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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第217話:御三家

「これは圧巻だな」


 俺はいまカブトの背に乗って、上空から森の様子を眺めている。

 眼下には数えるのもあほらしくなるような数の魔物がひしめきあっていた。

 街の周囲の平野部でジャッカスが相手にしているような数ではない。

 大地を黒く染め上げる魔物の軍勢に、思わず身震いする。


 恐怖からではなく、純粋に蠢くさまが気持ち悪かった。

 

「とりあえず、あの辺りに降りるか?」

「そうですね」


 俺が指さしたのは、集団の前から3分の2くらいの地点だ。

 その辺りから、あきらかに魔物の質が一段と上がっている。

 さらに後ろには超大型ともいえる虎や熊、はてはキメラのようなものまで。

 そして極めつけは、それらを追い立てるように悠然と歩を進めている、ドラゴン。

 あー、生きてる竜って初めてだな。

 そんな感想を抱くと、管理者の空間から何やら抗議が。

 いまだに卵のあいつだ。

 雷竜の卵と聞いてるだけで、生まれてもないのに確証は持てないからな。

 あれは、竜じゃなくて卵だ。

 うん、生きてる竜って初めてかも。


「露払いはお任せを」


 そんなことを思っていたら、周囲を警備するように飛んでいた殺戮蜂(スローターホーネット)の群れが魔物の集団に突っ込んでいく。


「あっ」


 止める間もなく。

 殺戮蜂(スローターホーネット)とよんだが、正確には近 衛(ロイヤル・)殺戮蜂スローターホーネットだ。

 ゴブリン戦で活躍した殆どの蜂が進化を終えていた。

 あっ、最初に進化してた3匹は魔王蜂(ルシファーホーネット)に進化したんだ。

 以前魔王のところにいたルシファービーと全く別物だけど。

 なんていうか……あ、これあかん奴やっていうのが一目で分かる。


 大きさがまず2mある。 

 この時点でおかしい。

 女王である断罪の(エクセキューター)女王蜂(・クイーン)のジョウオウよりもでかくて強そう。

 実際はジョウオウの方が強いっていうから、見掛け倒しもいいとこ……

 てわけじゃない。

 ジョウオウが異常に強くなりすぎているだけだ。


 そんなジョウオウも地味に進化してる。 

 腰回りが少し太くなった。

 くびれたウエストを見せつけてきてたけど、虫の腰って細すぎてなんの魅力も感じないよと伝えたら、およよと布を噛んで消えてった。

 で戻ってきたら、腰回りが太くなってた。

 それを見せつけてきたけど、思わず太った? って聞いたら、またどこかに行ってしまった。

 どうやら、俺好みの括れたウエストを目指してたらしい。

 その前に色々とアウトなんだけどな。


 まあ良いや、くだらないことを考えてたら下が大惨事に。

 蜂達の急な襲撃に、狼や熊の魔物がてんやわんや。

 こいつらも3mとか5mとかってめちゃくちゃでかいんだけどさ、所詮普通のこの手の魔物のよくいって倍の大きさじゃん?

 でもこいつら殺戮蜂(スローターホーネット)は、オオスズメバチを基準に考えても10倍だからね?

