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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第216話:サイド悪魔

 一方そのころ西門付近では、リザベルも一騎当千の働きを見せていた。


「おい、お嬢……坊……お嬢ちゃん、はりきるのは良いがあとでばてるぞ?」

「レデイに対して、随分と失礼な態度だね?」


 西門担当の冒険者リーダーのシモンが何度か躊躇しつつも声をかける。

 それに対してリザベルは片手に持った剣で、迫りくる魔物を切り捨てながら頬を膨らませる。


「そ……それは悪かった。だが、片手で魔物を切り捨てながらレディってのは無理があるんじゃないか?」

「あなたたちが、しっかりしてないからここに居るんじゃん。僕だって、守られる側になりたいよ」

「重ね重ねすまん」


 正直どのパーティよりも多くの魔物を狩っているリザベルにいま抜けられるのは、かなり痛い。

 だからこんなことを言われながらも、シモンは耐えるしかできなかった。

 せめて自分クラスの冒険者がもう3~4人いてくれたらと思わなくはない。


 ここ西門を攻める魔物の数は、他の門に比べてかなり少ない。

 ゆえに人数こそ多くいるが、全体的なレベルは他の門の守護に当たった冒険者に比べて低いのもまた事実だ。

 もしかしたらこの場に居る全員でも、リザベルに勝てないかもしれないと考えるほどに。

 そして、その考えは正しい。


 元はただのアークデーモンだが、訓練を嫌う彼、彼女たちがマサキの居る管理者の空間では、きっちりと訓練をしているのだ。

 努力よりも怠惰を好む悪魔がだ。

 今の彼女の実力は、デーモンロードのそれをしのぐ程になっている。

 人のふりをして、実力の10分の1も出していない。

 それでも、B級冒険者であるシモンがそう結論付けるのも無理が無い話である。


 内包した実力を本能が感じ取っているのだろう。


「それよりもさ、あそこやばくない? 戦線が崩れそうだよ?」

「なに? チッ! 天聖光竜英雄騎士団のところか! おい! プリーナス! あっちの手伝いに回れ! ここはおれと嬢ちゃんで大丈夫だ」

「勝手にあてにしてほしくないんだけどね」


 チラリと先ほどの苦戦している集団に目を向ける。

 戦士が2人に盗賊と狩人、魔法使いで構成されたパーティのようだ。

 騎士団?

 思わずリザベルが首を傾げる。


「あー……新人冒険者パーティの何組かに1組は、あーいった、分不相応な名前を名乗りたがるんだ」


 分不相応とか、そういうことじゃないだろう。

 そもそも騎士が居ないし、騎士団を名乗るなら国に仕えろと。

 そんな突っ込みを心の中でしつつ、周囲を見てため息を吐く。


「あそことあそこもやばいね、あっちは善戦してるみたいだけど、そろそろ補助をしている魔導士の人魔力尽きそうだし」


 そう言ってリザベルが次々とあちらこちらの戦局を、シモンに伝える。

 シモンの顔が苦々しいものに変わる。


「いくらなんでも、寄せ集めが過ぎるだろう」

「そもそも、ただでさえ経験が少ない連中が、ばらけて戦ってること自体が愚策。職種別に分けてそれぞれに仕事を振って、交代で休憩を取らせるべきだった」

「そうは言っても、皆俺んところは大丈夫だって思ってる頭ん中がお花畑の連中ばかりだ。正確に状況を判断できないような寄せ集めの結果がこれだ。これはギルマスの采配が悪い!」

