第233話:マホッド・ファクトリー&リテール・アウトレットモール
これ、言うしかない!
平成最後の投稿です( ー`дー´)b
「しかしどこから回れば良いか、さっぱりだね」
「そんなマルコ様に、こちらをどうぞ」
「うわぁ……金掛かってる」
「なにそれ、私知らないんだけど?」
取り合えず中に入ってざっと店内を見渡して途方に暮れる。
ベルモントに作った温泉施設も大概だと思ったけど、ここはさらにその上をいく広さだ。
「無駄に広いな」
「いやいや、無駄は無いように見えるよ。こう見えて人の動線を意識してるようにも見えるし」
同じような感想を抱いたベントレーに対して、ジョシュアがなかなかに鋭い指摘を返している。
確かに目的の物が分かりやすいように表示してあるし、きちんとジャンルで区画が分かれている。
「去年も来たけど、本当に凄いね」
「ふふん、私も出来てから帰る度に来てるけど、毎回品ぞろえが洗練されてきてて初めて来たみたいに楽しめてるよ」
ソフィアが純粋に感心していることに、エマも気分が良さそうだ。
「工芸品から実用品、食品までもが一店舗に収まってるのってすごいよね?」
「まあ、結果として元々あった商店街は完全に観光路線に切り替えちゃったけどね」
こことは別に商店が立ち並ぶ地区もあるようだけど、そっちはトリスタ名物的なものを目玉に販売するようになってきたらしい。
それもロナウドのてこ入れがあったようだ。
店に並ぶ商品を、目の届く範囲で見渡す。
フロアの周囲には契約工房が多くあるらしく、そこで規格品の作成から一点物の制作を行い直接店内に搬送することで価格を抑えていると。
さらには辺境で戦火に見舞われやすいとはいえ、広大な土地もあるため農作物も多く作られているとか。
火計の跡地で植物の成長が向上したという実績があったことで、焼き畑農業も行われていてそれなり以上の成果も見込める畑が多いらしい。
それらも店内に多く並べられている。
各地の商人が買い付けにくることもあれば、他領の貴族や旅行者もここで色々と買い物を楽しんでいるのだとか。
にしても……これって、絶対にマサキの入れ知恵だよね。
マホッド商会が金で頬を叩いて契約した技術者や農家が、かなりいるのかな?
それもそうか。
マホッド商会が受け持つ職業斡旋の最たるものかもしれない。
土地も工房などの箱モノをマホッド商会が作って、あとは人員を集めるだけ。
マホッド商会は人の囲い込み。
そして、働く人たちは初期投資をかなり安く抑えられると。
加えて、確実に買い取ってもらえる保証もある。
もちろん駆け出しの技術者もいたりするけど、そういった商品は少し安く販売することで職人さんが自分の名前を売る場所にもなっている。
このあたりが、リテールアウトレットってことか。
1階のあちらこちらにワゴンセールみたいな形で、ぱっと見は商品として問題無さそうなものが格安で展示されている。
2階の専門店は、名の売れた人たちの作品が陳列されているようだ。
1階に商品を出している人たちは、2階に陳列されるのを目標に頑張っているのだろう。
食品関係の方も、その農地というか畑の区画と生産者の名前が書かれたプレートが立てられているし。
これで、農家の人達のモチベーションを向上させようとしているのかな?
やはり人が多く集まる区画とまばらの区画があるところを見ると、農作物も生産者によって差があるということだろう。
卸し価格は他のお店よりもかなり低いが、専属農家なので卸先を変えることは出来ない。
代わりに販売数による売り上げマージンが週ごとに渡されるらしく、品質の良いものを作って売れれば逆に他所で卸すよりも儲かると。
だから置いてあるものも、一定の品質を下回ることはない。
不人気のものは、最低限の品質を保ちつつもかなりの格安価格だ。
目利きさえできれば、良い買い物が出来そうではあるけど。
いかんせんお店が広すぎて、どこから回ればいいのやら。
そんなことを思っていたら、一緒に回ってくれる予定のお姉さんが店内の配置図が書かれた紙を渡してくれた。
店内には置いてないところを見ると、一部の人しかもらえないようだ。
それを見たエマが何やら不満そうだが。
紙に書かれてる絵も分かりやすく、その下に絵を描いた人の名前が載っている。
これも、名前を売るための戦略の一つかな?