 まあ、捕まえたスズメバチっぽいのは異世界産の蜂なのにオオスズメバチよりも、少し小さいくらいだったけど。

 10倍とかさ……強さもそれに比例して強くなるわけで。

 10倍できくようなものでもなく。


 何が言いたいかというと……普通に熊が身を低くして4足で突っ込んできたのを受け止めるくらいに力が強い。

 ロイヤル達は腕も発達してるから、なおさらだ。

 その速度は最高で時速400kmくらい出せるらしいし、3m級の狼の魔物なんて吹き飛ばされてるし。


 蜂達は物理のみで俺が指定した地点の半径10mくらいから魔物を排除すると、ゆっくりとカブトがそこに降下する。

 同時に蜂とカブトが強烈な威圧を飛ばす。

 それだけで、地面を揺るがすような怒号を上げて進行していた周囲の魔物の動きがピタリと止まる。

 後続にまで威圧が効果を及ぼしてなかったため、後ろの方で何やら魔物同士で戦いが始まっているが。

 それでも、カブトが戦闘準備を整えるだけの時間は稼げる。

 蜂達が魔物たちに対して見下したような笑みを浮かべたように感じたが、同時にジョウオウも空から降りてくる。


「我が君に対して、獣風情が頭が高い!」


 そして放たれる【女王の冷笑(クイーンデリジョン)】によって、周囲の魔物が一斉に地面に伏せる。

 なかなかに素敵な景色だ。

 これならとばかりに、俺もあっちでウキウキと待機している虫達を呼ぶ。

 まずは地面に向けて右手を翳して土蜘蛛とラダマンティスも召喚する。

 さらには大量の蟻達と。


「これは良い塩梅ですね」


 土蜘蛛は召喚されるなりそんなことを言ったかと思うと、何かを口とお尻から射出する。

 巨大な網は鉄でできており、それが魔物たちの上に降り注ぐ。

 地面に伏せている魔物たちの上にそれが降り注ぐ。

 魔物たちがようやく正気を取り戻してそこから抜け出そうとした瞬間……


「【雷電走狗(ライトニング・ドッグ)】!」


 土蜘蛛がそう叫ぶと同時に、彼女の頭の前から電撃が放たれそれらが網を通して魔物たちの身体を走り抜ける。

 殆どの魔物が黒煙を上げて絶命する中、雷に耐性を持つ魔物が生きながらえたがそれも数秒のことだった。

 雷が通り過ぎ、威圧からの逃れて網の隙間から顔をあげた彼らの首を、ラダマンティスの無慈悲なる斬撃が切り落としたからだ。


 その光景を見ていた魔物たちに動揺が走るのが見て取れる。

 範囲外の魔物たちがこの場から逃げ出すように四方に走り出し、多くの魔物がそのまま崩れて地面を滑るように他の魔物にぶつかる。

 すでに電撃が収まったあとに蟻達が散らばっており、彼らの足をかみ砕いていったからだ。


 あっというまに築かれる死屍累々とした様子に、流石の俺も苦笑いしかでない。

 大きな街が恐怖に怯えるレベルの魔物の群れを、手持ちの虫の半分以下の数であっという間に潰走に追い込むとかなんの冗談だ。

 なんとなくそんな気はしてたが、少しばかり調子に乗って改造しすぎた感は否めない。

 しかも土蜘蛛とラダマンティス以外は攻撃にスキルも魔法も使用していないのだ。

 

「ぬう」


 横を見ると抜け駆けを許して出遅れたカブトが少し不機嫌だ。


「お前は飛べるんだから、後ろの方の大物を倒したらどうだ?」

「そうですね」


 俺の言葉にカブトは大きく頷くと、すぐに上空に飛び上がる。

 が、そこは土蜘蛛もラダマンティスも抜け目がない。

 土蜘蛛は糸を飛ばして遠くの一際大きな蜥蜴の魔物にぶつけると、それを手繰り寄せて一気に後方へと移動する。

 あの蜥蜴、どう見てもギガントバジリスクだよな。

 そんなことを考える間もなく、ラダマンティスも飛ぶのが苦手ながらも羽を広げて魔物の頭の上すれすれを駆けるように移動する。

 というか、魔物の頭を蹴ってるから羽と足の両方を利用した移動か。

 こちらもかなりの速度がある。


 そのラダマンティスが向かう先にいるのは、巨大な竜か。

 あれ、カブトも狙ってたよな……


「ぬっ、貴様ラダマンティス! お前はさっき暴れたからいいだろう! あれは俺に譲れ」

「いえいえ、あんなのは準備運動ですよ。今からが本番なのに、あなたこそ先に小物を相手に身体を温めた方が良いのでは?」


 案の定、念話で軽く言い争っていた。

 まあ良いけどさ。

 全員がそれぞれ奥にいったら、俺はどうやって移動したらいいんだ?

 というか、俺を守ろうってやつはいないのか?


「ふふ」


 そんなことを考えていたら、横から熱烈な視線を感じる。

 うん……

 俺を守ろうって考えはないみたいだな。


「つれないです……」


 再度そんなことを考えたら、横に居たやつがしなを作って倒れこむ。 

 何気に芸が細かくなってきているジョウオウなのだが。

 ジョウオウってどっちかっていうと、守られる側じゃないのか?

