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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第226話:姫様御一行

「なんか物凄く仰々しいことになっちゃったわね」

「まあ、仕方ないよね」


 露店街に向かっていたらエマが耳打ちしてきた。

 前を見てため息。

 後ろを見てため息。

 一応メインの集団の先頭を歩くのは僕だが、その前に大きな金属鎧を着た背中が。

 アローナ殿下とフレイ殿下の護衛の近衛騎士が2名先行している。

 中ほどで左右に2人。

 最後尾に2人。

 2人は王城勤めの騎士爵の子供らしいが、4人は男爵家や子爵家の子供達。

 といっても成人しているし、2人は壮年の経験豊富そうな騎士だ。

 いつもなら家に戻ってどこかの家が護衛を連れてくるのだが。

 今回は近衛の方が6人もいるし、フレイ殿下がそわそわしてたので馬車で街の入り口まで直行した。

 4頭立ての馬車3台で貴族街を練り歩く。

 まあみんな王城に集まっているから、そこまで目立つことは無かったけど。

 いや、それぞれの家の使用人がこっそり屋敷や庭から覗いている視線は感じた。

 馬車に誰が乗っていたかまでは、分からないはず。


 それにしても護衛まで貴族とは……

 まあ嫡男である僕の方が立場が上と言えなくもないし、友人たちはみんな伯爵以上のお家柄だから問題ないのだろうけど。

 メンバーは僕とベントレーとジョシュアとディーン、エマとソフィアにリコとカール、アローナ殿下とフレイ殿下にケイとユリアさん、バルト様とフェルト様だ。

 ヘンリーはいない。

 ガンバトールさんにあちこちに連れまわされていたし。

 エマとのことが尾を引いてるわけではない。

 魚の輸送の技術があがったことで、ラーハットと顔を繋ぎたがる人達が多いのだ。

 この機会に息子の顔も売っておきたいのだろう。


 そういえばエドガーおじいさま達も来てたけど、挨拶こそすれどめったに王都にこないおじいさま達も挨拶回りに忙しそうだった。

 従姉のアンジェリカ達は……つまらなさそうだったけど。

 もう少し表情を取り繕うことをした方が。

 しばらく滞在するみたいだから、近いうちにスレイズベルモント邸にも招待する予定らしい。

 お母さまが少しだけ嫌そうな顔をしていた。

 うんうん……流石アンジェリカの叔母さん。

 いやアンジェリカが僕のお母さまに似たのかな?


「おわっ……流石にこれは引きますよ」

「やめて! 不敬罪で首飛ばされちゃうよ!」


 前回も来た銀細工を売ってる露店の人のところに顔を出したら、後ろに尻もちをついて口をパクパクさせていた。

 ベントレーが大人買いをした例のお店だ。

 割と気さくな感じで話してくれて、とっても付き合いやすい人なんだけど。

 流石に王家の方が居るところで、あまりな発言は。

 というか、王族がこんなところに来るなよと。

 一般人からすれば、綱渡りのような接客になってしまう。


「ベントレーはここに興味があるんだよね? ここから別行動にしようか?」

「良いのか?」

「まあ、あの2人を待たせてるとなると、気楽に買い物もできないだろ?」

「助かる」


 とりあえず両殿下が居れば、各々が好き勝手に買い物ができないということで人数を分ける。

 エマとソフィアはリコとカールと一緒に。

 近衛の人が1人護衛についてくれた。

 この辺りを見回っている兵士の人も、それとなく警戒にあたってくれてるみたいだ。


 ジョシュアはベントレーとディーンと一緒に。

 そして僕は両殿下御一行に組み込まれた。

 仕方ない。

 最初からこうなることは分かっていた。

 フレイ殿下がいる時点で。


「あれはなんですの?」

「香辛料のお店ですね」


 モンロードの街にあったような香辛料が壺に入れられて並べられている。

 秤があるところを見るに量り売りするのだろう。

 ただ元々の値が高いため物珍しさで人が集まっていても、買おうという人はあまりいなさそうだ。

 アローナ殿下は流石2人の姉だけあって、好奇心旺盛なようだ。

 ただ長女ということで、色々と大事に育てられてきたのだろう。

 このような露店街に来たのは初めてとのことで、物凄くテンションが上がっている。


「売れ残ったら千味ってお店に持っていってごらん。マルコからここに来るようにって言われたって伝えたら少しは買ってくれると思うよ」

「本当ですかいお坊ちゃん、そいつは助かります」


 見た目からして異国風の行商人のおじさんが、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 まあうちとしても、僕が納入する以外に調味料を購入する手段はあった方がいいだろうし。