「それでもとりまとめてどうにかするのが、リーダーの仕事。それが出来ないシモンが無能」

「ぐぬぬ」


 ギルマスのせいにしたシモンに人差し指をびしっと突き刺して、辛辣な言葉を浴びせるリザベル。

 その表情はとてもスッキリしたもののように見える。

 対するシモンは痛いところをつかれて、顔を紅潮させつつも唸るだけだが。


「じゃああんたは出来るのかよ!」

「部隊が瓦解しかかって尻拭いをか弱い乙女に任せるなんて、男としても無能だね」

「酷い……」


 流石に激昂するかと思ったリザベルだが、シモンは実はこう見えて打たれ弱い。

 特に女性に対しては。

 がっくりとうなだれてしまったシモンを見て、リゼベルは……満面の笑みだ。


「少しは言いすぎたとか思わないのかよ!」


 流石にこれにはシモンもドン引きだ。


「まあ見てなさい」


 そんなシモンの前に人差し指を立ててチッチッチと振ると、乱戦状態の後続部隊の中に突っ込んでいく。


「ホイル!」

「やばい、これは躱せない」

「キャアアアア!」


 ちょうど熊の魔物の爪が双剣を扱う男を切り裂く直前に、リザベルが間に入ってそれを受け止める。


「ほれっ、しっかりとおし! こんなところでへばってんじゃないよ!」

「おふくろ?」

「ばかなこと言ってんじゃないよ! 僕がそんな年に見える?」

「あれ? あ、いやすまん」

「でも、キミの母親もこの街にいるのかな?」

「あっ……ああ」

「じゃあ、しっかりと守らないとな!」

「おうっ!」


 リザベルとこんな会話を交わした男に、力が漲ってくる。

 家族を守るためそんな決意をあらたに、見違えて動きが良くなる。


 それ以外にも。

 満身創痍で倒れそうになっていた男に、鷹のくちばしが襲い掛かる瞬間それを背中を盾にして守るリザベル。

 思いっきり背中にくちばしが当たるが、固い鎧に見せかけた背中がはじき返す。


「危ない!」

「あっ……」

「怪我はないか?」

「兄貴?」

「ん? 僕が男に見えるのか?」

「いや、すまん……」

「そうか、キミはお兄さんに守ってもらったことがあるのか?」

「ああ、そのせいで兄は足に大きなけがをおって……だから満足に歩くことも」

「じゃあ、今度はキミが守る番だね?」

「はっ!」


 リザベルの言葉に、男の身体に力が漲っていく。

 男は自分のすべきことを思い出し、気合で体を動かす。

 先ほど比べて、身体がだいぶ軽い。

 これなら戦える。


 その後も戦場のあちらこちらで


「ばあちゃん?」

「失礼な……その人は、大切な人かな?」


「ポチ!」

「犬は流石にない」

「あれ? なんで見間違えたのかな」


「通りすがりの食べ物を恵んでくれた知らないお兄さん!」

「なんか、あれだけど混乱してる?」


 とあちらこちらで、その人たちが守る理由に足りえる人と見間違われつつ、援護を繰り返す。

 そして結果。


「よし、戦士部隊盾を前に構えて敵の前線を押し返せ!」

「はい、姉御!」

「狩人と魔法使いはその後方に矢と魔法を射かけろ! 先に矢を打って、その後に水魔法を放て!」

「はい、姉御!」

「頃合いだ! 魔法部隊電撃魔法を放て! 狩人は下がって休憩と矢の補充! 剣士諸君、休憩は終わりだ! 敵前線が下がったら戦士部隊の背中を踏み台にして魔物の舞台に上がり、剣の舞を見せてやれ!」