 まあ、良いけどさ。


「くっ、あっ! カブト!」


 と思ったらラダマンティスが何かに絡みつかれて、動きを止める。

 見ると巨大な大蛇だったが、ラダマンティスはそんなことより足止めされてカブトに先を越されたことに焦っていた。

 その証拠に、彼が羽を小刻みに振動させた瞬間に、彼に纏わりついていた大蛇の身体が細切れになって地面にボトボトと落ちていったからだ。

 パット見10mはありそうな大蛇だったが、彼にとってはただの障害物だったようだ。


「ふう……もう間に合わないでしょうね。しかしまあ、このやるせなさは誰に向けたらいいのでしょう?」


 すでに遠くに行ってしまったカブトを見て、彼はカマキリっぽく首をくいっと曲げて周囲を見渡す。

 見渡す限り魔物だらけだが、見える範囲に彼のお眼鏡に適う強者はいなかったらしい。


「まあ、ならば数で勝負といきますか。皆さんには申し訳ないですが、八つ当たりさせてもらいましょう」


 そう言って先ほど同様に羽を小刻みに震わせると、魔物の間を器用に駆け抜けていく。

 すれ違う魔物全てを切り刻みながら。

 羽に触れただけで、切れるとか。

 まあ硬質な鱗をもった爬虫類系の魔物や、固い毛に覆われた熊の魔物の中で特に大型のものはそれに耐えきっているが。

 彼はそれで選別をしたらしい。

 歯ごたえのありそうな相手を。


「結構な数残りましたね……」


 すでに中型以下の魔物たちはこの場から遠く離れており、本当に大型の魔物しか周りには残されていない。

 最大級の魔物は土蜘蛛が相手にしている蜥蜴と、カブトが向かった竜くらいか?


 といっても最大級ってだけで、ラダマンティスの周りにもかなり巨大な魔物が残っているが。

 しかもそのうち2頭は複数の魔物が合わさったキメラ。

 いやあ、これあちこちで怪獣大決戦だな。

 どこに集中して見たら……


「っと、まだ居たのか」


 そんなことを考えていたら、巨大な影が周囲にさしたので慌てて後ろに飛び退る。

 見ると俺が居た場所を地上すれすれで巨大な鳥が横切っていた。

 そしてその背中から一人の男が飛び降りる。


「おっと、魔物達の本隊に戻ったら、ちょうどいい。あの時のクソガキじゃねーか」


 その男の顔を見て、俺は何か引っかかる。

 奥歯にものが挟まったかのような。

 どこかで見たことあるが……


「誰だ?」

「はあ? 俺のことが分からねーのか? 冒険者ギルドで二度もコケにしやがったくせに」


 冒険者ギルドで2度も?

 あの時の冒険者?

 にしては……」


「へえ、凄いね……人間やめたの?」

「何言ってやがんだ、俺は人間だぞ! 魔物を従えてるのはこの剣の……」


 男は自分の持っている剣を見せようと腰に手を当てて、その手を見て固まる。


「はっ? この手は誰の手だ?」


 どうやら本人も気づいていなかったらしい。

 冒険者ギルドで出会ったエクレールという男そっくりのそれは、竜の鱗のようなものに覆われた自分の手の甲と、獣のような毛に隠された腕を見て固まっていた。

 そしてその手を何度か開いたり閉じたりして、ようやく自分の変化に気づいたらしい。

 彼の顔も面影こそあるものの爬虫類のような目になっており、顔の周りは毛に隠され嘴のようなものまで生えている。

 

「俺……どうなってるんだ? 俺の姿は、どうなったんだ」


 途端に地面に膝を突いてガタガタと震えだした。

 そして自分の顔を両手で覆って、ようやく嘴や毛の存在に気付いたのだろう。


「うわぁぁあっぁぁぁぁああぁぁぁ!」

 

 なんとも歪な声で、天に向かって慟哭をあげたあとこちらに殺意の籠った視線を向けてきた。


「貴様の……貴様のせいか! 何をしやがった!」

「言いがかりも酷いな」


 なぜ俺のせいなのか理解に苦しむが、どうやら俺も高みの見物ってわけには


「私が排除しましょうか?」


 いや、ジョウオウここでしゃばるところじゃないから。


「主が出るまでもありませんよ。ここは私たちが」


 おう……それ負けフラグだからな?

 まあ、お前たちに限ってそんなことは無いと思うが。

 同じように前に出てきた蜂達にジトっとした視線を送る。


「ちょっと待て!」


 蟻達にいたっては、こっそりとエクレールの背後やら足元に忍び寄っていた。

 いやいやいや、ええ?

 いや、まあそれでも良いけどさ。

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