の弓の師匠だったり。
あとは、安定のローズも一緒に来ている。
最初はマチルダさんも護衛の頭数に入れていたが、不安だったので急遽来てもらった次第だ。
「うわぁ、いろんな人が集まってる」
「それでは皆さん、注目してください」
森の入り口につくと、C級冒険者からD級冒険者までが集まっている。
今日の為に依頼を出したというか。
オセロ村の収入で、イベントを企画したというか。
「第一回、ベルモント魔物祭りを開催したいと思います」
トリスタ領に行く前に根回しは済ませておいた。
会場には、屋台も出ている。
それと、臨時の武器防具、道具を扱うお店。
さらには、救護室まで。
救護室には、街の治療院から治療魔法を使える人を呼んでいる。
「特別ゲストで、本日はマルコ様とそのお仲間の方々が参加されます」
司会の職員の言葉に、わっと歓声が上がる。
先生方のお陰で、僕は冒険者に理解ある次期領主として認知されている。
「ちなみにお仲間の方々も、大なり小なり剣鬼流をたしなんでおられます。あと、貴族のご子息なので無礼のないように」
続く説明に、冒険者たちが少しだけ背筋を伸ばしていた。
まあ、ここで顔を覚えてもらえたら、もしかしたら専属の護衛として雇ってもらえるかもしれないしね。
ベルモントの護衛は倍率も求められる技術も高いため、諦めている人が大半だろうが。
他の領地ならと。
やっぱり死と隣り合わせの冒険者よりは、まったく死ぬ危険性がないわけでもないが貴族の護衛の方が良いよね?
僕もそう思う。
「ベルモントってのは面白いことをやってるんだな」
「聞いてた? 第一回って言ったよね? 今回が、初の試みだよ」
マチルダさんが顎をさすりながら頷いていたが、あまり説明を聞いていなかったようだ。
ちなみに、魔物を狩ったポイントを競うだけの大会。
とはいえ、冒険者ランクと魔物の種類で、獲得ポイントが変わる。
D級冒険者がホーンラビットを狩った場合の方が、C級冒険者が狩った場合よりもポイントが多くもらえる。
僕たちのポイント換算はD級冒険者仕様だ。
「確かに、こうして森の魔物を間引いたら、森から溢れた魔物が街道とかで人を襲う危険性が減る訳か」
「それだけじゃなくて、魔物達に人の怖さを叩き込むって理由もあるんじゃねーか?」
「なんで、僕が……」
ジョシュアだけちょっと不満そう。
そうだろう。
彼は今回、ベルモントの商業について色々と調べようと思っていたようだし。
そう、ほぼ経験したことのないだろう魔物狩りに対して不安そうじゃなくて不満そうなあたり、ややベルモントに染まっている……
いや、違う。
ベルモントの剣を学んでも、商業に興味を持つということはそれだけ彼の信念が強いということだろう。
うんうん、この子は立派な商人になるかもしれない。
勿論薬草採取や、純粋に素材の収集依頼で来ている他の冒険者もいたりする。
ジャッカスのクランの子達も来ていて、遠巻きながら応援の声をあげてくれている。
そっちの方に笑顔を向けたら、向こうも満面の笑みで頷いてくれた。
「じゃあ、森に入ろうか」
「では、ここから先私たちは居ないものと思ってください。よほどのことがない限り、手は出しませんので」
僕が仕切ると、ジャッカスが頷いて少し距離を空けてくれる。
キアリーさんやユミルさんも。
ジャッカスとパーティを組んでるみたいだ。
割と、豪華なパーティだな。
ローズも久しぶりに冒険者仲間と話が出来て楽しそうだ。
マチルダさんとウルナは2人で参加するらしい。
マチルダさんはC級だけどウルナはE級なので参加資格は無い。
だから、僕の紹介枠ということで参加が認められた。
一人だけブースで待ってろっていうのは、可哀そうだし。
ウルナと僕たちが一緒のパーティだと……参加したがってるマチルダさんが必然護衛枠に加わるので、たぶん不満に思うだろう。
「それでは、開始してください!」
司会の人の言葉とともに駆け出す……のは、D級冒険者の一部だけ。
とマチルダさんか。
他にC級冒険者の中には2人だけ走っていったのが居た。
あとの面々は……まあ、ゆっくりと狩りをするつもりらしい。
いきなり屋台に向かって行ったのも居るし。
僕たちはそれぞれ武器屋で鉄の剣をレンタルして、森へと向かう。
道中で兎やタヌキ、狼なんかを見かけたが。
魔物なのに、こっちに積極的に襲ってくるのは居なかった。
一瞬ジャッカスが威圧でも放ってるのかと思ったけど。
どうやら、そうじゃないらしい。
「なんか、皆マルコを見て逃げて行ってないか?」
もしかして、誰か威圧使ってる?
管理者の空間に意識を向けたけど、全員が首を横に振る気配が。
これはますますベルモントらしくなってしまたかと焦ってしまったが、どうやら僕が虫の気配を身に纏っているのが原因みたい。
結構な魔物が蜂や蟻達に狩られていたからか。
「マルコはもう、どっか行ってた方がよくないか?」
「酷くない?」
「あー、言い方を変えよう……マルコが出るまでもないってことさ」
ヘンリー……確かに良い感じの言葉になってるけど、邪魔って言ってるよね?
「流石マルコ様です」
ジャッカス……口を出さないんじゃなかったのか?
思わず、ジャッカスを睨んでしまった。
きっと、粘鉄蚯蚓か鉄甲毒百足の気配のせい……てことも、無さそう。
弓でも貰ってくればよかった。
流石に剣で逃げる野生動物を狩るのは、かなり至難の技だし。
前途多難……
「コンビニと異世界に行く~身近な物で店長が無双する~」
「異世界転生からの異世界召喚~苦労人系魔王の新人冒険者観察~」
の2作品も緩やかに更新再開しております。
これもどれも更新は不定期ですが、PCに触れられる時間が出来るようになってきたので(;^_^A