見た目は色もついてて、綺麗な紙を使ってるからこれだけでも金を払って欲しがる人はいそうだけど。
きっと、絵を描いてる人はかなり安く使われてるんだろうな。
ちゃっかり自分の絵を売ってるお店に目印をつけてアピールしてるところを見ると、宣伝ツールとしては優秀なように見える。
渡される相手が限られているからなんともいえないけど、これがきっかけでパトロンが付けばかなり生活が楽になるだろうし。
いまはロナウドが最低限の生活保障をするパトロンってところなのかな?
「どうする? 皆で一緒に見て回るか?」
「そうだね……見たいものはそれぞれあると思うけど、出来れば全部見て回りたいし。あっ、どうしても見たいものがあれば別行動でも良いけど」
「私はみんなでワイワイと見て回りたいですね」
「僕もその方が勉強になりそうだし」
ベントレーが全員で見て回ることを提案したので、僕も皆も同意だった。
「そうね……なんか、私の領地なのにアドバンテージが取れない」
エマが少し拗ねてるけど。
「一歩引いてお客さんの意思を尊重するのも、大事なおもてなしですよ」
「そうね」
そんなエマを慰めているのは、先ほど紙を渡してくれたとは別の案内係のお兄さんだ。
かなりたくましい体つきをしているところをみるに、荷物持ちもかねているのかな?
「欲しいものは私共に言い付けください。裏に運ばせて保管しておきますので」
「ありがとう……って、私までもてなされてる?」
「いえ私どもは最初の説明だけで、あとはこちらの地図を元にエマ様にお任せ出来ればと思うのですが?」
「ふふん、仕方ないわね。じゃあ、皆ついておいで!」
地図を渡すときに、お兄さんが何やらエマに耳打ちしていた。
チラリとエマの持つ地図を見ると、数字が書き込んである。
どうやらこの順番に案内すれば、良いとでも言ったのかな?
あえて、気付かないふりをしておくけど。
「まずは2階から見て回るわよ!」
「いきなりだね」
「確実に欲しいものを買っておいて、その後でゆっくりと回る方が良いかなって。ベントレーは銀の装飾が気になるんでしょ? ジョシュアは市場調査も兼ねて、売れ筋の商品を店員さんに確認すると良いわ」
おお、エマが色々と考えてる風の案内を始める。
いや、たぶんここに連れてくる時からこの辺りは考えてたのかな?
「そうだな。ここだったら誰が作ったかもわかるし、工房が近くにあるから気に入ったものがあれば直接工房の方に見学にもいけるしな」
「これだけ幅広い商品を扱っていたら、かなり勉強になりそうですね」
「そうでしょう? ソフィアは高等科用の筆記具が見たいって言ってたわよね? それと、春ものの服が数着欲しいってこないだ話したから、一緒にゆっくり見ようよ。時間がかかると思うから、男どもはその間に武器見学でもしてたらいいんじゃない? 私たちはそっちは興味ないし」
「そうね、それなら気兼ねなくゆっくりと服が選べそう」
予習はばっちりって感じだね。
地図のお陰で、さらに案内が捗ってそうだし。
「問題はマルコよね。あんたんとこの領地って意外とそつなく物が流通してるから」
「うーん、僕は見てるだけでも十分楽しいよ? そうだなー、家族へのお土産も探すから取り合えず付いて行くよ」
「どうにかしてマルコを感心させたいんだけど、とりあえず仮面屋さんは外せないわよね」
「ははは……」
仮面屋さんって……
おじいさまの仮面の蒐集癖は有名なのかな?