 

「あっ!」

「わぁっ!」


 と思っていたら後ろから女の子の叫び声と、フレイ殿下の驚いた声が。


「ああ……」

「きゃあ、申し訳ありません! どうしましょう……うちじゃ、こんな高そうな服……」


 そしてすぐに子供の母親らしき人が駆け寄ってきて真っ青な顔で頭を下げている。

 見ればフレイ殿下のドレスにべったりと串焼きのタレが。

 たぶんよそ見でもしながら歩いていたフレイ殿下に、これまたよそ見をしながら食べ歩きをしていた子供がぶつかったのだろう。


「ごめんねお姉ちゃんがよそ見してたから、美味しそうな串焼きが台無しになっちゃったね」

「うう、ごめんなさい……私、お姉さんのお洋服……綺麗なお洋服に」


 7歳くらいの女の子が泣きそうな顔でフレイ殿下のドレスの一点を見ている。

 うんうん……どうしよう。

 本人は気にしてないみたいだけど。


「本当に申し訳ありません。うちではとても弁償できませんが、代わりに私に出来ることならなんでもいたします……ですから、この子だけは」


 お母さんはもはや血の気を失って、真っ白な顔にまでなってるし。

 子供はそんな母親の姿を見て、よほど自分がまずいことをしたことが分かったのだろう。

 泣きじゃくって、過呼吸に陥りそうになっている。


 はあ……

 ため息が出る。

 フレイ殿下だから、彼女の不注意も原因だろうと思ってしまうのは不敬だろうか?

 まあ、仕方ない。


「この香辛料は良い色って、うわあ手が滑ったあ!」

「きゃっ! 何するのよマルコ!」

「あー、服が香辛料で真っ赤に……申し訳ありません、洗って返すので馬車で着替えてきてもらって良いですか?」

「はっ? いや、なにその言い方! もっと心を込めて「フレイ、そのままの格好で騒ぐのはみっともないから着替えてらっしゃい?」

「お姉さま……」


 手に取ったペースト状の香辛料が入った小さな壺の中身を、盛大にフレイにぶちまけてしまった。

 つい手が滑ってしまったのだ。

 一瞬何が起こったのか分からずに固まったフレイ殿下だが、僕の言葉にすぐに気を取り直して顔を真っ赤にして詰め寄ってきてたけど、アローナ殿下がそれを押しとどめている。


「おじさんもごめんなさい。香辛料は弁償します」

「いやマルコ、もっと私にちゃんと謝りなさいよ「フレイ?」


 フレイ殿下を無視して露店のおじさんに頭を下げていたら、さらに怒ってたけど。

 流石に姉に睨まれたら、それ以上は騒げなかったようだ。

 

「っていうか着替えなんて持ってきてないわよ」

「一度うちに戻りましょうか? どうせ皆も着替えたいだろうし」


 王城から直接来たので、今回はみんなドレスやらタキシードのような余所行きで露店街を歩いていた。

 確かにこれほど迷惑な集団はいないだろう。

 心なしか周囲の人たちが距離を空けていたのは、僕たちの格好が原因だったのか。

 いまのフレイ殿下と親子のやり取りを見るまで気付かなかったあたり、僕もブルジョアか……


「あの私たちは……」

「えっ? ああ、さっきの染みのこと? これじゃあどこについてたかも分からないし、それよりも串焼きを台無しにしちゃったから、これでその子にまた美味しいものでも買ってあげて。でも食べ歩きはもうだめだよ?」