「はい、姉御!」

「戦士部隊よくしのいだ! テンペルから右の者たちは後ろに下がって休め。左の者たちは申し訳ないが、しばらく防御に徹してくれ。こちらに一匹たりとも抜かすな」

「任せてくれ姉御!」


 なぜか全員がリザベルにキラキラとした情愛の念を込めた視線を送り、その指示に従う。

 まるで自分が守るべき大切な人の面影と重ねているような、そんな状態にシモンがあっけにとられる。

 それもそうだろう。

 リザベルは魅了(チャーム)の魔法を使って、彼らの親愛を向ける相手に自分を見せかけてかつ、彼らの心に響く状況を再現したかのように見せかけたのだ。

 それだけで、彼らの士気は一段と高くなる。

 加えて、凛とした姿で単独で魔物を次々と屠る姿に、冒険者達があこがれるのも仕方ない。

 カリスマというやつだ。


「すげー……まさかあの状況から立て直すとは」

「……」


 心底感心したシモンに向けて、指をさしてムノウと口パクで伝えるリゼベル。

 シモンが悔しそうに遠くで地団駄を踏むのをみて、とても満足そうだった。


***

「チョワ、ハチョ! アチョー!」

「ちょっ、さっきからなんなんすかそれ!」


 先ほどから魔物の頭の上を蹴る、踏む、跳ぶを奇声をあげながら繰り返すマハトールに、周囲の冒険者から苦情が殺到だ。

 時折、跳ぶじゃなくて飛ぶになっているが、そんなことよりもマハトールの声に集中がかき乱されるらしく、彼の近くで戦う者の中には動きに精彩を欠くものが多い。


「ホワチャ!」


 しかしそんなことは関係ない。

 動きに精彩を欠いたところで、目の前の魔物は次の瞬間にはマハトールに蹴り飛ばされてどこかにいっているのだ。

 おそらく遠いお空のお星さまにでもなっているのだろう。


「あんた一体」

「謎の武道家のマハトよー! 気にすることなく、戦うよろし」

「いや、喋り方もおかしいこの人」


 うさんくさい片言の言葉で喋るマハトを名乗るマハトールに、一緒に戦っていた剣士が思わず後ずさる。


「はあ、この高尚な喋り方は、学の無い方に理解しろという方が無理でしたか。まあ、それよりも邪魔だから下がってなさい」

「今の喋り方のどこが高尚なの? 王都ではそんな喋り方が流行ってるのか?」

「まあ、そんなところです」


 大嘘である。

 マサキが面白がって教えただけだがあまりにも周囲に不評なので、マハトールも諦めて普通の喋り方に戻る。


「というか下がってろって言われても、あんた一人でどうにかできる数じゃないだろう」

「どうにか出来るようにするためには、貴方達が邪魔だと言ってるのですが?」


 のちにこの時マハトールの横で話をしながら戦っていたドーガは語る。


「最初は何を言ってるんだろうねこの人はと思ってたんですよ。

 しまいには貴方たちが下がらないなら、私が出ますかなんて言い出したし。

 でね、魔物の上をぴょんぴょんと飛び跳ねながら群れの真ん中まで一気に駆け出していったんです。

 なんて言うんでしょうか。

 軽業師? って言ったらわかりますかね。

 そうそうトランポリンとか空中ブランコとかする曲芸師みたいな動きで、思わず拍手しちゃいそうになっちゃいましたよ。


 で真ん中まで行って何をするのかなと思ってたら、急に煙があがってね。

 あれ、集魔香っていうんですって。

 後でマハトさんから直接聞いたんですけど、魔物を集めるお香なんですって。

 ただそれだけじゃダメらしくて、餌になるものも必要だとか。

 それってなんでも良いんですか? って聞いたら、血の匂いを発する生餌じゃないと意味がないとか。

 そんなもの事前に用意しとかないとと思ったんですけど、まあ周りには魔物もたくさんいますしね。

 で彼どうしたと思います? 

 目の前の魔物を傷つけて餌にしたんだろって?

 まあ、普通はそう思いますよね?

 ……普通はね。 

 でも、彼は普通じゃなかったんですよ。

 なんせ魔物の群れに1人で突っ込むような人ですよ?

 あの人、自分で自分の腕を斬りつけたんですよ。


 後で理由を聞いて理解しました。

 彼はこう言ったんです。

 魔物に傷をつけたところで、一瞬で殺されて他の魔物に喰われて終わり。

 でも私なら、死なないからずっと魔物が寄ってくるでしょって。

 

 いやぁ、いかれてるとしか思えないでしょ?

