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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第229話:餅つき大会

「いやあ、遅くなった」

「別に、呼んではいないぞ?」

「まあ、いいではないか」


 マルコサイドの新年会が終わり、こっそりと魔王サイドの新年会にお邪魔する。

 時差の関係で、こっちはまだ朝だったりする。

 向こうが夜の9時だから、こっちは朝の8時くらいだろうか?


「明けましておめでとうございます」

「ん? ああ、新たな夜明けに祝福を」


 ……そっか、文言が違うのか。

 魔王はきちんと返事をしてくれたが、バルログは俺を睨みつけたままだ。

 もしかしなくても、嫌われてるんだろうな。


「新年の挨拶の前に言うことがあるでしょう?」

「ん?」


 いや、違う。

 何やら怒ってらっしゃる。


「ドラゴアとカインから、小さな来訪者のことを聞きましたよ?」

「ん?」

「それと、カインのハデスの鎧が盗難にあったそうですね?」

「んー?」

「どうも、2人の話を聞くに同一人物のようですね……そして、ドラゴアには農業アドバイザーとして正直に素性を話したと……」

「……」

「年末に四天王の塔を回った時に、カインがミスリルの鎧を着てましてねぇ……黒く塗っただけの」

「えへっ!」


 目いっぱいの笑みを浮かべたら、思いっきりこめかみを拳で挟まれてぐりぐりされた。


「こんくそガキャー! なにしてくれとんじゃい!」

「バルログさん、口調が乱れてる!」

「はっ!」


 まあ、直後に低反発の枕と転移で入れ替わったけどさ。

 一瞬の出来事だけどそれでも、かなり痛かったとだけ。


「ほっほ、まあ、良いではないか。別に行方が分からなくなったり、人の手に渡ったわけではないのだから」


 すぐに魔王がかばってくれたけど。

 なんかもうあれだよ。

 現役なのに、ご隠居様みたいに穏やかになってるよ。

 まあ、食糧問題がだいぶ解決されたからね。


「そうだよ! 魔王様もそう言ってるしさ。それに手ぶらで来たわけじゃないよ?」

「ほう? 鎧を返しにきたとでも?」

「ううん。僕の住んでるところで採れた、この国じゃ珍しい植物の種子を持ってきたんだ」

「今更だけど、貴方の住んでるところってどこなのでしょうか」

「うーん……空の上かな?」


 あっ、バルログさんのこめかみ青筋が。

 別にふざけて言ってるわけじゃないのに。

 まあタブレットで俯瞰の視点から地上を見てるから、空の上っていったけど。

 実際にはどこにあるのやら。

 次元が違うっぽいけど、そこらへん確認してなかったな。

 善神様のことだから、適当に地中にとかに作ったりしてたりして。


「まああながち嘘でもなかろう。こやつがおらん時は、わしの感知範囲内から完全に存在が消えておるようじゃしの」

「魔王様の感知圏外となると、南の果てとかですか?」

「いやあ、分からんのう」


 相当な範囲の感知能力をお持ちのようで。

 空の上とか、ばれそうだな。

 ということは、やっぱりこことは切り離された場所かも。


「まあ、案内できなくもないけど。そのうちね」

「それは楽しみができたのう」

「本当に、楽しみですね」


 おおう。

 純粋に笑みを浮かべる魔王様に対して、どこからどう見ても良いとはいえない笑顔のバルログさんが対称的に歪んで見える。

 さすが、魔族の中でもデーモンに近い悪魔族のことだけある。

 翼の生えた牛人族は、土着のアークデーモンらしいが。

 土着のアークデーモンってなんだろう?

 聞いたら悪意から生まれた悪魔が地上で魔族と交わって、生まれた一族らしい。

 元はデーモンロードと牛魔族の子供が始祖と。

 牛に発情する悪魔って……爆乳好き?

 いや、そういう問題じゃ……

 ああ、あくまでそういう伝承があるだけ?

 もともと異種族間との交わりを魔族はそこまで忌避しないと。

 

「それよりも、その手土産というのはなんじゃ?」

「これだよ!」

「ふむ、固いのう」


 そう言って取り出したるは、もち米だ。

 いやいや、この世界に一応米は存在していたが。

 まあ、品種改良がそこまで進んでいないものだったけど。

 管理者の空間で、ポイントと引き換えに手に入れたもち米を3俵ほど。

 俵一つで60kg。

 4斗だから、40升で餅が800個くらい作れるかな?


「これはね、蒸してうすと杵でついたらお餅ってのが出来るんだ」

「おもち?」

「もち!」


 とりあえず目の前にある俵とは別に、一晩水に浸したもち米を取り出す。

 それから手本を見せるために、水魔法と火魔法と風魔法でもち米をさくっと蒸す。

 蒸し器も用意してあるので、そちらでも。

 

「で、これがうすと杵」

「石の器と大きな木槌か」


 小麦をひくのに臼くらいあるかと思ったけど。 

 まあ良いや。

 剃りあえず、牛人族に軽く説明して俺が返しながら、餅を搗く。

 あたりに、米を炊いた甘くていい匂いが充満しており、すでに多くの魔族が集まり始めている。


「よいしょっ!」

「ふんっ!」

「どっこいしょ!」

「ふんっ!」


 俺の掛け声に対して、フンしか言わない牛人族。

 うんうん、イメージ通り過ぎて嬉しい。

 お城の中庭だから一般の人は居ないけど、身なりのいい魔族の子供たちがちらほらと。

 目を輝かせながら、餅ができあがるのを見ている。

 なかなか個性的な子供が多いな。

 虎人族の子供は本当に可愛らしい。

 

