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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第227話:若者だけの食事会

「うわあ、それかっこいいね」

「ああ、分かるか? 毎年寄ってる例の銀細工のお店だけど、今年は宝石も埋め込んだりと工夫をしているみたいだ。なかなか細工が細かくて一目惚れしたんだ」

「ベントレーがいっつもたくさん買うから、新しい道具と材料にお金が掛けられるようになったんだってさ」


 ベントレーが宝玉を掴むような形の猛禽類の爪を模したペンダントを胸元から取り出して見せてくれる。

 タイガーアイと呼ばれる木目のような黄色い宝玉が埋め込まれている。

 かっこいい。

 爪の方もなかなかにリアルで丁寧に作りこまれてる。


「私たちも色々と買ったんだよ」

「これ、東方の国の飴細工なんですって。食べるのがもったいないくらいです」


 エマとソフィアは髪飾り等の小物から、綺麗な色をした飴まで幅広く少しずつ買っていた。

 リコとカールも同じ飴を袋から出して見せてくれた。


「それよりも……あれは?」

「あー、本人はいたく気に入ってるみたいだから、何か意見を求められたらとりあえず褒めておけば大丈夫……かな?」


 そんななかでジョシュアが遠慮がちに視線を向けつつ話題にしたのは、フレイ殿下の服だ。

 どこで買ったのか知らないが、なかなかに……

 うん、正直に言おう。

 本当にどこで買ったんだろう?

 フリルが付いた厚手のスカートに、皮の腰当が縫い付けられているのかな?

 ウエストはきっちりと絞られているのに、胸の部分は魔獣か何かの皮がついている。

 胸元というか、胸当てだよね?

 でもって右の肩は大きく開いて花の飾りのついた細い肩紐で吊っているに、左の肩にはこれまた皮の肩当が。

 リアルドレスアーマーってイメージなのかな?