 でもね……彼無傷で戻ってきたんですよ。 

 辺り一帯の魔物全てを撃ち殺して。

 武術を極めるってすごいですね。

 武器と違って痛まないですし。

 体力が続く限り、戦い続けられますしね。

 拳が壊れる?

 彼曰く、闘いの中で壊れるような拳しかもっていないなら、武を極めたとは言わないらしいですよ。

 確かにと思っちゃいましたけどね。


 そうじゃなくて、普通に戻ってきたってことは、彼にとって普通の人ならいかれてるような今回の行動も、勝算のある作戦ってことですよ。

 まあ彼からしたら、わざわざ魔物を追いかけて殺すより楽だからそうした程度のことらしいですけどね。

 笑っちゃうでしょ?


 その魔物に僕たちは街の兵士と合わせて200人掛かりで死を覚悟してたってのに。

 しびれちゃいましたよ。

 ここまでくると憧れを通り越して、崇拝しちゃいますね。


 ただ……事件はその後に起こったんです。

 まったく、ふざけたことですよ。


 教会の神父がね、そのマハトさんにいきなり近づいて行ったと思ったら、頭から聖水をバシャバシャと。

 なんでも背教者の使役する悪魔だとか思ったとかって。

 彼が布教しているところに邪魔をした子供の、使い魔だとかって言うんですよ?

 仮に悪魔だとして、あの魔物の数を一人で素手で滅ぼすような悪魔ですよ?

 こんなところで正体がバレたら、全員一瞬で殺されちゃってもおかしくないでしょ?


 事実だとしても最悪の一手ですよね?

 でマハトさんは悪魔だったかって?

 いやあ、ぜんぜん普通の人。

 だって、聖水かけられてもケロッとしてるし。

 

 神父も諦めが悪くて2本もかけはじめたときは、慌てて周囲の兵士が止めに入りましたけどね。

 そりゃそうでしょう。

 実質、この門を守った最大の功労者というか、ただ一人の功労者に街の神父がこんな無礼な行いをしたとか。

 隊長さんも顔を真っ青にしてましたよ。


 でもマハトさん、凄いですわ。

 確かに子供は自分の主だって認めて、でも私は悪魔じゃないと言って皆の目の前で聖水を一気のみですよ。

 しかも懐には主にお守りと言って頂いた聖光石のネックレスまで付けてたら、こりゃあもう神父の頭の方を疑いますよ。

 あ、その石は偽物だろって神父が騒ぎ立てたから、自分で調べさせたら顔が青を通り越して白くなってましたからね。

 その反応だけで、ああ、あれ本物なんだって皆理解しました。


 聞けば子供も、嘘くさい護符に無駄に金をかけるくらいなら、街を守る冒険者や兵士に寄付をすべきと主張してたようですし。

 お陰で、ギルドからポーションや替えの武器も支給されたんで、あーこの主あって、マハトさんありだなって。

 主従揃って立派すぎて、神様以上に崇めたくなっちゃいましたよ。

 ははは。

 何人かは実際に跪いてましたけどね。

 僕は? って?

 あはは……バレちゃいました?

 僕も跪いて、街に居るだろうマハトさんの主に祈っちゃいましたよ。


 まあ神父も騙されたとか訳の分からないことを口走ってましたが、寄付をした子供に対して凄い塩対応してたのを多くの人も見てたみたいで。

 凄い勢いでこの街の救世主に、水をぶっかけた事件は広まっていったんで。

 たぶん、街に居ないんじゃないかな?

 道歩いてたら、石ぶつけられても文句言えないでしょ。

 あー……この世にいないかもしれませんね」

「あの、ドーガさん? そう言った話は、私に聞こえないところでしてくれませんか?」


 ギルマスに報告をするドーガの横でマハトールが物凄く調子に乗った笑みで、困ったようなふりをしていた。

 もっと褒めてくださいという心の声が、虫達とマサキにはだだもれのレベルで。



 

 

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