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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第222話:ノーフェイス再び

「一番の大物が釣れましたか」

「ふふ、安心してください。あなたの敵ではありませんよ……今はですが」


 土蜘蛛がノーフェイスを警戒しつつ、さきほど捕らえたジャーとペスカトレに目を向ける。


「私の敵でなくとも、主の敵であるあなたを見逃すとでも?」


 ノーフェイスの実力に関する情報がほとんどないため、見た目や雰囲気、オーラなどで彼我の力量差を計ろうとする土蜘蛛だったがその表情には焦りの色が浮かんでいる。

 彼女がノーフェイスに抱いた感想はただただ不気味。

 そこに居るのかすらあやふやでありながらも、確かな存在感を感じるという相反した思い。

 個でありながら集団のようにも思えるノーフェイスに対して、完全に動きを封じられる。

 強いことは分かる。

 ただどれくらい強いのか。

 どのくらいなら持ちこたえられるのか。

 いや、もしかして勝てるのではないか。

 様々な感情が湧き起こるにも関わらず、自身の身体は動こうとしない。


「土蜘蛛様……我らが活路を見出します」


 土蜘蛛の緊張を感じ取った蟻がそう提言してようやく彼女が反応を示す。


「無駄だと思うので下がってあの2人をしっかりと監視していてください」


 蟻達にそう指示をだし、土蜘蛛は魔力を練り始める。

 有効な攻撃手段は見いだせないが、睨みあっていても仕方ない。 

 ノーフェイスに目はないが。


「やはり、もう来ましたか」

「っと、不意打ち失敗」


 しかしそれも一瞬の間。

 即座に小さな影が飛び込んできて、ノーフェイスに一太刀浴びせる。

 ノーフェイスはそれを腕で簡単に受けきったが、衝撃で後ろに滑るように弾かれていた。


「久しぶりだね。かくれんぼはおしまい?」

「私を憶えてくれているとは嬉しいですね。どんなトリックか知りませんが」

「そりゃあ暇さえあればお前のことを考えていたからな。忘れろって方が無理だ」

「いやあ照れますね。それに随分とお強くなられたようで」


 会話をしながらも二人は攻撃と防御を繰り返している。

 不意打ち気味に飛び込んできたマサキが、手に持った剣でひたすら斬りつけているだけだが。

 それを全て素手で受け流すノーフェイスに、土蜘蛛が黙って糸を飛ばす。


「なっ!」


 マサキに完全に意識を集中していたため、身体中を糸で絡めとられ糸球にされるノーフェイス。

 