「そんな、迷惑をお掛けした上にお金なんていただけません。本当に申し訳ありませんでした」

「ごべんなざい……」


 親子が心底申し訳なさそうにしているのを見て、フレイも流石にこれ以上何か言う気はなくなっただろう。

 近衛の1人にマントを借りて前を隠すと、そそくさと馬車に戻っていった。


「ごめんなさいね。助かったわ」

「いえ、服装のことに言及しなかったのは私の落ち度ですから。お二方にはなじみのない場所ですし」

「あの子が落ち着きのないのが悪いのよ」


 アローナ殿下がフレイ殿下の代わりに僕に頭を下げてきたが、まあ折角の楽しい場で血なまぐさいことにならなくてよかった。

 あのままじゃ母親の方は、腹を切りそうな……いや、そんな風習は無いか。

 ただ子供の方には、トラウマになるかもしれないし。

 ちなみにケイが物凄い形相で睨んできていたが、すぐにバルド様に前をふさがれて背中に隠されていた。

 バルド様の方は、僕の意図したことをくみ取ってくれたらしい。

 フェルト様は……楽しそうにニヤニヤしてたけど。

 うんうん……ディーンにそっくりだ。


 とてもじゃないが露店で買い物って雰囲気でもなくなったし。


「あれ? ケイが戻ってきた」

「城に戻るのが面倒らしく、街の仕立て屋で服を買って着替えるそうなので皆様は買い物を続けててくださいとのことです」


 そっか……

 そうだよね。

 どんな服を買ってくるのか嫌な予感しかしないけど、アローナ殿下は満足そうに頷いている。


「これで買い物どころじゃなくなると思ったけど、そういうことならまだ時間はありそうですね」

「ええ……宜しいのですか?」

「良いわよ、案内の続きをお願いできるかしら?」

「分かりました、ただその前に少し」


 アローナ殿下はむしろ厄介払いが出来たとでも思ってそうだな。


「貴方達ももう行って良いですよ。あんなちっちゃな染みなんかどうでもよさそうですし」

「本当にすいません。有難うございます」

「やだなあ、本当に手が滑っちゃったんですって」


 誤魔化すように顔の前で手を振ったら、両手でがっしりと包み込むように掴まれてしまった。


「本当に有難うございます。返せるかは分かりませんが、この御恩は決して忘れません」

「お兄ちゃんドジなんだね」

「こらっ!」

「ははは、分かる? お嬢ちゃんと一緒だね! だから、一緒に気をつけようね」

「うん! 私も気をつける」

 

 お母さんの方は恐縮しっぱなしだけど、子供の方は僕に興味が移ったらしい。

 

「せっかくのおめでたい新年の始まりに、嫌な思い出なんか残したくないでしょ? だから、今あったことは全部忘れてください」

「本当になんと言ったら良いか……」

「良いから良いから」


 そう言って親子を見送ると、今度は露店のおじさんの方に向き直る。


「すいません大事な香辛料を台無しにしてしまって……食べ物を粗末にしたことは申し開きもできませんが、弁償で許してもらえたら」

「ああ良いですって。あのスパイスもお貴族様の服に召し上がっていただいて、名誉なことですよ」


 僕の言葉におじさんが笑って許してくれる。

 お貴族様というか、王族だけど。


「それに弁償の件ですが、その千味ってところに行けばいくらか買い取ってもらえるんですよね?」

「まあ、料理のお店なので、一般で買うよりは多く買い取ってもらえるはずですよ?」

「だったら、紹介料ってことで大丈夫ですよ」

「いやいや、それは本当に申し訳ないですから」

「良いもん見せてもらったし、人助けのために使われちゃあね? ここは金を取るより、お坊ちゃんに便乗して人助けのお手伝いをしたってことで、良い気分にさせちゃあくれませんか?」


 なかなかにこのおじさんもかっこいい。

 そこまで言われたら、これ以上は何も言えない。


「分かりました。千味にはこれから向かうので、そこの料理長によく伝えておきますよ」

「おっ、そいつはありがとうございます」


 僕たちのやり取りを楽しそうに見ていたアローナ殿下とバルト様、フェルト様を回収して買い物の続きに向かう。

 終始3人がニヤニヤしていて、とてもやりづらかったけど。

 

次は食事会ですね(*´▽`*)

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