 臼の中でだんだんと粒が消えて、綺麗な球体に餅が出来上がっていく。

 表面がつやつやしてきて、そろそろ良さそうだ。


「これをこのくらいにちぎって、手でコネコネと丸めたら出来上がりだよ! 搗きたてだからこのままでも美味しいけど、金網で焼いてもいいよ」

「ほう」

「最初は魔王様からね。黄粉でどうぞ」

「黄粉?」

「大豆を粉にしたやつ」


 とりあえず、魔王に箸と皿に置いた餅を渡す。

 

「ふむ、この二本の棒で挟んで食べるのか?」

「そっか、ここには箸が無いのか。それであってるよ! 箸の持ち方はこうね」

「うーむ、なかなか難しいが、この餅とやらは粘り気があるから掴みやすいのう」

「喉に引っ掛けないようにね」


 一応おじいちゃんだからね。

 そこは、気を付けてもらわないと。

 その間にこっち別の準備をする。

 卵を4つくらい皿に入れて、砂糖を多めに塩をひとつまみ。

 ぐちゃぐちゃに混ぜて、餅を入れた臼の中に流し込む。

 うちの実家で作る卵餅だ。

 小さい頃から毎年食べてたから普通にあるものだと思ってたけど、実家のオリジナルだと知ったときは驚いた。

 地元の誰も知らない餅だったし。

 他県でも、知ってる人が居ないことで、初めてオリジナルレシピだと知った。

 ネットでも出てこなくて、マジかとなったけど。

 いや、これマジで美味いんだよね。

 弾力は損なわないのに歯切れも良いから、普通の餅より安全だし。

 何より、焼くだけで何もつけずに美味しく食べられる優れもの。

 餅つき手伝いに行くから、作って欲しいという同僚まで現れる始末。

 恐るべし、卵餅。


「ふむ、美味いのう。なかなかに食べ応えもあって、甘みもある。この黄粉とやらのお陰かそれでいて、口の中がねばつくこともない。ほれ、皆の者も食え」

「そうですね。せっかく持ってきてもらったので、頂きましょうか。ハデスの鎧の件はまた後程」


 バルログさん……

 まあ、良いけどね。

 このままどんちゃん騒ぎに突入したら、忘れてもらえないかな?


 とりあえず餅を配りつつ、牛人族達が次から次へと餅を搗き始める。

 臼を4つ、杵を5つ用意した。

 杵が1つ多いのは、虫と俺とで杵二つの高速餅つきを見せるためだ。

 杵を振るえるのは必然的に大型の蟻にか蜂になる。

 カブトだと大きすぎて……

 ルシファーホーネットを2匹召喚して、ホバリングさせながらの高速餅つき。

 ひたすら左手で餅を返す。

 万が一杵が当たった時に、衝撃を吸収するためだ。

 もちろん、うちの優秀な蜂はそんなへまは打たないが。 

 俺もこいつらも、かなり動体視力が良いからな。


「すごーい!」

「速い! 速い!」


 ふふふ、子供たちの視線を独り占めだぜ!


「ふんふんふんふんふんふん!」

「はっはっはっはっはっはっは!」


 そんなことを思っていたら、他の臼も速度が上がってた。 

 純粋に身体能力にものを言わせて。

 どうやら、牛人族共が対抗意識を燃やしたらしい。

 時折手もいっしょに搗かれているけど、そこは木の槌ごときじゃびくともしない皮膚をお持ちのようで。

 餅だけに……ってやかましいわ。

 つか、ずるいだろ、魔族のその装甲。


「あまーい!」

「これ、凄く美味しい!」


 そうだろうそうだろう。

 我が家秘伝の卵餅は子供達から絶大な人気を誇っていた。

 それに卵が入ってるから、栄養価も高いし。

 うんうん。


 子供たちが嬉しそうに食べているのを見て、こっちもほっこり。

 そして、慣れてきた牛人族が手伝いながら、子供達による餅つき大会。

 これには、魔王だけじゃなくバルログさんも、相好を崩していた。


 それから野菜やお肉も用意して、雑煮やら豚汁も用意する。

 あとはバーベキューだな。

 もちろん魔王の方で、昼から夜にかけての食事は用意してるみたいだが。

 いくら食糧事情がよくなったとはいえ、余裕があるわけじゃないことは知っている。

 迷惑を掛けている自覚もあるので、せめてもの気持ちだ。


「すまんな、気をつかわせて」

「いやいや、気をつかわなくていいから、皆で美味しいものを食べたいと思ったんだ」

「そうか……嬉しいことを言ってくれる」


 意外なことに、俺にとって魔族というのは気の置けない存在なのだ。

 お人よしというか、俺が何をしても受け止めてくれる。

 トクマはともかく、黒騎士もなんだかんだで優しいし。

 ドラゴアも親しみやすい。

 バルログだって、なんだかんだ言いつつも俺を邪険に扱うことはない。

 牛人族は……おっとりしてて、心優しいイメージだ。

 サキュバスは……個人的に好きだ。


 そして俺と親しくしてくれる最たるものが、魔王なのだ。

 

 こいつら世界を滅ぼすほどの規模で、人と揉めるというのがいまいちイメージできない。

 そして魔族を名乗る連中を作り出したノーフェイスの存在。

 何か引っかかるものがある。

 邪神様の魔族に対する配慮。

 それとは別に善神様と邪神様のノーフェイスに対するスタンス。

 そしてノーフェイスの神様たちに対する、物言いも。


 とにかくその時が来るまでに、色々と打てる手を考えよう。

 出来るならば、未然にそれを防げるように。


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