「土蜘蛛避けろ! くそっ!」

「えっ?」


 してやったと思った土蜘蛛に対してマサキが少し焦った表情で指示を飛ばし、そしてその場から掻き消える。

 そして、次の瞬間。


「まったく、厄介なくらいに能力を使いこなしてますね」


 自身の攻撃が空を切ったことでノーフェイスが首を傾けて脱力したような恰好を取る。

 本人的にはガッカリを表しているつもりなのだろうが。

 はたからみると小ばかにされたような仕草だ。


「蟻達も避難済みですか」

「本当にお前何者だよ」

「何者でもないからのノーフェイスですよ」


 すぐにノーフェイスから少し離れた位置にマサキが現れる。

 左肩から血を流しながら。

 ノーフェイスは糸球に閉じ込められたふりをして転移で土蜘蛛の背後に移動したのだ。

 もちろんこいつならそのくらいはやるだろうと予測済みのマサキが、転移の連続使用で土蜘蛛を管理者の空間に送り届けたのだが。

 その際に、ギリギリで風の魔力を纏ったノーフェイスの手刀が肩を掠めた。

 やはり現時点でノーフェイスとまともにやりあうのは無理だと感じたマサキは、虫達の避難を最優先させた。

 離れたところにいるカブトやラダマンティスは後回しにして、まずはこの周囲に居る蜂や蟻達をだ。

 管理者の空間から土蜘蛛の必死の呼びかけが聞こえてくるが、マサキはあえて無視する。

 左肩はすでにポーションで治してあるが血の跡が痛々しく、それを見た土蜘蛛がパニックを起こしたからだ。

 良かれと思って横やりを入れた結果、主が傷を負う。

 マサキに対して特に忠誠心の厚い土蜘蛛が許せるはずもない。

 ノーフェイス……そして自身を。


 死んでも殺すと言ってわめく土蜘蛛を無視して、マサキは思案する。

 気付けばジャーとペスカトレは拘束を解かれノーフェイスに従う形で構えている。

 形勢逆転。


「うーん……本当はもう少し動向を見定めようと思ったのですが、後顧の憂いを断つのも大事ですし」

「マスター、あの子供は敵ですか? でしたら、私たちにお任せ頂けたらすぐに始末してみせましょう」

「無理だから……彼、流石にそこまで弱くないから」

「えっ?」


 顎に指をあてて考え込んでいるノーフェイスに対して、ジャーが進言するがバッサリと切り捨てられる。

 それも自身のプライドを傷つけられる形で。

 どうみても10歳を少し超えた程度の子供。

 それに対して、魔人と化した自分では勝てないと暗に言われた。

 しかも言葉はそこまで弱くないという、まるで自身が弱者のような扱われ方に唖然とする。

 確かにノーフェイスから見れば自分が取るに足らない程度というのは理解している。

 だが、目の前の子供を引き合いに出されて弱いと言われてしまったら、流石にくるものがあった。


「いくらマスターのお言葉とはいえ、年端も行かぬ子供相手に後れをとるとは」

「もう少し賢いかと思ったけど、君が後れを取った蜘蛛の主だよ彼?」


 ノーフェイスの言葉にジャーが考え込む。

 いや蜘蛛の方が強そうだったし。

 というか、蜘蛛や蟻達が突如消えたことを考え、それがもしかして目の前の子供の力なのではとことここに来てようやく思い至る。

 しかしそんなジャーとは対照的にペスカトレは単純だった。


 マスターであるノーフェイスがそう言ったとしても、試してみないと分からない。

 ならば試してみればいいと。

 そして……


「雑魚の相手してる余裕は無いんだ」


 攻撃を仕掛けようと腰を落とした瞬間に強烈なプレッシャーに襲われる。

 虫達の威圧を複数使用した集団威圧による効果だ。

 個であるうえに子供であるマサキから放たれた一国の軍隊を遥かにしのぐ圧力。

 まるで大津波や雪崩、火山の噴火を前にしたかのような死の圧力にペスカトレの精神があがなえるはずもなく。


「ぐっ……」


 その場に伏せる形で自身の敗北を表すこととなった。


「まあ今回の目的は大よそ果たせたから、今回は見逃してあげるよ」

「それは助かるが……」

「分かるよ? 君は魔族に取り入って人と仲良くさせようと考えてたみたいだけどさ……今回のことは決定的な出来事になるんじゃないかな」

「今更お前を捕らえたところで、なんの意味もないってことは分かってるし……どうせあいつも連れてくんだろ?」

「いや、もう先に飛ばしたよ。きみんとこの悪魔に殺されそうだったからさ」


 すでにエクレールも回収済みと言われてしまえば、マサキにこれ以上打つ手はない。

 

「人と魔族が仲良くするってのも面白いけどさ……あいつらの思い通りになるのは、それ以上に腹立たしいし」

「あいつらって?」

「まあ、君も迷惑してるんじゃないかな? いつか分かるよ。あいつらの身勝手さが」


 喋りながらもジャーとペスカトレをどこかに飛ばすノーフェイス。

 彼が両手を広げた瞬間に2人が消えたため、ノーフェイスの仕業だということは疑いようもない。


「それじゃあ、また会おうね」

「次に会った時には、二度と会わなくて済むようにしてやりたいがな」

「いやだなぁ、せっかく私のことを忘れない貴重な存在なんだからもう少し仲良くしてよね。じゃあね」


 ノーフェイスはそれだけ言うと、その場から消えていった。

 そしてさっきまで彼が居た場所を忌々し気に睨みつけるマサキは、カブトとラダマンティスを回収して街へと戻ったのだった。




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