「木で作ったおもちゃのお店もあるから、テトラ君のお土産も大丈夫そうね」
「それは助かるよ。お父様とお母様は……まあ、なんでも喜ぶだろうし。とりあえず気に入ったものがあったらどんどんキープしてこうかな?」
そんなこんなで、行動の指針が決まったので移動を開始する。
2階は中央が吹き抜けになっていて、壁にそってお店が立ち並んでいる。
分かりやすい看板が掲げられていて、建物の中に商店街があるような感じだ。
本当にショッピングモールみたいだ。
「凄いなー、こうやって上から下を見ることも出来るのか」
「確かにこれなら人の流れがよく見えて、色々と分かるかも」
二階から下を覗くと人が集まっているお店や、そうじゃないお店が一目瞭然だ。
ベントレーとジョシュアがそれぞれ思い思いに感想を漏らしている。
流石ファンタジーな世界。
獣人の人から、異国風の人まで多くの人が行きかっているのもよく見える。
「色んな人種の人がいるね」
「結構紛争とかも絶えなかったから、傭兵稼業の人が各国から集まってきたりもしたからね」
僕のつぶやきにエマが簡単に答えてくれる。
ようやくエマがホストらしくなってきた。
皆を先導できて楽しそうだ。
「これ可愛い」
「花が浮かんで見える。どうなってるんだろう。僕もお母さまに買って帰ろうかな?」
「なかなかに細工が細かいな。なるほど、薄く削ったところと厚みのあるとこで光の反射も変わってこういった模様が浮かんで見えるのか」
ソフィアが見つけた花が彫られた円形のレリーフを横から覗く。
傾けてみると、花びらに微妙に色がついているのが分かる。
さらに光の当て方で陰影がくっきりと浮かびあがる仕様になっているが、単純にそれ以外にも細工がしてありそうだ。
そう思ったところで、職人気質のベントレーが手に取ってじっくりと眺めて所感を述べている。
いや僕もソフィアも純粋に不思議だけど、綺麗で可愛いなと思っただけなんだけど。
「珍し、買って帰って王都の金物工房の親方に手土産にしよう。何か応用が利くかもしれない」
「えっと、家族には買って帰らないの?」
「ああ、あっちの蝶と花を彫ったものを母上に買って帰ろうと思う」
そうですか。
むさくるしい工房の親方に花のレリーフってどうなの? と思ったけど、しっかりとベントレーのお母さまには可愛らしいものを選んだようで一安心だ。
「これは、なんでしょう?」
「ああ、最近うちの領地で流行っている、気持ち悪い置物シリーズね。この微妙に目玉が飛び出した変な顔の豚獣人の木彫りの人形とか、私はどこが良いのかさっぱり分からないわ」
「でも流行ってるんですよね?」
「なんでもキモ可愛いって概念が広まってるとか。マホッド商会が広めてるみたいだけど、気持ち悪いのに可愛いって意味分からないわよ。こんなのが流行るなんて、ちょっと不安しかない」
「なるほど、流行を追いかけるだけでなく、開拓発信までするなんてここの商会は本当にやりてですね」
「そう言って頂けると、ロナウド会長も喜ばれると思います」
ジョシュアは本気で商人を目指しているみたいだ。
ベントレーとジョシュアの視点は、僕たちとは大きく違ってなんとも微妙な気持ちになる。
まあ、付けられたスタッフの方は喜んでいるから、良いのかもしれないけど。
それから店内を物色して、一通りの買い物を済ませた僕たちはロナウドと合流して軽食ブースへと向かう。
とはいえ、それまでにスタッフの誘導で色々と試食をしたので、そこまでお腹は空いていない。
「試食って凄い良いシステムだね」
「はい、このお店の顧問をされてる方の案だったのですが、確かに食べてみないと分からないものは多いですし、何よりも調理法を見せつつ商品を味わってもらう。そして、すぐ横に食材が並んでいるとつい手を出してしまうみたいですね。やるとやらないとでははっきりと売り上げに差が出ました」
「へえ、ロナウドさんの発案じゃないんだ」
「ええ、色々とアドバイスをくださる方がいるのですぞ! それと試食をしたらなんとなく買わないといけないような気がする人は少なくもないとおっしゃってました。はい」
「斬新だけど理に適ってる」
ジョシュアはここぞとばかりにロナウドさんと、あれこれと話をしている。
誇らしげに答えているロナウドさんが、時折僕に目配せして微笑んでいるけど。
うん、その顧問ってマサキって言うんじゃないかな?
人には自重させておいて、目の届かないところで自重してないとか……
大人って。
と思わなくもないけど、最近の僕は自重を捨てつつあるから何も言えないか。
まあ、過ごしやすくなるために能力を隠すことは、悪いことじゃないし。
ことを起こすと、責任もついてくるわけだし。
何事も程よくってことか。
 