 それって、絶対に服屋さんじゃなくて武器防具のお店で買ったんじゃないのかなって形をしてる。


 千味の中居さんが思いっきり戸惑っていたけど、彼女は悪くないと思う。

 他の面々は一度家に帰って、ある程度フォーマルな普段着に着替えている。

 流石にアローナ殿下の普段着は……まあ、普段着でも王族だったって感じだけど。


 一応僕の紹介なので、フレイ殿下があれな格好でも入れてもらうことは出来たけど。


 事前に伝えておいた人数よりも大幅に増えてしまったけど、最初から一番大きな部屋を用意してくれていたみたいで問題無く入れた。

 護衛の近衛の方たちにも、隣に部屋を用意してもらっている。

 食事中の殿下たちの護衛は2人態勢で交代しながら食べるらしい。

 最初は遠慮していたけど、アローナ殿下が命令に近い形で食事を取ることを許可したため、こういった形になった。


 それにしても、ケイまで合わせなくても……

 固そうなゴワゴワしたシャツを着てるけど、あれ絶対皮素材だよ。

 しかも中に鎖帷子でも着こんでるのか、だいぶ着ぶくれて下に肉襦袢を来たみたいになってるし。

 アンダーアーマーみたいなぴったりとした感じじゃなくて、ガチの宴会用の方。


 フレイ殿下もケイも満足そうだから、僕たちは何も言えないけど。

 バルト様とフェルト様は、ケイを見て軽く噴き出していた。

 ユリアさんは……流石に普通だ。

 水色のワンピースにボレロ丈のファージャケットを着ている。

 足元が少し寒そうだけど、おしゃれは我慢っていうしね。


 ソフィアも似たような恰好だ。

 ジャケットが普通の丈だったり、襟巻をしていたりといった感じか。

 エマはパンツルックで、イメージ通りといった感じ。

 リコは厚手のシャツとスカートで、下にこれまた厚手の白のタイツ。

 モコモコの帽子をかぶっていて、子供らしくて可愛らしい。

 というのに……カールは薄着だ。

 上着すら来ていない。

 男の子だなって感じだ。


 バルト様とフェルト様は白いシャツに黒のジャケットとパンツと、大人の色気がむんむんの格好だ。

 二人とも足が長くてスタイルが良いから、海外のモデルみたいだ。


「あら、あたたかいですね」

「嬉しい気遣いですね」


 アローナ殿下が湯気を立てるおしぼりを手に取ってため息を漏らす。

 一応室内はそれなりにあたたかいが、外から入ってきたばかりで指先がすっかり冷え切っているので手をふきながら温めている。

 とりあえず最初のおもてなしは、好評のようだ。


「夏にお邪魔したときは冷たいおしぼりだったわね」

「そうなのですか? なるほど、季節によってサービスを変えているのですね。これもマルコ様のアイデアで?」

「普通に呼んでもらえますか? 少しこそばゆいです」


 一応ホストなので、アローナ殿下がそれなりの扱いをしてくれているのだけど、流石に王族に様と呼ばれるのはどこかなれない。

 逆に緊張して、やりにくい。


「そうですか? その辺りはスレイズ様やマイケル様と似ていらっしゃるのですね」


 あー……あの2人もそういった扱いは、あまり好きじゃなさそうだ。

 おじいさまやお父様に似ていると言われて、少し嬉しくなる。


「最初は季節の野菜の和え物と、焼いた銀杏、それから鴨の燻製の柿ソースの3品です」


 前菜は3つに区切られた四角い器に盛られた、この3品だ。

 竹串で刺した銀杏のスペースには、隅にハーブソルトが盛られている。

 流石に抹茶塩はまだ用意できない。

 この国には、抹茶がない。

 柿ソースは秋に収穫した柿をペースト状にして、氷の魔法で凍らせて保管していたものだ。

 甘みが強くそれでいてくどさが無いので、肉に合わせてもあっさりと頂ける。


「どれも、お腹いっぱい食べたいな」

「ええ? 銀杏をお腹いっぱいってのはちょっと」

「でも、大皿に盛られていたら手が止まらなくなる気はするな」


 ベントレーの素直な感想にジョシュアが首を傾げていた。

 けどバルド様はその銀杏が、とても気に入ったようだ。

 アローナ殿下とバルド様とフェルト様はもうお酒が飲める年齢なので、食前酒とは別にそれぞれ好みそうなお酒のお品書きを用意してもらった。

 バルド様はビールを注文してたけど、違和感はない。

 ちなみに千味ではエールではなく、ラガーを取り扱っている。

 この世界でも北の国ではすでにラガーの製法が生み出されていたで、ベルモント領で作ってもそこまで大騒ぎには……いや、多少は沸いたけど。

 酒好きたちが。


「しかし寒い季節に凍らせたグラスで、キンキンに冷えたビールを飲むのも良いものだ」


 口に泡を付けて満足そうにバルド様が頷いている。

 フェルト様はワイン、アローナ殿下はカクテルだ。

 流石に蒸留酒に果実をミックスする程度はあるが、本格的なカクテルはうちの領地が初になるかな?


「まさかお酒の選別もマルコが行っているわけではないのでしょう?」

「ええ、まあ……」


 フェルト様の鋭い突っ込みに、ちょっと冷や汗が。

 いや僕じゃなくてマサキのアイデアだから、嘘は吐いてない。


「私これがもっと食べたいんだけど?」

「あー……えっとお腹の具合に合わせてこれからたくさんの種類の料理が出てきますので、ってベルモントでもこのやり取りしませんでした?」


 フレイ殿下が空っぽになった鴨肉がおいてあったスペースを指さしながら、おかわりを要求してきたのでやんわりと断る。

 ベルモントでも、前菜にあった香草で焼いた鹿のレバーのレモン塩かけのおかわりを要求された。

 その時も、全部食べてからにしてくれとお願いした記憶が。


「まあ、そうなんだけどね」


 どうせ断られると思っていたのだろう。

 あっさりと引き下がってくれた。


「ちょっと物足りないくらいが良いのかな?」

「こういった料理は食べたことがないから、よく分からないよ」

「ソフィアお姉さまも初めてなのですか?」


 ちょっと離れた場所でエマがぼやいていたが、ソフィアは苦笑いで答えるだけだった。

 リコまでもお皿がすでに空になっている。


「確かにバルドの言う通り、この銀杏ってのはお酒のあてに丁度良いですね」

「少量だから良いんですよ。毒は一切入ってませんけど、それでも食べすぎると毒になりますから」

「ええ? 大丈夫なの?」

「体質によりますが皆さんならたぶん100個くらい食べないと、身体に異常はまず出ないですよ。異常が出るっていっても、身体が勘違いを起こして中毒になるだけで、身体に悪い成分は一切入ってないですし」


 銀杏の食べすぎは最悪死に至ることもある。

 けど……美味しいよね?

 ついつい食べすぎちゃうのも分からないでもない。

  

 次に出てきたのはラーハットから運ばれてきた魚だ。

 生け簀から出したとはいえ、流石に生の魚には抵抗があるだろうから造りといっても、一応全部あぶってある。

 マグロっぽいのやら、サーモンぽいのまで。

 白身の魚もだ。

 まあ、サーモンは白身の魚だと言われたら、なんとも言えないけど。


「生焼けじゃないか! こんなものを両殿下に出すなんて」

「本当は生でも良いくらいの鮮度ですからね。表面を炙ったのは生だと流石に抵抗あるかと思って」


 それを見たケイが思わず立ち上がって周りを見て、座り直していた。

 こっちに詰め寄ろうにも、周囲に目上の人が多すぎて諦めたのだろう。

 しかもバルドもフェルトも気にせずフォークで食べているし。


「ん? うまいぞケイ」

「アローナ殿下、特に問題は無さそうです。いや、むしろ柔らかな食感に仄かに甘みのある身、そしてちょっとしょっぱいこの黒いタレが絶妙にマッチしてますよ」

「黒いタレってのが、あまり食欲をそそらないのですが……まあ、グルメで有名なフェルトが言うなら間違いないのでしょうね」

「~~~~~!」


 その様子を見たケイは、兄とフェルトが揃って満面の笑みでアローナ殿下に進めるものだから、拳の振り下ろし先に困って顔を真っ赤にして料理に手を伸ばしていた。

 あー、なんかバルド様ってクリスの兄弟の中で凄くまともで、大人だ。

 かなり好感が持てる。

 これで、母親を大事にする方だったら満点だったのに。


「ディーンは箸ですか。確かにそっちの方が食べやすそうですね」

「ええ、東の国の料理に近いものが多いので、こっちの方がいいかなと」

「それもそう、箸が用意してあるくらいだからあっちの料理を参考にしたんだろうな」


 フェルト様はどうやら弟のディーンにも敬語を使って話しているらしい。

 なんかここの家庭って、アットホームなイメージが沸かないな。

 バルド様もこのお店に箸が用意してあるのには、気付いていたようだ。

 

「ケイもむすっとしてないで食べなさいよ。美味しいわよ」

「はい……」

 

 フレイ殿下に注意されたケイが、恥ずかしそうにしながらも炙りを口に運ぶ。

 

「美味い……」


 お口にあったようで何より。

 その後も運ばれてくる料理に、舌鼓を打つ面々。

 焼物、煮物、揚物、そして箸休めの留肴。

 ご飯ものに留椀、最後に水菓子でしめだ。

 

 焼物はシンプルに薄くスライスした牛肉を焼いて、甘辛く味付けたものだ。

 

「こんなに薄く切ったら、肉の味なんかしないだろう」

「食べる前に文句言わないの」

 

 それを見たケイがフォークに引っかけて持ち上げて、首を横に振っていた。

 流石に先ほどからの態度が目に余ったのかそんなケイに対して、ユリアさんが苦言を呈しつつ首を横に振っていた。

 ちなみに箸を使っているのはディーンとベントレーと僕だけ。

 途中からフェルト様も箸を使いだしたけど、バルド様は箸の存在は知っていても使えないらしい。

 

「あれ? 口の中でほどけるように溶けていったけど、肉に味わいと脂身のしっかりとした甘みが感じられる。それに何より、食べやすい」

「はぁ……だから、食べる前に文句を言わないようにって言ってるの。ここまでの料理で、外れがないんだからそろそろ分かるでしょう」


 お約束のようなケイの反応に、ユリアさんも呆れた表情だ。


「このお肉をお腹いっぱい食べたい!」

「帰ったら料理人に私たちの肉は、薄く切ってもらわないとね」


 カールとリコも気に入ってくれたようだ。

 子供の口に合うかどうか心配だったけど、好き嫌いなく食べてくれているのが嬉しい。

 最初は子供用に違う料理を用意してもらおうかと思ったけど、リコの性格からして絶対に気を悪くするだろうと思ったし。


「はあ、ここの料理人是非うちに欲しいわ」

「ダメですよ? せっかくここまで育てたのに」


 フレイ殿下が物騒なことを言い出したので、先に釘を刺しておく。

 流石に王族の命令とあったら、簡単には断れないし。


「ベントレーはやけにこなれてますね」

「まあ、マルコのところで散々食べさせてもらってるからな」

「ほお?」


 黙々と、そして丁寧に箸で料理を食べるベントレーにディーンは感心した様子だった。

 そしてベントレーの口から洩れた言葉に対して、こっちを剣呑な視線を向けてくる。

 あえて気付かないふりをしておいたけど。


「ベントレーはマルコと仲良しだもんね。でも、こんな料理をご馳走になれるなら、私ももっとマルコと仲良くした方がいいかな?」

「はは、今でもエマとは仲良しのつもりだったんだけど?」

「ふふ、そんなこと言われても誤魔化されないわよ!」


 エマがこっちに熱っぽい視線を向けてくるけど、ここまであからさまに料理目当てっていうのもね。

 普通の胃袋を掴むのは女性側のすることだと思うけど……まあ、僕たちの場合は家の料理人がご飯を用意してくれるから、それは当てはまらないか。

 そして料理人は男の人が多いから、なおさらだね。


「ジョシュアは露骨すぎるよ」

「え? いや、こういった方面でも情報は具に集めておかないと。いまや、ベルモントは流行の発信地になりつつあるから、押さえるべきところだよ」


 いまだに商人になる夢は諦めてないらしい。

 お兄さんと和解したから、そこまで準備する必要あるのかなと思ったけど。

 それとは別に、純粋にやりたい気持ちが強いようだ。

 だからといって、料理を食べながらメモを取るのは感心しない。



料理だけで前編、後編に分かれることになるとは(;^_^A

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